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初見

83


「行ってきます」


「良い子にしとるんやで」


わう

わふ


「いってらっしゃーい」


「いってらっしゃい」


 俺達が家の外で言うと、なっちゃんはブンブン手を振りながら、花ちゃんは感慨深げに小さく手を振って見送ってくれた。

ドワーフ達の町へ向けて出発だ。

あの屋敷と花ちゃんがいるから、なっちゃんに危険はないだろう。


 ゴンタとミナモが道ともいえない道を先行してくれている。

森の中なので草は高くは伸びていない。

急な段差が草に隠れているかもしれない。

山の中腹をグルッと回っていく。山頂まで行っていたら疲れそうだ。

そんな道だ。


 木の間から周りを見渡すと山と木の緑だらけです。

人なんて住んでいないでしょうね。

ハイキングと登山の気分です。


「三日か四日でドワーフの町に着くやろ」


「ここってドワーフ領なの?」


「ここらの山は全てそうや。と言っても何も管理されてへんな。人の気配もないしなぁ」


 辺りを見回したかっちゃんが言う。


「エルフの森にドワーフの山か。なんとなく人には近寄りがたい空気があるね」


「そうやな。実際近くに住んどるモンもおらんしな」


「エルフとドワーフって仲が悪いとかあるのかな?」


「んー。エルフについては知らんけど、そういうんは聞いた事はないなぁ」


「そっか」


「エルフの薬、ドワーフの武器が有名やな。どっちも市場では高値で取引されとる。それほど出回っておらんから、ニセモンも多いけどな」


「おー。ドワーフの町で買えたら買っていこうかな」


「ドワーフの町はエルフと違うて、人の出入りも結構あるはずや。たぶんトシでも買えるやろ」


「取られたナイフの代わりが欲しいかな。『錬成』で作ったのは研いでも切れ味が良くないんだよ」


「ドワーフ領の鉱山は質の良い鉄が出るしな、精錬も加工も高水準やで」


「楽しみだ」


 剣と盾は良い物を持っているからな。それらは必要ない。


 昼飯までの移動中に、ゴブリンとの戦闘があった。

ゴブリン相手では相手の数が三十いても敵ではなくなっている。

ゴンタとミナモだけでほとんど倒してしまっている。

ただ、ここらのゴブリンは素手ではなく棍棒や剣で武装している事が多い。

冒険者から奪ったのだろうが、そこだけが違う。

ゴブリンが弓を使ってきたことはないね。今のところ魔法を使われた事もない。

近接のみなので楽なもんだ。


「ちょっと待っとって」


 歩いていると、かっちゃんがそう言ってどこかへ行った。

んー、魔物の気配とかはないな。何だろう?

