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発見

53話にゴンタとミナモの活躍を追加修正しました。

54


わうー


 辺りが薄ら明るくなりだした時間に、ゴンタが一声吠えた。

街道から森へ入ってからはゴンタとミナモは迷う様子がまったくなかった。


わふー


 ゴンタの声と合わせるようにミナモも声を上げた。


「匂いがはっきり判ったそうや。近いんやと」


 かっちゃんが通訳してくれた。近いのか。


 それから一時間移動した後くらいにゴンタが動く。

俺達の前方へ走って行った。

走って行ったと思ったらすぐに戻ってきた。


「ユリさんを見つけたのかい?ゴンタ」


わう


 褒めてーという表情をして尻尾を振っている。ゴンタはユリさんを見つけてくれたらしい。


「よくやったね。ゴンタ偉いぞ!」


わうー


「ユリさんは無事だったかい?」


わぅ


 嬉しそうにしていたゴンタが、一転して大人しくなってしまった……。

ダメだったのか!?


「ユリさんは既に死んでいた?」


わうわう


 ユリさんは死んではいないようだ。少し安心した、びっくりしたよゴンタ。


「ユリさんは怪我をして動けないのかな?」


わう


「よし!ユリさんの所へ案内してくれ」


わうー


 ゴンタに先導してもらい、馬を走らせる。

既に森も明るくなっており馬が走っても大丈夫だ。

森といっても木があるだけで、岩や草などが少ないため足元に注意もいらない。

ユリさん死なないでくれよ。


 小さいけど誰かの気配もあるな。これがユリさんか。

他にも気配があるな。何だろう?

