目的
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一緒に行動する言っても、お互いに距離を取っての行動だ。
信頼できるほどの間柄ではないからな。といいつつなっちゃんとダンテ、フリオは隣り合って歩いている。
すごいな。感心してしまうぜ。
ヨゼフとカミッラ、フリストは常識的なようで距離取って着いてきている。
フリストってのは地味な盾男ね。
ヨゼフじゃなくフリストが斥候でも驚かないね。
山際を歩く俺達。
ダンテとフリオは楽しそうになっちゃんに話しかけている。
俺やかっちゃんも時々彼らに質問をして《殲滅の剣》やラマについて情報収集をした。
後ろでヨゼフが、あちゃーとか言って嘆いていたりしたので言ってはいけない事も話したりしたんだろう。
カミッラがなっちゃんからダンテ、フリオを引き離そうとするが、無理だったようです。
なっちゃんの勝ちだ。天真爛漫ななっちゃんは強い。
俺はヨゼフの隠密に関する情報も聞いてやろうかな?なんて事も思っていたり。双子ならあっさり教えてくれそうな気がする。
まぁヨゼフがいない所で双子に聞いてみよう。
日が落ちて夕飯を食べた後も移動したが、徹夜はしなかった。
ゴンタ達に彼らの見張りも頼んで、ゆっくり休んだ。
翌日も問題なく起きて、バッキン教国へ向かって歩く。
追手はヨゼフ達以外にも出されており、騎士団も動いているので街道と関所は通れない。
俺達は森の移動は苦にならない。山は場所を選ばないと馬が移動できないけどね。
休憩のときにみんなで相談して山越えでバッキン教国へ行くことにした。
なんとかイチルアを抜けることができそうです。
食料も変わり映えしませんがあります。
途中にあった川で水の補充もできたので一安心です。
ゴンタ達や馬達にも水を飲ませました。
魚好きなかっちゃんのためにも川魚を取りました、イワナっぽいです。
なっちゃんも川に入り魚を取ろうとしましたが、いつの間にか水遊びになっていました。
布から作った網を貸してあげればよかったかも知れません。
そして森の中は幾分涼しいので助かります。夏はまだ終わりそうにありません。
イワナに塩を振って焼いた昼飯は好評でした。ジャーキーと木苺くらいしか食べてなかったもんね。無理もない。
昼飯の後も移動を続けて、夕方頃にイチルア王国を抜けたかもしれません。
地面に線が引いてあるわけでも、国境を示す看板がある訳でもないので憶測にすぎません。
単純な話でヨゼフ達がそう言っていただけです。
俺には植生など気づいた限りでは変化を感じられませんでした。
何が違うのだろうか?
単純に歩いた距離で言っているのかも知れませんね。
あっさりイチルアを抜けることができたので逆に不安になりました。
ヨゼフ達が騒動だったといえば、そうなんですがね。
明日にはバッキン教国の首都バッキンへ着けるそうです。
首都といっても他に大きな都市は無いとの事ですが。
港町といくつかの村があるだけらしいです。
「バッキン教国ってのはイチルア王国の一地方だったんだよね?」
「ああ。当時の王様が疫病で見捨てた地域なんだ」
俺の問に答えてくれるヨゼフ。彼がパーティの斥候であり頭脳らしい。
ダンテ、フリオの双子はメインアタッカー。フリストはカミッラの守り。カミッラは火の魔法を使うらしい。俺達の情報も所々ぼかしながら話して置いた。
「その後も併合しようって動きはなかったの?ここの半島にはイチルア王国とバッキン教国、エルフ領の一部しかないけどさ」
「あったらしいが、戦争にまでは至らなかったようだ」
「へぇー」
「宗教ってのは怖い物で、信者は死兵となって戦うらしいからな」
「魔物相手にその力を発揮したのかな?」
「察しがいいな、その通りだ。バッキン教国の魔物は信者たちによって犠牲を払いながら駆逐されたようだ」
「なるほどね」
「あとイチルア王国とバッキン教国は国交もあるし商人の行き来もあり、間者はお互いに潜り込んでいるだろうけどねぇ」
「ふむ」
お互いに苦々しく思っていても大っぴらには動いていないのか。
信者の力も侮れないのだろう。
国力ではイチルア王国のほうが上なんだろうけどね。
俺達は話ながら歩く。
かっちゃんもカミッラと話している。
なっちゃんは双子と話しているね。
寝起きを共にしたからか、少しだけ距離が縮んだかな。
俺達は、こっそりと警戒は続けている。
ヨゼフ達もそうだろうけどね。
「俺達がイチルアを訪れた理由は調べものなんだよね」
「ほほう。何をか聞いてもいいのかな?」
「ああ、歴史と魔法関係なんだ」
「イチルア王国は昔からあるから歴史に関しては多くの事が判るだろう」
「まぁ、ダメだったけどね」
「……」
