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坑道-1

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 俺達は鉱山へ向かって進んでいる。

道を走りながら話を聞いた。カロンさんもいるので本気走りではない。


「ええっと、つまりドワーフ領の領主の三男を含む三十人ほどが坑道に取り残されているんですね?」


「そうなんだ。そしてドワーフ達が土の魔法で岩の除去と坑道の硬化をしているんだ」


「しかしドワーフの魔力量では二つくらいの魔法で魔力が尽きてしまうと。だから住民達も召集して交代で作業を続けているんですね」


「うむ。今回の落盤事故は過去最大級らしく、かなりの住人が投入されているが未だに終わりが見えない」


「グロッシュラーも召集されてしまったと」


「彼に何かあったら困る」


 カロンさんは正直な気持ちを伝えてくる。綺麗ごとよりはいいか。

商人として出来る事をしようとした結果が、土魔法の使えるかっちゃんへの依頼という訳か。


「彼のような一流の鍛冶師を危険な場所へ送るのは不味いのでは?」


「もしも彼を失ったら大損失だ!彼ほどの技量の持ち主は三人しかいないんだ」


「それが解ってて召集するなんて、領主の三男がそんなに大事なんですかね?」


「ああ、違うんだ。領主が権力で召集を掛けたわけではないんだ。長男は領主を継ぐ予定、次男は酒造担当、三男が鍛冶担当として領を発展させている。三男には鍛冶神の加護があって、将来的にはドワーフ領でも最高の鍛冶師になると言われているそうだ」


 俺の非難めいた発言に、カロンさんが詳細を話してくれた。鍛冶神の加護か……つい最近、縁があったから力になってやりたい。


「グロッシュラーは鍛冶神の加護を持つ者を助けるために動いたというのですか?」


「うむ。彼ら鍛冶師にとっては、何よりも大切な人物らしい」


 俺には解らないが鍛冶師には大切なのだろう。


「かっちゃん、聞いた話のように岩の除去の魔法と、坑道の硬化はどのくらいの回数使える?」


「うちなら……回復も同時進行やから六十回くらいやろな」


「六十!ドワーフ三十人分ですよ!?」


「ドワーフの魔力量が少ないだけや」


「それはそうかもしれませんが……」


「しかし住人総がかりとまではいかなくとも、かなりの人数が投入されたんやろ?うちで何とかなるとも思えんよ」


「徹夜で作業してるんだっけ……交代の手間を考えると逐次投入は無駄が多いだろうな」


「そうやな」


「俺の居た所では、こういう災害は七十二時間で被害者が増大するらしいよ?初動が大切らしい」


「なるほどなぁ。何となく理由は想像つくで」


「坑内の状況もどうなっているか……毒や酸欠、粉塵なんてあったら危険すぎる」


 俺では対処できる物ではない。経験もないしな。


「そこはうちが何とかするで」


「何とかって……あぁ、そっか」


 かっちゃんは『危機察知』があったね。

かっちゃん自身にしか働かないが、かっちゃんが先頭で頑張ってくれたら何とかなるな。


「カロンさん、坑道の地図を手に入れてくれん?」


「任せろ。そういうのは私の得意分野だ」


 そっか事前準備はいるな。

俺なんて、そのまま落盤した岩の所へいって『錬成』で形状変化させようとしか考えてなかったよ。

かっちゃんは頼もしいな。

かっちゃんが仲間で誇らしい気持ちになった。


 ドワーフの町と鉱山は結構近かった。三十分ほど軽く走っただけで現場に着いた。

山にはそこら中に穴の入口があった。

これ全部坑道なのか!?

