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エルフの町

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 早朝に交代のエルフ達が小屋に着いたようで、騒がしさで目が覚めた。

気配を探ると6人来ているようだ。半分ほどが交代か。

たまに聞こえてくる声から察するに、なっちゃんの事で騒いでいるようだ。

エルフ達にとっては大きな問題なのかもしれない。

なっちゃんが本当の両親に会う事もありえそうだが、その時になっちゃんがどういう判断をするか……本人の意思に任せるさ。

俺はなっちゃんを守るだけだ。


 俺達は朝飯を食べて世界樹へ向けて出発した。


「これから君達に魔法を掛ける。私達と離れなければ迷わなくなる魔法だ。魔法に抵抗しないように。嫌なら去ってくれ」


「解りました」


「はいな」


 シスルさんは詠唱無しで何か俺達に魔法をかけたようだ。

かっちゃんは魔法を受けて何やら呟いているが、魔法についての考察でもしているのだろうか?

とにかくシスルさん達から離れなければエルフの森で迷わないで済むらしい。

100mくらいまでは離れても大丈夫だそうだ。

トイレとかもあるし助かる。

エルフの森の山は食材の宝庫であった。

キノコや山菜がそこらじゅうにありましたよ!果物や木の実も豊富そうです。

取りたいけど我慢だ。かっちゃんに取るなと注意されているからね。

キノコはカラフルで危なそうな物もあったね。

日本だったら間違いなく毒キノコであったろう。

大きさも人ほどあるものもあった。

胞子を飛ばされたら恐ろしい事になりそうだ。

俺は田舎者が上京してきた時の反応のようにキョロキョロと辺りを見ながらエルフ達に着いて行った。

獣や鳥、虫もいたが退治されていないという事は、エルフにとって害のある存在ではないのだろう。それらは迷い続けているのだろうか……外へ追い出されるだけならまだいいな。

ある程度の上空にも迷いの効果はあるそうで、飛んで侵入も難しいそうだ。

ドラゴンとかが来たらどうなるんだろう……気になります。


 山にも道らしき物があり、起伏は激しいが馬達を引いてでも進めた。

道中でもエルフ達はなっちゃんにしか話しかけない。

俺から話掛けてもシスルしか答えてくれなかったね。

美女にスルーされるとゾクゾクするねっ!嘘です落ち込みますとも。

無言でかっちゃんが足を叩いて慰めてくれますが、逆効果です。


 ゴンタとミナモは森を駆け回りたそうにしていましたが、かっちゃんに言われているのでなんとか我慢しているようです。

楽しそうな森だものな、気持ちは解る。

獣の気配を捉えるたびに俺を見ないでくださいゴンタ君。

俺には許可が出せません!

