騒動
48
わうわうー
わふー
「ゴンタ!?……なんやて!?」
ゴンッ!かっちゃんの拳骨により荒々しく起こされる俺。
「トシ!ゴンタが逃げろって言うとる!宿に人が大勢集まってきてるそうや。トシも索敵してみぃ」
寝起き様に言われて、少し混乱した。
かっちゃんの言う通りに俺は気配察知を行う……50人近くいるじゃないか!?何だってんだ。
階段を上がってきている気配もある、時間が無い!
「確かに50人近い数いる!もう階段まで来ている。よく解らないけど逃げよう」
「窓から外を見たけど下の道の辺りにも人がおる」
「かっちゃんとなっちゃんなら、その窓から屋根に逃げられる。逃げて状況確認と対策を頼む!俺はこのまま対応してみる。」
窓は俺の体格では出れそうにないので、かっちゃん達だけ逃げるように言う。
「……解った無茶しちゃいかんよ」
「俺の荷物も頼むよ。大型ナイフだけ装備しとく」
「大人しく対応しとき。ほな行くわ、なっちゃん行くで」
かっちゃんとなっちゃんは窓から出て飛び上がり屋根に掴まり上がっていく。
かっちゃんは身軽で体格以上に力はある。なっちゃんは中身はアレだが、身体能力は高いので、かっちゃんのマネをしてスルスル登っていったようだ。
後はなんとかしてくれるだろう。
賊関係かな?都市の中なので違うか。
なんだってんだ。
ノックもなく部屋の扉が開かれた。鍵も問題なく開けて入ってきやがった。宿もグルなのか?
「起きているな。おとなしくしろ」
「こんな夜更けに何の用だい?」
驚いたことに、侵入者は揃いの胸当てを着けた兵士だった。騎士団かな。
俺は困惑する。こんな事をされる覚えは無い。
「ん?女がいない!外に伝えろ」
俺に話しかけて来た隊長らしき金髪で長髪な青年が配下に言う。
なっちゃん達の事も把握しているのか……何だろう。
配下は階下へ駆け出して行った。
「お前を殺人の罪で逮捕に来た。暴れても無駄だぞ?宿は完全に包囲されている」
「殺人?何の話ですか?」
「市民を襲って殺した事は解っている」
「賊に襲われて返り討ちにはしましたが、一般市民に手を出したりはしていませんよ?」
「ふん……いいから城まで来い」
「行くのはかまいませんが、真偽官を付けて調べてくださいね」
「……いいから来い」
整った顔を厭らしく歪ませて来いと言う隊長。真偽官を付けてまともに調べる気はないかもしれない。
どうする……。
外でピィィィっと笛が鳴らされた。かっちゃん達が見つかったのかな、ヤバイ。
隊長は配下に合図した。
そして俺は縄で配下達3人に拘束された。
大型ナイフも没収される。
「真偽も明らかになっていないのに、縄とは酷いもんですね」
俺は隊長に抗議する。ドガッ、腹に拳で答えやがった。しゃべり終えた所だったので結構堪える。
ガハッっと息を吐き出す俺。この野郎……。
胴にも縄を巻かれ引っ張って宿を連れ出された。
宿の主が階下にいた。心配そうな表情をしている、何の心配をしているかは判ったものではないが。
かっちゃん達は大丈夫かな。俺は無事を祈る。
まだ日が変わったばかりの時間なので辺りは暗い。
野次馬がいないのだけが救いか。
しかし賊関係なんだろうけど、どういう事だろうか?賊と都市が繋がっている?嘘で訴え出た?判らん……。
考えて歩いていると、兵士から棒で叩かれた。寝起きで防具なんてつけていないから痛い。
頑丈な俺でも痛いんだから、手加減なんてしていないなコイツめ。
酷い扱いだ、ちゃんと調べて裁くつもりはなさそうだ。
暗い未来が頭に浮かぶ。なんてこったい。
連れていかれた先は城の牢だった。
異世界で初の登城がこれだなんて夢がなさすぎる。
そこは王様や姫様との会談にしておけってんだ。
鉄格子と石造りのジメジメした感じの小部屋だ。
窓もないので息苦しい気がする。
便所の代わりなのか壺が一つ置いてあるだけでベッドすらない。
縄は牢屋に入れられる前にほどかれたが、手首に縄の後がきっちり付いている。
棒で顔も殴られたので口の中に血の味がしている。
必ず仕返しをしてやる……。
大型ナイフは没収されたが、状況しだいで錬成で牢屋を抜けるのは訳ないからな。
防具は寝る前に脱いでいるのでマジックバッグの中だ。
なんとかできる力があるので、まだ心に余裕があるかもしれない。
夜だから尋問をしないのかな?このまま処分するから必要ないってのだったら不味いな。
情報が足りなさ過ぎて判断できない。
尋問でもしてくれるのなら相手の狙いもある程度判るんだけどな。
石の壁に寄りかかりながら今回の事を考える。
なんの動きもないようなので、俺は考えることをやめて眠った。
「起きろっ!」
ガィンと棒で鉄格子を叩いて起こされた。
イタタ、石の床で寝たので体が痛い。俺は寝ぼけ眼を擦りながら起きた。
何時か判らないが頭はすっきりしている。
昨日の隊長に起こされたようだ。
「おはようございます」
「お前の仲間たちは、どこへ行った?」
「知りませんよ。ラマへは昨日初めて来ましたし、見当も付きませんよ」
「ちっ」
「それより真偽官を含めて尋問をしてくださいよ」
「罪状は確定している。そんな必要はない」
「この都市は腐ってんな。それとも国まるごとクズなのか?」
俺は我慢できずに思ったことを、そのまま言ってしまった。
隊長は、それを聞いて無表情ながら顔を赤くしている。
「やれ」
隊長は一緒に来ていた文官っぽい人に何か指図をした。
「火の精霊よ我が敵に火の矢を与えたまえ……」
マジかよっ!?