ざっと見ただけでも十以上は穴の入口があった。穴の入口同士も近い物すらある。

そして周囲には横になっている人や炊き出しの人、大声で指示を出している人などがいた。

かなりの人数だ。これでは指揮系統が生きているのかも怪しい。


 俺達はひとまず現状把握に努めた。

カロンさんが地図を入手して来てくれるまでは、辺りの人から話を聞いた。

殺気立って怒鳴ってくる人もいたが、ある程度の情報は集まった。

二回魔法を使ったら坑道の外へ出なくてはいけないが、坑道が狭いために交代もままならないとか。

除去した岩の破片の運搬も同じ。

まだ四分の一くらいしか処理が終わってないのではないかと。

かなり手間取っているようだ。


「お待たせしました。地図を手に入れてきましたよ」


 人ごみを掻き分けて端っこにいた俺達の所へ戻って来たカロンさん。

さすが出来る商人だ。仕事が早い。

俺達は早速地図を広げて見てみる。


「坑道同士が中で繋がっとる部分もあるな」


「まるでダンジョンだ」


わう


「繋がっている部分を利用して一方通行にして動きを阻害させないような工夫はしているようです」


「なるほどなぁ」


「どこらへんで落盤事故が起きたんだろう?」


「ここですね」


 そう言ってカロンさんが指し示した場所は坑道の奥深くで、現在一番先端に近い所だった。


「という事は救助者はここかな?」


 落盤事故が起きたと思われる場所の奥に、ちょっとした空間があった。


「そのようです」


「ここかいな……」


「ここだと酸欠になってもおかしくない。不味いな」


 みんなで地図を睨んで考え込む。

俺達は正規の依頼を受けてきている訳ではない。

作業している人達が融通を聞かせてくれるとも思えない。

どうしたもんか……。


「なぁ、トシ。ここからうちらで穴を掘って道を作ったろうや」


「新規で道を作るのか!?いや待てよ……良いかも。いいねそうしよう」


 かっちゃんが地図の上で指し示した場所は三つほど横にある坑道の奥であった。

確かにここからなら直線距離でいえば救助者のいる空間までは、現在作業している場所からと同じくらいの距離だ。

俺も『錬成』が三に上がった時に素材集合体が作れるようになった。砂や土のような細かい複数の物質から一つの物も作れるという事だ。

砂や土をブロック状にして排出していけば穴は掘れるはず。


「穴は俺がやるよ。かっちゃんは壁の硬化で坑道の補強と、危険地帯の把握をお願い」


「それがええな。うちもトシの側で確認するで」


「うん。ゴンタとミナモは排出した土を外へ運び出してくれ」


わう

わふ


「道を作る……」


 話から置いてけぼりのカロンさんが呟く。


「俺はゴンタ達の運搬道具を用意してくるよ」


「うちは現場へ先行して坑道の状況確認してくるで」


「ゴンタとミナモも毒とか、変な匂いがしないか確認してきて」


わう

わふ


 ゴンタは俺に仕事を任されて喜んでいるっぽいな。尻尾の振り具合で解るのです。


「カロンさんは俺達が道を掘れるか確認後、排出した土の処理をお願いします」


「あ、あぁ」


 返事が怪しいが、構っていられない。


 俺は物陰に行って、犬ぞりのような引っ張っていける荷台を木で作った。

今回だけ使えればよいので耐久性とかは適当だ。

坑道は狭い場所もあるようなので細長い長方形にした。

ゴンタとミナモの四台を作った。

それを引っ張って坑道へ入る。

うへ、先は暗いぞ。

俺だけだろうな、仲間の内で夜目が効かないのは……。

かっちゃんが光のマジックアイテムを出してくれているだろう。

そこまでは地図の記憶だよりで手さぐりで進む。


 ああ、明かりが見えた。


「お待たせ。ゴンタとミナモが使う荷台だよ」


わう


「ここを真っ直ぐ掘り進むんやで?」


「あいよ。『錬成』いきます!」


「はいな」


わう


 俺は土の壁に向かって『錬成』で形状変化をした。

土を土のブロックへと形状変化させた。

いける。

両手で持てるダンボールほどの大きさの土ブロックが出来た。

狭い坑道なのでこれ以上は動かし難くなってしまう。

土ブロックを荷台へ置く。


「出来る。ゴンタこの重さの土ブロックいくつ運べそう?」


 ゴンタは荷台を引っ張った。

難なく動かせるね。


わうー


「重さは問題ないけど崩さず運ぶには六つくらいやと」


わふぅ


「ミナモは四つやってさ」


「解った。常に二台をここで積み込めるようにしよう。残りの二台は運搬で交互に運んでくれ」


わう


「はいな」


 俺達は作業を分担して、自分のできる事をしていった。

思ったより大変な作業だった。

高く広く掘ると土の量が多すぎて大して掘り進めない。

止むを得ず、中腰で移動するしかない高さの穴にした。

姿勢がきつくなって辛い。

途中で壁の一部を椅子の高さにして座って作業するようにしたら、幾分楽になった。

