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「昨日の話には驚かされたで。でも神殿を訪れんかったら解らん事やったな」


 かっちゃんが朝飯が来るまでの間に話かけて来た。


「そうだねぇ。書物や人に聞いて回っても無理だったね」


「召喚魔法やなかったんは、ちっとだけ残念や。うちも異世界にいけるかと期待しとったんやがなぁ」


「確かにかっちゃんなら異世界でも楽しめそう」


「やろ?かと言って神様にお願いした所で聞いてもらえる頼みでもないやろしなー」


 かっちゃんは本当に残念そうだ。見知らぬ物を求めているケットシーならではだ。


「大丈夫!この世界にも未知の物は、いっぱいあるさ。きっとかっちゃんが知らない物だって山ほどね」


「それもそうやな。まずはキノーガルドを踏破せんとな」


「そうそう。転落者の事は解ったし、次は遺跡に行こうか」


「おぉ!ええな。うちはサムが言っとった遺跡に興味あるで」


 俺に付き合ってここまで来てもらっちゃったしな。今度はかっちゃんの要望を聞こうじゃあーりませんか。


「その遺跡を目指そうか。でも、まずは花ちゃんの屋敷に戻って話の顛末を聞かせてあげないとね。それからバッキンの店にお土産を持って戻らないとだ」


「それもそうやな。なっちゃんも元気にしとるやろか」


「きっと元気だよ。俺達が居ない生活も楽しんでるさ」


「それはそれで寂しいなぁ」


「お土産を買って屋敷に帰ろう」


「甘い物を探すでー」


「かっちゃんの意見も入ってるだろー」


「にひひ、ばれたか」


「今日は町の見物をして土産を買おう。明日出発でいいかな?」


「はいな」


 朝飯はジャガイモのパンケーキと燻製肉入りのスープでした。

そして朝からエールです。昨日の夜に謎が解けたお祝いに豪勢に呑みまくった。

その時呑んだエールが美味しかったのです。香りが良く、酸味も程よい逸品でした。

俺はこのドワーフ特製のエールが気に入って、ずっと同じ物ばかり注文していました。

他の町より値段は高かったですが、それだけの価値はあります。

ワインも美味しかったのですが、ここではあまり葡萄が育たないらしく量が作れないため更に高い値段でした。

蜂蜜酒というのもありました。俺の口には合いませんでした。

かっちゃんはこれが気に入ったようです。甘味が良いとの事。

蜂蜜酒は樽で買うことが出来たので、かっちゃんの分のお土産になりました。


「朝飯もちゃんと食べたね?もう元通りかな」


わう

わふ


「ミナモ、元気になって良かったなぁ」


わうー


 朝飯の後でゴンタ達の所へ行きました。

ミナモがオーガに負わされた怪我も回復したようです。

もう大丈夫でしょう。


「今日はなっちゃん、花ちゃん、ビアンカ姉妹、ヒミコ姉妹へのお土産を買うよー」


わう


「この町は明日出る事にしました。ミナモも元気になったので、みんなで店を回ろう」


わうー

わふ


「そうやな、美味しい物あったら食べような」


「食欲があるのは良いことだ」


「みなさん、おはようございます」


 そう言って挨拶してきたのは、カロンさんだった。肩に手拭を掛けているから顔を洗いに来たのだろう。


「カロンさん、おはようございます」


「おはよーさん」


わう


「みなさんお早いですね」


「日課の訓練をしているので、朝はいつもこのくらいです」


「大したものですなぁ。私なんて眠気に勝てませんよ」


「習慣になってしまえば苦になりません」


「そういえば神殿でお話は聞けましたか?」


「はい。聞きたいことを答えてもらいました」


「それは良かった」


「カロンさんの方は武器を買い付ける事は出来ましたか?」


「今日受け取ることが出来そうです。宿代と牧場に預けてある馬達のおかげで財布は軽くなってしまいましたがね」


 カロンさんは冗談めかして言う。

商人って割にガツガツした感じが表に出ていない。余裕があるように見えていいね。

愛嬌もあるし、楽しいおっさんだ。


「俺達はお土産を買って、明日には町を出るつもりです」


「そうですか。お土産なら装飾品辺りが人気ですよ」


「ほー。甘い食べ物で何か良い物はありませんかね?」


「甘い物ですか……蜂蜜入りのクッキーかスコーンが女性に人気があるようです」


「なるほど」


「トシ、蜂蜜入りのクッキーとスコーンをお土産にしようや」


「うん。一応味見してからね」


「いっぱい食べんと判断できんかもしれんなぁ」


 かっちゃんは既に味を想像しているのか、ニヤニヤしている。

好きなだけ食べて買うがいい。

それくらいは出すぞ。


「そうだ、落盤事故の話はお聞きになりましたか?」


「落盤事故?いいえ、初耳です」


「昨日あなた方と別れてグロッシュラーと商談していた時に、グロッシュラーの鍛冶仲間が飛び込んできて落盤事故が起きた事を伝えて来たのです」


「ひょっとして、鉱山の洞窟で起きたんか?」


「ええ、そのようです。数年に一度はこうした事故は起きているらしいのですが、私が町にいた時に起こったのは初めてですね」