嫌味になってしまったかな。反省。
「バッキン教国の救済神であるヒミコについて調べたかったんだ」
「ほう。信者でもないんだろう?」
ヨゼフは不思議そうな表情で聞いてくる。
信者でもないのに興味を持つなんて変なのだろう。
俺もヒミコと聞いてある人物を連想しなければ興味なんて持たなかったに違いない。
「うん。実在の人物だったらしいと聞いて調べてみたくなったのさ」
「トシは変わりモンだな」
少し呆れたように言う。あながち間違っていないね。
「まぁね。でも冒険者は未知のモノに向かって言ってこそだろう?」
俺はニヤリとしながらヨゼフに言う。外から見たらドヤ顔をしていたんじゃないかな。うざくてごめんなさい。
「そうだな。それが冒険者ってもんだったな……」
ヨゼフは何かを考えるように返事をした。
それからは会話がなかった。
黙々と歩く俺達。
夕暮れ時に大きな木を見つけたので、そこで野営する事にした。
魔物は出なかったし、ヨゼフ達以外の追手も来なかった。
もう安全かな。
俺の仲間達に危害が及ばなくて良かった。
肩の荷が下りたかな。
気持ちが少しだけ楽になった。
火を起こして鍋に燻製肉の塩コショウスープを作った。
辺りにあったハーブを散らしただけの単純な物である。
それなりに美味しかった。
トマトやオリーブオイルがあれば上出来だったろうに。
悔しい。
バクシンオー達は適当にそこらへんの草を食べている。お手軽だね。
寝るまでの間に、俺達のサヒラやアレゾルアでの冒険譚を彼らに聞かせた。
特にダンジョンでのヴァンパイア戦が喜ばれた。
「トシすごいんだな。さすが俺達の幼馴染だぜ!」
「ああ、大したもんだ」
うぅ……その設定まだ生きていますか。ごめんなさいダンテ、フリオ。
「ヴァンパイアってのは本当に化け物だったよ。もうやりあいたくないね」
「確か東の方にヴァンパイアの国があるんだよな?」
ヨゼフが言う。有名なのかね?
「そうらしいで」
「そうなの!?」
かっちゃん、カミッラがヨゼフの話に反応する。カミッラは知らなかったようだ。同じパーティにいても情報の共有はしていないのかな。
「真偽は判らないが、多くの国にヴァンパイア達が入り込んでるって斥候仲間から聞いた」
「大事じゃない!?」
「ああ。それどころか町もいくつか落とされているとも聞いたな」
「人族を支配するのが目的なんやろか……」
「判らん。皆殺しって状況もあったと聞く」
「……」
みんな黙り込んでしまった。やはり勇者の出番なんじゃないかな。
人族に対抗できる力はあるのだろうか?
うわさに聞くランク0とかならやれるのかな。
ランク0もランク1も人数は多くないはずだ。
地球にあった吸血鬼の弱点でも試すしかないのかも。
ニンニクに十字架、白木の杭。用意しておくべきか?
ただし試すにも自分の生死をかける事になってしまうな。
もしも効果があったら普通の冒険者でも少しは戦えるかも。
「アレゾルアなんて辺境にもいたくらいや。各地に潜り込んでおってもおかしない」
「目的が判れば対応も打てるのにな」
「せやな。国としてなんぞ声明でも出してくれればのぅ」
「不気味だよね。裏で蠢いていそう」
「シャレにならんのぅ……」
「ヤツラは顔色が悪くて日の下に出て来ないくらいしか判断できない」
「あとスケルトンやらのアンデッドもヴァンパイアの国周辺にぎょーさんおるらしいで」
「ほう、ヴァンパイアだけじゃなかったのか。ますます厄介そうだな」
「周辺の人族の国は同盟を結んで対抗しとるって聞いたで」
「ただやられているだけじゃないのか。少しだけ安心した」
「どうなるのかしら……」
俺達は不気味なヴァンパイア達に恐怖する。
あぁ、こういうのが目的なのかも知れないな。
不安を煽り恐怖させるとか。
負の感情が必要だとか。
「イチルア王国でのヴァンパイア出現って話はないのん?」
「そうねぇ、今のところ聞いたことがないわね。ヨゼフどう?」
「斥候仲間達の口には上がってこなかったな」
「じゃあなさそうね」
カミッラはヨゼフの言葉に安心したようだ。
自分の国の事だもんな無理もない。
今回の事で失望したかも知れないが思い入れはあるようだ。
「俺は一度戦ってヴァンパイアの脅威を目の当たりにしたから、ヴァンパイアにも無関心でいられない」
「そうやな。ヴァンパイアの情報も調べものの一つにしていこか?」
「うん」
かっちゃんの発言で話が纏まった。
転落者の関わった歴史に秘密、召喚魔法、転移魔法、なっちゃんをエルフ領へ送り届ける事、そしてヴァンパイアの情報。これらが俺達の目的になった。
さて寝ようか。警戒はゴンタにお願いした。
わう
わふ
任せてーって顔だね。頼もしい。
お休みなさい。
誤字修正。