読書
56
「おはよー」
「おはよーさん」
「おはよう」
俺達は気分よく朝を迎えた。
朝の日課には、なっちゃんも参加するようになった。
最初は俺のマネをしたかっただけのようだが、なっちゃんは直ぐに気功術の基本を覚えた。ここにもイカサマっぽい人がいましたよ……やはり世界は不公平だ。
かっちゃんが面白がって付きっ切りで教えていたのも大きい。
それから俺達は朝飯を食べに食堂へ降りる。
ヨゼフ達はいなかった。
俺達は店員さんに朝飯を頼み、今日の予定について話す。
「ユリさんの件も片付いたし、イチルア王国の問題も気にしないでいいから、今日は図書館で調べものをします」
「はいな。バッキン教国の成り立ちにヒミコゆう人物が関わっとったらしいから、間違いなく情報はあるやろう」
「うん。教団のほうは伝手がないから後回しだね」
「そうやな。今の教団の活動は治療院や孤児院といった慈善活動が中心みたいやね」
「それらの手伝いをして教団関係者と知り合いたいね」
「なんとかなるやろ」
俺達が予定について話をしている間に店員さんが朝飯を持ってきてくれた。
サラダにパン、燻製魚のトマトスープだね。
パンがサヒラ辺りより美味しい。固いのは変わらないが何かが違う。
固いから酵母は使われていないんだろうけどね。
果物とかから作れるんだっけか?酵母って。
かっちゃんはトマトが好きではないようだったので、燻製魚をあげてスープは俺が貰って飲んだ。
なっちゃんは今の所、好き嫌いはないようだ。肉も食べるし野菜も食べる。エルフは菜食主義者かと思い込んでいたが違うらしい。
食べている間にヨゼフ達も食堂へ降りてきた。
「おはよう」
「おはよ-」
「おう、早いな」
「朝飯はなんだぁ?」
「パンにサラダ、燻製魚のトマトスープだよー」
「おう」
「そうか」
俺達と挨拶しながら隣のテーブルに着くヨゼフ達。
彼らも店員さんに注文している。
「ヨゼフ達はラマへ戻るのか?」
「ああ、ランベルトさん達からラマ冒険者ギルド関係の情報をもらったらラマへ帰るよ」
「情報待ちなのか」
「そうだ。それからネッロさんと、パオロ、レナートさん達も一緒にラマへ行ってくれる事になった」
「おぉ!頼もしいね。そこまでしてくれると思ってなかったよ」
「バッキン冒険者ギルドも他人事ではないと言う事だな」
「ふむ」
「トシ、心配するな。ちゃんとラマ冒険者ギルドの掃除をするぜ」
「《殲滅の剣》の他のパーティにも協力させてやるぜ」
「そうね。クランマスターなら協力してくれるわよ」
「クランマスターって、どんな人なの?」
「んー、強いおじさんね」
「……それだけかよ」
「前衛も後衛もできるわ。今は墓場ダンジョンで複数パーティを纏めて指揮しているはずよ」
「おぉ!なんだかすごそうな人だ」
「実際すごいわよ。単純な前衛勝負ですらダンテやフリオが一緒に掛っても倒せるかどうか怪しいわね」
「そういうなよ」
「おっちゃんが強すぎるんだってーの」
カミッラがクランマスターについて説明してくれた。
ダンテとフリオもクランマスターに勝てないってのは否定しなかった。
ランク2が二人で戦っても勝てないってのか……。
カビーノでも難しいんじゃないかなぁ。
今の俺だとダンテかフリオのどっちかだけならいい勝負ができる自信はある。
強い人ってのはいるもんだね。
ヨゼフ達も朝飯を食べだした。
「なっちゃんも図書館で、文字の勉強をするかい?」
「うー、お勉強かぁ」
なっちゃんは珍しく渋っている。
「うちが教えたるで?」
「机でジッとしてるのは苦手なのー」
「そうなんやね。じゃあ絵本をこうてくるから、夜にでも読んで聞かせたるわ」
「お話を聞くのは好きー」
かっちゃんは、なっちゃんに優しいね。なっちゃんも嬉しそうにしている。
なっちゃんを図書館に連れていけないかな?どうしよう。
そう思っていたら、救いの手が差し伸べられた。
「おはよー」
「おはようございます」
ユリ親子だ。
なっちゃんとグローリアは仲良しだし、一緒に遊んでいてもらおうかな。
「おはよう。もう動いても大丈夫なんですか?」
「ああ、今朝は普通に動けたよ」
「朝ごはんも一緒にたべたの」
グローリアはニコニコして話す。
「おはよーさん。元気になってなによりや」
「ぐっちゃん、おはよー。ぐっちゃんのお父さんが元気になって良かったー」
かっちゃんと、なっちゃんがグローリアに言葉を返す。
二人ともグローリアのようにニコニコです。
空いている席に座ってもらう。
