土産
61
「気を付けて戻れよ」
「ああ、この面子だ。対処できない事なんてそうそうないさ」
俺が声を掛けるとヨゼフが自信ありげに言う。
昼飯の時間は過ぎている。そして冒険者ギルド修練場入口前に馬車が並んでいる。
馬車には荷物を積み込む《殲滅の剣》のメンバーの他にネッロさん、パオロ、レナートさん、追加の護衛らしき冒険者達が10名ほどいた。商人たちもいる。ラマへ戻るついでに護衛の仕事も入れたのか逞しいね。
確かに危なげない。
「これお土産ー」
「「なっちゃん、ありがとう」」
俺達を代表して、なっちゃんがダンテとフリオにお土産として、タオルもどきとジャーキーが入った皮袋を差し出している。
ダンテとフリオは嬉しそうに受け取っている。
なっちゃんの横でグローリアもお土産を渡している。パンのようだ。
グローリアの後ろでニコニコしているユリさんの姿も見える。
「トシ達もラマに来れるようにしたいものね」
カミッラが気合の入った顔で言う。
「そうだなぁ。いつか行けたらよいね」
俺は宴会に誘われて、行けたら行くみたいな返事をした。
ラマには復讐に行くくらいしか予定はないのだ。それも予定は未定だ。
「トシ、ギガントセンチピードの報奨金を貰ってきたで」
かっちゃんが冒険者ギルドから出てきてそう言う。
かっちゃんに代表して処理してもらったのだ。
「まだ手続きしてなかったのねぇ」
「ちょっとあってね」
ヒミコの件があったから報奨金のほうは後回しにしていたのだ。
(うちらみんなの分合わせて白金貨6枚もろたで)
(おー)
(本当はもっと高額なんやけど、被害の補填に回したいから我慢してくれやと)
(仕方ないね)
(やな)
かっちゃんが俺に金額をこっそり教えてくれる。
死者も出たし農地もボロボロだ。
俺達は大怪我もなく生きているしな。それくらいはいいさ。
ラマへの出発の準備が終わったようだ。
「じゃあな。トシ」
「ああ、またな。ヨゼフ」
ヨゼフが俺に言って御者台に座って馬を出した。
「またねー」
「気ぃつけてな」
わう
わふ
「ばいばーい」
「ありがとう。気を付けて」
進む馬車に手を振り声を掛ける俺達見送り組。
馬車の荷台から手を振り返すダンテ達。
フリストも手を振っている。グローリアがいるからね……。
彼らの馬車は門を抜けて街道を進んでいった。
今日も暑いね。雲がなんとなく近い。青空に雲、とても夏っぽい。
「さてと。俺達は図書館で調べものをしますか」
「はいな」
「なっちゃんも文字の勉強をするのー」
「なっちゃん、すごいの」
グローリアが文字の勉強に喰いついた。
まだ四歳のはずだ。文字は読めないだろう。
「ぐっちゃんも文字の勉強をする?」
「するー」
なっちゃんの誘いに乗るグローリア。とても嬉しそうに見える。
後ろで困った顔をしているユリさん。
「グローリアを、お預かりしますね」
「トシさん、すみません」
「いいんですよ。あんなに嬉しそうな顔をされてはねぇ」
「そうやで。うちが教えたる。任せとき」
「かっちゃん、お願いします」
ユリさんが俺達に礼を言う。そしてグローリアにかっちゃんの言うことを聞くように言い含めている。
俺達はユリさんと別れて図書館に向かった。
途中でおやつ用に蜂蜜飴を買った。なっちゃん達が飽きて騒いだ時の対策でもある。
図書館の入口にあるカウンターでお金を払い中へ入る。
グローリアはタダでいいと言ってくれた、おばさんに感謝です。
俺達以外に図書館の利用者はいなかったが念のため二階のテーブルまで来た。
かっちゃんは教材になりそうな絵本を選び、リュックから紙を出している。
筆は炭を木の棒で挟んだ物だ。
何度か旅の途中でかっちゃんはなっちゃんに文字を教えていた。
地面に木の棒で文字を書かせていたりもした。
今回は清書するようだ。
まずは絵本を一緒に見ながら読み進めていくつもりらしい。
なっちゃんと、グローリアはかっちゃんにお任せだ。
木のカップと水も人数分出して置く。食べるのは特定の場所以外ダメだが飲物は良いらしい。
俺は一階へ歴史の本を取りに行く。
五冊選んで二階へ戻る。一冊一冊は大したページ数でもない。
俺は楽しそうにしているなっちゃんとグローリアの横で本を読む。
バッキン教国は、司教であるヒミコは政治に関わらないらしい。
イチルア王国の一貴族であった人物が国の代表になっている。
