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荷物

92


 朝一で領主からの呼び出しがありました。


「あの侵入者はロセ帝国の手の者だった。服の中に、ある薬を隠し持っていた。それは猛毒ではないが意識がなくなる薬だと侵入者が教えててれたぞ」


 領主の屋敷の応接室のソファーに座り、真面目な口調で領主が俺達に向かって教えてくれた。

そう昨日捕まえた侵入者の事だ。


「一人で屋敷に侵入なんて目的は何だろうとは思っていましたが、それを誰かに飲ませる事が目的だったのですか?」


 泥棒にしては宝物庫には見えない扉を開けようとしていた。あ、重要書類を狙っていたとかなら解るか。

暗殺なら凄腕で一人ってのならば話は解るが弱かったしね。

薬を飲ませるだけなら可能だったかもしれない。

領主の身内を助けて取り入った後でロセ帝国に有益になる何かをさせるつもりだったのかな。

ロセ帝国ってヨシツネが冒険者登録をした北の国としか知らなかったが、良くないイメージになったな。


「うむ。妻か娘を狙っていたようだ。後から解毒薬を持った人物が現れて、わしに取り入るつもりだったらしい」


「……情報が多いですね。拷問ですか?」


 俺は情報の多さに拷問を連想した。


「拷問なんてしておらんぞ。原因はトシだ」


「俺ですか?」


 まさか!俺に惚れたとか?あの一撃で心まで打ち抜いてしまったか……俺も罪な男だぜ。

惚れた弱みってヤツかよ。まいったなぁ。

ニヤニヤしていたのを隣にいるかっちゃんにジト目で見られていました。


「うむ。トシが捕獲した時に着けた手錠が原因だな」


「あ、あぁ着けたままでしたね……外せなかったでしょう?」


「そうなのだ。飯も、トイレもままならんでな、わしらも外せない一生このままだろうと言ったら泣きそうな顔で懇願してきたのだ。外せる人を呼んでくれと」


 後ろ手に手錠をくっつけたからな。すまん、正直忘れていた。


「それで素直に情報を話したんですね……」


「そうなのだ。わしらは手間が省けた」


「ロセ帝国のどこかの組織の一員ですか?」


「情報部らしいのだが末端だな」


「末端……そうでしょうね。ロセ帝国の彼女に指示した人物の名前は出ましたか?」


「スミスなる人物名が出たが我らの知る人物ではなさそうじゃった」


「そうですか」


 ロセ帝国を警戒するくらいしかやれる事はなさそうだな。


「それでだな……ぬぅ」


 領主が珍しく言いにくそうにしている。

何だか嫌な予感がするね。


「今日はいい天気ですねぇ。今日は家に戻る日なので、この天気はありがたいですよ」


 窓から外を見て言ってみた。話を逸らせないかな……。


「あの侵入者の扱いに困っておるのだ」


 うへ。俺のセリフが台無しです。ガン無視ですよ。

俺に彼女を押し付けようってんじゃないだろうな……。


「牢屋にでも入れておけば良いじゃないですか」


「鉱山で働かせるのも、牢屋に入れるのもダメだ。わしらは侵入者の存在を知らなかった事にしたいのだ」


「どうしてですか?」


「国ってのは怖い物でな、無茶苦茶な事も言うものだ。ロセ帝国がどんな難癖をつけてくるか判ったものではない」


「いくら何でも自分が送り付けた犯罪者を理由には出来ないと思いますが……」


 さすがに無理がある。


「諸外国に声を高くして、国の者が攫われた!ドワーフ領の者が犯人だなんて言われたら要らん労力を使わされてしまう」


