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従兄

79


わう

わふ


「あぁ……大丈夫やで、たぶんうちが知っているモンや」


 俺達が食後に雑談していた時に、ゴンタとミナモが警戒の声を上げた。

俺も気配を察知できていた。

警戒した俺達を止めるかっちゃん。

知り合いなのか。

かっちゃんが立ち上がって、気配の主の方へ向かった。


「うちやで!カッツォや」


「かっちゃん!久しぶりやなぁ」


「やっぱり、サムか」


「元気そうやな?」


「サムもなー」


 良かった、かっちゃんの知り合いだ。

俺達は警戒を解く。


「こんばんは、俺はトシって言います。かっちゃんの仲間です」


 俺も立ち上がり挨拶をする。


「私はなっちゃんだよー。かっちゃんとは仲良しー」


わう

わふ


 ゴンタとミナモも自己紹介をしたようだ。ケットシーなら解るよね?

そう、かっちゃんの知り合いはケットシーでした。

明かりの側に来た人はケットシーで、灰色の毛並をしていました。


「こらどうも、ご丁寧に。わしはサム・ガーリーいいます。よろしゅう頼んます」


 オスなんだろうな。一人称に加え声も若干低い。

そしてもう突っ込まない。


「サムも座りぃ」


「ほい」


「サムはうちの従兄なんよ」


「そうでしたか。俺達はいつもかっちゃんに助けられています」


「かっちゃんは優しいのー」


わう

わふ


「かっちゃんはええ子やからね」


 かっちゃんを褒められて、サムも嬉しそうだ。

そう思えるこの人もいい人っぽい。

そして照れてクネクネしているかっちゃん。


「照れてまうやん」


「本当の事だしね」


「まぁええわ。サムはこんな所で何してんねん?」


「わしはギルスア王国の遺跡に行こうかと思っててん」


「遺跡かいな」


「あそこは遺跡が多いからなぁ。わしんとこの一族のほとんどが今行っとるで」


「おっちゃんや、おばちゃんもかいな」


「そうやで、新しく見つかった遺跡に向かったで」


「くぅー、面白そうやな」


 さすが好奇心旺盛なかっちゃんだ。遺跡と聞いて目の色が変わったと思う。


「かっちゃんこそ、こんな所でどないしてん?」


「うちらはバッキンからドワーフ領へ向かっとるんよ」


「バッキンから来たんか!今船使えんやろ?」


「数日前にバッキンの港町も《闘族》に襲われたんよ」


「あっちもかいな……厄介な奴らやの」


「うちらは今朝自力で船を用意して、さっきここに着いたんよ」


「船があるんか?」


「乗って来た船なら、そこにあるで」


「あー」


「サム、船を使いたいんか?」


 サムの表情を見て察したかっちゃんが言う。


「定期便が使えんようになったさかい、時間が掛るけど歩きでドワーフ領を回ってギルスア王国へ行こう思てたんよ。でも船の方がええな」


「トシ、船をやってもええよな?」


「かっちゃんの従兄さんならいいよ」


「ホンマか!助かるわぁ」


 サムは俺の手をガッシと握り激しく振る。

サムは感情表現が大げさですね。

解りやすくていいか。


「魔法で船を動かしてきましたが、サムも大丈夫だよね?」


「わしもかっちゃんと同じ魔法が使えるから大丈夫やで」


「ふふふっ、それはどうやろなぁ?」


「なんやのん?同じやったやろ。水と地の魔法」


「最近、氷の魔法が使えるようになったんよ!」


「なんやて!?なんでや?」


「まぁ見てみぃ」


 興奮してにじり寄るサムを引きはがして、かっちゃんが言う。

そしてかっちゃんは掌の上に氷の玉を作った。


「ホンマや……」


 氷の玉を近くで見たサムが呟く。


「うちは新しい境地へ足を踏み入れたんやー!」


「かっちゃん先生!」


 サムがかっちゃんを先生呼ばわりする。なんかデジャブー。


「あんたもかいな……」


 かっちゃんも思い当たる事があったようだ。不思議だねっ。

それからの彼らは俺の存在が眼中から消えたようだ。

魔法論について興奮しながら話している。

いつの間にか、なっちゃんも参戦していた。

いいよね魔法……。


 俺はゴンタと夜の星を眺めた。

ミナモ?ミナモも魔法の話を聞いていたよ。

あの子も魔力はあるからな。

星は地球とは違っている。

俺も星座は詳しくないが、夏の大三角形と冬のオリオン座くらいなら知っている。

今は月が雲に隠れているが、ちゃんと出ている。

月からはマナが放出されていると、かっちゃんは言っていた。

雲から顔を出した月は少し青味掛って美しい。

寒々しい美しさだ。何故か畏怖させられる。

前に見た時と月の形が違うので、地球と同じように満ち欠けするのだろう。

今は満月に近い。

狼男とかいたら今日辺り最高に力が発揮できているのかもしれないね。


「ゴンタ、狼男って満月の夜に最強になるんだってさ。ゴンタは力が溢れてきたりしない?」


