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接見

50


  徹夜で歩いたおかげで、ラマからかなり離れる事が出来た。

今は山際にあった大きな岩の陰で休憩中である。

かっちゃんから返してもらったマジックバッグから食料を出して、みんなで食べながら話をした。

かっちゃんが言うには、このペースで進めば二日で国境にいけるとの事。

海沿いの整った街道であれば今日中に着けたのにな、ともぼやいていたけどね。


 ラマの食事は美味しかったな。食材と調味料を買えなかったのが悔しい。

報復もできなかったし、大型ナイフも取られてしまった。

モヤモヤは残るが仕方ない。俺一人の都合で動くわけにもいくまい。

いつか報復しよう。心のメモ帳に書いておく。


「さすがに眠いで、ちょっと仮眠させてーな」


「うん。少し眠ろうか」


わう

わふ


「私は眠くないよー」


「なっちゃんは見張りを頼むよ。俺達を守ってくれ」


「頑張る!」


 なっちゃんは頼られたのが嬉しいのか、鼻息も荒く頑張るって言ってる。


(ゴンタは休みながらでも警戒できるよね?)

(わう)

(警戒よろしく)

(わう)


 こっそりゴンタにも頼んでおく。


「なっちゃん、魔力操作の訓練もしておくんやで?」」


「はーい」


 かっちゃんは、なっちゃんに宿題を出しているようだ。ずっと警戒じゃ飽きてしまうもんね。

岩の側で陰が出来ているので、そのまま横になって仮眠をとる。



 俺はユサユサと体が揺すられて眠りから覚めた。

特に何もないようだ。寝起き様に索敵をした。

体を起こし、固まっている筋肉と筋を伸ばす。


「おはよう」


「おはよーさん」


「おはよー」


わう

わふ


「敵じゃないよね?そろそろ移動?」


「せやで。そろそろ行こうや」


「あいよ」


 俺は横に置いてあった装備を装着して、出発の準備をする。

みんなの準備は整っているようだ。

夕方には、まだ時間があるね。

今夜も移動かな。


「出発しよう」


「しゅっぱーつ」


「はいな」


わう

わふ


 みんなで山際を歩き出す。


わうー

わう


 夕日になろうかと言う時間まで歩いた所でゴンタ達が警戒の声を上げた。

俺も瞑想して広範囲の索敵をする。

4人か……追手だろうな。

俺達の後方から俺達に向かって進んできている4人を察知した。


「4人が向かって来ている」


「せやな」


「かっちゃんは、なっちゃんと後衛を頼む」


「はいな」


「ゴンタとミナモは遊撃だ」


わうー

わふ


 戦闘準備をしておく。

どう考えても荒っぽい事にしかならなそうだ。

俺は盾と剣を構える。


 ガサリッっと草を踏み分けて姿を見せる4人。


「いたわね」


「何か用か?」


「ああ、おまえらが賞金首だろ?」


「だな」


 赤っぽい長髪のスラッとしたローブ姿の美女が一番に口を開いた。キツネ目でクールそうな雰囲気。杖も持っているから魔法使いかな。

そして賞金首扱いをしてくる2mを超えていそうな大男が2人……そっくりだな双子だろうか?男の双子なんてイラナイ。

女の前には地味そうな盾男がいる。


「えっ?違いますよ。賞金首なんかじゃありません」


「えっ!そうなのか?」


「そうなんですよ」


「なんだ、違うのか」


 双子の大男達は俺の戯言をすんなりと受け入れる……何この人達。


「バカ!そんな訳ないの。ケットシーもいるし男女一人ずつで人数もあっているわよ」


「そうなのか」


「おー」


 女が大男達に向かって説明する。

かっちゃんは黙って話を聞いている。ちょっと面白そうにしているね。

ここは誘導してみよう。


