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坑道-2

89


「トシ、トシ!」


 俺は体を揺さぶられて起きた。

ああ、仮眠してたんだっけ。

一時間ちょい経っているな。マジックバッグから取り出した腕時計で確認した。

カロンさんとグロッシュラーは横になっている。

指示されたのか起きている人達もいるね。


わう


「うん。起きた」


「もう坑道に入れるで」


「よし、頑張りますか!」


わう


 それから黙々と作業を続けた。


 かっちゃんの危機察知により二回ほど坑道を出た。その度に休憩していった。

風の魔法で空気を循環させたとしても、俺達のほうが持たなかっただろうな。

結果として問題は無かったかもしれない。

外は少し明るくなってきていた。


「明るくなって来たね」


「さすがにきついで」


わぅ

わふぅ


 同じ体勢で同じ作業はきつい。

しかし俺達は頑張っている。


「今はここら辺りやな」


 かっちゃんが坑道を掘り進んだ先端の位置を書き加える。

五分の四まで来ているな。

疲れているだけの結果は出ている。


「日が高くなる前にたどり着けそうだね」


「あと一歩まで来たのか!」


「これは……」


 グロッシュラーとカロンさんが地図を見て声を上げる。


「カロン、この位置だと落盤事故のほうより進んでいるぞ!こっちに人を回してもらえるように要請してくる」


「要請はグロッシュラーに任せます。私はここの排出された土の管理をします」


「うむ。行ってくる」


 グロッシュラーとカロンは軽く打ち合わせをした後に動きだした。

ゴンタとミナモが運び出してきた土のブロックが穴の近くまで積まれていた。

カロンの指示で穴の側の土ブロックが遠くへ移され出した。

これから大勢の人がこっちに来て作業するかも知れないからな。

場所を広く開けなければなるまい。

グロッシュラーもカロンも穴掘りの進行速度に驚いていたが、やるべき事を解っていてくれるので助かる。


「今の内に朝飯を食べてしまおう」


「はいな」


わう

わふ


 俺達は用意されていた、雑穀粥と腸詰を食べた。

ゴンタとミナモは腸詰のおかわりをしていた。

俺は精神的な疲れだが、ゴンタとミナモは肉体労働がメインだったからな。

俺とかっちゃんは、蜂蜜入りクッキーを齧り糖分の補給をした。

単純作業が続いていて頭が働かなくなっていたのだ。

甘い物を食べれば少しは復活するだろう。

まぁ、かっちゃんは食べすぎな気がしないでもない。


 食後は軽く体操をして体を解す。


「さて再開しようか」


「そうやな、そろそろ大丈夫やろう」


わう


 カロンさんに穴掘りを再開すると伝え坑道に入る。


「あれ?うっすらとだけど人の気配があるな」


「ホンマか?うちには解らんで」


わう


「ゴンタにも解ったそうや」


 俺は穴の進行方向に人の気配を察知した。

作業中は気づかなかったが休憩して戻ったら解るなんて疲れていたのだな。


「土が間にあるせいか人数までは判らないけど、弱っているのは間違いない」


「無事でいてくれるとええな」


わう


「開通するまで休憩は無しだ。ここで一気に終わらすぞ!」


わう

わふ


「うちは一度外へ出て状況を伝えてくるわ」


「よろしく」


「うちがいない間にあんまり掘り進んだらアカンで?」


「ほどほどにするよ」


 目標がはっきりしたので、俺達は気合を入れて行動に移った。

閉じ込められているなら酸素がヤバイはずだ。

早くたどり着くに越したことは無い。

俺達は知らない誰かのために躍起になっていた。

助かる命があるなら助けたい。

盗賊に襲われた時は返り討ちにした。敵には厳しく、味方には優しくだ。

まぁ閉じ込められている人達は知人の知り合いでしかないけどな。

少なくとも敵ではない。


「伝えてきたで」


「ありがとう」


 かっちゃんが戻って来たので掘るペースを上げた。

ゴンタとミナモも引っ切り無しに往復している。

狭い坑道だから、獣型で動けるゴンタとミナモは大活躍だ。

人の手で運んでいたら、こうは行かなかっただろう。

そう考えると俺達は、ここでも良いパーティだな。

なっちゃんがいれば完璧だった。


「うちにも人の気配が解ったで!」


「うん。近いね」


わう

わふ


「最後の踏ん張りどころだ!」


「やるでー」


わうー

わふー


 たぶん残り五十mほどだと思う。

さっきより確実に気配が解る。

人数もある程度解って来た。

二十人は生きていてくれている。

もう少し掘り進めれば人数もはっきり解るだろう。

気配の主達はまったく動いていない。

じっと待っていてくれているだけなら良いが……。


