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秘密

60


 翌日の朝飯を食べ終わった頃に、マリアさんが宿へ来た。

俺、かっちゃん、なっちゃん、そしてゴンタとミナモがマリアさんに着いて城へ向かう。

ゴンタとミナモも連れてきて欲しいとマリアさんから要請があったのだ。


(ゴンタとミナモも呼ぶっちゅうのも何かあるで)

(そうだね。むしろ俺達のほうがオマケって事もあるかも)

(ふむ)

(ヨゼフ達は無視されてたね)

(そうやね。それからうちらが泊まっている宿を知ってたっちゅうのも気になるで)

(そうか!?俺達も戦いの後にすぐ宿へ戻った訳ではないけど。宿でマリアさんが待ってたもんね……)

(なんらかのギフトかもしれんなぁ)

(諜報網を持っているって線もあるかもよ)


 おれとかっちゃんはマリアさんの後ろを着いて行きながら小声で話し合う。

なっちゃんは楽しそうにマリアさんに話しかけている。

ゴンタとミナモは俺達の後ろを着いてきている。

マリアさんは有名なのか、朝の開店準備をしている人達がマリアさんを見ては近くの人と話したりしていた。


 俺達一行は門番に止められる事もなく城の敷地に入れた。

止められるどころか足を止める事すらなかった。

マリアさんは門番に挨拶すらしていない。

マリアさん……いや、彼女の主が権力者なのであろう。ヒミコと呼ばれていた人物だな……。

城は今通って来た石で出来た俺の身長の5倍はありそうな城壁で囲まれている。

敷地には木が植えてある場所もあり、そして門から城へ道が整備されていた。

城は武骨ではなく優美な感じです。

矢間などはなく、石で出来た城には石に装飾が掘られていたり色も白っぽくて綺麗だ。

戦闘用の城ではなさそうだ。

俺はマリアさんに着いて歩きながら城を見ていた。

かっちゃん、なっちゃんも楽しげに城や敷地内を見ている。

なっちゃんが庭師を見つけて、かっちゃんに何をしている人か聞いていたりもした。


 マリアさんは城に入る直前に歩く方向を変えた。

城の入口前には左へ行く道もあった、そちらへ向かったのだ。

俺とかっちゃんは顔を見合わせる。


(城の中で待っているんじゃないみたいだね)

(意表を突かれたで)


