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屋敷

81


 それは山と山の間にある木が密集した所にあった。

周りの木と同じくらいの高さの建物だったせいで、近づかなけれれば気づかなかったであろう

木に埋もれているといった感じだ。

和風の家と俺が思った訳は、今まで藁ぶき屋根をキノーガルドで見たことが無かったからだ。

こちらの家はログハウスか石造りで藁ぶき屋根は使っていなかった。

そうこれは……。


「合掌造りって奴に似ているな」


「なんやのん、それ?」


「掌を合わせることを合掌っていうんだけど、この家も左右から中心に向かって合わせている作りだったかな?」


「ほー」


 俺が手を合わせて説明すると、かっちゃんも手を合わせている。

良く分かっていなそうだが、なっちゃんもマネしている。


「俺達のいた世界で昔使われていた住居に似ているんだ」


「面白い形やね」


「なんか可愛い家ー」


わう

わふ


「しかし山中に、こんな家があるとは……」


「なんやいわくありげやな」


 みんなで家の周りを一周してみた。

近くで見ると大きい。

周りの木も大きい木ばかりだった。

家庭菜園などはなく、人が住んでいるようには見えない。

しかし古い作りながらも廃墟という感じではない。

こっちの地方の標準的な家だったら、かっちゃんには判るだろう。


「人ではないけど何かいるような気もするなぁ……何やろコレ」


「淡い気配があるような気もするね」


「魔力はないよー」


「魔力が無い!?」


「確かに魔力感知には引っかからんな、怪しいで」


「俺とゴンタみたいな存在って事かな」


わう


「判らん。気配が薄すぎるで」


「玄関もあるし、俺が見てくるよ」


「警戒を緩めたらアカンで?」


「あいよ」


 俺は正面の板の引き戸を叩く。


「すみませーん。どなたかいますか?」


 扉を叩きながら、話しかける。


「どなた?」


 家の中から幼い子供の声が聞こえた。

たぶん女の子の声かな。


 俺は玄関から少し離れて待つ。

かっちゃん達は俺の後方で待機している。

子供の声とはいえ何が出るか判らない。


 出てきた声の主は、おかっぱ頭の和服幼女であった……。

身長はかっちゃんくらいだな。120cmってとこか。

黒い髪をおかっぱ頭にして前髪を揃えている。

和服も小袖?と言うのだろうか桜の絵柄で可愛らしい。

まさしく日本人形といった風情だ。

鼻も低めかな。

頬を赤くして田舎の子に見える。

なんだか可愛らしいモノが出てきたなぁ。

俺は警戒を無理やり解かれた気分である。


「和服……君は一体何者?」


「わたくしは花と申します」


「あぁ、俺はトシっていいます。バッキンから来た冒険者です」


「冒険者ですのね」


 ハナさん……ハナちゃんでいいか。

ハナちゃんは俺を見て無表情気味に言う。

俺とハナちゃんが挨拶したのを聞いて、かっちゃん達も俺の後ろまで来た。

危険は無いと判断したのかな?かっちゃんが問題ないというなら大丈夫であろう。


「俺の仲間達です」


「神使様!」


わう


「神使?ゴンタがですか?」


「まぁまぁゴンタ様ですか。お初にお目にかかります。わたくしは花と申します」


 俺の時とは違い嬉しそうな表情をしている。

神使って神様の使いだよな。ゴンタが?それを解るこの子も何者なんだろう?


