対面
72
「かっちゃん、あの山の向うに見えるのって……」
「そうや。あれが世界樹や。うちもこっちから見るのは初めてやな」
わうー
わふ
「おっきー」
なっちゃんリピート!リピート!!
俺の脳内HDDに保管しておこう。
まぁ冗談はさて置き、結構高そうな山の向う側に巨大な木が見えたのです。
普通に大きな山があるとしか思っていませんでした。
しかし周りの山頂には木がなく土色をしていたので、世界樹の上の方にある葉の緑が浮いて見えたので変だなと思ったのが切っ掛けで気づいたのです。
周りの山の倍以上ありますね……。
ここからでも判るのですから太さも相当なモノです。
異世界の不思議を見てしまいましたね。
葉の色なんかは普通の緑色に見えます。
あの木に不思議な力が備わっているのか、神様の力なのでしょうかね?大きさといい謎です。
「あそこを真っ直ぐに行くとドワーフ領へ行くための港町に着くはずや」
街道を馬で進んで山も近くなった所で、かっちゃんが教えてくれました。
直線の道で右へ向かう分岐もあります。
右への道は山の方へ向かって伸びていますね。
「じゃあ右へ向かう道がエルフ領への道だね」
「そうや。今回は右やね」
俺達一行は分岐を右へ向かって馬を進める。
もうすぐなっちゃん以外のエルフに会えるんだな。
相手は魔法に長けていると聞くから、なっちゃんがエルフだと直ぐに判るだろう。
トラブルにならないといいな。
ちょっと緊張するぜ。
俺はチラッとなっちゃんを見る。
なっちゃんも珍しく緊張しているようだ。
エルフ領が近づくにつれて口数が減っているのは気づいていた。
なっちゃんは俺達と一緒にいる事を選択したが、エルフ達とどのように接していいか解らないのだろうね。
俺も解らない、成り行きまかせだ。
「あれがエルフの小屋やな」
かっちゃんが指し示した所に小屋が立っていた。
まだ少し距離があるが普通のログハウスに見える。
小屋と言うには大きいのではないだろうか。
俺達が馬を進めて小屋へ近づくと小屋の中からエルフ達が出てきた。
俺達は気配を消してはいないから見つけられるだろうが、大仰な反応である。
出てきたエルフは11人いた。
武器は持っているが構えてはいない。
弓持ちが多いね。
「かっちゃん、何やら警戒されているようですが……」
「そうやなぁ……なっちゃんがいるからと違うかな」
「なるほど」
「こわいよー」
わう
なっちゃんがかっちゃんをギュッと抱きしめている。
なっちゃんの魔力を感知したのかな。エルフ達なら簡単なのであろう。
俺の気功術よりエルフの魔力感知の方が索敵範囲が広いね。
以前にゴンタとミナモ、馬達を町の外で遊ばせていた時に、俺となっちゃん、かっちゃんで気功術と魔力感知の索敵範囲の調査をしたことがある。
俺とかっちゃんが目を閉じて、なっちゃんが俺の手を引いて離れて行って索敵範囲外になったら手を挙げるというものだ。
その後でなっちゃんもやって調べた結果、俺、なっちゃん、かっちゃんの順で索敵範囲が広かった。
その俺以上の索敵範囲だとはな……かっちゃんも自分の索敵範囲は狭くはないと言っていたので、エルフは魔力に関して異常なのであろう。
「こんにちは。世界樹で職業追加をしたく思い来ました」
俺が代表してエルフ達に向かって声を掛ける。距離はなんとか声が届くくらい離れている。
警戒されているようだし仕方あるまい。
「そうか。その狼の被り物をしているのはエルフだろう?何故エルフがいる?外に出ているエルフは4人だけのはずだ。誰だ!?」
やはり解っているか。
外にでているエルフってのもいるのか。
「彼女はナターシャといいます。アヘルカ連合国のモラテコで会いました。彼女はチェンジリングで替えられた子供のようです。歳は20歳と聞いています」
「チェンジリングだと……」
エルフ達が動揺しつつ周りのエルフ達と話しだした。
おーい、俺達は放っておくのかよ。
「なんだか想定外のようだね」
「そうやな。もっと冷静で冷血なイメージやったんやけどなぁ」
「こわいー」
なっちゃんがかっちゃんに抱き付く。
「大丈夫だ。何かあっても俺達がなっちゃんを守るからね」
俺はなっちゃんの頭を撫でてフォローする。
わう
わふ
「そうやでー。ゴンタとミナモも守るってゆうとる」
「うん!」
なっちゃんは嬉しそうに返事をした。本当に嬉しそうでこっちも嬉しくなる笑顔になってくれた。
ゴンタは守るって言いそうだけど、ミナモも言ってくれるとはな……愛されているな、なっちゃん。
あ、犬とかって家族に序列を付けるって言うからミナモはなっちゃんを妹だとでも思っているのかもしれないね。
俺がミナモにどう思われているか気になります。
「話は解った。こちらでも思い当たる事がある。世界樹へ行くというのなら案内しよう」
