表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/387

70


 雨……朝起きたら雨と風が強かった。


「よし!出発は明日に延期」


「……まぁええんちゃう」


わぅ


「ゴンタちゃん、元気出してー」


 俺はみんなに出発の延期を伝える。

わざわざ雨の中を進む事もないよね?予定は未定で自分達の都合に合わせればいいのだ。

かっちゃんは雨の中の旅も何てことないのか、当たり前なのか仕方ないヤツめという感じだ。

ゴンタは出発を楽しみにしていたようで、がっかりしている。スミマセン。

なっちゃんがゴンタの落ち込みぶりを見て慰めてくれている。


「そ、そうだぁヒミコとランベルトさんに旅に出る事も伝えないと不味いよね!?ちょうどいいねっ」


「それもそうやな。うちらがいない間の店の事も気に掛けてもらっとこうや」


「かっちゃん、ありがとうございます。心強いです」


「うん」


 かっちゃんの言葉を聞いてビアンカとデイジーが嬉しそうな顔でかっちゃんに感謝している。


「隣のおばちゃんも、ちょくちょく見に来るって言ってたよー」


「隣のおばちゃんってフェリーチェさんか。肝っ玉母さんって感じで頼もしいよな」


「確か旦那さんは商家の護衛をしているんやったよな。息子さんたちも」


「そうそう。ありがたいね」


 俺達は朝飯を食べる事にした。

ビアンカ姉妹が住み込むようになってからはビアンカが飯を作ってくれている。

俺は旅用に作っておいたパンを朝飯に出した。

果物から『錬成』で取った酵母を使いパン種を膨らませた柔らかいパンである。

バターも見つけたのだが出来がイマイチだったので使っていない。

適度な大きさで丸めて焼いただけのパンだ。

小麦も悪くない物を使ったので美味しいぞ。

味見した俺が言うのだから間違いない。

それと人参とキャベツの塩スープ、トマトとレタスのサラダが今朝のメニューである。


「「「「「いただきます」」」」」


わう

わふ


 みんなで朝飯を食べる。

かっちゃんはトマトを避けてサラダを取っている。嫌いなんだね?確かに青臭さが気になる人はいるかもしれない。俺は好きだけどね。

なっちゃんは好き嫌いがないね。良い子だ。


「このパン美味しいですっ!」


「美味しいです」


「だろ?俺の自信作だ」


「柔らかいなぁ」


「ふわふわー」


 デイジーから始まって賞賛の声が俺に届く。

いいぞ。もっと褒めてくれていいぞ。

ビアンカに酵母の培養液を魔法の液体と言って紹介し、パン種の作り方を教え、夕飯に焼いてくれと頼んでおいた。

『錬成』で酵母を作ったが普通の作り方も試している。成功したら町の人達に広めてもいいな。更に美味しい物が開発されるかもしれないからな。

『錬成』4の新機能は食材加工にとても役立つ。

発酵食品も食材を悪くすることなく作れるのです。

そして、そしてー!味噌、醤油の作成にも成功しました。まだ味がイマイチなんですけどね……要改良です。

米が欲しい今日この頃です。

御飯に味噌汁……朝飯は、これに焼き魚とほうれん草のお浸しを付けて食べたいものですな。

俺にとってのソウルフードだな。

チーズとバターの自作も考えている。

もっともバターのほうは地道な撹拌が必要なんだろうね。

あと欲しいのは砂糖だな。

砂糖の存在も聞こえて来てはいるのだが、市場で見かけた事がない。

食材店の店員さんに砂糖はないか聞いて見た。彼の答えはお金持ちに買い占められている、だったよ。

コネを作って融通してもらうか、自力で探すかだなぁ。ヒミコの所で砂糖を使っている様子はなかった、宴会しか付き合っていないけどな。

砂糖と言えばサトウキビか、甜菜かね。

大森林辺りなら見つけられそうな気もする。

気温的にはこの辺りにあってもおかしくはない。見つけたら育ててみようかな?夢が広がる。


「トシ、あのトイレなんとかならんのん?」


「ああ、そうだねぇ。今日は時間もできたし大改造するか!」