わう


「ゴンタがよろしくゆうとるで。うちはカッツォ、かっちゃんでええよ」


「私はなっちゃんだよー」


わふ


「この子はミナモです」


「玄関先で話すのも何なので、お上がりくださいな」


「ゴンタ、馬達が魔物に襲われないようにミナモに守っていてもらいたいんだ」


わうー


わふ


 ミナモはゴンタから説明を受けたのか馬達の側で伏せた。

ミナモはゴンタに逆らわないねぇ……。


「こちらへどうぞ」


 ハナちゃんの後へ着いて玄関を入った。

土間があり、竈が見える。

土間の先には板の間がある。囲炉裏もあるね!実物は始めて見たよ。

家の中は思った以上に広かった。

柱なんかは年季が入っている。

年季の割に汚くはない。

俺だけでなく、かっちゃん達も興味深そうに家の中を見回している。


「履物は脱いでお上がりください」


 日本的だ。俺達は履いている物を脱いで板の間に上がった。

囲炉裏の周りに座布団を敷いていくハナちゃん。


「お座りください。あ、ゴンタ様はこちらへどうぞ」


 そう言ったハナちゃんは上座であろう場所に一際上等そうな座布団を敷いて、ゴンタを誘導した。


わう


 ゴンタも特に逆らわないでお座りした。

座布団の上にお座りしたゴンタは、招き猫のようでもある。犬なのに猫!俺は一人ウケていた。


 俺達も囲炉裏を囲うように座った。

ゴンタの正面にかっちゃんとなっちゃん、ゴンタの左隣に俺、俺の正面にハナちゃんが座っている。

ハナちゃんは俺達にお茶を出してくれた。

かっちゃんとなっちゃんは囲炉裏を見ている。

天井も見上げているね。天井が高い。

天井の裏はおそらく屋根裏部屋のようになっているんだろう。

三階建てくらいの屋敷なのに一階がほとんどを占めている。

空間が広すぎて落ち着かない。

奥に畳が敷いてあった!畳の上で昼寝がしたいです!

どうみても和風だ。

何なんだろう……。


「お話をしてもよろしいですか?」


 俺達がキョロキョロしているので、ハナちゃんが話を切り出してきた。


「すみません、興味深かったものですから……」


「いいええ。いいんですよ」


「俺とゴンタはここキノーガルドの者ではありません。地球の日本という所から落ちてきました」


「落ちてきた……」


「はい。俺達が元いた所では昔この様な家屋があったのを知っています。ハナさんも俺達と同じ転落者なのではないかと思っていますが、どうでしょうか?」


「断定はできませんが、そうかもしれません。わたくしも何でここにいるのかが解りませんが、昔いた場所でなくなっているのは知っています」


 ハナちゃんは困惑気味に言った。


「ハナさんが昔いた場所の話を聞いてもいいですか?」


「そうですね……お話しましょうか。私は昔、越後の国という所の山奥に住んでいました。この屋敷もそこにあったはずなのです」


「越後の国!知っています。雪国ですね」


「まぁ!ご存知ですか。こちらで越後の国を知っている方に会ったのは初めてです」


 ハナちゃんは故郷を知っている人に会えたのが嬉しいのか赤い頬が、更に赤くなっている。興奮しているのだろうね。


「俺の祖母が住んでいましたから、何度か行ったこともあります」


「そうですのね。何だか嬉しいです」


 最初の表情が薄い印象がなくなった。ちゃんと感情が表に出ている。

俺も笑顔なんだろう。かっちゃん達にも伝わっているようだ。


「失礼かもしれませんが、ハナさんは人では無いのではないですか?」


「ええ、その通りです。わたくしはあちらでは座敷童と呼ばれておりました」


「座敷童!確か家に住み着き幸福を与える存在と話には聞いた事があります」


「わたくしは、そのような存在です」


 鬼といい座敷童といい、ひょっとして俺も人間じゃないとか……いやそんなはずはない。

そういう存在だけが転落してたりしてという考えが頭をよぎった。

俺がいた日本や世界にも、俺が知らないだけで不思議な存在がいるのかも知れないな。雑誌むうは真実が混ざっていたのかも……オカルト雑誌を思い出す。


 ゴンタの事を神使とか言ってたな。


「ゴンタは神使なの?」


わぅ


 ゴンタは頭を横に振りながら力なく吠えた。

どういう事だ?俺はかっちゃんの方を見る。


「ゴンタは、まだ神使にはなっていなかったんやと。神使って使徒みたいなモンやろ?」


「うん……そのはずだ」


 ゴンタは日本でもタダの犬ではなかった!?

俺は驚愕の事実に狼狽する。

ついゴンタをジッと見てしまった。

ゴンタも珍しく落ち着きがない。


「ゴンタ様はまだ神使様にはなっておられなかったのですね。しかし力の存在を感じます」


わぅ


 俺は動揺を抑えきれていないようだ。


「ゴンタが様付けはやめてくれやと」


わう


「……解りましたゴンタさんと呼ばせていただきます」


わぅ


「呼び捨てでええんよ?」


「恐れ多いです!そういえばかっちゃんさんはゴンタ……さんとお話が出来るのですね?すごいです!」


「そうやろ?うちも話せるのが嬉しいんよ。なぁゴンタ」


わうー


「良いですわね……」


「あとうちはかっちゃんさんやなく、かっちゃんや」


「かっちゃんですね」


「あんたの事はハナちゃんでええか?」


「ハナちゃん!良いですね!」


 かっちゃんはガンガン攻めるなぁ。

愛称で呼ばれて嬉しそうなハナちゃんだ。


「ハナちゃんの着ている服も可愛いのー」


「なっちゃんの狼の毛皮も恰好良いですよ」


 俺が動揺を抑えている間にも、みんなは仲良くなっていく。


 話を纏めよう。

ゴンタはいずれ神使になる存在だった?

ハナちゃんは昔の日本に存在した妖怪?らしい

俺も含めて転落者三人。

この家屋ごとハナちゃんは転移してきた?

