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百足

57


 翌日の朝飯の時に、ヨゼフ達一行がラマへ戻ると言うのを聞いた。

ラマ冒険者ギルドに関する情報と俺達を襲った冒険者達の事も判ったようだ。

俺達を襲った冒険者達はクランなどには所属しておらず、ある商家の専属冒険者であったらしい。


「そういや賊のうちの一人が《闘族》の身内だとか言ってたよ」


 俺は思い出した事をヨゼフ達に言った。


「《闘族》だと!」


「ちっ」


 ダンテとフリオは嫌そうな顔だ。


「たしかアイヴィンの旦那とか言ってた」


「『首狩り』かよ。最悪な名前が出て来たな」


「身内ってのが本当だったら面倒ね……」


 アイヴィンってのは、なんだか物騒なヤツらしい。


「《闘族》とか『首狩り』とか出て来たけど何者?」


「うちは聞いたことないなぁ」


 俺は物知りかっちゃんに聞く。


「《闘族》ってのは最近悪名高い連中だ。ずっと北にある寒い地域出身の集団らしい盗賊団だ。そして村を焼き払い、町を襲うようなヤツらだ」


「とんでもないヤツらだな」


「なんちゅうやっちゃ」


 ヨゼフが《闘族》について教えてくれた。


「『首狩り』はアイヴィンってヤツに付いた二つ名だ。倒した相手の首を取るらしい」


「危なそうなヤツだなぁ」


「《闘族》の幹部らしい。《闘族》は各国で暴れてるらしいが、幹部連中は狡猾で尻尾を掴ませない」


「むぅ」


「イチルア王国の東側にあった村の一つも襲われて無くなった。ラマの騎士団は腐っているが、これに関しては激怒したらしく《闘族》退治に躍起になっている」


「ふむ」


 あんな騎士団でも真面目に仕事をしたりするんだな。

俺はヨゼフの話を聞いてそう思った。


「じゃあ俺も狙われるかな?アイヴィンの身内ってのが本当だったら……」


「本当であれば間違いなく来るな。仲間意識は強いと聞くからな。報復も苛烈らしい」


 俺は嫌そうな顔をしていただろう。どんな厄介ごとが起きる事やら。


「アイヴィンってヤツは強いのかな?」


「フリナス王国の騎士団の部隊20名と交戦して隊長も含めて皆殺しにしたってのは聞いたことがある。アイヴィンは一人ではなかったようだが、強いのは間違いなさそうだ」


「うげっ。騎士団の隊長以上か」


 俺も強度だけなら団長クラスはあるだろうが、技術面が足りていないんだよね。

俺がもっと強くなるまで会いたくないね。

そして知らない名前の国も出て来たな。異世界も広いね。


「《闘族》幹部には漏れなく賞金が掛っているから、頑張って返り討ちにしてよね」


 カミッラが冗談っぽく俺に言う。俺は乾いた笑いで返して置いた。


「まぁ、来るか来ないか判らないヤツの話はいいや。ヨゼフ達の出発はいつ?」


「今日の昼飯の後だな」


「そうか。見送りに行くよ」


「別にいいのに」


 ヨゼフは照れくさそうに言う。


「見送りにいくよー、だんちゃん、ふっちゃん」


「おう」


「そうか」


 なっちゃんは、ダンテとフリオに見送りに行くと言っている。仲良しさんだね。

お土産の一つくらい買っていくか。

何だかんだ言って、こいつらと戦わなくて済んだのは良かった。人物的にも実力的にもだ。


「かっちゃん、図書館に行こうか?」


 俺達の朝飯は終わっているので、かっちゃんに言う。


「そうやな。なっちゃんはどうするん?」


「私も本を読みに行くー」


 かっちゃんがなっちゃんに読み聞かせた勇者のお話が気に入ったようで、自分でも読みたいって言ってたしな。

ヤル気になってくれて良かった。俺も負けないように書き取りでもするかね。

ここで文字の勉強に時間を費やしても問題はない。

予定は未定だ。

慌てるようなこともない。

俺は席を立とうとした。


 ガラーン、ガラーンと町の中に重い鐘の音が響き渡った。