「頼むでぇ」


 トイレは台所の奥にあった。

ぼっとんである。穴の深さも判らない。

匂いがきついのであった……。

家の人数も増えた事だし日本的なトイレに大改造してやろう。


「このお茶を飲んだらやるね」


「はいな」


 俺は紅茶を飲みながらかっちゃんに答える。

そしてトイレの改造案を考える。

水洗トイレにしても下水道がある町には見えないしなぁ。便器を洗い流すだけでも意味はあるか。

水のマジックアイテムは高いから追加で買うには気が引ける。

風呂に組み込んだ水のマジックアイテムを流用するか。

いっそ家全体の水をカバーさせるべきだな……となると高い位置に水のタンクみたいなのを作るか。

そこから風呂、トイレ、台所へ流そう。

台所の排水はかっちゃんの土の魔法に頑張ってもらう。

火のマジックアイテムも風呂側へ流れる水の所に組み込んでしまおう。

トイレの便器は鉄じゃダメだろうから、石と木の便座にしよう。

なんだか楽しくなってきた。


「お茶も飲んだことだし、家の水関係を良くするぞ!かっちゃんには排水の……」


 俺はみんなに改造案を話して手伝ってもらう。

かっちゃんには排水関係と風呂のお湯を流す方法についてを頼んだ。

なっちゃんはかっちゃんの助手。

ビアンカは台所の配置についてかっちゃんと相談。

ゴンタとミナモ、デイジーは店番だ。

俺は居間でトイレの作成と配管を作る。

大雑把な図面も書いた。

みんなで何かをすると言うのは楽しいものだ。

学校に行っていた頃の体育祭や文化祭を思い出すね。

なっちゃんも楽しそうに騒いでいる。

色々な経験を積んでいこうな、なっちゃん。


 昼飯を挟んで、おやつの時間前には完成しましたよ!


「これはええな。トイレの匂いが消えとる」


「芳香剤や花なんかで、更に良くしたいね」


「なんだかずっと座っていても良いくらいです」


 デイジーが便座に座って嬉しそうに言う。いやそれはどうだろう?


「台所でこんなに水を使えるなんてすごいです!ここをクイッと捻るだけで水が勝手にでてくるなんて夢のようです!」


 ビアンカがシンクに備え付けた蛇口から出る水を見て、興奮している。

ノブを動かすと水が出るような機構にしたのです。

ここが一番頭を使ったし苦労しました。水漏れがしないようにするのが難しかったです。

日本での知識を動員して作成しましたとも。

パッキンみたいなのがあれば良かったんだけどねぇ。

『錬成』で作ったので普通の人には作れないだろう。一品物だ。

苦労したと言えば水のタンクも厄介だった。自動的に水をためておく仕組みが厄介でした。日本のトイレのように浮きで水量によって貯めるようにした。水が満杯の時は魔石が水の精霊石へ魔力を流さないようにするのが大変でした。なんとか浮きと魔石を連動させることに成功して仕組みが完成しました。

みんな出来た物を楽しそうに試している。


 興奮が収まった頃に、おやつを食べた。みんな大好き蜂蜜パンである。

デイジーなんかは最初遠慮していた。そんな高い物をいただくなんてーとね。

なっちゃんが美味しいよ?とグイグイ押していったので、最後は嬉しそうに食べていたけどね。


「俺はヒミコ様に旅に出る事を伝えてくるよ。かっちゃんはランベルトさんの所をお願い」


「はいな。なっちゃんはどうする?」


「うぅー。トシちゃんと孤児院へ行くー」


「あんまり遊べんで?」


「いいのー」


 荒っぽい男達の多い冒険者ギルドより、仲の良い子供達を取るよね。


「ゴンタとミナモも行くかい?」


わう

わふ


 ヒミコはゴンタ好きだしな。連れて行ってやろう。


「ビアンカとデイジーは店番をよろしく」


「はい、トシさん」


「いってっしゃい」


 俺達はビアンカ姉妹に店番を頼み、それぞれ行動を開始した。

まだ雨が降っているので、木の傘を作ってかっちゃんにも渡した。

なっちゃんは傘を楽しそうにグルグルと回転させては水を周りに飛ばしている。

あの……俺に水滴が直撃ですよ?

