進路
42
「おう、おはよう」
「おはよう」
今朝もカビーノ達のほうが早く朝飯を食べていた。そしてハル達はまだ寝ているもよう姿が見えない。
俺達も店員に朝飯を頼む。そういや卵は見かけないな、鶏みたいなのはいないのか?食生活の幅が狭くなる。
「ほれ」
カビーノがサイドバッグを投げてよこしてきた。
「これってマジックバッグ?」
「おう、約束の品だ。あんまり大きくないが、魔法屋にはそれしか売っていなかった」
「ありがとう。助かる」
これはなっちゃんにでも持っていてもらうか、かっちゃんもリュックがあるしゴンタ達は動きずらくなるかもだしな。
店員が持ってきてくれた朝飯は昨日と同じですな。俺達も食べる。
ホルとオルも起きて来た、席に着いて朝飯を店員に頼んでいる。
オルはまだ眠そうだ。
「ヴァンパイアの続報だ。昨夜遅くにヴァンパイア達が強行突破を図り戦闘になったそうだ」
「やはり夜に動いたんだね」
「ああ、夜はヤツラの時間だからな。ヴァンパイア男のほうは騎士団の副団長に打ち取られた。ヴァンパイア女のほうは例の酒場にいた3人組の中の女が倒した」
「すごいな仕留めたのか」
「その代償が騎士団の20名近い死傷者と兵士は50名ほどの被害だったらしい。冒険者も10名ほど怪我人が出た」
「そうか……」
夜にアイツらの相手をしたのでは無理もない、凄まじい被害だな。
「ここの騎士団は100名ほどらしいから大きい被害だな」
「そうっすね」
「常駐の兵も多くないしな、しばらく大変だろう」
カビーノにキニートとオクタが返事をする。
「協力者ってのがいるかも知れないが、ひとまず安心だね」
「おう、俺達もダンジョンに集中できるぜ」
「また潜るんだ?」
「そのために来てるからな」
「俺達はどうしようか?かっちゃん」
カビーノ達はまたダンジョンに潜るらしい、俺はしばらくゴメンだな。みんなタフだねぇ。
今後の予定をかっちゃんと相談する。
「トシがダンジョンの経験は、もうええっちゅうんなら船でイチルア王国とバッキン教国に行こうや」
「そうだなダンジョンは十分かも」
「えらいめにあったしなぁ」
「うん。カビーノ達と別れるのは寂しいけど船で出ようか」
「はいな」
カビーノ達とは死線を超えて来た仲だし名残惜しくもある。しかし彼らには彼らの都合がある。俺達のやりたいこととは違う。
転落の原因を調べたいし、新しい国や町も見たいしね。
その先のエルフ領になっちゃんも送り届けないといけないしな。
「トシ達、アレゾルアを出ちゃうのね」
「ゴンタも……むぅ」
「なんだかんだで忙しい付き合いだったな」
「そうっすね、荒事が多かったっす」
「そうだな」
カビーノ達が俺達の予定に反応してくれる。ホルは仕方ないわねって所か、オルはゴンタ中心やのぅ、カビーノとキニート、オクタは感想だな。
「寂しくなるわね」
「うん……」
「どこへいっても、お前らなら生きていけそうだ」
「出会いと別れは付き物だ、またどこかで会う事もあるさ。元気でやれよ」
嬉しい事を言ってくれるな。冒険者の先輩からの言葉だ、ありがたく受け止めよう。
「俺達も寂しいが俺達も冒険者だ。先へ進むよ」
「そうやで、それが冒険者っちゅうもんや」
「おう、そうだな」
かっちゃんとカビーノが誇らしげに言う。
「イチルア王国ってどんな国?」
「あそこは魔物がほとんど駆逐されていて冒険者は墓場ダンジョンくらいしか旨みがないな」
「ほー」
「周囲は海だし、隣接している国はバッキン教国とエルフ領だけだしね、安全な国よ」
「すごいね」
「魔物は怖くないかもだが人が怖いぞ?」
「人?」
「ああ、安全な所と言うのは人が団結しにくく、格差が広がりやすい」
「なるほど」
オクタとホルがイチルア王国に付いて教えてくれる。なんだか面白そうな国ではなさそう。
「貴族には気を付けろよ?かっちゃんがランク2で男爵扱いとは言ってもな」
「ギルド方面ではクランつってパーティが寄り集まってるんだが、変なクランが力を持ってるって話だ」
カビーノとオクタが注意事項を言ってくれた。貴族か面倒そう。
「貴族かぁ、厄介そうな国だね」
「食べ物は美味しいで?魚介類にチーズやオリーブ油辺りが評判ええな」
うぅ……行く気が削がれていたのに興味を引くものがー!