「まぁ、真面目に相手にはしてられないでしょうね」


「うむ。だからそんな侵入者など知らないと言えるようにしなくてはならんのだ。それらしい人物が町を出ていったとも知れれば、なお良い」


「そんな目で俺を見てもダメですよ。俺は侵入者を捕まえただけじゃないですか」


 領主が縋るような目で俺を見て来たので釘を刺す。


「そう!それだ。アレを捕まえたのはトシだろう?わしらは身柄を預かっているだけなのだ」


「そんな無茶な……まさか国は怖い物だってこれですか?」


「ゴホンッ。ちゃんと連れ帰ってくれたまえ」


 ひでぇ……。


 そして侵入者が連れて来られた。


「今日この町を出るのだったな?気を付けて帰りたまえ」


 さすが領主と言うべきか、押しが強い。


「はい……」


「トシ、鍛冶神の加護持ちであるゾイサイトを助けてくれた恩は忘れない。何かあったら相談してくれ」


 がっくり来ている俺に、グロッシュラーがそう言ってくれた。

ゾイサイトが領主の三男か。

まだ意識が戻っていないらしいな。

挨拶くらいはしたかった。

出来れば鍛冶神の加護の力も見てみたかった。


「フリナス王国へお越しの際はカロン商会をよろしくお願いします」


 カロンは、いかにも商売人っぽい物言いだ。抜け目がない。


 俺達は別れの挨拶をしていった。

領主夫人と娘さんはゴンタとミナモにと言って肉のお土産を持たせてくれた。

またドワーフ領へ来てくださいと熱く言われたが、どう見ても俺に向けての言葉には聞こえなかったね。

ドワーフにもゴンタの可愛さは解るんだな。


「それではまた」


「またなぁ」


わう

わふ


 俺達は侵入者を連れて宿へ向かった。

彼女には全身を覆う灰色のローブをポンチョのように被せて着せてあった。

後ろ手に手錠をしたままだ。足を縛っていた布はさすがに外されている。

俺は日の光の下、彼女を見てみた。

身長は160cmちょいってとこか。

髪は赤っぽい茶髪で、ショートカットだな。男に見えなくもない。

体型もスラッとして凹凸が少ない……これも男っぽく見える要因だな。

顔はそばかすが薄くあり、どちらかといえば凛々しい顔立ちだ。目が涼やかで全体のイメージを決めている。

さっきから俺をチラチラ見ている。

勘違いしたい所だが、手錠を外せってんだろうな。

無視だ無視。


「トシ、この子どないするん?」


「困ったねぇ……」


 本当に困っている。

花ちゃんの屋敷に犯罪者を入れたくないし、店にだって置きたくないぞ。

旅の途中で逃げられたで済まないかなぁ。


 ちょっと考えてみる。

こいつが逃げたとしたら……ロセ帝国へ戻って知っている事を全て話すだろう。

おそらくだが、話した後にこいつは殺されるんじゃないかな……。

それか難癖をつけるために利用されるかだな。

そのまま同じような仕事を任せてもらえるってのもなくはないが、俺なら使わない。

なんだか詰んでいるなこいつ。

どう考えても幸せな未来は待っていなそう。


「今こいつを逃がしたらって考えてみた」


「ほぉ。どうなるん?」


 かっちゃんもある程度の結果の想像が出来ているのか、ちょっと悪戯を仕掛けているような顔だ。お主も悪よのぅ越後屋。


「俺達の邪魔だから逃がすとして、こいつがロセ帝国に戻る。戻っても今まで通りの仕事は回ってこない。今回の話を上へ伝えたら始末されるだろうね。そうでなくともドワーフ領への攻撃の口実に使われるね。ドワーフからも狙われる」