「三十一人いる!生存者は三十一人だ」


「生きとるんやな?」


「ああ、動かないけど。生きている」


「よっしゃ、外の連中に伝えてくるで」


「坑道の広い所で救助者の運搬準備を頼んで来てね」


「はいな」


 かっちゃんが走っていった。

かっちゃんは背が低いから、いつもと変わらない体勢で進めている。いいな。


「ゴンタとミナモは土の排出が終わったら、この荷台で救助者を広い場所まで運んでくれ」


わう

わふ


 俺はラストスパートを掛ける。


 ドスッ、後ろで何か落ちた音がした。


「……トシ、うちがおらん間に掘りすぎや」


 崩落しかかっていたのか?かっちゃんが戻ってきて魔法で壁の補強をしてくれていた。


「すまん。気が急いていた」


「トシも救助者になったら、笑い話やで」


「うぅ」


 かっちゃんに怒られてしまった。

ミイラ取りがミイラになるって奴だな。

俺も生きてこそだな。

かっちゃんの補強作業が終わった所で作業の続きを始めた。


「音の響きが変わった……直ぐそこは空間だ」


「頼むでトシ!」


「おう!」


 そして、ついに空間へたどり着いた。

かっちゃんが光のマジックアイテムで中を照らしてくれた。

その空間にいた人達は皆倒れ伏していた……。


「トシ!ヤバイで『危機察知』が教えてくれとる!」


「酸欠か!でも生きていてくれてる!」


「風の魔法使いでも、この閉鎖された空間やと空気の入れ替えは無理やろ。息を止めて救助者を引っ張り出そうや」


「それしかないか」


「俺が引っ張ってくるから、かっちゃんは荷台への積み込みをよろしく」


「気ぃつけてな」


「おう」


 はぁぁぁぁっ。大きく息を吸い込んで倒れている人に歩み寄る。

俺が焦っても酸素の消費が大きくなってしまう。

酸素は残り少なそうだし、出来る事はやっていこう。

一番近くにいた人を抱えて運ぶ。

俺が抱えても反応がない。ヤバイ。

俺は無言で荷台に積み込む。

開通した穴に近い人から連れて来た。

ゴンタとミナモは救助者を乗せた荷台を引っ張って行ってしまったので、かっちゃんの側へ救助者を置いていく事にした。

俺が運んでいる間にも、ゴンタとミナモが往復してくれている。


 何度か息継ぎのために坑道に入った。

頭がガンガンする。


 救助者の近くに行った時に気付いた……岩の下に上半身を潰されている人がいた。

あと気配のしない人も二人いた。間に合わない人もいたか。


「生きている人はこれで最後だ……」


「お疲れさん。うちらも外へ戻ろうや」


「うん……」


 俺は最後の救助者を引きずって坑道を進んだ。

坑道の途中でゴンタに会ったので、救助者を運んでもらう。


 俺達が坑道の広い所へ近づくと、グロッシュラーとカロンが迎えてくれた。


「ありがとう。本当に良くやってくれた」


 グロッシュラーは叫び出したいのを抑えているかのように見えた。

大きな声ではないが実感が籠っていた。


「まずは外へでよう。新鮮な空気が吸いたい」


「そうやな。礼は後や」


 俺達は坑道を外へ向かった。


「「「「「うぉぉぉぉっ!」」」」」


 俺達が外へ出た瞬間、野太い声が当たりに響き渡った。うるせぇ!

ゴンタとミナモは耳も良いので迷惑そうにしている。

気持ちは解る。

どうせなら可愛い女の子の嬌声にしてほしい。

こんな事を考えられるのも、余裕が出た証拠だな。


 そして日の光が眩しい……。


「ありがとう!!」

「良くやってくれた!」

「あんたらは恩人だ!」

「ありがとうございますっ」

「本当に……グスッ」

「でかした!」

「酒を奢るぞ!……一杯だけな」


 背の低い髭面のドワーフ達が出迎えてくれた。

俺の腹や足をバンバンと叩くのは止めて欲しい。すごく痛い。

お前らドワーフは馬鹿力なんだからなっ!?

それと最後の奴、せこいぞ!


「痛てぇよっ!」


「おぉ、すまん……」


 俺が怒鳴ったら、さすがに叩くのをやめてくれた。


「さすがに、うちらも疲れたで……」


わぅ

わふぅ


「うん。眠らせてくれ」


「あぁ、後は任せろ!」


「ゆっくり休んでください」


 グロッシュラーとカロンがそう言ってくれたので、俺達は木の側で地面に座り込む。


「そうだ……奥の空間で落盤に潰されていた人が一名と、既に亡くなっていた人が二名、計三名の遺体がありますので、よろしく……」


「そうか……解った」


「はい」


 言いにくいが、黙っている訳にもいかない。

遺体はグロッシュラーとカロンに任せた。


 そして俺は喧噪の中、横になるとあっさりと眠りに着いた。


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