俺が立ち止ったので、ゴンタとミナモも戻って来た。


わう


「かっちゃんが、待っててくれってさ」


 ゴンタがどうしたの?って感じだったので答えてみた。

ゴンタとミナモは俺の側でお座りをして、かっちゃんの帰りを待っている。

かっちゃんの気配で、戻ってきているのが解った。


「じゃーん!」


 戻って来たかっちゃんが、開口一番にそう言った。じゃーんて……。

かっちゃんが手に持って俺達に見せたのは拳ほどの大きさの石でした。宝石かな?ちょっと黄色っぽく透けていて綺麗かも。


「何これ?宝石みたいだけど」


「これは土の精霊石や!マジックアイテムにも使われとるで」


「マジックアイテムのは、こんなに綺麗じゃなかったよ?」


「あれは溶液で加工してあるんや。原石は綺麗なんよ」


「このままじゃ使えないの?」


「直接使うだけやったら問題ないで?魔石で魔力を使うなら加工が必要や」


 かっちゃんがそう言うと、精霊石から土が零れ落ちた。


「かっちゃんが魔力を注いだの?」


「そうやでー。この精霊石は土が出るヤツやな。違う精霊石やと砂だったり石だったりもするで」


「魔力を注ぐと決まった結果になるのか」


「火の精霊石やと火が出るな。石の色で効果の予想は出来るんよ」


「面白い」


 俺には使えないけどね……。


「これだけの大きさとなると白金貨数枚は確実やな」


「えっ!?そんなに高価な代物なの?」


「大きいと兵器に転用される事もあるからなぁ。小さい精霊石やと金貨止まりやろな」


 兵器とか怖いね。しかし高く売れるんだなぁ。これを一つ見つける事ができれば数年生きていけそう。


「どうやって見つけたの?俺にも探せるかな?」


「うちの契約しとる精霊が騒いだんよ」


「騒ぐ?」


「うちの魔力を勝手に吸い上げて石礫を精霊石のほうへ飛ばしたんよ。前にも同じ事があったから精霊石やろなと解ったんよ」


「勝手にって、何だか怖いね」


「精霊石にしか見せん反応や。精霊石には精霊が宿っとるとも聞くしな」


「へー」


「やからトシには見つけにくいやろな」


「ダメかぁ。目視で探すしかないのか」


「地中にある事が多いから、目視も厳しいやろ」


「ちぇっ。稼げると思ったのにな」


「うちも数えるほどしか見つけた事はないで?狙って探すんは難しいなぁ」


「そうなのか」


 それでも魔法使いなら見つけられる可能性があるって事か。

魔法が使えるだけで仕事も稼げる方法も増えるんだな。


「先へ行こうや」


「あいよ」


わう

わふ


 それから日没までに魔物との戦闘が二回あった。

サヒラの大森林と同じかそれ以上のエンカウントだ。

最初はブラッドベア一体でした。

一度戦ったことがあるので、苦戦もしませんでした。

二戦目はスカルボアというアンデッド一体でした。日が沈んだのと同じくらいの時に出てきました。


わうー

わふ


「何あれ……骨?」


「スカルボアかなぁ」


 ゴンタが吠えた後に戦っていたのは骨でした。

這いつくばってゴンタに突進する骨。

骨は捻じれて前面に向かっているものもあります。

あれは既に武器といっていいな。


「魔物が死んで骨が瘴気に侵されてアンデッドになったんやろ」


「瘴気って、どこにでもあるものなの?」


 ゴンタとミナモが戦っているので話す余裕がある。

俺達に向かってくる様子もない。


「死んだ者の念が瘴気になるとか言われてるが、実際の所よく解らん。戦場跡に多いのは本当やけどな。黒い煙というか霧というか、そういうんが地上に存在しとるんよ」


「それは移動したりするの?」


「その場から動いたりはせぇへん」


「ふむ」


 それなら危険は少ないかな。そんなのが動き回って死体に触れ捲ったらアンデッドだらけになってしまいそうだ。


 あれは猪の骨がアンデッド化したものらしい。

ゴンタは気功術で攻撃しているが突進をかわしながら攻撃を当てるのに手間取っている。

突き出ている骨を数本は潰しているけどね。

俺も参戦しよう。

盾と剣を構えて向かう。


「ゴンタ、俺にやらせて!」


わう


 ゴンタが飛び退いて下がってくれた。


「オラァッ!」


 ターゲットを俺にしてもらうため盾を前に出して突っ込む。

ガギィンッ、スカルボアと俺の盾が激突し甲高い音が辺りに響く。

この音、そして無事な骨。固いな。

しかし盾も損傷なしだ。


 それからはスカルボアの突進が続いた。

俺は突進を受けずに横へ飛び退き、すれ違い様に『気功斬』を当てていく。

アンデッド相手なので気功術は効果的ではあるが、突進を躱しながらの攻撃なので腰も入らず手打ちになってしまう。骨を断つまでには至らない。


 ここは……これだ!ミスリルの剣を鞘に納め、マジックバッグからタウロスハンマーを取り出す。スカルボアは突進した後で再度向かってくるまでの間に少し時間が出来るので武器の換装も容易だ。


 タウロスハンマーが久々に役に立ったよ。

打撃力自体は高い。しかし使いどころが難しいハンマーだが、スカルボアの相手には良かった。

結果すれ違い様に背骨を粉砕できた。武器自体の重さと固さ、そして気功術がかみ合っての威力だ。

乱戦でなく一対一だから出来た芸当でもある。

直線的な動きの相手は楽だ。速度も俺と似たようなもので十分対応出来た。


「ええ一撃やったな!」


わう


「ありがとう。ゴンタとミナモに譲ってもらったし、かっちゃんが明かりで照らしてくれてたからね」


 今回の様に初見の敵は俺が相手にさせてもらう事が多い。

経験と知識を増やすためだ。

俺は盾もあるので防御力が高いというのも理由の一つではある。

特殊能力持ちの敵だっているからな。

ゴンタだって無傷ではいられない相手もいるだろう。

かっちゃんに任せると確実なんだろうけど、かっちゃんは自分からはやろうとしない。

仲間の成長に期待してくれているのだと思われる。

頑張ろう……。


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