 俺とかっちゃんは小声で話す。


 道の先は、さっき見えた木が植えられている辺りに繋がっていた。

木の間から建物が見える。平屋の木造だ。

特に変わった所もなく普通の民家っぽいです。広そうですけどね。

ただ建物の外にマリアさんと同じような皮鎧を着けて薙刀を持った女戦士が二人立っていた。

俺達が近づくと建物の裏からも二人顔をだした。ああ、気功術か魔力感知ができるのかな。

警護の人達だろうか?城の門並の警備だ。


「我々の主はここに居られる。武器を預からせてもらえないか?」


 マリアさんの要請に答えて、俺は剣を鞘ごと渡す。錬成で作ったナイフも渡した。

かっちゃんとなっちゃんは特に武器は持って来ていない。

そしてマリアさんに続いて俺達も建物に入った。

緊張するな。

広いエントランス兼居間のような所を通り過ぎて、奥にある部屋の前でマリアさんが扉をノックした。


「どうぞ。お入りください」


 部屋の中から若い女の声がした。


「失礼します」


 マリアさんが扉を開けて一礼して部屋へ入った。

俺達もマリアさんのマネをして一礼して部屋へ入る。

部屋の中は質素ながら清潔で明かりも取り入れてある雰囲気の良い部屋でした。

四人掛けのテーブルの脇に立っていたのは、例の巫女装束で白いベールで顔を隠した二人と、その隣に文官と押し問答をしていた女戦士がいた。

女戦士は少しくすんだ金髪をポニーテールにした三十歳くらいの人です。武器は腰に剣を下げているだけでしょうか。敵意は感じません。


「初めまして。私はヒミコと申します」


 白いベールを捲り上げて、一人の女性がそう名乗った。

二十歳にもなっていないような少女であった。

どこにでもいそうな女の子に見えた……。

布をターバンのように巻いているので髪の色や長さは解らない。

瞳の色はダークブラウンって感じかな。

身長は俺と同じくらいだろうか。俺は175cmくらいだから、彼女も結構高いね。


「初めまして。私はヤマと申します」


 彼女もヒミコと同じように白いベールを捲り上げて名乗ってくれた。

ヒミコとそっくりだな。若干身長が低いくらいしか違いが判らない。


「私はヒミコ様方の護衛の長をしているオルガだ」


 ポニテの女戦士も名乗ってくれた。


「私はトシと申します」


「うちはカッツォや。かっちゃんでええで」


 かっちゃんは物怖じしないなぁ。俺は緊張しているってのに。


「私はなっちゃんだよー」


 そしてなっちゃんも物怖じしない。大物だ……。


わう

わふ


「黒い子がゴンタや。灰色の大きい子がミナモ。よろしく、ゆうとるで」


「よろしくお願いしますね」


 かっちゃんがゴンタとミナモを紹介すると、ヒミコが俺達に挨拶してくれた。

ヒミコの視線がゴンタ達に向いている。

ゴンタのほうが俺より扱いが良さげ……。

俺は不満を顔に出したりはしないぜ!ちょっと悲しいだけだ。


「椅子にお掛けくださいな」


 ヒミコが俺達に椅子に座るよう促す。

四人掛けのテーブルの周りには五つの椅子が用意されていた。

俺達は三つ並んだ椅子に腰かける。かっちゃんが真ん中だ。

テーブルを挟んで対面にはヒミコとヤマが座ってた。両脇にオルガとマリアが直立不動の体勢でいる。

なんだか護衛の二人からプレッシャーを感じる。威圧しないでくれよぅ。

ゴンタとミナモは俺の隣で伏せている。

ミナモは欠伸をしているね。

部屋をノックしてメイドさんがお茶を運んできてくれた。

クラシックタイプのメイドさんだ!異世界万歳!

彼女ら二人もお茶を並べ終わったあとヒミコ達の後ろへ控えた。


「あなた方をお呼びしたのは私です」


「ヒミコ様が私達に何の御用でしょうか?」


 お茶も一口飲んだ後に口火を切ったヒミコに俺が問う。


「そうですね……私は占いが得意なのですよ。毎週一度は占いをしています。昨日も魔物騒動の少し前に占いをしていました。そして門の外へ出ると私に良い事があると占いに出ました」


「占いですか。しかし良い事というのは……」


「私の占いは私に関わる良い事しか出てきません。具体的なことは行動を起こしてみないと判らないモノでもあります」


「そうですか」


「ゴンタ様に出会えました!これが良い事でしょう!」


「ゴンタ様!?」


わう


 ヒミコがとんでもない事を言い出した……。

ゴンタは自分の名前が出てきて驚いているようだ。


「ゴンタ様は綺麗な毛並をしており、つぶらな瞳が大変可愛らしゅうございます。尻尾も感情的で素晴らしいです!それから……」


 ヒミコは熱に浮かされたようにゴンタの魅力について力説しだした。

ヒミコの顔は紅潮し目がキラキラしている。

えぇー、そんな理由!?もっとこう……異世界繋がりとか運命とかじゃないのっ!?

いやヒミコが良い事について勘違いをしているのかもしれないゾ。

俺は動揺しているのだろうな。

隣でかっちゃんがプルプルしている。笑いを堪えているに違いない。

なっちゃんはヒミコに同意している。ゴンタの魅力についての応酬をしだした。

ヒミコの隣でヤマもうんうん頷いている。ヒミコと同類か……。

オルガは若干呆れているようだが、ゴンタを見てはニヘラッと表情を崩している。

マリアは真面目な顔をしている。


 何なのコレ……。


 俺とかっちゃんはお茶を飲んで心を落ち着かせた。

果物も汁が入った紅茶のようだ。さっぱりとした渋みとほのかな甘みが美味しい。

俺達も目に入っているようでヒミコもお茶を飲む。

今だっ!