小高い丘があるほうだな。山と言ってもいいかも。

気配に向かって急ぐ。

小さい気配は体力が落ちているとも判断出来る。


わう

わふ


「かっちゃん!誰か倒れている」


「そうやな。ゴンタ達はあれがユリさんやゆうとるで」


 俺達は馬から降りて倒れている人に近寄る。

綺麗な金髪の青年だ。まだ20歳をいくつか超えたくらいに見える。

意識がないようだ。

かっちゃんが容体を見てくれている。

もう一つの気配は馬でした。バッキンから結構離れているもんな。


「ゴンタ、ミナモ、案内ありがとな」


わう

わふ


 俺の礼に対してゴンタとミナモは嬉しそうに返事をした。


「そこの崖から転落したんやろ体中を打っとるみたいや」


 山の裏はちょっとした崖になっていた。それを見上げながらかっちゃんが言う。


「あと順番は落ちた後か判らんけど蛇にかまれた跡もあるで毒にもやられとる」


 かっちゃんがユリさんの体を調べて言う。左足首から血が出ていた。


「俺も毒消しのポーションを持ってるよ、いる?」


「それを使ってトシは毒の対処を、うちは打撲の治療をするで」


「あいよ」


 かっちゃんは険しい表情をして気功術での治療に入った。

俺もかっちゃんの指示に従い、毒の対処に入る。

俺はマジックバッグから毒消しポーションの入った素焼き小瓶を取り出す。

買ったものの出番がなかったんだよね。


 そしてかっちゃんの指示通りに動く。

小瓶を受け取りコルクみたいな蓋をはずして、蛇に噛まれた部分……横になっている人物の左足首辺りに液体を掛けた。

血と小瓶からの液体が触れたら煙っぽいのが一瞬上がった。やはり毒なのだろう、こんな反応をするんだな。

毒消しポーションを半分くらい掛け、残りの液体を布に含ませて倒れている人の口へ入れた。意識がなさそうな人にはこうするのか。

意識が無くとも水分を求めているのか吸っているようだ。偶に喉が動く。

これも経験だな。勉強になる。


「打ち身は気功術で治療したから大丈夫やと思うで」


 治療に入ってから1時間くらいして、かっちゃんが言う。険しかった顔も穏やかな表情になっている。しかしユリさんの意識は戻っていない。


「とりぜず安心していいのかな?」


「そうやね。冒険者カードが首に掛け取ったんで見てみたら名前だけは確認できたで。ユリさんで間違いない」


 かっちゃんは冒険者カードを見せてくれる。名前しか判らないがユリさんだね。


「良かった」


「ゴンタ達が見つけてくれんかったら、危なかったかもしれんで」


 かっちゃんは、ゴンタを撫でながら言う。

ゴンタは誇らしげだ。


「ゴンタ、ミナモ、ありがとうな。なんとか間に合ったよ」


わうー

わふー


 俺もゴンタを撫でながら言う。

ゴンタは更に誇らしげだ。

本当に良かった。

器を出してやり、ゴンタとミナモ、かっちゃんに水を出す。おっと馬達にもやらないとな。

みんなで水を飲み休憩する。


「ユリさんの意識が戻っていないから動かさないで、もう少し待とう」


「せやな」


わう

わふ


「休憩が終わったらでいいから、ゴンタとミナモにはヨゼフ達の所へ走ってもらいたい」


わうー


 任せてーかな。嬉しそうだ。

森を駆け巡るのが楽しいってのもあるのかも。


「木の板を錬成して作り、それに文字を刻み手紙にするから彼らを見つけたら見せてやってね」


わうわう

わふ


 ゴンタはミナモに解説してるっぽい。ミナモは俺の言うことは解っていないということかな。残念。

俺は近くにあった木から板を錬成した。

俺は読めるけど書けないので、かっちゃんにお願いする。

時間を作って書く練習もするかなぁ……。

かっちゃんはナイフで文字を刻み込んでいる。

ユリさんを発見。ゴンタとミナモに着いて合流するか、バッキンへ帰還せよ。と書いていった。

そしてゴンタ達に説明している。

そうか彼らがココに来る必要もないね。


 ゴンタ達には一仕事してもらうので、朝飯を大目に食べてもらった。

ジャーキーと水だけなんだけどね。補給が間に合わなかったんだよぅ。

それでもゴンタ達は嬉しそうに食べてくれた。

馬達を自由にしてやり、そこら辺の草を食べてもらう。魔物もいないから危険はないだろう。

俺とかっちゃんも朝飯を食べる。

ユリさんを見ると幾分顔色もよくなっているようだ。

回復しているのだろう。


「ゴンタ達が動いたら、俺はこの辺りを見て回るよ。ついでにレン草も集めておくよ」


「危険そうなもんは崖くらいやね。ユリさんを崖から離してからにしてんか」


「そうか。崩れるかもしれないしそうするね」


 かっちゃんが崖を見上げながら提案してくる。崖には所々岩があったりして危ないかもしれない。

俺は早速ユリさんを抱え上げて離れた所にある木の下へ移した。

かっちゃんやゴンタ、ミナモも着いてくる。

みんなで休憩の続きに入った。


わう

わふ


 ゴンタとミナモは休憩後一声吠えて南へ走って行った。ゴンタ達の鼻と気功術があればヨゼフ達を見つけるのも難しくないだろう。

俺は周辺の探索にはいった。

かっちゃんは眠そうにしていたので、仮眠を取ってもらっている。ユリさんの治療をしてもらったりしたしね。休んでくだされ。


 辺りにはユリさんが転落した崖のあった山と同じようなものが、いくつかあった。でこぼこした地形だ。

ひとつだけ大きい山があった。

俺はそこも見に行く。

レン草は見つけて20株採取してある。

あとキノコも見つけたので取っておいた。毒かもしれないがシメジっぽかったので食べたくなったのだ。かっちゃんかゴンタに判定してもらおう。

木苺も見つけた。この辺りは食材が結構あるね。

マジックバッグのおかげでいっぱい収穫があった。

大きい山に登る。

大きいといっても1時間もしないで登り切れるだろう。

時折、登って来た方向を振り返る。

木の向うに海が煌めいていた。波に合わせて光を反射させている。

夏の山と海か。いいもんだな。

小さい頃の夏休みを思い出したよ。

なんだか懐かしい。


 頂上は木が少なく岩がゴロゴロしていました。

岩の上に立ち四方を見た。

ここらでは一番高い所のようで遠くまで見える。

かろうじて都市バッキンも見えた。やはり木が多い。

海が見えたのは西側だけでした。

北や北東に山脈が見えます。南や南東のほうに山脈も見える。南東の方の山はイチルア王国で俺達が沿って動いた山かな。

バッキンは山が城壁のようにまわりを囲い、内側は森になっているようだ。

鳥や、猪っぽい反応が見られる。鳥獣の類もそれなりにいるようだ。

そして魔物はいないようだ。

バッキンは住むのにいい所かもしれない。

海の幸も山の幸もいっぱいありそうです。


 さてとかっちゃんの所へ戻るかな。

そう思って岩を降りた時に見てしまった……。

立って見渡していた岩の側の木の下にある苔むした石だった。

そこには『卑弥呼』と縦書きしてあった。

卑弥呼!墓標か!?