グローリアは小さいのでユリさんの膝の上だ。
かっちゃんもテーブルの上に顔しかでていないけどね。
「改めて皆さんに、お礼を言いに来ました。本当にありがとうございました」
「ありがとー」
ユリさん親子はそう言って頭を下げてくる。
「はいな。もうグローリアに心配をかけたらあかんで?」
「はい。アドネ夫妻にもきつく言われました。今後のやり方は考えます」
かっちゃんにユリさんが返事をする。真面目な顔だ。
「冒険者にもやり方は色々ありますよ。ラマへ来ることがあったら協力しますよ」
ヨゼフも何だかんだ言って良いヤツだね。
カミッラやダンテ、フリオも頷いている。
フリストはグローリアに視線が釘づけだったけどね。
「礼は受け取りました」
「何か形でも礼をしたいのですが……」
言いにくそうにユリさんが俺達に言う。
経済的な問題かな?俺達は別にお金には困っていない。
「そうですか。今日は俺とかっちゃんで図書館に調べものに行こうと思っているんですが、なっちゃんはジッとしていられないそうなので、なっちゃんとグローリアを遊ばせてあげたいのですが、どうでしょうか?」
「それはええな」
「それでしたら問題ありません。グローリア、なっちゃんと遊んでもらおうな?」
ユリさんは快く引き受けてくれた。
「うん!なっちゃーん」
「遊ぼー!ぐっちゃーん」
楽しそうにしているなっちゃんとグローリア。
「ユリさん、お願いしますね」
「はい、お任せを。ヨゼフさん達にも何かしたいのですが、何かありませんか?」
ユリさんの言葉に、顔を見合わせるヨゼフ達。
「なっちゃんも含めてバッキンの町案内ってのは、どうだ?」
「おう!それはいいな」
「そうね。それがいいわ」
「お願いできますか?」
「解りました。今日は町の案内をさせていただきますね」
ダンテとフリオを筆頭にユリさんへ町案内を頼んでいる。
お金を掛けさせないなんて、ダンテ達も考えているんだなぁ。ちょっと感心した。
なっちゃんとグローリアと遊びたかっただけかもしれないけどさ……。
フリストがソワソワしている。怪しい。
まぁ楽しんできてくれ。
「なっちゃん、ゴンタ達も誘ってあげてね?」
「はーい」
「それじゃ、俺達は図書館へ向かいますね」
「トシ、場所知ってるんか?うちは知らんで?」
「う……知らない」
かっちゃんは何でも知っているかと思ったぜ。
「バッキンの図書館は商業区画にありますよ。城に面した通りの東のほうにあります。大きいので直ぐ判ると思いますよ」
「ありがとう」
「ありがとな」
ユリさんが教えてくれた。
俺達はみんなに手を振って宿を出た。
今日もいい天気のようだ。
朝のうちは涼しくていい。
かっちゃんと二人で図書館へ向かう。
宿は大通りにあるので、周りの店の開店準備で忙しそうにしている人達が目につく。
大した時間もかからずに図書館を見つける事ができた。
まぁ、まだ扉は閉まったままでしたがね……。
「まだみたいやね。周りの店も開いたとこはあるし、ブラブラ冷やかしたろか」
「そうだね。買い物もいいかも」
俺とかっちゃんは開いている店を見つけては見て回った。
そして魔法屋と言われる店に入った。
賊からの収穫にあった、腕輪の鑑定をしてもらう。
かっちゃんが対応してくれている。
俺は珍しい物がある店内を見て回る。
マジックアイテムの類はほとんど見当たらない。
ポーションや、なんらかの素材が置いてある。
素材は角やら骨やら鱗やらであった。
毒消しポーションを買おうかな。使った分の補充はしないとね。
一つ持ってかっちゃんの所へ行く。
腕輪に鑑定は終わっているようだ。
「この毒消しポーションをください」
「銅貨6枚だよ」
おばさん店員に銅貨6枚を支払う。
おばさんは藁と布で作ったもので素焼きの小瓶を包み渡してくれた。
「かっちゃん、腕輪の鑑定結果はどう?」
「これな、魔力をため込める代物なんやと」
「へー」
魔力関係か。俺には関係ないな。
「なんや反応薄いな。人族の魔法使い一人分くらいため込めるから十分ええもんや」
「かっちゃんが使うといいね!」
「うちか……そうやな、なっちゃんには必要あらへんな」
なかなかの代物らしい。かっちゃんが装備する事に決まったようです。
かっちゃんは、さっそく装備している。銀色で赤い文様が入っている。
かっちゃんには少し大きいようだが、手袋を捲りあげで厚みを作って装備している。
「直接肌に着けなくてもいいの?」
「この腕輪の場合は魔力に反応するから、これでも大丈夫なんよ」