「俺達は特殊な事情持ちなんですよ」


「はい?」


「俺とゴンタは異世界から落ちて来たのです」


わう


「異世界!」


 俺はヒミコに話す。ヤマはヒミコと近しい感じがするし、オルガ、マリア、メイドさん達もいるが秘密を明かす。

知られた所でなんと言う事もないしな。今の所不都合はないはず。

ヒミコが驚いている。しゃべっていないがヤマも驚いている。


「そうです」


「オルガ、部屋の外での護衛をお願いします」


「はい」


 ヒミコがオルガに暗に部屋を出て行ってくれと言った。

異世界に思い当たる事がヒミコにもあり、そういう話になるとの判断であろう。

かっちゃんは今後の展開にワクワクしているようだ。嬉しそう。

オルガはマリアとメイドさん達を連れて部屋を出ていった。

俺達からヒミコを守らなくてもいいのかね、渋るかと思ったんだが……。

まぁ俺にも都合がよいから、ありがたい。


「彼女達を外に出したという事は、ヒミコ様達にも異世界と言うモノは関係あるのでしょうか?」


「その通りです。思い当たるモノはあります」


「そうですか」


 俺は自分の推測が外れていないのを内心喜んだ。


「俺とゴンタは少し前にアヘルカ連合国近くの海に落ちて来たのです。それからかっちゃん、ミナモ、なっちゃんと出会い旅をしてきました」


「アヘルカ連合国ですか……」


「はい。そしてバッキン教国の事も知りました。成り立ちについても聞きました。旅の目的の一つにヒミコなる人物の調査がありましたのでここにいます」


「……」


「俺はヒミコと言う名前を聞いて、キノーガルドではない世界にいた卑弥呼という人物を連想しました」


「……」


「その方は私が生まれる遥か昔にいた人で、ある国の女王でした」


「それが私だと思った?」


 俺の話を聞いていたヒミコが俺に言った。


「可能性はあると思っていましたが……」


 俺はヒミコは卑弥呼ではないと、今は考えている。

墓標らしき物を見たからでも、西洋人っぽい顔立だからでもない。

ましてやヒミコが巨乳だからでもない。確かに素晴らしいモノだが違うのだ。

若すぎる、単純にそれだけだ。もしかしたら不老なのかもしれないけどね。


「トシさんが思っておられるように、私はその方ではありません」


「あなたの先祖がそうだったのでは?」


「それは違います。そうですね、これを見ていただきましょう」


 ヒミコがそう言って、布を解き出した。ドキドキッ!体ではなく頭に巻いてある布でした。

がっかりなんてしてないよ!本当だよ。

冗談はさておき、ヒミコが解いた布の下からは灰色……銀髪なのかもしれない色をした髪の毛と二本の小さな角が出てきていた。

角!?

ヒミコの隣でヤマも角を晒している。


「驚いておられますね」


 ヒミコは悪戯が成功した子供のように笑っている。ヤマもだ。


「ええ、驚きましたとも。鬼……ですか?」


「鬼をご存じなのですね。その通りです」


 俺は混乱が収まらない。

どういう事だ?ヒミコ、卑弥呼、鬼?わけが解らない。

かっちゃんは面白そうにしている。


「私は代々ヒミコを名乗っています。漢字も知っています、こうですね」


 ヒミコは卑弥呼と指でテーブルをゆっくりなぞった。


「という事は……」


「そうです。私達の先祖は異世界から来ていたと聞いています」


 地球……日本に鬼が実在してたってのか!?マジかよ。


「先祖もあなた方のように落ちて来たようです。私達は、その方を初代と呼んでいます。初代は巫女として彼女以前から受け継がれていた名前、卑弥呼を名乗っていました。そして我々一族の長が名前を引き継いでいます。現在は私です」