その末裔が現在も代表者らしい。市長と言う役職のようで、王とは名乗っていない。
バッキン教と呼ばれる宗教は、人の嫌がることはしない、やられたらやり返す、治療と薬の研究に力を入れている。
特色は以上の三つのようだ。解りやすくていい。
孤児院などは薬の売り上げや、治療院の報酬で賄われているとの事。
寄付もあるようだが、教会などで大々的には集めていないようだ。
割と健全そうである。
つい胡散臭そうに思っていたよ。
ヒミコに直接会えたのも大きい。
大物だから狙われる事もあるだろう。
だから城の敷地内に住んでいるのかな。護衛も必要なんだろう。
オルガもマリアも中々の気配をしていた。強度だけならランク3くらいはありそうだ。
装備していた武器も長物で場所次第ではあるが有利に戦えるだろう。
五冊を読み終わった頃には、グローリアは静かになっていた。
なっちゃんは頑張って書き取りの練習をしていた。
かっちゃんは指を口に当てて俺に向かってグローリアを起こすなと伝えて来た。
俺は音をたてないように立ち上がり、背伸びをする。
バキッっと背骨辺りから音がした。
本に集中しすぎて体が固くなっていた。
軽く体を解した後で、俺も書き取りを始めた。
異世界補正もあるだろうが、既に文字が読めるので書くのも難しくはないかも。
かっちゃん先生に教えてもらいながら書き進めた。
そしてかっちゃんの手元に本があった。
かっちゃんもなっちゃん達が書き取りに入ってからは魔法関係の本を読んでいたらしい。
書き取りは夕飯の時間くらいまで続けた。
眠るグローリアをおんぶしてユリさんの家まで送った。
ユリさんは家にいたので、寝たままのグローリアを引き渡した。
静かに挨拶をして、ユリさんの家を出た。
「ここから魚のいい匂いがするでぇ」
かっちゃんが鼻をクンクンさせながら言う。
かっちゃんが示した先には酒場があった。
「なら、ここで夕飯にしようか」
「さんせー」
「ええな」
みんなに異論はなく酒場へ入った。既に席のほとんどが埋まっていたが俺達も席に着けた。
「かっちゃんの言う通り、魚を食べている人が多いね」
俺は辺りを見回しながら言う。
一夜干しだろうか、干物のような魚を食べている人が多い。
オイル漬けをツマミにしてエールを飲んでいる人もいる。
美味そうに食べているなぁ。ゴクリッ。
「魚の干物を焼いたのと、小魚のオリーブオイル漬け、塩漬けの魚を散らしたサラダも食べよっと」
「うちもそれにするで」
「私は魚介のパスタも追加するー」
「おっと、エールも頼まねば」
店員さんに注文した。
すぐにエールと葡萄ジュースが来たので乾杯して飲んだ。
一気に飲んでしまったので追加も頼む。
小魚のオリーブオイル漬けとエールが来たのでいただく。
あぁ、美味い。オリーブオイルの品質が良いのか、臭みが少なくて美味しい。
これだけをずっと食べ続ける事ができそうなくらいだ。
かっちゃんのお気に入りのようで、追加している。
なっちゃんも気に入ったようだ。次から次へと口に運んでいる。
あぁー!俺の分がー。
魚の干物を焼いたのも美味しかった。
魚の脂も十分残っておりイケル。サラダも塩加減が良かった。トマトが口をさっぱりさせてくれるのも良い。
なっちゃんから一口パスタをもらって美味しかったので俺も頼んだ。
ここでこれならバッキン近郊にある港では、もっと美味しいのかも?なんて思ったりもした。
刺身も食べたいな。寄生虫が怖いけど……氷の魔法が使えたら食べられるはずだ。
夢が広がる。小さい夢だって?いいんだよ、気にしたら負けですぞ。
途中でエールから白ワインに変えた。
日本酒ほどではないが魚に合う。
後半に隣にいた冒険者っぽいおっさんがなっちゃんに絡んできたが、ギガントセンチピードの話も出てきて俺も参戦
したんだよっと盛り上がった。ケンカにはならないですんだ。代わりに白ワインと葡萄ジュースを奢らせてやったぜ。
気のいいおっさんだったようで奢ってくれたよ。
ゴンタ達のために魚の干物を焼いてもらってお土産にした。
喜んでもらえた。
その時にゴンタ達や馬達が厩舎に飽きた外に出たいと要望がかっちゃんに伝えられたので、明日は図書館をやめて外に遊びに行く事に決定した。
なっちゃんはグローリアも誘うって言ってたね。
明日も晴れるといいな。