俺は日本にいた時に日三子と書いてヒミコと読む人を知っていたので、密かに俺と同じような一般人の可能性も考えていた。

漢字で『卑弥呼』と書いてあるので、あの人物で決定かもしれない。だれかが騙っている可能性もありえるが……。

この辺りを見回したいってだけの理由で登った山で、こんな物を見つけるなんてな。

ユリさん探索に来なければありえなかったし、周りがよく見えるだろうなんて思わなければ来なかったし、昼間でなければ気づきもしなかっただろう。

強運と言ってもいいな。

それとも何かに導かれたのかもしれないね。

人ならざる者の力、神様もいるしギフトもあるし、スキルだってあるしな。驚きの世界だ。


 更に辺りを見て回ったが、他の情報は無かった。


 俺は興奮したまま山を駆け下りた。

登りの数倍の早さで山を降りただろう。

かっちゃんに報告したかった。


「かっちゃん!」


「なんやー!?」


 俺の声でかっちゃんは飛び起きた。


「あの山で転落者の情報を見つけたよ!」


 俺は大きい山を指さして、かっちゃんに言う。

俺の顔は真っ赤になっていたんじゃないかな。興奮状態だ。


「なんやて!?」


「地球で俺達が住んでいた所の文字が石に彫ってあったんだ!」


「大発見やな!」


「卑弥呼って昔の人物名だったよ!墓標っぽかった。縦書きだったし俺達の世界の言葉で間違いない」


「おぉ」


「誰かが騙っている可能性はあるけど、それでも俺達の世界の人物が書いたはずだ」


「なるほどなぁ」


 かっちゃんも俺の言うことを理解して頷いている。かっちゃんの顔は猫っぽいので判りずらいが血が昇って赤くなっている。


「俺と同じような境遇だった人がいた証拠だね」


「これはバッキンでの情報収集に力が入るなぁ!」


「だね!」


「面白くなってきたでぇ!」


「あの山には他の情報は無かった」


「ふむ。それでも前進や」


 二人で手を取り合って喜んだ。

かっちゃんは好奇心だけなんだろうけど、嬉しいなぁ。

俺達は可能性の話で盛り上がった。


 騒いでいたせいか、ユリさんが目を覚ましたようだ。


「んぅ……」


「目ぇ覚ましたか」


「おはようございます。気分はどうですか?」


「君達は……」


 ゆっくり起き上がったユリさんが俺達に気付いた。


「俺達はバッキンの冒険者ギルドで、グローリアからお父さんを探してくれと頼まれた者です」


「グローリア!?」


「そうなんよ。一昨日に仕事に出て帰ってこないゆうてな」


「そうですか。蛇に噛まれて山から落ちた所までは覚えているのですが……」


「そこの崖の下で全身打撲と、毒にやられておったよ」


「……」


 ユリさんは体の具合を確かめているようだ。


「毒消しポーションで毒は消えとるはずや。気功術で打撲も治療済みやで」


「ありがとうございます。倦怠感はありますが、問題なさそうです」


「そら良かった」


「俺はトシって言います。冒険者です」


「うちはカッツォや、かっちゃんでええで。ランク2や」


「ランク2!助かりました」


「うちらはグローリアに頼まれただけやからな。礼はグローリアにな」


「そうそう。俺達は気まぐれみたいなもんだしね」


「そうですか、グローリアが……」


 俺は木のカップに水を注いでユリさんに手渡す。


「水をどうぞ」


「ありがとうございます」


 ユリさんは水を受け取り飲む。

最初はゆっくり飲んでいたが、喉が渇いていたのか水が無くなるのは直ぐであった。

俺は追加で水を注いだ。

ユリさんは頭を下げて水を飲んだ。


「食べられるようでしたら、これもどうぞ」


 俺はユリさんにジャーキーも差し出して置いた。


わうー

わふ


 ユリさんがジャーキーを食べ終わった頃にゴンタとミナモが戻ってきた。


「ゴンタ、ミナモ、お帰り」


「お疲れさん」


 俺達がゴンタトミナモを労うが、ユリさんはゴンタ達を見て驚いている。

魔物の少ない国みたいだし、見慣れないんだろうね。


「うちの子達です。グローリアとも仲良しですよ」


「あぁ、そうなのか」


 そうでもないけど、ユリさんを安心させるためにグローリアの名前を出した。


「ゴンタとミナモっていう名前なんよ。この子らがユリさんを発見してくれたんよ」


「そうでしたか。ありがとう、ゴンタさん、ミナモさん」


わう


 ユリさんは出来た人物のようで、ゴンタ達にもお礼を言ってくれた。

こういう人物なら助けた甲斐があるってもんだ。

グローリアの頼みだけだったが、良かったと心から思えた。

ラマで人の嫌な所を見てきたせいか、そう思った。


「ゴンタ、ミナモ、ヨゼフ達に会えたかい?」


わう

わふ


「彼らはバッキンへ戻った?」


わう


「そうか。ならいいか」


「ゴンタさんとトシさんは話ができるのですか!?」


「俺はできないけど、かっちゃんは出来るね。俺も言葉は理解できないけど、なんとなく解るんだ」


「ほほー」


 ユリさんは何やら感心している。


「ユリさんは馬に乗って移動しても問題ありませんか?」


「乗っているだけなら大丈夫かと」


「なら移動してしまいましょうか」


「お願いします」


 俺はユリさんをバクシンオーに担ぎ上げた。一応紐で馬体と固定しておく。申し訳ないが我慢してもらう。

かっちゃんにはユリさんの前に乗ってもらう。ゆっくり並走して移動を開始した。

まずは街道へ出てからだ。

その後でバッキンへ向かう。


 途中何度かユリさんのために休憩を入れた。

特に問題も無く進めた。


 そして日が落ちた頃にバッキンへ着けた。


 早くグローリアに合わせてあげないとね。

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