「農地に魔物が出た!」


 門からやって来た兵士達が叫びながら城へ向かっていった。


「魔物だってさ」


「農地って事は城壁の外やね」


 俺とかっちゃんは、顔も見合わせて話す。

俺達に出番はないだろうから、他人事っぽい口調だ。


「冒険者ギルドへの依頼もあるかもしれない。行ってみよう」


 ヨゼフは真面目なヤツだ。気苦労も多かろう。

ヨゼフ達は急いで朝飯を腹に収め、装備を整えに部屋へ行った。

俺達も動くか。

俺達も部屋へ戻り装備を整えた。

アダマンタイトの盾を持つくらいだけどね。

階下へ降りて、ゴンタ達の所へ行く。


「ゴンタ、ミナモ、町の外に魔物が出た。俺達にも仕事が来るかもしれない」


わうー

わふ


 そして宿の前でみんなが来るのを待った。


「ギガントセンチピードが出たぞ!」


 再び門からの兵士が叫びながら城へ向かって走って行った。

えっと……ムカデだっけか。

でかいムカデなんだろうね。

わしゃわしゃと多くの足を動かすんだろうな。気色悪そう、想像してしまった。


 門のほうから農民らしき人達も逃げて来ている。

必死の形相だ。

みんなが装備を整えて降りてきた。


「ギガントセンチピードって魔物だってさ」


「なんでそんなもんが出やがる!」


「何体いるんだ?」


「それは言ってなかったね」


 俺は冒険者ギルドへ歩き出しながら、兵士の叫んでいた事をみんなに伝えたら、ダンテとフリオが表情を険しくして言う。


「ムカデだよね?大きいのかな?」


「ああ。船くらいの大きさがあるだろう」


「大きいなっ!?」


 並んで歩いていたヨゼフが教えてくれた。想像以上の大きさのようだ。


「外殻は鉄並の固さだ。そして足なんかを切っても物ともしない」


「足いっぱいあるもんね」


「そうだ。魔法も効きずらいし難敵だ」


「弱点はないの?」


「寒さには弱いんじゃないか?」


「んー、用意できないよ」


「他には……各節の繋ぎ目をねらっていくくらいしかないな」


「正攻法しかないか」


「だな」


 ヨゼフの言う通りだとすると氷の魔法あたりなら効きそうだけど、氷の魔法を使える人は数えるほどしかいないとか。

雷の魔法なんかも少ないらしい。

少ないがあるとは聞いている。

鉄の鎧を着こんだ大きなムカデかぁ。気功術でなんとかならないかな?

出番があるかどうかも判らないが考えてみた。


「かっちゃんはギガントセンチピードと戦ったことある?」


「他のムカデとは戦った事あるけど、ギガントセンチピードと戦ったことはあらへんな」


「他のムカデはどうやって倒したの?」


「あれはポイズンセンチピードやったな。毒持ちで生命力が高かったで。あんときは仲間がおって火の魔法と水の魔法でで蒸し焼きにしたんやったかな」


「ふむ。熱さ寒さで倒すのがいいのかな」


「できればそれがええやろな。大きいんやからもっと生命力はありそうやけどな」


「気功術はどうだろうか?」


「トシの『浸透撃』なら効くかもな。武器に気を纏わせただけやと時間かかるやろうね」


「そっか」


 俺達に出番があったら試してみるか。

大通りは人の行き来で慌ただしい。

城のほうから騎士団が出撃していった。50人ほどであった。

揃いの銀色鎧はかっこよかった。槍もかっこいい。

兵士達も騎馬の後ろを走って追っていった。


 冒険者ギルド前にも人が溢れていた。

騒ぎを聞きつけて冒険者達が集まったようだ。

大きく稼ぐ機会だしね。出番があるかは判らない。

俺達は邪魔にならないように訓練場に入った。

俺達の代表として、ヨゼフとかっちゃんが冒険者ギルド内へ入っていった。


 かっちゃんが戻ってくるまで待機です。

ゴンタを撫でて待ちます。なでなで。


 ドゴォンッと大きな音がして石の城壁が揺れました。

こんな町の側まで来てるってのか!?