「いえいえ、違いますよ?俺は一人旅だったんですが、さっきこの方たちと出会いまして一緒に行こうと誘われたのです」


「なんだ」


「違うじゃねーか」


 うーん、逆に心配になるくらいだな。


「ええ違いますとも。さすが人を見る目がありますね」


「おぉ」


「そうだろそうだろ」


 俺は大男達を褒めてみた。見事に喜んでもらえている。


「バカバカ!ダンテ、フリオ、そんな訳ないわよ」


 女も頭が良さそうには見えないかも……。どう見ても魔法使いで頭が良さそうなんだけどなぁ。クールそうな外見の残念美女か。

そして何も話さない地味男。


「えー?ダンテさんも、フリオさんも頭は悪くないですよぉ」


「なんだ良い奴じゃねーか」


「判る奴には判るってもんだ」


「キィッ!バカー」


「バカって言う方がバカなんですよ?」


「そうだそうだ」


「なるほど」


 何だこいつらお笑い集団なのか……。

大男二人はカビーノとまではいかないが、かなり強いはず。

かわりに頭が悪そうだ。

女も挑発を受け流せない残念さだ。

そして地味男は不気味だ。


「あれ?ダンテとフリオって言えば昔よく遊んだよね?懐かしいなぁ、お母さんは元気かい?」


「そうなのか?うちのかーちゃんも知ってんのかよ」


「かーちゃんは元気だぞ?」


「そうですか、少し怖いお母さんだったよね」


「だろ?かーちゃん怖えよ」


「あー、そういえばお前と遊んだ気がするな」


 俺の適当な話術に乗ってくる二人。面白い。


「え?そうなの幼馴染って事?」


 女も話に乗って来た。ちょろいのか?


「そうですよ。彼らは昔から強くて有名でしたよ」


「そうとも!」


「おーい!ヨゼフ!こいつら賞金首じゃなかったぞ?」


 俺達の後方に向かって大声を上げる大男。

俺達は振り返って見たら、木の上に弓を構えている青年がいた。

俺達の誰も気が付かなかった。

危ねぇ!

かっちゃんも驚いている。

気配は感じられなかった。

ゴンタも反応しないって、なにかあるのか?

とにかく助かったのだろう。


「ダンテの旦那、そりゃねーですよ」


 ぼやきながら木からスルスル降りてくる青年。

俺達に近づきすぎないように大男達の元へ移動していった。


「だがよ、良い奴なんだよ」


「大丈夫だって」


 ダンテとフリオと呼ばれている大男達がヨゼフという青年を宥める。


「ダンテとフリオほど良い奴ではないよ」


「ほらな?こいつ良い奴なんだって」


「幼馴染だしな!」


 いやいやあんたらほど良い奴ではないですよ。命拾いしましたしね。


「なっちゃん、この二人は強くて有名なダンテとフリオだよー、ご挨拶」


 なっちゃんは物怖じしないし場を和ませてくれるはず!


「初めまして。私はなっちゃんだよー。だんちゃん、ふっちゃんよろしくね」


 なっちゃんはニコニコしながら挨拶してくれた。


「だんちゃん……」


「ふっちゃん……」


 いきなり愛称で呼ばれて挙動不審になる二人。なっちゃんは見た目カッコイイ感じの美女だからなギャップ萌えにやられたかね。


「なっちゃん!俺がだんちゃんだ。よろしくな」


 双子の片割れで右手に黒くてごっつい金棒を持った大男がなっちゃんに言う。


「なっちゃん!俺がふっちゃんだ。よろしくな」


 もう一人の大男は左手に同じような金棒を持っている。

利き手が違ってくれれば一応見分けられるかも。

なっちゃんの可愛らしさに陥落したっぽい大男の双子。

そして双子の後ろで何やら相談している女と青年。

地味男は参加していない。


(トシやるなぁ)

(いやぁ、逆に怖いよ)

(ホンマやで)

(どうなる事やら)

(でもアイツには気が付かんかったな)

(ああ、何者だろうね)

(大男はいいとして、女と青年とも話をしてみようか?)