大きく分けてこんな所だろうか。

転落の謎に近づいた気もするし、謎が増えた気もする。

俺はお茶を飲んで心を落ち着かせる。

ずずずっと飲んだお茶は緑茶でした。

渋くて美味い。


 人外だけが地球から弾きだされている可能性も出てきたな。

もっと妖怪や怪物が来ているかもしれない。

まてよ、魔物の正体もそれだったりして?それは飛躍しすぎか。

魔物は魔力を持っているしなぁ。

こっちの獣と交じった?

色々な可能性が頭に浮かんでは消えていく。

謎は深まるばかりだ……。


「トシ?トシ!」


「あぁ、ごめん考え事をしていた」


 俺はかっちゃんからの呼びかけで現実に引き戻された。


「ハナちゃんは、この屋敷から離れられんっちゅう話なんよ」


「ふむ」


「そうなんです。わたくしは屋敷に付随する存在なので離れる事は出来ません」


 ハナちゃんは別に悲しそうでもなく当然といった表情だ。


「でな、こっちに来てからもドワーフがここに住んだこともあるんやって」


「ほほー。ドワーフが」


「ええ、アンバーさんは良い方でした」


 ハナちゃんは少し表情を曇らせながらそう言った。……亡くなったのかも知れない。


「屋敷に人が住まんとハナちゃんの存在が薄くなるんや。そやからうちらでなんとかしたろーってな」


「ハナちゃんの力になりたいのー」


わう


「皆様、ありがとうございます……」


 かっちゃん達の温かい言葉に感極まるハナちゃん。感激屋さんだったのね。


「うちらがここに住むか、だれか連れてきて住んでもらうかせんとアカンなぁ」


わぅ


「そうやな、うちらも旅に出たりするしなぁ」


 みんなでハナちゃんの力になる方法を考えた。


わふー


 そんな時にミナモが吠えた。


わうー


 そしてゴンタが返事をしたっぽい。


「ミナモが魔物の気配を捉えたんや。確かにおるな」


 俺も確認した。

みんな戦闘態勢に入り外へ向かった。


 馬達を守るようにミナモが立っている。


 俺達は魔物の気配を探り森へ入った。

そこにいたのは、オーガが五体でした。

前に倒したことがある。

オーガ達も馬の気配を狙ってきていたようで、まっすぐ向かってきていた。


 前に倒した時より格段に早く倒せた。

誰も怪我をしていません。

こうやって見ると自分達の成長を確認できます。

かっちゃん達は新しい魔法の実験台にしているくらいでしたね。

結局土と風の魔法で止めを刺していましたが。

緑色魔石五つを取り死体は火葬してから地面の奥深くへ埋めました。

カッチャン曰くアンデッドになることもあるから余裕があるなら火葬が良いとの事です。


 俺達がハナちゃんの屋敷へ戻ると、ハナちゃんが玄関で待っていました。


「わたくしの屋敷にこの子達も入れて良いですよ?」


 戻った俺達に馬達を見ながら、そう言ってくれたハナちゃんです。


「土間へ入れても良いんですね?」


「ええ、ちょっと待ってくださいね」


 そして玄関が大きく空間を開けた……。

魔法?いや魔力はないって、なっちゃんは言っていたはず。


「ハナちゃんのギフトかいな?」


 かっちゃんが率直に聞いた。


「これはギフトではありません。昔からあるわたくしの力です。屋敷を管理できます」


「それで古そうな屋敷なのに綺麗なんやね!」


「すごーい」


わう


 家妖精と言われるシルキーと似ているな。

家を栄えさせるだけでも凄いのに実用的ですらあるのか。

みんなの賞賛に喜んでいるハナちゃん。

馬達を土間に入れました。


「屋敷の損傷も防げますし、外敵の排除もできます!」


「屋敷に関しては無敵だね。凄いんだなぁ座敷童って」


「たいしたもんやで」


「かっこいいねー」


わう

わふ


 そして話の続きをしましたが妙案は出来てませんでした。

話が纏まらなかったので、今日は屋敷に泊まらせてもらう事に決定しました。


 なんとなんと!夕飯はハナちゃんが米の雑炊を作ってくれました!

屋敷にあれば食料の管理もできるそうです。

一家に一人欲しい存在だ。

残念ながら米の在庫は少ししかないらしい。

味噌と大根の雑炊は大変美味しゅうございました。

嬉しくて涙がこぼれそうでしたよ。


 畳の匂いや感触も追い打ちをかけてきます。

かっちゃんや、なっちゃんも気に入ったようです。

俺はバッキンに家がありながら、ここに住みたいという気持ちが大きくなります。

困った……。


 久しぶりの畳と布団で気持ちよく眠れそうです。


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