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遠足

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 夜の間に雨が降っていたようです。中央通りの道に小さな水溜りが出来ていました。

快晴とはいきませんでしたが、今は雨が降っていないので良しとしましょう。

これからユリさんの家に行ってグローリアを遠乗りに誘うのです。

かっちゃんと、なっちゃん、ミナモがユリさんの家へ向かいます。

俺とゴンタは食材と、おやつの買い出しです。


 食料店の中を見て回ります。ゴンタは表で欠伸をしています。

肉はジャーキーがまだあるので必要ありません。野菜を買います。

トマト、キャベツ、ジャガイモと日本の物とは大きさが微妙に違いますが見た目は同じに見えます。

これを買ってトマトスープを作るかな。

お菓子は選択肢がありません。バッキンでは蜂蜜関係のお菓子以外見ていません。

蜂蜜パンと葡萄を買いました。


「ゴンタ行こう」


わう


 宿へ行き馬達も連れ出します。

馬達がブルブルゥと何か言っていますが俺には解りません。外に行けて嬉しいみたいな感じだろうかね。

待ち合わせは冒険者ギルドの修練場前です。

ユリさんからグローリアの外出にお許しが出ているといいのですが。

ギルドからはクエストを受けた冒険者達が出てきて門から出て行っています。

薬草採取とかかな?護衛とかではなさそう。


「……錬成か」


 六人で門へ向かった冒険者の内の一人がボソリと呟きました……。低い男の声だ。

ギョッとした俺は慌てて彼らを見ます。

絶対に俺の事だ。

誰が呟いたかは判りませんが、風体を覚えておきます。

ダンテ達くらいの大男が一人、盾を持っているから戦士だろう。

金髪を逆立てて回りを刈り上げているパイナップル男、剣が見えるから剣士か。

とんがり帽子を被ったローブの人、たぶん女かな。

ウサ耳をした獣人の女……体もデコボコしている。いいデコボコだがそれどころではない。そして弓を持っている。

猫かな?猫獣人は背が小さい。子供だろうか。

そして普通のお爺さん……白髪とチラッと見えたが白い顎鬚を長くしていた。貫頭衣、チュニックと言うのだろうか?を着て手ぶらだ。

彼らは俺に後姿を晒しながら門を出ていった。


 俺に向かって呟いたのだろうが、何もしてこなかった。不気味だ。

人物鑑定とかのスキルとかギフトだろう。

商人が物品鑑定スキルを持っていることは珍しくないと聞いている。

人物鑑定スキル持ちの人が国に雇われているとも聞いている。ギルドなどにもいるそうだ。

しかし実際に俺が持っているギフトについて言われたのは初めてだ。

ドキドキが止まらない。

俺の秘密を暴かれたようで落ち着かない。

うぅ……かっちゃんに報告して、相談したいぞ。早く戻ってきてー。

俺はソワソワ落ち着きなく、かっちゃん達の戻りを待った。


わう


わふ


「ぐっちゃんを誘ってきたでー」


「おまたせー」


「おはよーございます」


 ミナモがゴンタに駆け寄り、カッチャン達も来た。

グローリアはなっちゃんに手を引かれてニコニコしながら朝の挨拶をしてくれた。


「グローリア、おはよう」


 俺はかっちゃんに早く報告したい気持ちを抑えて、挨拶してきてくれたグローリアに返事をする。


「お父さんが行ってもいいって言ったの」


「そうか。良かった。雨も止んでいるし馬に乗って行こうな」


「うん!楽しみなの」


「いこー」


 俺達は門を通り抜け、馬に乗る。

バクシンオーにかっちゃん、グローリア、なっちゃんの順で乗った。

バクシンオーなら大人が三人でも走れるだろう。まして小さい二人がいるから問題はない。

俺はカエデに乗る。

ゴンタとミナモが先導して街道を進む。

行く先は東の平原と森、山の近くまで行くつもりだ。


「かっちゃん、さっき冒険者ギルド前で変な冒険者達に遭遇したよ」


「ほうほう。どの辺が変なん?」


「俺を見てだと思うけど、『……錬成か』って呟かれた」


「ギフトの事を言ってきよったんか!相手もギフト持ちやな」


「ふむ。やっぱりそうだよね。でもギフトで決定なの?」


「人物鑑定スキルでは名前と職業までしか判らへん。相手のギフトを見抜くとなるとギフトで間違いないで」


「ぬう。その後は俺には絡んでこなかったんだよね……あいつらは、そのまま門を出ていったよ。」


「意味不明やな。不気味やのぅ」