わぅ


 ゴンタには満月は作用しないようだ。残念。


 いつの間にか俺とゴンタは木の下で寄り添って寝てしまっていたようだ。

気づいたら朝になっていた。

かっちゃん達は徹夜で話ていたわけではないようで、寝ているね。

俺が身動きしたので、ゴンタも動いた、隣にはミナモもいた。


「ゴンタ、ミナモ、おはよう」


わう

わふ


 かっちゃん達を起こさないように、俺達は朝の日課をした。

すがすがしい朝の空気が心地よい。

今日も良い天気になりそうだ。


 ゴンタと軽く手合わせをしてもらう。


「おりゃっ!」


わう


 俺は素手で格闘戦を挑んだ。

アドルフの様に先読みと判断力を養わないとな。

ゴンタは速い。

しかも体勢が低いので、動きは目に捉えられても反応しづらい。

腰を落として待ち受けるしかない。

ゴンタは右へ左へ飛び跳ねて、翻弄してくる。

なるほど、動かないで相手の出方を待つと解る事もあるな。

近接攻撃同士だと必ず接触する事になる。

ゴンタが相手だと肉を切らせて骨を断つを狙って後の先で勝負するしかなさそうだ。

無傷では勝てないね。

一撃でやられなければ勝負にはなるな。


 まぁ、ゴンタに引き倒されて寝転んでいる俺ですけどね。


「ゴンタにはまだ勝てないなぁ」


わう


 パチパチ、拍手が聞こえた。

かっちゃん達も起きていて見ていたようだ。

拍手はサムからでした。


「ゴンタは速いなぁ」


わう


「トシも大したもんや」


「どうもです」


 サムが褒めてくれる。ゴンタへのと違って社交辞令のようだけどな。


 朝飯を食べた後に、船を見に行った。


「立派な船やんか」


「そうやろ?」


「これを使ってもええんやな?」


「ええで。一日あればバッキン領へ入れるやろ」


「おおきに」


「あとな、バッキンに『ソルティードッグ』言う店を作ったんよ。ビアンカとデイジーって犬獣人姉妹が店長代理をしとるから、うちの名前を出せば泊めてくれると思うで」


「そら助かるわ」


「手紙を書いたるから、ちっと待っとき」


「はいな」


 かっちゃんが荷物の所へ戻っていった。


「サムはフリナス王国を回って来たんだよね?」


「そうやで。魔物討伐もしたし。ダンジョンへも助っ人に行ったしなぁ」


「フリナス王国はどういう国?」


「んー、歴史も結構ある大きな国やな。貴族が強い権力を持っとって息苦しい所はあるな」


「貴族かぁ」


「首都辺りでなければ貴族も見かけんよ」


 俺のつぶやきを聞いて、サムがフォローしてくれた。


「そっか」


「農業が盛んで町や村も多いで。そこらでは魔物討伐のクエストがぎょーさんあるんで冒険者には生活しやすいかもな」


「なるほど」


 偉そうな貴族が闊歩していたら、さすがに嫌だ。

これから向かうのはドワーフ領だけどね。

話を聞いておくのは大事だろう。


「そういえばバッキン教国側の港町でアドルフ兄弟にあったよ。《闘族》討伐のクエストだってさ」


「らしいな。フリナス王国も国内では騎士団の警戒が強まっとった」


「俺達も転移魔法持ちとやりあったよ。俺は手も足もでなかったけどね……」


 俺は嫌そうな顔をしていただろう。


「転移魔法なんぞまともにやりあえんやろ」


 サムも転移魔法を知っていたようでウンウン頷きながら言う。


「実感したよ」


「無茶しぃやな」


「いずれ倒してみせるさ」


「ほぉ」


 サムは面白そうだという顔になった。


「ヤル気なんやな?それならええ事教えたる。アイヴィン知っとるか?あいつはネクロマンサー兼、剣豪や」


「『首狩り』だね。ネクロマンサーってアンデッドを使役してくるのか……」


「そうや。気功術か光の魔法、または魔法の剣で対抗する必要があるで」


「うん。ありがとう」


「死んだらあかんで?死なんかったら負けやない」


「サム……」


 サムの言葉には重みが感じられた。歳も見た目では判らないがかっちゃんと同じくらいだろう。

ぬいぐるみのような愛らしさなのに渋い。

経験者は語るというヤツだな。

いつか俺もこう言えるようになりたいもんだ。


 かっちゃんが手紙を書いて戻ってきたようだ。

サムに手渡している。


「気ぃつけていくんやで」


「ありがとな、かっちゃん」


「またね、サム」


「ばいばーい」


わう

わふ


 風の魔法は使えないとの事で帆はいらないと言われた。

水の魔法で海水を操作して船を動かした、俺達ほどの速さでは行けないようだ。

そしてサムの乗った船はバッキン教国へ向かって進んでいった。


 俺達は船影が小さくなるまで砂浜で見送った。


 こういう出会いは一期一会というものだろう。


誤字修正。

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