なっちゃんに傘を回転させるのは止めさせました。

ゴンタとミナモは雨なんて何のそのです。


「「こんにちは」」


「はい、こんにちは」


「ヒミコ様はいらっしゃいますか?」


「おりますよ。少々お待ちください」


 教会に入る前にゴンタとミナモをタオルで拭いてやった。

その前にブルブルされて、またも俺に水滴が直撃でしたがね。

傘は折りたためないので外の木の枝に引っ掛けておきました。無くなっても別に構わない。

教会のおばさんシスターに挨拶をして、ヒミコがいるか聞いた。

良かった来ているようだ。


「こちらへどうぞ」


 直ぐに戻ってきたシスターに案内されて司教部屋へ入った。

シスターはヒミコに報告した後戻っていった。


「こんにちは、ヒミコ様、ヤマ様」


「こんにちはー」


わう


「はい。こんにちは」


「こんにちは」


 俺達は挨拶してから椅子に座った。


「今日はどうしたのです?」


「店が落ち着き、ビアンカとデイジーも良くやってくれているので、そろそろエルフ領へ行こうかと思います。その報告に来ました」


「あらあら、そうでしたの。ビアンカ姉妹も頑張っているようですわね」


「はい。助かっています。俺達が旅に出ている間にビアンカ達を気に掛けてやって欲しいとのお願いにも来ました」


「もちろんですわ。任せてください」


 ヒミコは右手で心臓の辺りを抑えて言う。結構大きいモノが形を変える……いいなぁ。


「あ、これお土産です」


 塩をヒミコに渡す。塩は10kgの箱入りです。


「ありがとうございます。消耗品ですので助かります」


 なっちゃんがクイクイと俺の袖を引っ張る。


「どうした?なっちゃん」


「みんなの所へ行きたいのー」


 ああ、この場合のみんなは孤児院の子供だね。


「行ってもいいよ」


「はーい」


 なっちゃんはヒミコとヤマに一礼して部屋を出ていった。


「なっちゃんも旅に同行するのですか?」


「はい」


「大丈夫でしょうか?」


 ヒミコは出ていったなっちゃんの方を見て心配そうに言う。


「魔力感知できる方には判るらしいのですが、なっちゃんはエルフなんですよ」


「エルフ!」


「そうだったんですか!?」


 ヒミコとヤマが驚きの声を上げた。


「はい。なっちゃんはチェンジリングで替えられた子供のようでして、俺達が旅の道中で会ったんですよ」


「まぁ、そうでしたの。エルフが森から出るなんて珍しいと思いましたの」


「ではエルフ領へ行くのは……」


「なっちゃんはエルフと共に暮らすのが一番の幸せに繋がると思いまして」


「そうですわね」


「ですわ」


「なっちゃんにその事を伝えました。意味は解ってもらえたと思います。ですが俺達と一緒にいる事をなっちゃんは選びました」


「まぁ……」


「……」


 俺達となっちゃんが共に生きるという意味を知っているであろう、黙り込む二人。


「塩は台所に運びましょうか?」


「大丈夫ですわ」


 そう言ってヤマが塩10kg入りの箱を軽々と持ち上げた。

えぇぇぇっ!顔だちは普通の娘さんだが、物腰や話し方からお姫様っぽいと思っていたのに!


「私達は鬼の末裔ですよ?特殊能力の他に力持ちでもありますの」


「このくらいの箱であれば、軽いモノですよ」


 俺が驚いた顔をしていたからであろう、からかう様に言うヒミコとヤマ。

確かに気配は強いし、生命力にも溢れている。

そうか……鬼だったね。

ついイメージが先行してしまっていたよ。


「そういえば鬼でしたね」


「ええ。鬼の一族はみんな力持ちですのよ」


「特に女性のほうが力が強いんですの」


「ほほー」


「ですから諜報部隊や裏の守護者として国を守っております」


「そうでしたか」


 そうだったのか。イチルア王国がその気になれば危うそうな国だとは思っていた。

隣国はイチルア王国とエルフ領しかないからな。

エルフには協力を仰げないようだし、そこに不安はあった。

鬼の一族が守護する国だったのか。

ただの象徴としてのヒミコだとばかり思っていたよ。

鬼の一族がどの程度いるのかは判らないが、少し安心した。


 その後は雑談をしたり、ゴンタとの交流会をしてから家に帰った。


「でな、ランベルトさんが言うには、うちらが経由してドワーフ領に向かう途中にあるフリナス王国の港町が《闘族》に襲われて半壊したらしいんよ」


 家でビアンカの作ったパンとスープ、焼肉を食べながら今日の会談の報告をしていた。パンは美味しく出来ている。

かっちゃんからの報告は危ない話であった。


「また《闘族》かぁ……」


 俺は嫌な予感しかしなかった。


「そいつらは襲った後に船で国外へ出たっぽいんよ」


「騎士団でも追いきれなさそうね」


「フリナス王国が国境に関係なく動ける冒険者を雇ったそうやで」


「ほほー、そんな厄介そうな仕事を受ける人もいるんだねぇ」


 俺だったらゴメンだね。


「ランク0の兄弟が引き受けたそうや」


「ランク0!!」


「アドルフとアンドレと言えば有名な兄弟やで。それぞれ《日輪》《月光》っちゅう協力な仲間のいるパーティを率いてるんや」


「なんだか話だけでもすごそうね」


「あの兄弟とパーティ達で国相手にだって戦えるやろなぁ……」


「化け物だな」


「噂の《闘族》は謎が多いけど、さすがにあの兄弟には勝てんやろ」


 俺達は明日からの旅の予想や修正を詰めていった。

楽しみと不安が混じった複雑な気分である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