「よしっ美味しい物を食べたらバッキン教国へ急ごうか!」
「にひひ」
「いつ行くんだ?」
「かっちゃん、明日の朝の船でいいかな?」
「食料の類はあるし、ええんちゃう?」
「明日出発ね」
「はいな」
「それじゃー今晩はお別れの宴ね」
「うん……」
「飲むか」
「うっす」
「だな」
予定が決まった。今日やる事は船の手配ぐらいだな。
後はゴンタ達と外へ遊びに行こうかな。
ピクニック気分で散歩だ。
町で不自由をさせていたからね。
「じゃあ船の手配に行ってくるよ。宴会は夕方からでいいのかな?」
「おう」
カビーノ達に告げて席を立つ。
「かっちゃん、ゴンタ達を連れて船の手配が終わったら外へ遊びに行こうか?」
「ええな。ゴンタ達も喜ぶでー」
「じゃあ行こうか」
ゴンタ達と合流して港へ向かう。この後に外へ遊びに行くとゴンタ達に伝えてもらったので、彼らは大喜びだ。
尻尾が千切れそうですよ?早く早くーって顔だ。
アレゾルアは都市と港が近いので、明日の船の手配はすぐ終わった。
早朝アレゾルア発でイチルア王国のマレシラと言う交易の拠点となる港へ夕方過ぎには着くそうだ。
割と近いんだな。
全員で金貨1枚でした。
かっちゃんが半日と聞いてホッとしている。そんなに船が嫌なのか……。
城壁を出て大森林へ向かう。
大森林はかなり広い。全て回った人がいないから広さが判らないそうだ。
なっちゃんも魔法が使えるようになったとの事で戦闘訓練もしてみたい。
旅をする上で自衛手段は必要だ。
とくになっちゃんは外見はすらっとした長髪美女なのでトラブルが多くなりそうだ。
かっちゃんは全員と意志の疎通が出来るので戦闘指揮はお願いしてある。
ゴンタとミナモが斥候兼遊撃、俺が前衛でかっちゃんとなっちゃんが後衛だ。
この人数では、なかなかいいバランスなのではないかな。
わうー
わふ
ゴンタ達が楽しそうに森を駆け巡る。
時折ゴブリンや猪を引っ張ってきてくれる。
かっちゃんが、なっちゃんに魔法の見本を見せてから実践させている。
かっちゃんが水と土、なっちゃんが風と水なので教え安いとの事。
「風の精霊よ我が敵に風の刃を与えたまえ!ウインドスラッシュ!」
かっちゃんの指導の元、なっちゃんがゴブリンを風の魔法で仕留める。
いいな魔法……。
なっちゃんのウインドスラッシュはオルと比べても遜色がない。
やはりエルフは特別なのであろうか。
かっちゃんも満足そうにしている。
猪の魔物はホーンボアといい原付くらいの大きさで額に角が1本生えていた。
突進が武器だが直線的なので怖くない。ヴァンパイアの後だしなぁ。
美味しいそうなのでジャーキーになってもらう。
新しいマジックバッグに詰めてなっちゃんに持ってもらう。
なっちゃんは嬉しそうに腰に巻き付けて止めている。手ぶらで寂しかったのかな?
おやつに蜂蜜パンを齧り、休憩した後で宿へと戻る。
ゴンタとミナモ、なっちゃんは満足そうにしている。森で過ごすのは楽しいようです。
エルフも森や植物の中で生活するのが一般的だとか、ゴンタ達と気が合いそうですね。
大森林とアヘルカ連合国ともお別れだな、少し感傷的になる俺であった。
ギルドで魔石と素材の換金をしてから宿へ向かう。
宿にはカビーノ達が待っていた。
「トシ達一行に旅行神の加護を、乾杯」
「「「「乾杯」」」」
カビーノの挨拶で宴会が始まった。酒と食料を買い込んで部屋で飲んでいる。
ゴンタ達と戯れながら食べたいとオルが言ったからである。
ホルはオルに甘いので了承して現在へ至る。
「旅の無事を祈っているわ」
「ゴンタ……」
わう
「ありがとう。《赤い旋風》一行のダンジョンでの無事を祈ってるよ」
「ああ、無理はしねぇさ」
「もちろんっす。やりたいことはいっぱいあるっす」
「だな」
宴会は深夜まで続いた。楽しい時間は過ぎるのが早い。
かっちゃんに続き、いい人達に出会えたものだとしみじみ思った。
「俺達は早朝の船便だから、見送りはいいよ」
「せやな」
「そうか、俺達も明日からダンジョンへ潜るぜ」
「そうっす」
「早く盾を試したい」
「杖を……」
「オルも楽しみなのね」
「またいつか会おう!カビーノ、オクタ、キニート、ホル、オル今までありがとう」
「楽しかったで」
「おう、また会おう」
「また会うっす」
「元気でな」
「トシ、かっちゃん、なっちゃんをよろしくね」
「ゴンタまたね……」
わう
みんなで別れを惜しむ。なっちゃんはホルにギュッと抱き付いている。
明日の今頃にはイチルア王国か……不安もあるが楽しみである。
転落の真相にも近づきたいものだ。