(うーん、どうせ戦闘になる間柄や、やれるだけの事はやってみよか)


 俺とかっちゃんも、和やかに話をしているなっちゃん達の横で小声で相談する。

そして俺達は女と青年達と話せる場所まで近づく。

さすがに警戒されたが、かまわず話しかける。


「彼らは何かすごい人達ですね……」


「うぅ……脅威ですわ」


「参ったなぁ」


 俺の同情的な言葉に素直に返してくれる女と青年。


「うちはランク2のカッツォや、かっちゃんでええで。それからこいつがトシや」


「初めまして。トシです」


 俺はペコリと頭を下げて挨拶する。


「ああ、ご丁寧に。ヨゼフです」


「私はカミッラよ」


 彼らは俺達に毒気を抜かれたのか意表を突かれたのか、名乗り返してくれた。


「あんたら《殲滅の剣》ってクランのメンバーなん?」


「ええ。あなた達の討伐クエストを受けて来たのよ」


「参ったなぁ……」


「そうか。うちらはマレシラで冒険者ギルドのモンに因縁つけられてな」


「マレシラ?冒険者?」


「そうやねん。アレゾルアからマレシラに着いたらイチルアで冒険ギルドの仕事をしたかったら一人銀貨一枚づつ払え言われてなぁ」


「そんな決まりはないわよ」


 憤慨したように言うカミッラ。全てが腐っているわけでもないのかな?俺はかっちゃんの横で大人しく話を聞いている。


「うちがランク2やって判ったら逃げ出しよったんよ。で次の日に街道を歩いていたら40人弱で襲ってきよったんよ」


「40人も!」


「やるなぁ」


 カミッラは人数に驚き、ヨゼフは俺達が賊を倒してここにいるって事を賞賛している。


「それを返り討ちにしたんわ、本当や」


「それが今回の冒険者殺しって訳ね……」


「そのままそうですかとは言えないねぇ」


 カミッラは呆れたように話を受け入れているが、ヨゼフは納得していない。


「そうやろね。でもな騎士団にトシが真偽官を呼んで調べてくれ言うたら、そんな必要はない罪状は確定している。やってさ」


「……」


 ヨゼフも考え込んだ。

カミッラは顔を真っ赤にして怒っている。


「この国やラマでは、これが当たり前なん?がっかりしたで」


「そんな事無いわよ!」


「冒険者ギルドに今回の件について釈明にいったらギルドマスターに取り次いでもらえんどころか追い回されたで」


「あぅ……」


 ラマの冒険者としての矜持もあったのだろう。カミッラは目に見えて落ち込んでいる。

俺達の言葉だけだは何だが情報が足りないのは彼らも同じようだ。

上からの話がそのまま来ただけだったのだろう。

カミッラは俺達の話に表情をコロコロ変えている単純で良い奴っぽい。

カミッラはまともな冒険者なのかもしれないと俺は思った。


「トシは牢屋に入れられて尋問も飯も水も無しやったと言うとる」


「そのまま殺す気だったってのかぁ」


「酷い!」


「棒で殴られたり、牢屋で逃げ場がない所へファイアアローを撃たれたそうや」


「!?」


「マジかよ……」


「トシは気功術が使えるから半日かけてなんとか治療して逃げ出したんよ」


「……」


「……」


 さすがに青ざめている二人。特に魔法使いっぽいカミッラは真っ青だ。


「うちらも話し合いで解決したかったんやけど、国、都市、冒険者ギルドが信頼できなくなってもうて、逃げることにしたんよ……」


「ごめんなさい……」


「ええんよ。カミッラ達は詳しい事聞かされてないんやろ?今は話を聞いてくれているし問題あらへん」


「……」


 かっちゃんの慰めに涙を浮かべるカミッラ。ヨゼフも思う所があるのか悩ましい表情をしている。


「あんたらが真偽官を連れて調べてくれるなら、うちらは逃げたりせへんよ?」


「そうか」


 ヨゼフはかっちゃんの言葉を聞いて信じてくれる気になったのか、少しだけ顔色がよくなった。


