不思議
80
「俺達も出発しよう」
「はいな」
「はーい」
わうー
「ゴンタが森には魔物がおるゆうてるで」
「あぁ、ゴンタ達は昨日は森へ入ったもんな。きっちり索敵して行こう!」
「「おー」」
わう
わふ
イチルア王国やバッキン教国ではあまり魔物は見なかったもんな。
気を引き締めなければなるまい。
俺は軽く頬を両手で叩いて気合を入れる。
うっし!
右手にエルフの森を見ながら山へ向かう。
ここら一帯も森なのだがエルフ領の木と違う。
なにが違うかと言うと、ズバリ木の大きさと木の間隔が違う。
エルフの森の木は大きく育っている。そして木と木の間が空いている。
木が密集して成長を阻害する事もなさそうだ。
一日中日蔭にならないように工夫してあるようだ。薬草や野草が豊富ですね。
山へ入るまでに魔物との戦闘もあった。
久しぶりにゴブリンを見たな。
大した数もいなかったので楽勝です。
サムの言う通り魔物は駆逐されていないようだ。
美味しい肉を持った魔物が待ち遠しいです。
タウロスも今ならまともな勝負が出来る自信はある。
タウロスの肉は美味しかった……ダンジョンにしかいないのかなぁ?焼肉の味を思い出して唾が湧いた。
かっちゃんは新しく習得した氷の魔法を多用していた。
訓練と実戦のすり合わせをしているのだろう。
戦いの中で解る事もあるからな。
なっちゃんは実戦で使えるほどには至っていないようで、風の魔法で倒していた。
最終的には、なっちゃんの雷の魔法が最強になるかもしれない。
俺達の切り札として期待している。
「ここからは山だね」
俺は緩やかに上っていく道を目を細めて見ていた。
道というにはお粗末なものだ、獣道に近い。
だれが使う道なのだろうか?サムのような旅人かな。
この辺りには人の気配はない。
「山道を歩いて……五日は掛るやろうな」
「結構歩くねぇ」
久しぶりの旅って感じだ。
動物軍団はとても嬉しそうに見える。
深い緑の匂いや、山から吹いてくる風が町では味わえない雰囲気を醸し出している。
町の便利な生活もいいが、山や森での野営も嫌いではない。
嫌いではないどころか、珍しい果物や未知のキノコなどとの遭遇はとても楽しい。
以前俺が取ったキノコは毒キノコでしたがね……くそぅ、見た目は派手でなく美味しそうだったのにな。
なっちゃんも見た事のない物を見つけては駆け寄っていく。
ゴンタとミナモもくっついていくので、危険はないだろう。
魔物にしても、食材にしてもだ。
とくにミナモはなっちゃんに優しい気がする。
やはり妹扱いなのかな。
ちょっとだけ羨ましい。
馬達は走り回れないが歩いているだけでも良いのだろう、気分良さげにしている。
水や餌の世話、汗を拭いてやったりしている内に、機嫌が良い時と悪いときくらいは判るようになった。
乗馬も上手くなった。今では片手で剣を振るうくらいは出来る。
かっちゃんとなっちゃんはバクシンオーに乗って戦う時は魔法を撃ちまくりだったね、さすがにあそこまでは出来ないです。
機動力と攻撃力が合わさって平地では脅威でしょうね。近接攻撃も気にしなくていいですし。
俺達は索敵能力も高い。
気功術でも、魔力感知でもだ。
索敵範囲も広いので、魔物相手だと先制攻撃ができる。
余裕があるので攻撃も失敗しない。良い循環である。
昼飯までにゴブリン十三体、ゴブリンリーダーが一体、ブラッドベアの親子らしき二体を倒した。
ブラッドベアは目が赤く、血を見ると興奮状態で凶暴になる熊らしい。身長は2mを超え体重も重そうでした。
腕を振るい、それなりに太い木ですら叩き折っていました。爪も鋭かったです。
巨体を目の前にして最初は動きのイマイチな俺でしたが、最終的には一撃も攻撃を喰らわずに剣で止めを刺せました。
普段、ゴンタと訓練している俺を倒すには速度が足りねーぜ!
