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残酷な描写あり。苦手な方は飛ばしてください。

44


 俺達は現在、賊に襲われている。

見える限りで30人以上の賊がいると思われる。

昨日の港で絡んで来たヤツらが仲間を集めて来たようで、髭面の男もいた。


「ぎゃっはっは、俺らを馬鹿にしたんだから仕方ねーよなぁ」


 髭面の男は後ろの方でニヤニヤしながら大声で言う。


 なんでこうなったかなぁ……。

朝も早めに出発して東へ移動していた俺達だったが、待ち伏せされていたのだ。

そして後ろからも挟撃の部隊が来てしまった。

こいつら、この辺りの地理に詳しいんだろうな。馬でも動ける範囲の予想ができていたようだ。

そんな頭があるなら、小賢しい悪さなんぞしないで冒険者として頑張ればいいのに。


 パーティ単位で襲撃してきているようで、一人で突出してこないから段々逃げ場がなくなり包囲されて今に至る。

森の中にもいるようだし、街道の奥に騎馬の部隊も見える。

さすがに逃げられないか。

こんなに大勢いるがやれるか?いややるしかない!


「コイツ強いぞ、気が並じゃねぇ!迂闊に突っ込むんじゃねぇぞ」


「えっ、あの男がですかい?」


「ああ」


「ケットシーはランク1間近とか言ってやがったが、あいつも強いのかよ」


 髭面の男の横に立っている大剣持ちの灰色短髪でガタイのいいオヤジが俺の事を見てそう言った。

雑魚ばかりかと思ったら面倒そうなのも混じってやがる……。

髭面は少し驚いた顔をしてる。

舐められてるなぁ。かっちゃんの威を借りた俺が言うのもなんだけどさ。


「ウォーターボール!」


 髭面の男の側にいたローブ姿のインテリそうな若い男から魔法が飛んできた。

後ろになっちゃん達もいるので盾で抑える。

ズンッと手に衝撃が伝わって来る。

わりと威力あるんだな。普通のパンチよりは効きそうだ。

ビュッっと横から矢が飛んでくる。

かっちゃんがなっちゃんを引き寄せ守ってくれたようだ。

ヤロウ……じわじわ遠くから仕留めようってのか!しかもなっちゃんを狙いやがって、美女の卵になんて事しやがる!

あったまきた。


「かっちゃん!なっちゃんとバクシンオーに乗って攪乱しつつ広い所で戦ってて」


「はいな」


「ゴンタは遊撃でガンガン倒せ。ミナモにはかっちゃん達と離れすぎないで戦ってくれるように言ってくれ」


わうー

わふ


「こんな所で死ぬつもりはないから、あいつらをヤル」


「大剣の男は、こっちの力を測れるくらいの力は持っとるから気ぃつけや」


「おう」


 ざっと打ち合わせて行動に出る。

かっちゃんも、なっちゃんも魔法を撃って道をこじ開けた。

あとはバクシンオーの足があるから危険は少ないだろう。

ゴンタも森を経由して次々襲いだした。頼りになります。

一番危ないのは俺なんだろう。後ろも気にしないといけないな。

矢が次々飛び込んでくる。

矢は人と違って気配がないので目視で対処していくしか方法がない。

俺が距離を詰めると相手は下がる。そして後ろや横から矢が飛んでくる。

盾があるので矢を防ぐのは難しくない。

やばそうなのは大剣の男と、ローブの魔法男だ。


 大き目の木を背後にして陣取る。

後ろをある程度気にしなくてすむだろう。

俺が無理に突っ込んで倒していく必要もない。

俺が大剣の男と魔法の男を引き付けてさえおけば、かっちゃんとゴンタが敵の数を減らしてくれるだろう。

実際に、かなりのペースで倒しているようだ。見てないが気配が減ってきている。


「お、おい!あの狼達も強いぞ!」


「ヤバイ」


「どうするよ?」


 減っていく仲間を見て動揺しだす賊ども。

お前らが仕掛けたんだからな?責任は取ってもらう。


「ちっ、仕方ねぇ」


 大剣の男が肩に担いでいた剣を構えて、俺に向かって歩き出した。

あっちから来てくれるなら、それはそれでいいさ。

カビーノほどの脅威は感じられない。

なんとかなるだろう。

俺が考えている間にも矢は飛んでくるが盾で叩き落としている。

髭面の男も剣を持って大剣の男に並んで向かってくる。

やる時はやるのかね。口ばっかりなのかと思ってたよ。

魔法の男も含めて6人ほどが俺に近づいてくる。

一度に相手にするには数が多いな。


「てめぇ!俺達は《闘族》メンバーであるアイヴィンの旦那の身内だぞ」


「あ?知らねーよ」


「何ぃ!?」


「どこのどなた様か知らないが、知らねーもんを怖がりようがねぇ」


 髭面……さっき少し見直した俺に謝れ!


 魔法と矢がバンバン飛んで来ている。

やはり盾を買ってよかった。

軽くはないが良い仕事が出来る。

しかし遠隔攻撃は俺も欲しいな。


 ウォーターボールを盾で防いだのと同時に大剣の男が横殴りの一撃とともに踏み込んで来た!

速い!がヴァンパイアとは比べるべくもない速さだ。十分対応できる。

ガギィッと盾で受け止める。

ハルバード男との激戦は俺に自信を与えてくれているな。

俺は剣で応戦するが躱された。にゃろめ。

髭面も俺が剣を振ったのに合わせて右腕を狙ってきた。

左にステップして躱す。

辺りに木がなく四方から狙える場所に引きずり出されてしまったな。

やるじゃねぇか、髭面。


 バシュッ!ステップした先に槍が繰り出されたが、かろうじて躱せた。

騎馬兵の突撃であった。乱戦ぎみなので気配を読み切れていなかった。

この辺りは経験不足が露呈している。

体勢を崩した俺に向かって大剣が振り下ろされる!

