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家族

68


 ヒミコから教団所有の家を譲ってもらってから十日が過ぎた。

そして現在はと言うと……。


「トシさん!アイスキャンディーを売って欲しいとお客様がー」


「トシ、塩の配達注文や!」


「トシちゃーん……」


 俺達の店『ソルティードッグ』が開店し、今日も昼には忙しくなっていた。

店の表に付けた看板にはゴンタが描かれている。

店で扱っている商品は、塩、豆腐、酒、食器である。

アイスキャンディーは、かっちゃんと旅に出たら販売できなくなるので止める事になった。

しかし居間でアイスキャンディーを食べているのをお客さんに見られてしまい、存在が知られてしまっている……。

まだ暑い日が続いているので、たまに欲しいと言うお客さんもいるのだ。


 ちなみに、さっきアイスキャンディーについて俺に言ってきた人物は、ヒミコから紹介されてきた店員である。

犬の獣人の女の子で17歳です。そして妹さんも働いている、たしか13歳だ。

人間と違う所は犬耳と尻尾がある事と、腕や首など一部が毛に覆われているくらいですね。

とても可愛らしいです。

他の候補の方もいたのですが、彼女達に決めました。

べ、別に犬耳と尻尾がイイとか思ったわけではありませんよ?本当ですよ?

初対面の時にゴンタを見て、ゴンタ様と言い土下座して来てゴンタを崇拝しだしたのが決定の理由です。

犬関係にしか解らない何かがあるのだろう。裏切らなそうだよね?