「へー。あれっ?魔力をためるって、かっちゃんの魔力が吸い取られているのでは?」
「そうやね。外のマナも集め取るようやが、うちのオドが一番取られとるな」
「だめじゃん」
「腕輪がため込んだら、それ以上は吸い取られへんよ。時間がたてばオドも補充されるし問題あらへん」
「そうでしたか」
そういうものか。かっちゃんが問題ないと言うなら大丈夫だろう。
俺達は魔法屋を出て図書館へ向かった。
今度は図書館に入れた。カウンターに居たおばさんに身分証明書である冒険者カードを見せ、銅貨5枚づつを支払った。
前回より安いね。安い分には文句はない。
3階建ての図書館で結構広く、本も多い。
俺は歴史と救済神関係、かっちゃんは召喚、転移といった魔法関係の本を探して動き出す。
幸い俺が調べたい本は一階にあるようだ。
かっちゃんの魔法関係は二階のようで、かっちゃんは階段を上がっていった。
俺は歴史の本を適当に5冊選んでテーブルへ持っていき読みだした。
かっちゃんは戻ってこない。上のテーブルで読んでいるのかな?問題は無い。
ぐぅ……お腹の音がするまで本を読み続けた。
昼飯を食べに行こうかね。
俺は最後に読んでいた本を覚えておき、本を返した。
そして二階へ向かう。
かっちゃんは二階で本を読んでいた。
「かっちゃん、昼飯を食べに行こうか?」
「あぁ、そんな時間なんやね。行こか」
かっちゃんも本がを棚に戻しに行った。
外に出ても再度料金を払わなくていいと言うのをおばちゃんに確認して、昼飯を食べに出る。
「屋台が集まっている所があったよね?そこに行こう」
「はいな」
俺達は距離があるが、屋台村へ向かって移動する。
「何か収穫はあった?」
「転移に関する事で解ったことはあったけど、魔法ではなくギフトやった」
「ギフトか。魔法使いなら誰でもって訳にはいかないか……」
「そうやな。離れた国へ一瞬で移動出来たんやと」
「それはすごいな。移動屋、輸送屋として大儲けできそう」
「ほんまやで。どういう条件がいるのかまでは本に書いてなかったんよ」
「なんらかの制限はあったかも知れないけど、異世界へも行けるかもね」
「可能性はあるなぁ。レベルにもよるかもしれんけどな」
「レベルが上がれば出来る事も増えるもんね」
「トシは収穫あったん?」
「うん。ヒミコはバッキン周辺では見慣れない恰好をしていた事と、占いと病気の治療が出来た事、薬草の知識が豊富だったことが判ったよ」
「多才やな」
「うん。最近の本では病気の治療についてギフトではないかと言う話も書いてあった」
「救済神がギフトかぁ。教団はどう考えとるんやろ?」
「うーん、ギフトだって書いてある本がバッキンの図書館にあるくらいだから、神様って扱いでもないのかも」
「ふむ。救いの象徴ってとこかもな」
「本はいっぱいあったし情報も、もっと出てくるさ」
「せやな」
俺とかっちゃんは屋台村へ着いた。
食べる場所もあったので、それぞれ好きな物を買っていく事になった。
俺はいくつかの屋台を見て買い込んでいく。
パスタに近いが焼きそばみたいなのがあったので買う。
ピーマンの肉詰めも買う。
野菜サラダをクレープ状のもので包んだ物も買う。
そして赤ワインを一杯買った。
開いているテーブルに着き、買って来た食べ物を並べる。
かっちゃんも買って来たようだ。かっちゃんもテーブルに戦利品を並べている。
「「いただきます」」
俺達は昼飯を食べ始めた。
ワインを一口飲んでから、野菜クレープを食べる。いくらでも食べる事ができそうな軽食だ。
味については特筆するところはない。普通に美味い。
「かっちゃん、食べたい物があったら食べていいからね。全部はダメだぞ」
「はいな。うちのも食べてええで」
かっちゃんは魚の塩焼きと、モツ煮、パンと白ワインを買って来たんだね。
モツ煮を一口いただく。
モツの臭みが消えており、根菜と一緒に煮込まれている。いい味だ。少し辛みが効いており米に合いそうだ。
「モツ煮美味しいね」
「やね。少しピリッとしてるのがええで」
俺達は昼飯を楽しんだ。
それぞれワインのお代わりを買いにいったりもした。
「さて、図書館で本の続きを読もうか」
「はいな」
俺とかっちゃんは夕方まで本を読み続けました。
しばらくは図書館通いが続きそうです。
平和でいいですけどね。
かっちゃんは本屋によって、なっちゃんに読んであげる絵本を買っていた。
こういう所で抜けがないのは素晴らしい。
約束は守らないとね。
腕輪装備者の修正。