ガギィンと辺りに金属音が響き渡った。

剣の練習も続けているんだよ!カビーノにぶっ叩かれていた経験も無駄じゃない。

剣で受け止める事に成功した。

力は俺の方が上のようで、大剣相手でも凌げた。


「ウォォォォォッ!」


 俺は気合の声を上げ制限突破を発動させる。

大きな声は出さなくても発動できるが、気分の問題である。

俺に力負けして驚いている大剣の男に向かって1歩踏み込み右斜め下から掬い上げるように『気功斬』を放つ。

バシュッと手に嫌な感触が伝わってくる。

大剣の男の胴防具を傷つけ、更に右腕を切り飛ばした。

大剣と腕が無くなった男は逃げずに俺の足めがけてタックルしてきた!

逃げないのかよっ!

低い体勢の男に蹴りを合わせた。グシャッ、また嫌な反応が伝わる。

顔が見られないほど潰れた……。

俺の足元へ転がった男の首へ止めを刺す。


 大剣の男が倒れた事により慌てて逃げようとする魔法の男へ追いすがり背後から切る。

髭面や周りにいたヤツらも逃げ出した。

髭面は俺がヤルか。


「ひやぁあ」


 みっともない声を上げ俺から遠ざかろうとする髭面。


「最後くらい、正面からかかってこいよ」


「か、勘弁してくれ。頼むよ」


「襲って来たんだ、返り討ちに会うのも覚悟の上だろ?」


「ちがっ……違うんだ。これは手違いで……」


 俺は髭面の言葉を遮り剣を振るう。

ザシュッ。髭面の首が飛んだ。血が噴き出す。


 辺りを見回すと離れた所で、かっちゃん達が騎馬兵を追撃しているのが見えた。

ゴンタも森の中で残党狩りに入ったようだ。

終わりかな……。


 俺は剣を鞘に納め、自分の手を見た。

ああ、やっちまったな。

俺から戦いを挑んだわけではないが、遂にやっちまったと言う感じだ。

初めて魔物を倒したときから、いつかこういう時がくるだろうと思っていた。

嫌な感触だった。これに慣れる事なんてなさそうだ。

今後も俺から襲うことは無いと思うが、相手の出方次第でやり返す事は当然あるだろうな。

暗い感情が俺を覆うが、仲間が傷つけられるよりいいと考えた。

かっちゃんやカビーノ達も、こんな思いをしたのだろう。

異世界の冒険は楽しいが、嫌な経験も着いて回るものだな。

苦々しく思う。


「終わったようやな」


「かっちゃん……」


「世の中こんなもんや」


「そうか」


 しばらくたってから、かっちゃん達のほうも始末が着いたのかバクシンオーを連れて戻って来た。

なにやら荷物もいっぱい増えているね。

戦利品か……。

あいつらの物なんてーと言いたいが、物に恨みはない。

頂ける物は頂ますとも。

かっちゃんの指導により金目の物を取っていく。

人にも魔石があると初めて知ったよ。

魔力があれば全ての生き物にあるそうだ。


 ゴンタも帰って来たので案内してもらって戦利品を取っていく。

金自体は少なく40人弱から白金貨1枚程度でした。

防具は皮の鎧ばかりで取る価値はなかったが、大剣と2本の槍、弓でいい物があった。矢もかなりの数を回収した。

弓矢の練習もしてみようかな。

マジックウェポンではないけど良品みたいだ。

マジックアイテムの類は腕輪が一つだけあった。

そのうち鑑定してもらおう。

次々とバクシンオーの鞄に放り込む。槍はマジックバッグに納めた。


 あと馬が15頭と馬車が2台あった。


「馬は次の町で売ろうや。草を食べさせておけばいいから楽なもんやで」


「馬車はどうするべき?」


「荷台に棒を立てて布かぶせただけやしなぁ、取れる素材だけ取っていこか」


「あいよ」


「たぶん3日くらいで町へ着くやろ」


「美味い物ー」


わうー

わふ


 あ……ゴンタもミナモも血まみれだった。

洗ってあげよう。


「ゴンタ、ミナモ、毛並が血で汚れているから水で洗おう」


わう


 ゴンタは俺との生活で水で洗うのには慣れているが、ミナモはそんなの気にしなーいって感じで土の上でゴロゴロ転がっている。

まぁゴンタだけでもいいか。ジャバジャバ水を掛けてやり、馬車から取った布で擦ってやる。

洗った後でゴンタはブルブルと水を飛ばしている。

なっちゃんがキャーと楽しげに水から逃げている。

なっちゃんは、かっちゃんと一緒に戦っていたが戦闘に忌避感がないようだ。どういう環境にいたんだかな。

よく判らんね、この世界の常識なのかもしれんけど。


 昼飯を食べ休憩した後で、馬達も連れて街道を東へ進んだ。

バクシンオーの上で馬達をロープで引っ張るかっちゃん。

馬はかっちゃんの言うことを聞いておとなしく引っ張られている。

かっちゃんが馬に、俺を乗せてやってくれと頼んでくれたので俺でも馬に乗れている。

思ったより馬の上って高いんだな。

おっかなびっくり乗せてもらっている。

隣でかっちゃんが並走して馬の乗り方を教えてくれた。

次第にコツがつかめて来た。

高速移動は無理だが歩かせるだけならなんとかなるな。


 そういや他の馬車とか商人とか見かけなかったな。

これだけの街道なら行き来が多そうなもんだけどな。


 進行方向へ延びる影を見ながら、そんな事を思っていた。

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