「だろ?俺もそれから落ち着かなくってさ、かっちゃんが戻ってくるのを待ってたよ」


「解らんでもない。どんなやつらやったん?」


 俺は六人組の特徴をかっちゃんに伝えた。


「んー、知らんなぁ。まぁ何ともならんから構わんとき」


「解った」


 カッポカッポと馬を歩かせながら、俺とかっちゃんは話をした。

何にも解決していないけど、かっちゃんに話したら落ち着いた。

人に話すだけでも楽になるもんだね。

なっちゃんと、グローリアは楽しそうに馬に揺られている。

最初はキャーキャー言ってたが、今は話す余裕もあるようだ。


「もっと速く走ってー」


「きゃー」


「よっしゃ。バクちゃん走ったれー」


 かっちゃんがバクシンオーの速度を上げた。

俺もカエデの速度を上げた。

時々、水溜りの水を跳ね上げて進む馬達。

彼らも嬉々として駆けている。

カエデから、もっと走りたいって気持ちが伝わってきている。気のせいではないと思う。

彼らは休憩しなかったので、平原まで行くのに昼まで掛らなかった。

思った以上に早く着いてしまった。

森の方へ向かう。

大きな木の下へ、簡素な椅子と机を錬成して置いた。

石を集めて簡単な竈も作った。

ゴンタ達や馬達、人用に水も出した。


 馬達が水を飲んだ後で馬達を離してやった。

彼らは平原を駆けては草を食べている。

ゴンタとミナモは森へ入っていった。

楽しそうでなにより。


 俺達人組は椅子に座り休憩だ。


「お尻がいたいの……」


「途中で私が抱き上げたんだよー」


「うん、なっちゃんのおかげで楽になったのー」


 それを聞いた俺はグローリアの椅子にタオルもどきを重ねて敷いてやった。

俺も最初は尻が痛かったもんな、割れるかとすら思ったぜ。

誰もが通る道なんだな。

俺はウンウン頷いていた。


「バクちゃん達も楽しそうに走ってたねー」


「うん。速かったの」


「あんなに嬉しそうにされると、また旅に出ないとって思っちゃうな」


「そうやな。あの子らは走るの大好きやからね」


「ゴンタちゃん達も町ではつまらなそうだったねー」


「そうだね。ゴンタ達も外で動いているのが好きだからな」


「早く町でもお仕事を終わらせてあげよー」


「なっちゃんは、ええ子やな」


「えへへー」


「わたしはー?」


「うん。グローリアも良い子だ」


「えへへ」


 俺達は楽しく話をしながら休憩した。

森から吹き抜けてくる風が心地よい。

日は高くなっているが、木陰なので丁度いいくらいだ。

葡萄も木の器に出した。

みんなで軽くつまむ。

甘味が足りないけど、葡萄の風味と水分が美味しい。


「よし昼飯のスープを作るぞ。トマトスープ……かっちゃんのためにトマトは最後に入れるか」


「はいな」


「私も手伝うー」


「わたしもー」


 小さな机も用意してやり、小さい包丁も錬成した。

なっちゃんと、グローリアにはキャベツをザク切りにしてもらう。大雑把でいいのだ。

包丁の持ち方から、危なくない切り方までを教えた。猫の手ですよ。

トマトの湯剥きは俺がやった。ジャガイモも剥き茹でる。

鍋に水を入れ直して沸かす。ジャーキーとキャベツを煮て塩コショウで味付けをする。味見はなっちゃんとグローリアだ。

味が整ったのでジャガイモを投入し軽く煮る。オリーブオイルもちょっとだけ入れた。

トマトを入れる前に、かっちゃんの分は皿に取り分けておく。

トマトを潰して鍋に入れるのはなっちゃん達に任せた。楽しそうに潰して入れている。

お玉で更にトマトを潰して煮る。

三人で味見をした。こんなもんでいいかな。

俺達三人の分も皿に盛った。


「「「いただきます」」」


「いただきます?」


 俺達のマネをしてグローリアも言う。


「美味しい!」


「おいしいねぇ」


「中々のモンや」


「うん。上出来だろう」


 美味しく出来ている。プロではないからこれくらいでいいのだ。

なっちゃんもグローリアも自分が手伝ったので尚更美味しく感じているのだろうか、喜んでいる。

蜂蜜パンも出した。

昼飯兼おやつである。

やはり、子供たちには受けが良い。

かっちゃんも喜んでいる。

甘い物としょっぱい物で交互に食べ進めた。


 昼飯を食べたら、グローリアが欠伸をしたので、昼寝用に簡単な寝台を作ってやり寝かせた。

木の台に毛皮を敷き、大き目のタオルもどきを掛けてやった。

横でなっちゃんもお休みである。微笑ましい光景だ。


「バッキンでの調べものが終わったら世界樹へ向かおうね」


「そうやな」