「ファイアアロー!」
バズッ!ぐっ……。
攻撃魔法を撃ってきやがった、ありえねぇだろ。
腕を交差させ左腕で体を守った。
魔法を受けた左腕が酷い事になっている。
一部の皮膚が黒くなった。炭化しているんじゃないだろうな……。
「グゥゥゥ」
俺は這いつくばって呻き声を上げた。
「ふんっ。馬鹿めが」
俺の有様に満足したのか、魔法使いや兵士達と去っていった。
頭に来て挑発したのは後悔していないが、よもや魔法を撃ってくるとは思わなかったぜ。
治療をする気も無しか。
ヤル気満々じゃねーの。
隊長らに憎しみを募らせながら、腕に気を集中させ治療に入る。
リッチの時より酷そうだ。
至近距離だったからか?
この恨み晴らさで置くべきか……。
アイツラの顔は覚えたぜ。
生きてココを出られたら目にものを見せてやる。
朝飯も昼飯も出なかった。そして朝以来、誰も来なかった。
飯はある程度我慢できるが、水が無いのが厳しい。
ジメジメしている牢屋で昼の暑さが加わり一時は意識が朦朧としていた。
夕方になるまで脂汗を流しながら治療に専念した。
夜遅くまでには治療が終わるといいが……。
日中の牢屋の酷さに辟易とした俺は、体力の消耗具合を見て脱獄を決めた。
水も食料もなく、暑さで体力を奪われいていくので倒れるのも時間の問題だと考えたからだ。
逃げるのは深夜と決める。
指や腕を動かすと痛みが走るが、なんとか我慢できるレベルまで持ってこれた。
石の壁に耳を付けるとある程度外の声音が響いてくるので、それを目安に深夜を待つ。
そろそろいいかな。
音が聞こえなくなって結構たった。
この牢屋は一階のはずだから石の壁さえ抜ければ外へでられるんじゃないかな。
「錬成」
俺は石の壁に向かって錬成を掛け穴を空ける。
よし、壁は1mくらいの厚さがあったが向う側は外のようだ。
武器も欲しいな、鉄格子からナイフを作っておこう。
敵の物だから気楽なもんだ。鉄格子全て頂いておいた、明日見て驚きやがれ。
それから気配を察知しながら、外へ出た。
暑さの引いた爽やかな空気が美味い。
石の壁は再び錬成で塞いでおく。
この力のおかげで命拾いしたな。
辺りは暗くて見えにくいが城の裏手のようだ。
急いで逃げ道を探しながら移動を開始した。
歩哨もいたが気功術が使えないのか、こちらを気にした様子は無かった。
城を覆っていた石壁も錬成で抜け、町へ戻った。
気配察知を使いながら人に会わないように泊まっていた宿へ向かう。
夜に出歩いているヤツは俺くらいだね。
問題も無く宿へ着いた。
厩舎を覗いたがゴンタ達はいなかった。
それはそうだろうね。いたら城へ連れていかれているだろう。
隊長は誰も捕まえてはいないように見えた。
きっと逃げていてくれているだろう。
宿の外から俺達がいた部屋を気配察知で調べるが誰もいないようだ。
いるはずはないと思いつつも、調べに来てしまった。
今度会えたら緊急時の対応や待ち合わせ場所も決めておこう。そう心に誓った。
金は無いしマジックバッグも無い、魔物さえいれば食べる事には困らないのにな。
宿の裏手にある井戸で水だけは飲んだ。
さて、かっちゃん達はどこにいるのだろうか。
ギルドへ行ってみるか。
門の側にある冒険者ギルドへ向かう。
気配を消すのが上手くなったよ。忍び足もいい感じだ、忍者になれるかもしれませんね。
冒険者ギルドへ着いた。
さすがに深夜には営業していないようだな。場所にもよるのかもしれないけど。
建物に寄りかかり、内部を気配察知で伺う。
かっちゃんはいねがー。なっちゃんはいねがー。
はい、いませんね。
もう探す場所に心当たりがありません。
参ったな。
一日だけ冒険者ギルドを張っていよう。
かっちゃん達の気配を掴めなかったらバッキン教国へ行ってしまおうか。
どちらにせよ、この国には居られない。
なっちゃんがいるのであればエルフ領へ向かうのは解っているしな。
ヒミコの国でこそ調べものをするつもりだったし、そうしよう。
会えなかったときに、俺がラマにはいないことを、かっちゃん達に伝える方法はないかな……。
考えてみるが妙案は思い浮かばない。
信用できる人もラマにはいないしなぁ。参った。
いっそ城の壁にバッキン教国へ行くことを掘ってやるか。
いやいや落ち着け俺。城からの追撃はいらない。
成り行きにまかせるか。
そう決めた俺は冒険者ギルドの修練場があるグラウンドへ行き、建物の側にある大きな木に登って身を隠す。
近いし見つからないだろう。
あ、水だけは欲しいな。
木を錬成してボトルを作り井戸から水を汲んで持った。
城も動きもどうなるか判らないが、全ては明日になって決めよう。
そう思って眠りに着いた。