「冒険者ギルドは本当に腐ってんのか?」


「……私は信じていたわ」


「俺は噂には聞いていた。だがギルドマスターは信頼できる人物だ。怪しいのはサブギルドマスターの一人だ」


「そうなの?私は聞いたことないわよ」


「斥候仲間達の噂話で出て来ただけだからな」


「そうなのね」


「国や都市、騎士団なんかはどうなん?」


「騎士団は全て信用ならない。国や都市については一部の暴走だと思う」


 ヨゼフは不本意だと思っているのか重い口調で話す。


「うちはケットシーとして世界を旅してまわっとるが、こんなに信用ならない所はなかったで」


 かっちゃんは厳しい言葉で彼らに言う。


「うちらはイチルアを出て行くだけやけど、あんたらはこのままでええんか?」


 かっちゃんの問に黙り込む二人。

地味男は横で話を聞いているものの、まったく反応が見えない。怖い。

ゴンタ達は俺の後ろで話を聞いている。

なっちゃんと大男二人は楽しそうに話をしているっぽい。精神年齢が同じなのかも。

なんとか戦闘を回避できるかもしれない。


「俺達も仲間で話をしたい。少し時間をくれ」


「はいな」


 ヨゼフが真剣そうな顔で時間をくれと言ってきた。

かっちゃんはすんなり返事をする。

かっちゃんに促されて彼らから遠ざかる。

なっちゃん達の所に混ざりに行く。


「ダンテ、フリオ、楽しそうだな。なっちゃんも喜んでいる。ありがとう」


「ああ、なっちゃんはいい子だぜ」


「おうとも」


「てれるー」


 ダンテとフリオの賞賛にクネクネと身を捩り恥ずかしそうにするなっちゃん。

狼蛮族の舞だな。


「ヨゼフとカミッラが二人と話がしたいってさ」


「おう」


「そうか。なっちゃんまたな」


「うん!」


 ずいぶん仲良しになったようだ。

なっちゃんに挨拶をして仲間達の元へ行くダンテとフリオ。


「なっちゃん、ダンテとフリオとも仲良しだね」


「そうなの。大きいけど良い人達なの!」


「そうだなぁ。戦いにならないで済むかも」


「えっ!戦うの?」


「彼らが選べばそうなるかもね」


「やだなぁ」


「彼らの話し合いが終わるのを待とうや」


 俺達は水を飲んだりしながら彼らの話し合いが終わるのを待つ。

いい結果になる事を祈って……。



「待たせたな」


 ヨゼフが代表して俺達に話しかけて来た。

どうなるかな……。


「ええよ」


「俺達も話し合った。あんたらが嘘を言っているようには感じなかった」


「ありがとう」


「ああ。だがそのまま行かせる訳にもいかない」


 俺はヨゼフの言葉を受けて、戦闘体制を整える。


「警戒しないでくれ、戦うつもりはない。あんたらはバッキン教国へ行くんだろう?俺達も着いて行って真偽を明らかにさせてもらいたい」


 俺とかっちゃんは顔を見合わせる。

俺は頷いた。


「ええで。あんたら真っ直ぐなモンで良かったわ。話し合いが出来るもんな」


「冒険者ギルドの対応を見ていたわけではないが、すまん」


「それは真偽をはっきりさせてからにしようや」


「ありがとう」


 ヨゼフもカミッラも表情が明るくなっている。なにか吹っ切れたのだろうか?ありがたい。


「ほんなら一緒にバッキン教国へ向かうとして、早速移動しよか?」


「おう。一緒に行こうな、なっちゃん!」


「行こうぜ、なっちゃん!」


 かっちゃんの言葉に返答するダンテとフリオ。


「いこー!」


 なっちゃんは満面の笑顔で返す。

追手がこいつらで良かった。

話が通じるってのは、ありがたいものだ。

少しだけイチルアへの嫌悪感が減ったね。不思議なものだ。


 そして俺達とヨゼフ達は出発した。

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