かっちゃんは、俺が掘った後を硬化の魔法で、土を石のようにしてくれている。

最初に拳で叩いてみたらゴンッといい音がした。

これなら崩れたりしないだろう。

そして俺の直ぐ後ろに居てくれているので、最悪落盤事故が起きても危機察知で回避できるだろう。

かっちゃんは酸欠や、毒も察知出来ると言ってくれた。

ゴンタとミナモも土ブロックの排出を頑張ってくれている。

戻ってくるのが早い所を見るとカロンさんも復帰して手伝ってくれているのだと思われる。


 一度かっちゃんがヤバイといったので坑道から外へ出た。

酸欠気味だったようだ。

なっちゃんがいれば風の魔法で空気の循環が出来たろうに……。

カロンさんは運び出される土の量を見て、イケルと踏んだのか更に力を貸してくれるようになった。


 俺達は丁度良かったので休憩と飯にした。

その間にカロンさんが風魔法を使える人物を探してくれる事になった。ありがたい。

休憩が終わってもカロンさんは戻ってこなかった。

さすがに手の空いている風魔法の使い手は居ないかも知れない。


「中々良い感じで掘り進んどるで」


 かっちゃんが地図に現在掘っていった場所を追加しながら言う。予定の五分の一は進んでいる。


「なんとかなりそうだね」


 時間は夕方近くになっている。

作業を始めて三時間くらいか。あと十五時間ぶっ通しで頑張ればたどり着けるはず。まぁそれは無理なんだろうけどさ。

たぶん落盤事故から二十八時間は経っている。あっちの状況次第ではあるが、なんとか間に合うだろう。


「なっちゃんも連れて来るんやったなぁ」


「俺も思った。あるもので頑張ろう」


「もちろんや」


 俺達はかっちゃんを先頭に再び坑道へ入る。


「さっきよりはマシになってるな」


「空気の循環も考えないと不味いね」


 こんな事ならもっとまじめに化学も勉強しておくんだった。

かっちゃんは雷とはいかないが静電気の発生くらいは出来るようになっていた。

確か電気分解で酸素を作る方法とかもあったはず……せっかく出番がありそうなのにもったいない。


 俺達は作業を再開した。


 ゴンタとミナモも何かい荷台を運んでくれただろうか。

単純作業を延々繰り返しているので感覚がおかしくなってきている。

既に夜になっているはずだ。


「そろそろ飯を食べようか」


「はいな」


わう

わふ


「おぉ、腰が痛い……」


「背が高いのも難儀なもんや」


「今回ばかりはそう思うね」


 俺達は掘り進んで来た道を戻って外へ出る。

お、明かりだ。

カロンさんが夕飯の用意をして待ってくれていた。

出来る人だぜ。


「お疲れ様です」


「カロンさんも、お疲れ様です」


「お疲れさん」


わう

わふ


「お前ら、やる事が無茶苦茶だな……」


 グロッシュラーがいた。


「こんばんは、グロッシュラー」


「ああ、カロンが無理を言ったようだな。ありがとう」


「こっちにも理由がありますからね」


「そうやで」


「まず夕飯を食べてください」


「ありがたくいただきます」


「ありがとなぁ」


わう

わふ


 俺達は水を一杯飲んでから、夕飯を食べだした。

腸詰を茹でた物をパンで挟んである……ホットドッグに近いな。ケチャップとマスタードがないのが不満だ。

代わりにキャベツと玉葱を炒めた物が一緒に挟んである。

それらは中々合うことが解った。

ワインも付けてくれている。ありがたい。


「お前らだけで、あれだけの量を掘れるとは……」


 排出された土のブロックが積み重ねられている小山を見てグロッシュラーが呆れたように言う。

横でカロンさんもウンウンと頷いている。

他にも手伝ってくれている人達かな?十人ほどの男達がいた。


「風の魔法使いの手配は出来ませんでした」


 カロンさんが申し訳なさそうに縮こまって言う。


「居ないものは仕方ないですよ」


「なんとかなっとるしな」


 休憩を挟むのに丁度いいのだ。

酸欠気味になったら休憩ってルーチンになっている。

ただ新しく掘った坑道が長くなるにつれ休憩を長くとるようになって来たのは事実だ。

空気が上手く循環しないのであろう。


「今はこの辺りや」


 かっちゃんが現在掘り進んでいた場所を地図に新しく書き加える。


「もう少しで半分じゃないか!」


「早い……」


 グロッシュラーとカロンさんは驚いている。


「今夜は少し無理をして頑張りますよ。時間との勝負ですからね」


「やな」


わう


「すまんな……」


「今は坑道に入れないので、ちょっと仮眠を取ります。みなさんも休んでいてくださいね。夜は長いですから」


「解った」


 本当に長い夜になりそうだ。

花ちゃんの屋敷に戻るのが遅れてしまうな。

なっちゃんと花ちゃんに会いたい……。


 そして横になった。


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