そう当たらなければ問題はないのです。
ブラッドベアは緑色魔石と丈夫な毛皮、そして俺達の昼飯になりました。
血を抜いても臭みがある肉でしたが、調味料次第では美味しく食べられそうな肉です。
余った肉をジャーキーにして、簡易燻製箱を作り更に煙で燻します。馬に搭載できる大きさと重さなので、移動中でも燻製できます。
もちろん馬体に熱をいかせるような作りにはしませんとも。
燻製用のチップもいくつか試して、香りの良いものを選びました。
少しは臭みも抑えられるでしょう。
「なんだあれ……」
俺は山の中で変な物を見つけた。
やたら光を反射してくるので眩しいなと近づいたらあったのです。
木です。
大きさは周りの木と大差ありませんが、木の葉っぱがキラキラしています。
葉っぱ自体が発光しているわけではなさそうです。
「なんやあれ?」
「キラキラ綺麗なのー」
かっちゃんも知らないようでした。
俺は恐る恐る木に近寄り幹に触れてみます。
幹は普通だな。
軽く叩いたりしてみましたが、特に変わったところはありません。
「ちょっと木に登って葉っぱを取ってみるよ」
「気ぃつけや」
「あいよ」
俺は盾を置いて、裸足になった。
子供の時以来だな木登りなんて。
懐かしい記憶を思い出しながら木の枝を掴みよじ登っていく。
枝に体重を掛けるとしなります。
おかしなところはありません。
幹に一番近い葉っぱに手を伸ばします。
おぉ、枝が折れそうで怖いぞ。
ジリジリと指を先へ伸ばします。
おわっ!しなった枝がへんな揺れ方をしてしまった。
ドスッ!あうちっなんとか一枚の葉っぱを取ったものの尻から地面へ落ちてしまいました。
「大丈夫か?」
「痛そう……」
わぅ
「尻が割れたよぅ」
「元々やん……」
かっちゃんのツッコミが嬉しいです。
俺は立ち上がり尻をさすりながら、取った葉っぱを見ます。
ん、なんか金属っぽいな。
指で葉っぱを弾きます。
コンッ、音が軽く響きます。
「なんか金属っぽいよ?軽いけどさ」
俺は葉っぱをかっちゃんに渡します。
かっちゃんも指で弾いて確認していますね。
そして葉っぱはみんなの手を渡った。
「あの葉っぱみんなコレかいな」
「へんなのー」
訳の判らない葉っぱだね。最後にかっちゃんが葉っぱを火で炙りました。
火で炙っても燃えませんでした、そして植物の葉っぱが燃えるような匂いは出ません。
「あちちっ」
かっちゃんが葉っぱを手放しました。
俺も拾ってみますが、熱を持っています。
金属なのか?コレ。
「鉄なんとちゃう?」
「うーん」
「これ一本だけやなぁ」
かっちゃんが辺りの木を見回してから言う。
「キノーガルドには不思議な物があるんだねぇ」
「うちも初めて見たわ」
嬉しそうだな、かっちゃん。
「綺麗だねー」
「よし、なっちゃんに葉っぱをあげよう」
「トシちゃん、ありがとー」
お安い御用ですとも。タダだしな。
なっちゃんは大事そうにシャツのポケットにしまった。
ちなみに『錬成』は光る葉っぱを持つ木に効きました。木の板は普通でしたよ。
それからも青くて大きいキノコや、良い匂いのする土を見つけたりしました。
なんだか変な森です。
かっちゃんは大喜びでした。
良く分からない物は取り敢えず保管していきました。
なんかお宝かもしれないしね。
その日の野営では魔物が襲ってきました。
襲ってきた魔物はストローバットという蝙蝠でした。
口が鋭い管になっていて血を吸うらしいのです。
空を飛ぶ相手だったのでかっちゃんと、なっちゃんの独断場でした。
俺は馬達の護衛をしてました!仕方ないじゃん。
試しに投げた石つぶてで一匹だけ倒せたけどね。まぁ偶然でした。
群れで襲って来たので倒し切るのに時間が掛りました。
月明かりが無かったらもっと掛っていたでしょう。
最下級の紫色魔石が31も取れました。
これを売っても安いのでマジックアイテムの燃料にでも使おうかな。
寝不足気味になった翌日も似たような一日でした。
そう、昼過ぎに和風の家を山の中で見つけるまでは……。