ゴンタに見られるたびに妙な罪悪感が俺を襲います。

意地悪をしているわけではないんだよぅ。


 休憩や昼飯を挟んで、山頂を超えました。

山頂から見える世界樹も大きかったです。

近づけば近づくほど大きく感じます。

まだ遠くにある世界樹からは凄まじく大きい生命力を感じます。

畏敬の念すら覚えます。

あれが神だと言われれば疑わないでしょう。

かっちゃんやなっちゃんも世界樹を見て何か感じているようでした。

ゴンタとミナモも黙って見ていましたね。


「この山を下って森へ入れば。あと一日の予定だ」


 シスルさんが行程について教えてくれた。

今夜は野宿だね。


 夕方には山を降りる事が出来た。

森で野営の準備です。

魔物はエルフの森にはいないようで、気にしなくて良いそうです。

魔物も迷わされてエルフの森の外へ出されるとか。

すごい魔法があるものです。

バッキンから持ってきた野菜は全て使ってしまいます。

料理に使いきれない分は馬達に食べてもらいます。

火を使うなと言われたので、水で洗ってサラダとパンにはさんで食べました。

オリーブオイルと塩だけの味付けでしたが十分美味しかったです。

かっちゃんには燻製の魚を挟んだサンドイッチにしてあげました。

俺となっちゃんはジャーキーにトマト、レタスでBLTサンドもどきです。

パンは焼いてから日が経っているので少し硬かったですが通常の店売りパンよりは柔らかいです。

そういえば、醤油を作れたし小麦もあるからラーメンも作れそうだな。

もう少し涼しくなったら試そうっと。


 俺達は食後に少し話をしてから眠りについた。

なっちゃんに関する話もした。覚悟はしておいたほうがいい。

森の夜は涼しいので眠りやすかったです。


 翌日も早朝からの移動でした。

昼前に川に寄って水の補給もしました。

とても綺麗な水でした。

冷たくて美味しかったです。

俺は生水でも当たったことがありません。

内臓強化のスキルが頑張ってくれているのでしょう。

良いスキルです。

エルフの女性達が水浴びをするとの事でなっちゃんを誘いに来ました。

とても興味が惹かれます!魔法が怖いので覗いたりはしませんけどね……。

なっちゃんはかっちゃんの方を見ていますが、かっちゃんが頷いたのを見て彼女達について上流の方へ行きました。

俺もタオルで体を拭います。

ゴンタとミナモは下流で川に飛び込んでいます。

気持ちよさそうだなぁ。

これに関してはエルフ達も何も言わないので問題ではないのでしょう。

馬達も水をたっぷりと飲んでいますね。


「ナターシャの事だが、両親らしき者に会わせたいと考えている」


「そうですね……」


「今晩にでも宿へ連れて行きたいのだが、どうだろうか?」


「ナターシャには、その可能性について話してあるので大丈夫です」


「そうか。頼んだぞ」


「はい」


 なっちゃんがいないのを見計らってシスルが俺とかっちゃんに話してきた。

今晩か……。


 昼飯も川原で食べた後、出発です。


 エルフの森は静かです。時折鳥の鳴き声がするくらいです。

一人だったら不安になっていたでしょう。

森自体は緑の匂いと涼しい空気、木漏れ日で良い雰囲気ですがね。

森の木も適度な間隔であります。

間伐もしているのかもしれません。

木を大事にしているようですが、全体を見て個を除く事も考えているのかもしれませんね。

木があったのではないかという跡を見て、そう思いました。


「ずいぶん世界樹に近づいているよね」


「そうやな。夕方には世界樹の下に着くんやないやろか?」


「もう見上げても世界樹の全体像は見えなくなってきているもんね」


「久しぶりやなぁ」


 かっちゃんは感慨深そうに世界樹を見上げて言う。

かっちゃんは職業追加で世界樹を二度訪れているそうだ。

師匠が居れば必要ないしな。

ボッチには必須かもしれん……。

まさかボッチ対策なのでは!?優しい世界なのかも。


 日が落ちてきた頃に町が見えてきた。

あれがエルフの町か!

建物は見える限り木造です。

ログハウスですね。

何件かは木の上の枝に秘密基地のように作られていますね。楽しそう!

梯子やロープが下がっており、興味が惹かれます。


「君達が泊まれる宿はあそこだ」


 シスルさんが指し示した建物は町はずれのログハウスでした。


「宿と言っても眠る場所があるだけだがね。町の中も森にも出歩かないようにしてくれ。明日の朝迎えに行くから、世界樹への用は明日にしてくれ」


「はい」


「はいな」


 厩舎に馬達を入れた。ゴンタとミナモはログハウスに来るようだ。

なっちゃんの話が気になるのであろう。

ログハウスの中には誰もいなかった。

宿ではないねぇ……。

玄関から居間を抜けて奥の部屋に荷物を置いた。

ベッドに腰掛けて話す。


「なっちゃん、今晩エルフの人達がなっちゃんに会いに来るってさ」


「うん……エルフのお父さんとお母さんだよね」


「そうらしい。たぶん人族の子供も来ると思う」


「そっかぁ」


 なっちゃんは心の整理がついていないのか、あいまいな返事だ。

それでも会いたくないとは言わないんだな。

前向きではあるようだ。


「うちらはなっちゃんの味方やで?どうしたいかは、なっちゃん自身が決めたらええ」


「うん」


わう

わふ


 なっちゃんの中身はまだ十歳ほどらしい。なっちゃんに決めさせるのは酷かもしれないが、本人の問題だ。

俺達はなっちゃんの決めた事を実行するだけだ。


 夕飯はあまり喉を通らなかった。

そして俺達は緊張しながら、人の訪れを待った。


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