「歴史関係は二日くらいで終わると思う」


「魔法関係は一日くらいで終わりそうや」


「そっか」


「召喚も転移もギフト魔法でしか使えそうにないで」


「むう。通常の精霊魔法じゃ無理かぁ」


「無理っぽいねぇ」


「そういや魔法はイメージを精霊に伝えて使うんだよね?」


「そうやで」


「かっちゃんは水の魔法が使えるんだから、氷の魔法もイケルんじゃない?」


「あれはギフト魔法やろー」


「えっと、水が凍ったら氷になるよね?」


「当然や」


「なら出来るんじゃない?」


「水が氷になるのを観察して試した事があるけど出来んかったんよ。他のモンも出来たっちゅう話は聞かんなぁ」


「えっとね、氷っていうのは水の分子が……」


 俺はかっちゃんに物理や化学の話をした。。

なっちゃん達が寝ている間に俺がかっちゃんの先生になり授業をした。

始めは何を言ってるんだコイツみたいな表情をしていたかっちゃんであったが、段々と真剣な表情に変わっていった。

かっちゃんは地球の知識を興奮して聞いていた。質問もバンバン飛んできた。

実例を挙げたり、実践してみたりしながら授業を進めた。

俺も昔の記憶なので適当な話になっていまったのは勘弁してほしい


「よっしゃ!試してみるで!」


 猫の顔でも興奮して紅潮して赤い顔ってのは判るものだね。


「魔法は任せた」


 かっちゃんは氷の魔法を試している。

俺には魔力がなく魔法は使えないからなぁ……いいなぁ。

かっちゃんは手の平を上に向けて水の球を作っている。

氷の球にする気だな。

水を具現化するだけなら詠唱はいらないっぽい。

何も言葉にしていなかった。


「出来たで!!」


 かっちゃんは何度かの失敗の後にそう叫んだ。

確かに固形になっている。

氷の球を触らせてもらう。

冷たかった。成功だね。


「ちゃんと氷が出来てるよ!」


「やろ?これはすごい事やで!」


 かっちゃんの興奮はとどまる所を知らない。

それからは俺の言葉も耳に入っていないようだった。

延々と魔法を試している。


「水の精霊よ我が敵に氷の槍を与えたまえ!アイスランス!」


 あいかわらず異世界言語補正は解らない……。まぁいいや。

かっちゃんから平原に向けて氷の槍が飛んでいった。

水の魔法は攻撃力をしてはイマイチだったが、これは効きそうだ。

かっちゃんはそれからも、実験を重ねた。


 なっちゃんとグローリアが起きた頃には辺りは氷のオブジェで溢れていた。

かっちゃんの魔力も尽きる事はなかった。

ケットシーでこれなら、エルフはどんだけって話だよな。

氷の壁だらけで迷路のようだ。

なっちゃんとグローリアは喜んでいる。

氷に触ったり、氷を通して相手を見ては歓声を挙げている。

かっちゃんも満足したようで椅子に座ってなっちゃん達を見ている。


「満足した?」


「もちろんやで!大発見や。魔法の常識が変わったで!」


「お、おう」


 俺はかっちゃんの様子に若干引き気味である。


「今日はこの辺で勘弁したらぁ」


「どこの喜劇だよ……」


「土についても、詳しく教えてもらうで?」


「あいよ」


 かっちゃんに土についても授業する約束になった。

かっちゃんには恩があるから、協力するとも。

そんな話をしているとゴンタとミナモが帰って来た。


「楽しかったかい?」


わうー

わふ


 ゴンタは楽しかったーと言っているようだ。喜んでもらえて俺も嬉しいよ。

ゴンタとミナモに馬達を迎えにいってもらい帰り支度をする。

作った机と椅子などは板にしてマジックバッグへ入れた。また出番もあるだろう。

ゴンタ達が馬達を連れ帰ってくれたので町へ帰還する。

馬の上でなっちゃんがかっちゃんに、あの氷はどうしたのか聞いている。

かっちゃんは魔法で作ったと正直に答えていた。

なっちゃんも作りたいと、かっちゃんにお願いしている。

かっちゃんは自分の実験をしたいのか渋っていたが、なっちゃんの様子だと教える事になるだろう。

かっちゃんもなっちゃんには甘いからね。


 俺達一行は日が落ちる前にバッキンの町へ入ることが出来た。

グローリアをユリさんの家に無事送れた。


 夕飯を宿で食べた後も、かっちゃんは魔法に取り掛かっていた。

さすがに部屋を氷でいっぱいにはしなかったね。

好奇心旺盛なケットシーさんは寝るのも渋っていたが、なんとか寝かせた。


 明日からも大変そうである。


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