これなら俺達がいない時でも、店を任せられそうだと思ったのである。

姉はビアンカと言い、薄い茶色の髪を短めにしている。背は170cmくらいかね。スタイルも良い。文字の読み書きと計算も出来る。

妹の方はデイジーと言い、ビアンカより少しだけ濃い茶色の髪をポニーテイルにしている。活発な印象だ。背は160cmくらいかな。文字と計算は勉強中である。

彼女達は孤児院出身とも聞いている。

彼女達は住み込みとして働いてもらっている。物置にしようとしていた二階の部屋を使っています。ちゃんと掃除もしておきました。

彼女達姉妹は風呂にも驚いていたね。広くはないが自慢の風呂である。

既に、かっちゃんとなっちゃんとは仲良しになっている姉妹だ。

俺?俺はそこそこ仲良しだよ。一応仕事を教える立場なので厳しくしている面もあるからなぁ。


 開店初日に塩入れに塩を詰めて飲食店を回って配って歩いた。

配って歩いたのは、俺となっちゃん、ビアンカ姉妹である。かっちゃんには店長代理として店に残ってもらった。

店の宣伝してまわった訳ではないからヒミコ達くらいしか来ないだろうしね。

飲食店に塩入れと塩を配って使ってもらった甲斐もあって、少しづつお客さんが買ってくれるようになったのが一昨日くらいからである。

他の店で売っている塩には砂が混じっていたりする事もあるようで、品質が良いし味も悪くないと言ってくれるお客さんもいた。

木製の塩保管箱だけ売ってくれと言うお客さんもいたね。

塩の配達も配達料を払ってもらえればする事にした。塩一箱に付き銀貨一枚です。

来店していただければ一般家庭のお客さんにも塩は売ります。

升を用意してお客様に直接塩を掬って買っていってもらいます。

山盛りに塩を掬っても1kgを少し超える程度の升ですが、自分で掬えるので満足していただけるようです。これが銀貨二枚ですね。


 豆富は何度か失敗しながらも店に出せる出来栄えには仕上がったと思います。

葱を切って豆富に乗せて魚醤を掛けて試食しました。

素人が作った物でも美味しかったです。

オリーブオイルを掛けたりも悪くなかったです。

グチャッと潰してサラダに乗せても美味しいですね。

こちらの世界の人には馴染みがないようで、売れ行きはイマイチです。

最悪でも俺達で処理できる量しか作ってないのも売れていない理由かもしれません。馬も普通に食べてくれました。

店にカウンターを作ってあり立ち呑みが出来ます。

酒のつまみとして豆富を出します。

たまに飲食店の料理人が酒に釣られて豆富を食べて気に行ってくれたりもします。

少しづつ豆腐が浸透していってくれると嬉しいね。

作り方は俺達とビアンカ姉妹に教えました。

一応作成方法は秘密にしてあります。


 酒はエールと赤白ワイン、そしてそれらから抽出した蒸留酒もあります。

蒸留酒自体は売っていませんが、店名になっている『ソルティードッグ』を出すためだけに作りました。

カップに蒸留酒を注ぎカップの縁に塩を塗し、レモン果汁を絞った、ナンチャッテソルティードッグですけどね。

これは立ち呑みにくる料理人たちの間で人気商品です。

塩は買わなくともこれを飲んでいく人は珍しくありません。

かっちゃんの好きな酒にもなっています。

果汁をたっぷりにしていましたけどね。


 最後の商品である食器は木製が多いです。

元手はタダですからね。安くしてあります。

できれば長く使ってもらえるように漆塗りにでもしたかったのですが……漆自体は森で発見しました。

漆を抽出した時に問題が発生しました。

俺が抽出時に直接触れる事になりかぶれてしまったのです。

毎回だとシャレになりません……結果、漆を諦めました。

木製食器は安いのでそれなりに売れます。


 このまま行けば月に金貨二十枚くらいの売り上げが期待できます。

金貨一枚あれば一般家庭四人の食費が賄えるそうです。

そう考えると結構な儲けです。

ビアンカ姉妹の給料は月給制にしたあり、ビアンカは月に金貨二枚、デイジーは金貨一枚で契約しています。

ヒミコに契約書の見本を見せてもらって契約書を作りました。

商業ギルドもありますが、バッキンで店を出すのには商業ギルドの加入は絶対ではないと聞き、かっちゃんと相談した結果、商業ギルドには入らない事にしました。

入るメリットは仕入れや販路の紹介、契約魔法の使用、コネができるなどでした。

俺達にとってメリットはあまり感じなかったので止めました。契約魔法には興味がありましたけどね。

商売は、ほどほどで良いのです。


 ヒミコからゴーレム退治の報酬も貰いましたよ。

天光貨で百十枚分の金貨があったそうで、俺達には一割の天光貨十一枚の報酬であった。大金ですよ。

鉄のゴーレムは例の地下部屋からこつこつとマジックバッグで家に運び入れて、既に庭に埋めてある。

家の金額を天引きという話であったが、鉄で欲しいとヒミコから要望があり鉄で白金貨六枚分支払った。鉄のゴーレム一体近くの鉄であったが問題はない。

マジックアイテムは武器がほとんどで、俺達に使える物は剣くらいでしたね。

それはオルガ達が使いたいというので、マジックアイテムを手に入れる事はありませんでした。


 ゴンタとミナモは外へ遊びに行くとき以外は店でマスコット的な活躍をしてもらっています。

人気者ですよ。

女性や子供達が買い物でなくとも集まってきます。

傍から見たら店が繁盛しているように見えたでしょう。

実際はそれほどでもありません。

デイジーの友達という孤児院の子供達も来ています。

その子達にアイスキャンディーを配ったりもしました。

大変喜ばれましたね。

ビアンカにアイスキャンディーを売り物にしましょうとも言われた。

俺は考えておくとは言ったが、かっちゃんがいない間にアイスキャンディー目当てのお客が来たら申し訳ない。

こればっかりは在庫を作るわけにもいかないし仕方あるまい。


 俺がいない間に商売が出来るように、居間に地下室を作ってもらった、倉庫である。もちろん、かっちゃんが大活躍である。

土台の石の下は土だったので、それほど手間は掛りませんでした。土の硬質化魔法で補強もしてもらいました。

しかし地下の部屋へは梯子で行き来するのでエレベーター的な仕掛けも作りました。

下の部屋で荷物を台に乗せ、上の居間でロープによって巻き上げていく機構です。

割と力がいるのですが、ビアンカは獣人の力があり問題なさそうでした。

彼女はヒミコの元で護身術らしきものの指導も受けており、冒険者でいえばランク5くらいの実力は有りそうに見えた。


 今日も慌ただしい一日であった。


「なっちゃん、お話があります」


 仕事を終えてビアンカに作ってもらった夕飯を食べ風呂に入った後で、俺はかっちゃんやゴンタ、ミナモを含めなっちゃんに話しかけた。

ビアンカの料理は美味しかったです。

作ってくれた料理は牛乳の雑穀雑炊といったところですね。あとは焼肉でした。

家庭料理としては十分な美味しさでした。


「なぁに?」


 なっちゃんは金髪をタオルもどきで拭きながら首を傾げて聞いてきます。

かっちゃんには今回の話について相談してあったので、黙って聞いていてくれる。


「なっちゃんの将来についてです」


「将来?」


「なっちゃんはエルフ族です。エルフ族は魔力が高く長生きする人達です」


「うん」


「魔物や、怪我、病気にさえならなければ俺達より長生きするのは間違いありません」


「……」


「俺達が居なくなったら、なっちゃんは寂しい思いをしてしまうでしょう。だからなっちゃんはエルフ領へ行ってエルフ達の仲間になるのが良いと思うのです」


「やだー!トシちゃん、かっちゃん、ゴンタちゃん、ミナモとずっと一緒にいるのー!」


 なっちゃんはイヤイヤと首を振りながら必死で言います。


「俺達はなっちゃんが大好きだ。でも長生きはできないんだ。エルフになる事もできない」


「うぅ……」


 なっちゃんは涙目になっている。俺は心を鬼にして話を続ける。


「ケットシーのかっちゃんも人よりは長生きできるけど、エルフほどではないんだ」


「そんな先の事はいいの!みんなと一緒にいたい!」


「それで最後に一人ぼっちになってしまうかもやで?」


「いいの!それでもいいのっ!」


 かっちゃんはそれを聞いた後で、なっちゃんが座っているベッドに登って、なっちゃんの頭を優しく撫でた。

なっちゃんは涙目で黙り込み、かっちゃんにギュッとしがみついている。

かっちゃんは俺の方を見て黙って頷いた。

なっちゃんの意見を受け入れるというのか、かっちゃん……。


 俺はしばらく黙って考え込んだ後、かっちゃんに頷いて見せた。

先の事は先に任せるかね……。

なるようになるだろう。


「なっちゃんの願いは解ったで。一緒に居ような?」


「うんっ!一緒にいるー」


わう

わふ


 なっちゃんは笑顔になり、かっちゃんを抱きしめている。

かっちゃんはお母さんみたいだね。

小さいけどさ。

ずっと黙っていたゴンタとミナモも一声吠えた。

祝福だろうか。


 寝るまでにも話をして、なっちゃんがエルフ領へ住まないにしても一度行ってエルフ達に会ってみようと決めた。


 なっちゃんは寝る時も、かっちゃんから離れなかった。

そして夜は更けていった……。


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