「鉱山と落盤事故は切り離せんからのぅ」


「そうですね。今も魔法使い達が必死に救助作業をしているそうですよ」


「坑道の奥に人がいたんか……」


「ドワーフは土の魔法が使えますから大丈夫だとは思いますよ?」


「そうやな」


「かっちゃん、冒険者ギルドを覗きに行く?」


「一応行ってみよか。うちの土魔法の出番もあるかもしれんしなぁ」


「カッツォさんは土の魔法使いでしたか。素晴らしい」


「水もやで」


「二属性持ち!うちの商会で働きませんか?給料も弾みますよ?」


「うちはお金には困っとらんのよ。旅も楽しいしな」


「そうですか。気が変わったらご連絡ください、フリナスの武器屋カロンです。」


 かっちゃんは、カロンさんからの勧誘を軽くあしらった。

国に仕えていない二属性持ちなんてそうそういないだろうしな。

勧誘したくなるのも解る。

魔力も多いから土木工事だけでも、元が取れてしまいそうだ。


「それでは俺達は冒険者ギルドに寄ってみます」


「はい」


 俺達はカロンさんと別れ、冒険者ギルドへ向かった。

エルフ領と違いドワーフ領には冒険者ギルドがあるのだ。

それっぽい人達が入っていった建物も見た。

そこへ向かって歩く。


「ひょっとしたら、クエストが発行されているかもね」


「あったら、受けるで」


 なんだか珍しくヤル気だ。

鉱山とか落盤とかに思い入れでもあるのかね?

それともドワーフに関係でもあるのかな。

聞いてもいいのかな?いいや聞いちゃえ。


「かっちゃんがそんなに乗り気なんて珍しくないか?」


「んー、うちの父親が遺跡で似たような事故で亡くなったからなぁ……」


 あう、聞くんじゃなかった。かっちゃんに悲しげな顔をさせてしまった。


「ごめん……」


わぅ……


「何がや?トシが謝るような事は、いっこもないで」


「思い出させちゃったみたいだからさ」


「思い出には残っとるからな、そら思い出しもするで。遺跡には危険も付き物や、覚悟の上やったろう」


 悲しげな表情には違いないが、理不尽な亡くなり方ではなかったようだ。


「結界魔法か、土の魔法で脱出は出来なかったんだね?」


「閉じ込められて亡くなったそうや。死体は綺麗なもんやったと聞いてるで」


 気になって聞いてしまった。俺の馬鹿。


「クエストがあったら受けようね」


「はいな」


 頑丈そうな石造りの大きな建物へ入った。ゴンタとミナモは表でお座りをしている。

カウンターもあるし、クエスト掲示板もある。間違いなく冒険者ギルドだ。

早速、掲示板を見て回る。

魔物の討伐クエストが多いな。薬草の採取クエストも豊富だ。

山でいっぱい薬草を見かけたもんな。ちょっとだけ採取した。


「ないね」


「ないなぁ」


「受付嬢に聞いてみる?」


「そうしよか」


 案内カウンターで暇そうにしている受付嬢がいるな。


「すみません。落盤事故に関するクエストは出ていますか?」


「現在は出ておりません。作業は順調と聞いております」


「そうでしたか。ありがとうございます」


「なかったな」


「だね」


「買い物にいこか」


「うん……」


 いつものかっちゃんに戻ったと思う。

かっちゃんのご両親についてもっと話も聞きたいが、今はやめておこう……。

俺、かっちゃんの事知らなすぎだな。

なっちゃんがいた間は、だれの両親についても話し難かった。

いつかみんなで話が出来るといいな。


 俺達は冒険者ギルドを出て通り沿いにある店を見て回った。

金属製品を扱う店がひしめき合っていた。

あれで商売が成り立つのかは疑問だ。

そりゃー、武器と鍋は買う人の層が違うだろうけど、同じ製品を扱っている競合店も多過ぎる。

お土産に狙っていた、蜂蜜入りクッキーとスコーンはパン屋さんに置いてあった。

買って味見もした。

素朴な味でした。

スコーンは水分が欲しくなりましたね。

かっちゃんは嬉しそうに味見をしていました。買った物の半分以上を味見と称して食べていました。

かっちゃんおお墨付きが出たので、店に置いてあるクッキーとスコーンをお土産として買い占めました。

余り日持ちがしないと店員に言われたので、密閉出来る容器を鉄で作ったので通常よりは持つだろう。

乾燥剤については、解らないので作れなかった。水分さえ吸収する物質ならなんでもよさそうではあるが、食べ物の近くで使うので無理はしないでおいた。

そのうち実験してみよう。


 それから屋台で買った焼き鳥をみんなで頬張っていた。

単純な料理だが、美味い!

ゴンタとミナモが凄い勢いで食べていた。

俺は追加の買い出しに走った。

なぜならゴンタのおねだり視線に負けたからである。

あれは強烈でしたね。

大概の物は買ってあげてしまうでしょう。


 俺が焼き鳥を抱えて戻るとカロンさんがいて、かっちゃんと話をしていた。


「トシ!坑道へ向かうで」


 何やら俺のいない所で話が進んでいたようだ。


「おう」


 俺の返事なんて決まっている。


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