「ありがとうございます」
「私達の方でも人族の子供が生まれた事があるのだ。おそらくチェンジリングだろう」
「そうですか……出来れば、その話は時間を置いて欲しいのですが」
俺はなっちゃんの方を見ながらエルフの男性に言う。
「そうか。そうだな、そうしよう」
彼は俺の視線の先を見て、少し考えてから了承してくれた。
いきなりなっちゃんの本当のお父さんやお母さんが出て来ても困ってしまうだろう。
替えられた子供もいるようだし、そっちの問題もあるだろう。
それを理解してくれるだけの優しさを持ってくれているようで安心した。
「申し遅れました。私はトシと言います」
「うちはカッツォや、かっちゃんでええで」
「私はナターシャです……」
なっちゃんはかっちゃんの後ろから、消えそうな声で挨拶をした。なっちゃんには珍しく気後れしているようだ。
無理もないけどね……。
「それから犬のゴンタと狼のミナモです」
わう
わふ
「馬のバクシンオーとカエデです」
馬達に鼻面で押されて紹介した。馬達の紹介はいらないと思ったが催促された気がした。
ぶるるるるっ
妙な自己顕示欲が出て来ているな。変な奴だ。
良く走ってくれるからいいんだけどさ。
「そうか。私は今この小屋の責任者である、シスルだ」
「よろしくお願いします」
「ああ、ちゃんと世界樹まで案内する」
責任者の彼はシスルか。他のエルフもそうだが、男女の区別がはっきりしない……。
シスルは声で判ったが見た目だけでは判らない。服も同じような革の上下に布のチュニックを上に着ている。
髪は金髪か銀髪だ。流れるような髪という形容は彼らのためにあるようだ。
顔は西洋的な美しさがある。彫りも深く鼻が高い。高いといっても美しく感じられる高さだ。
目は切れ長で、眉も整っている。
耳は先が尖っていて特徴的だ。
耳は髪の毛に埋もれていて少ししか見えないけどね。
ズルい……異世界では格差を味わってきたが、エルフは別格だ。神に愛されているとしか思えない。神様と話せる機会があったら文句を言ってやろう。
彼らの中に女性がいるかどうかは判らないが、体に凹凸が少ないのは人間の女性にとっては勝てる部分ではないだろうか?
エルフの男性は筋骨隆々という感じではない。
魔法無しなら勝てそうではある。
シスルは気配も強いが俺ほどではない。
俺はエルフを観察して思った。
「明日の朝に交代のエルフが来る。そうしたら俺達が世界樹へ送る」
「解りました」
そういう仕組みか。毎日交代していくのかね。
「君達の人数なら小屋で泊めてやれる。中へ入りたまえ」
わう
わふ
「ゴンタとミナモは外の森へ行ってくるやと」
「そっか。俺達だけお世話になろう」
「はいな」
馬達も離してやった。
かっちゃんがゴンタとミナモに馬達の事も気に掛けてやってくれと言っているようだ。
ゴンタとミナモも走っていった。
俺達はログハウスの中へ入った。
綺麗に使っているね。
外から見た以上に広く感じる。
家具が少ないのも理由の一つだな。
居間には食事用の10人掛けのテーブルと椅子しかなかった。
予備の椅子があったようで俺達の分も出してくれた。
奥に部屋はあるが寝室だろう。
「座ってくれ」
シスルが俺達に言う。
俺達は木の椅子に座る。
背もたれがない椅子だ。
「なっちゃん、緊張せんでええで」
「うん……」
「あら、ナターシャはなっちゃんって呼ばれているのね」
おお、女性だ。声も良い声だ。
優しい声色でなっちゃんに話しかける女性。
「うん。ナターシャはなっちゃんなの」
「私はアネモネよ。よろしくね」
俺達には向けない笑顔をなっちゃんに向けるアネモネさん。
やはり同族ってのは特別なものがあるのかね。
それともなっちゃんが子供だからであろうか?
邪険にされるよりはいいね。
(彼女の親御さんはどうした?)
シスルさんが俺に小声で聞いてきた。
(彼女の両親は亡くなっているようです。お爺さんと行動していたようですが、俺達と会ったときにはお爺さんが倒れて亡くなっていました)
(そうか……)
俺も小声でシスルさんに答えた。
こういう配慮も出来る人達なんだな。俺は嬉しくなった。
エルフのイメージはかなり良くなってきた。
なんとなくエルフ以外のモノには興味がないというか、どうでもいいと思われている節がある。
実際その後の雑談でも、なっちゃんの事以外で俺達の話にはならなかった。
食事も各自でとった。
寝室を貸してもらえたので、俺達だけで寝る事ができた。
なっちゃんはかっちゃんに抱き付いて寝ていたね。
かっちゃんはポンポンとなっちゃんの背中を優しく叩き寝かしつけていた。
優しいお母さんみたいだね。
明日は山越えだな。山もエルフの森に入っているようです。
馬も連れていけるとの事で安心です。
どうなります事やら……。