「えっと……初代は邪馬台国から落ちて来たのかな?」


「邪馬台国と言う名前は聞いておりませんが、京の都近郊の山が一族の隠れ里だったとは聞いています」


「京の都ですか!それは俺達の居た日本という所の昔の首都の名前です」


 初代は俺と同じ時代ではないが、日本から落ちて来たようだ。

邪馬台国の時代でもないようだな。

彼女の一族と邪馬台国の卑弥呼に関係があるのかな……。


「卑弥呼の漢字の由来は知っていますか?」


「我々の一族、初代の更に先祖が別の大陸から移ってきたのは聞いておりますが、漢字の由来については聞いた事がありません」


「そうですか」


 彼女達の先祖は中国の方から移り住んで来たのかな。


「私の母も祖母もヒミコを名乗っていました」


「あなたのお母さんはどちらへ?」


「長を引き継いだ後は、旅へ出ました。祖母も同じだったようです」


「バッキンから北東へ行った所にある山に卑弥呼と漢字で縦書きに掘られた石がありました」


「そうですか……先祖のどなたかの墓標でしょう。墓標だけは長では無くなった後も名前を使っていい事になっておりますので」


「そうでしたか」


 墓標であっていたみたいだ。南無。


「そして、ここにいるヤマは私の妹です。私に何かあったらヒミコの名を継ぎます」


「双子かと思っていました」


「顔を見た人からはそう言われますね」


 俺の双子発言にそう言ってヒミコとヤマが笑う。笑顔は歳相応で可愛らしい。


「女性が長を継ぐ決まりですか?」


「はい。長はバッキン教の司教という立場でもあります。男しかいないときもありましたが、その時は表に出なかったそうです。それ以外の男の子はバッキン教国で働くことが多いですね」


「なるほど。一族の男性にも角はあるんですよね?」


「はい。私達のように布を巻く事が多いです」


 卑弥呼についての話が解った。想像していたものとは随分違う結果だった。

なにより鬼ってのには驚いた。

トラ縞のパンツを履いているかもしれないし、空を飛んだり電撃も飛ばせるのかもしれない。

異世界のロマンはココにもあったか。


「うちらはトシが異世界から落ちて来た理由も調べとるんよ。なにか聞いてへん?」


「私達の先祖も調べていたようです。初代以外でも落ちて来た方はいるようでしたが、理由は判明していません」


「残念や」


 話も落ち着いた所で、かっちゃんがヒミコに質問した。

転落の原因が判らないか……。


「ヒミコ様は魔力をお持ちですか?」


「魔法が使えるほどではありませんが、持っています」


「確かに少しだけあるな」


「俺とゴンタには魔力がないのです」


「初代もそうだったと聞いております。初代の娘は魔力があったそうです」


「あっちの世界の住人とこっちの世界の住人で子供が作れたのですね……」


「はい」


 ヤマはなっちゃんと一緒に屈んでゴンタを見ている。

ヒミコもチラチラ視線を飛ばし羨ましそうである。

ある程度の話は聞けたし、サービスしてやるか。


「ゴンタ、ヒミコとヤマが撫でたいってさ?いいかい?」


わう


 俺の言葉にゴンタは仕方ないなぁといった感じで吠えてくれた。


「い、いいのですか!?」


「わぁー」


「ゴンタは撫でても良いと言っています。怒らせない程度に撫でてくださいね」


「「はいっ!」」


 ヒミコも椅子から飛び出していった。二人並んで屈みこみゴンタを撫でだした。

長と言っても子供っぽい部分もあるね。少し安心した。

代わりにミナモは不機嫌そうである。すまん。


「卑弥呼については解った。思ってたのと違うけどね」


「そうやなぁ。でも面白かったで」


「うん。意表を突かれたよ」


「あと角が生えている人族なんて竜人族くらいやと思ってたわ」


 かっちゃんはヒミコ達の角を見ながら言う。


「竜人族?なにそれカッコイイ」


「ドラゴンの血が入ってると言われとるな。角と鱗があってな、力持ちやで」


「ほほー。火を吐いたりとかは?」


「それは知らんな。さすがに無理やないの」


「残念」


「転落の方は先が長そうやな」


「うん。でも何人かは落ちてきているんだから何か原因があるはず」


「そうやね。世界樹に行った後はヨシツネを追うかねぇ」


「だね」


 謎が解けた部分があったし前進だ。

俺とかっちゃんはスッキリとした気分で話す。


 ヒミコとヤマは護衛の人達と町にある教会にいる事も多いとも聞いた。

用があればいつでも来てくださいとの事でした。助かる。

ヒミコとヤマは撫でたりなそうにしていたが、教会のほうへお邪魔しますからと約束して、お暇をした。

ちゃんとマリアさんから武器も返してもらったよ。


 帰り道で調味料やチーズ、蜂蜜パンを買って宿へ戻った。

布も買った。手持ちの布もあったが、藍色に染めてあったので買った。

宿へ戻ったのは夕飯の時間だったので、宿の食堂で夕飯を済ませました。


 かっちゃんとは、もう少し図書館で調べようと決めた。

食事も美味しいし、危険も少ない。バッキンはいい所だ。


 明日はヨゼフ達がラマへ戻るはずなので見送りに行く。

布からタオルもどきを作った。これと道中で食べるジャーキーをお土産にする。


修正。

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