騎士団が向かったのに……。


「ランク3以上がいるパーティに参戦要請が出た。行くぞ!」


「「おう」」


 ヨゼフが戻ってきて《殲滅の剣》メンバーに告げた。


「トシ、うちらもいくで」


「なっちゃんもいるんだけど、大丈夫?」


「なっちゃんは普通の大人以上の身体能力があるからな。遊び気分ですらそこらのモンに負けんよ」


「だれかが補助していけばいいか」


「そうやで」


「頑張るよー」


わう

わふ


 俺達も出撃だ。冒険者ギルドの手続きはかっちゃんがしてきたそうだ。今は代表者のみで、後でメンバーの処理をするらしい。人数もいるし脅威は目の前だから当然だな。


「まぁ、うちらは後詰なんやけどね」


「なんだ。そうなのか」


「ここいらでの実績がないからまかせてもらえんのやろう。状況しだいやろうけど」


「他の人達の戦いを見させてもらうさ」


「ギガントセンチピードの弱点が判るかもしれんしな」


「とりあえず門の外へ出ようか?」


「はいな」


「はーい」


わう


 ヨゼフ達は既に出ていった。

俺達も外へ出た。

城壁の周りには作業小屋などが立っているがいくつかの小屋が潰されている。

城壁の側でギガントセンチピードが暴れていた。

ギガントセンチピードは大きかった。船より大きいぞ。

それに騎士団と兵士が立ち向かっている。

騎士団は農地で馬が使えず思うように戦えていないようだ。

後衛から飛ぶ弓矢は弾き返されている。この魔物は甲冑を着ているようなもんだな。

火の魔法が後衛から飛んでいく。これは効いているようだ、嫌がるように暴れる。


 街道沿いの農地のほうにもいるようだ。

視認できるギガントセンチピードは全部で三体かな。


 ゴンタ達が戦いに行きたがってウズウズしている。

かっちゃんが宥めてくれている。

町の中で暇だったんだね……。


 ギガントセンチピードとの戦いは長引きそうだ。魔物の足が切り飛ばされてはいるが致命傷には至っていない。

むしろ巨体に弾き飛ばされて兵士の怪我人が続出している。

騎士団は持ちこたえている。さすがだ。

指揮を執っている騎士は、大きな気を持っており強そうだ。カビーノ級だろう。

ハルバードを右手だけで振り回している。左手には盾を持っている。

顔は面貌付きの兜をかぶっているので判らない。


 戦いを後ろから見ていて判ったことがある。ギガントセンチピードは酸を吐き出して攻撃してくるのだ。

酸を喰らい火傷を負った兵士が後方へ搬送されていく。

頑丈そうな上に嫌な攻撃をするようだ。


 街道沿いの農地の戦いでも冒険者が怪我をしているようで何人かが運ばれてくる。

ヨゼフ達ではなかったが彼らは無事だろうか?

参戦できないって言うのもモヤモヤするもんだ。

戦っている方が余計な事を考えなくてすむ分いいかもしれない。

かっちゃんは涼しい顔でいる。年季が違うんだな。


 そんな時に門のほうが騒がしくなった。


「おやめください!騎士団が戦ってくれています!」


 だれか偉い人でも出てきたようだ。

止めに掛っている人達の声が聞こえた。


「ヒミコ様が出るとおっしゃるのです。止めるのではなく戦い、そして守りなさい!」


 女の声が聞こえた。そんな無茶な……ってヒミコ様!?生きているの?なんで?

俺は混乱した。

かっちゃんも驚いている。

さっき発言した女の姿を確認できた。

皮鎧に薙刀のような武器をもった戦士のようである。

止めているおじさんも見えた。

文官か大臣かな、威厳がありそうなおじさんだ。仕立ての良さそうな服を着ている。

女戦士は10人ほどいた。

彼女らは誰かの護衛らしい。彼女らの中心にヒミコと思わしき人物がいた。二人いるがどちらかがそうなのであろう。

緋袴に白衣(しらぎぬ)っぽい物を着ている。そして頭に白い布をターバンのように巻いており、白いベールを下げている。顔は見えない。

そんな二人だ。


「ヒミコだってさ」


「聞いたで。どうなっとんのやろ?」


「謎が増えたね……」


「面白いでぇ!」


 かっちゃんは喜んでいる。俺は困惑するばかりだというのにな。


 ヒミコと呼ばれた人物と護衛が門から外へ出てきた、文官との問答が終わったようである。

文官も諦めたようで兵士を大勢呼んでいる。

ヒミコなる人物は外へ出たものの戦う事はなかった。

俺達の周りにいた後詰の冒険者達も興味深々で見ている。

気のせいかもしれないが、ヒミコなる人物がゴンタを見ている気がする。

うちの子の可愛さにやられたか?珍しがってるだけかもしれんけどな。

ギガントセンチピードはいいのかよ!?何しに来たんだろう?


 護衛の女戦士達の周りを更に兵士が覆っていく。

やはりバッキンの重要人物なのだな。

それでヒミコと呼ばれるとなると……。

俺の思考もギガントセンチピードではなくヒミコなる人物のほうへ向かってしまう。

ここは戦場だと言うのに。


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