「そら怖いなぁ。既に終わっとるやん」


 かっちゃんが煽る煽る。

侵入者は俺達の話を聞いて想像してみたのか顔が真っ青で冷汗をかいている。

汗は暑いだけかもしれんが。


「あっちとしては報告が無くても調査要員を出すだろうし、始末させるモノも出しているかもしれない」


「当然やな。残念やわぁ」


 かっちゃんが侵入者を哀れな目で見ている。

俺も両手を合わせて拝んでおく。


「あ、あの、助けてください!何でもしますから!」


 侵入者は必至の形相で懇願してくる。


「国が相手では俺達には無理だよぉ」


「そうやな。いくらうちらでも無理やなぁ」


 かっちゃんは吹き出しそうになっているが、侵入者は気づかない。


 のらりくらりと話を逸らし、そして時には死を連想させたりして宿へ着いた。

部屋に侵入者を連れ込んだ。

侵入者の反応が面白くて俺とかっちゃんはからかい過ぎた。

侵入者は俯き涙目になっていた。


わう


「ごめんごめん、ちょっとからかい過ぎたで」


 ゴンタがいじめちゃダメ!とでもいったのだろう。かっちゃんがゴンタに謝っている。


「たぶんさっき言ったことは可能性が高い。でも俺達なら助けられなくもない」


 侵入者は顔を上げた。鼻水も追加され酷い顔になっている。

うぅ、やりすぎたか。


「ロセ帝国へ帰らなくてええんなら、なんとかしたるで」


「本当ですか!?お願いします。私には家族がいませんので帰らなくても大丈夫です」


 家族と言った所で顔が歪んだ気がした。

なんだか悲しい話しか出て来ない気がする……。


「そうか。よしまずは自己紹介と行こう。俺はトシ、バッキンの冒険者だ」


「うちはカッツォや。かっちゃんでええで」


わう

わふ


「この黒い子がゴンタだ。銀色の子がミナモだ」


「よろしくゆうとるで」


「はいっ。よろしくお願いします」


 ゴンタとミナモに向かって何度も頭を下げる侵入者。

天然なのか?へんな奴だ。

よくこれで裏の仕事が出来ていたなぁ。


「あんたの名前は何なん?」


「わ、私はアリーナです。よろしくお願いします!」


 今度はかっちゃんにペコペコ頭を下げている。

凛々しそうな顔立ちなのに残念な人だ。


「トシ、アリーナの手錠を外してやってな」


「おう」


 アリーナの後ろへ回って『錬成』で鉄の塊にする。


「ありがとうございます!何も出来なくて困っていたんです。……どうやって外したんですか?」


「知りたいのかね?そうか……」


 俺は暗い雰囲気を醸し出しつつアリーナへ言う。


「いいえ!何でもないです!」


 アリーナは大げさに手を振り何でもないとアピールしてくる。

ダメだ。この子の反応が面白くて、ついからかってしまう。


「うちらは今日、この町を出るで」


「家に帰るんだ」


わう


「そうなんですか。着いていきます」


「知り合いの領主に手を出したアンタを簡単に信用するわけにはイカンのは解るやろ?」


「……はい」


「バッキンへ着いたら、知り合いの真偽官を交えて話をしてもらうで?ええな」


「はい」


 かっちゃんはそこまでするつもりだったか。

適当に店員でもさせておくつもりだったよ。逃げたらそれ相応の対処はするつもりだったけどさ……。

おそらく俺達の誰でもアリーナを一対一で制圧できる。なっちゃんでも出来ると思う。

戦いって事になるならば敵ではない。

そうか……真偽官を交えてとなると、真面目にこの子を使うつもりなのかな。

どうでもいい人にそこまで手間を掛けないよな?

かっちゃんがそう考えているのなら、それでもいいか。


 アリーナは服が欲しいと言ってきたので、旅の出発できるようにして宿を出た。

人間向けの服は少ないが売っていた。

無難そうなシャツとズボンを2着づつ買っていた下着も……。服を入れる袋も買っていたね。

武器の類は全て没収されていたが、お金は持っていたので自分で払わせた。


「よし、花ちゃんの屋敷に帰るぞー」


「はいな」


わうー

わふー


 俺達は来た時の道を辿って花ちゃんの屋敷を目指した。

来るときは三日掛ったんだっけ。

アリーナがどの程度動けるかで日数が変わるかもしれないな。

早く帰って畳でゴロゴロしたいぞー。


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