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楽しい一日

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「いいてんきー」


「まだ日も高いし風も気持ちいいなー」


「せやな。ゴンタも嬉しそうやねー」


わう!



 手で庇を作って空を見上げながらいい天気だと言うなっちゃん。

なっちゃんは俺の手を握って嬉しそうにブンブン振り回している。

リオンは花ちゃんに預けて来ている。

花ちゃんありがとう。

なっちゃんの横を歩くかっちゃんも空を見上げてから前をテテテッと走るゴンタを見て言う。

そのゴンタは俺達を振り返って嬉しそうに吠えた。

昔移動していた時に馬がいない時は、こうして歩いたもんだ。

なんだかすごく前な気がする。

懐かしいかも。



「この先に木のない場所がひろがってるのー」


「ああ、草原っぽくなってたな」


「岩や雑草、灌木くらいしかない場所やね。川も池もないから植物が少ないんや」


わう



 島を探索した時に来ている。

特に変わった所のない場所だ。

草原が広がっているから気持ちいい場所ではある。

うちの馬達も農地での作業がないときはよく来ているそうだ。

馬は村長に貸し出している。

力持ちで村の人達に人気だ。

子供達にもね。



「ついたー」


「ついたねー」


「変わった所はなさそうやな。安全やね」


わう


「よし!まずは草の生えている所をひっくり返して土を出そうか」


「うん!」


「トシの出番やな。なっちゃんこっちで見てようや」


「はーい。ゴンタもいこー」


わう!



 木々の間を抜けると辺り一面見渡せる草原になった。

目的地である。

散歩も兼ねて来たが目的はお米の栽培、収穫である。

かっちゃんが木陰を指してなっちゃんに声をかける。

なっちゃんもゴンタに声をかける。

ゴンタは嬉しそうになっちゃんの足元をうろちょろしている。

俺も混ざりたいが、これから仕事であーる。


 大地操作の力。

炎竜を一人で倒したため肉体強度が人間離れしてしまったが、それを大きく上回る力。

俺一人でも軍勢と戦えてしまうほどの力だ。

世界樹からもらった二つの力のうちの一つ。

もう一つに力にも大変お世話になっている。

世界樹に蓄えられている情報を閲覧できる力だ。

もうこれなしでは生きていけないほど使っている。

毎朝、俺の関係者付近の情報を見ている。

後、強者の動きなんかも追っている。

いつ絡むとも知れないからね。



「いっくぞー!おりゃー!」



 大地操作の力で目の前の草原をひっくり返す。

結果としては耕すに近いかな。

緑や薄茶色が消え濃いめの茶色に変わる。

若干湿り気を帯びた土が顔を出したのだ。

水場があれば農地にしても問題ないと思う。

村に人が増えたら湖から用水路を引いて農地にするのもアリだな。

俺達も含めて百名ほどなので遠い未来の話ではあるが……。



「トシちゃんすごーい!」


わう!


「かっちゃん、凄いね!」


「いつ見ても凄いなぁ」


わう



 うむ。

なっちゃんにウケている。

いいぞー。

気分良し。

俺は褒められて伸びる子なのだ。

ゴンタからも褒められている気がする。

よしよし。

かっちゃんは若干呆れている気がする。

でも言葉は褒めてくれている。

まぁ、一瞬でかなりの面積を耕したしな。

さすが俺!

むふふ。



「さて稲を村から引き寄せるよ」


「はーい」


「便利やなぁ」


わう



 稲は村に植えて水をやっておいた。

稲を大地ごと移動させてもってこよう。

村の端っこに植えたから移動するのを見て驚く人はいないはず。

屋敷のみんなには説明してあるし問題あるまい。


 屋敷からたいした距離でもないので、すぐに稲が来る。



「次はわたしのばん!」


わう!


「ええとこ見せてやー」


「うん!」


「なっちゃんよろしく!」


「はーい!」



 なっちゃんは行動も元気だが返事も元気だ。

自分にはない溌剌さなので眩しい。

若いっていいなぁ……。

サトウキビ島へ来てから狼の毛皮を被る事が少なくなった。

都市や町といった人の多い場所でエルフの耳を見られない様にするために俺が薦めた物だ。

なっちゃんも気に入ったのか人前ではずっと被ってくれていた。

でもサトウキビ島ではなっちゃんがエルフだと判っても何も問題ない。

屋敷の人達はもちろん村の人達もいい人ばかりなので心配いらない。

人攫いも貴族もいないので襲われたりしないのだ。

村の子供達にもなっちゃんは人気者だ。

言動や行動が子供っぽいので波長があうのだろう。

そんななっちゃんもリオンが生まれてからは外を駆けまわったりはしていない。

だから村の子供達が花ちゃんの屋敷を覗きに来ている所を何度か見た。

嬉しい事だ。


 なっちゃんは胸の前で両手を握りこぶしにして気合を入れている。

フンスッと言った感じで可愛らしい。

見た目は綺麗で長い金髪をした令嬢なんだがなぁ。

着ている服は村人っぽいけど、素材は貴重な蜘蛛の魔物から取れる糸で都市に持って行けばかなりの値がつく代物だ。

花ちゃんが作ってくれたらしい。

花ちゃんは色々と知識はあるし器用だ。

子供達の世話もしてもらってるし頭があがらない。

事あるごとに礼を言っているが軽く流されている。

本人は楽しいので逆に礼を言いたいとまで言われた。

出来た人である……いや出来た座敷童か。


 

「えーい!」



 なっちゃんが可愛らしい掛け声を出す。

青々とした稲が薄茶色に変わっていく。

穂先も垂れた。



「おー!」


「これまた一瞬やなぁ」


わう



 なっちゃんの仕事を少し離れた所から見る俺達。

思わず声が漏れてしまう光景だ。



「トシちゃん、このツブツブを増やすんだよね?」


「そう。これがお米でこれを増やすんだ」



 なっちゃんが稲を持ってきて穂先を指差して言う。

俺達に感心されたのが嬉しかったのかニコニコ顔だ。



「なっちゃん、うちも魔法で撒こうか?」


「うーん。うん!」



 かっちゃんが魔法で手伝うと提案。

なっちゃんは少し考えた風だったがそれを受けた。

魔法で広い農地に撒いて更に稲まで育てるのかな?倍々ゲームなんてもんじゃないな。



「二人とも頑張れー」


わうー



 俺とゴンタは木陰で応援です。

手作業より魔法だよね。

体育座りをして見守る。

ゴンタが寄り添ってくれているので魔法が使えない寂しさが激減。



「がんばるー!みててねー」


「いっちょやったるか!」



 なっちゃんは俺とゴンタを見てブンブン手を振っている。

かっちゃんも出番があったのが嬉しいのかヤル気満々だ。

ずっと見ているだけってのは寂しいもんな。

あ、ゴンタは出番がないぞ……むぅ、これはいかん。

拗ねてしまうかも知れない。

チラリとゴンタを見る。

嬉しそうになっちゃん達を見ている。

ほっ、大丈夫そうだ。

見守る親って感じかな。

良かった。


 おぉぉぉ!

小さな竜巻みたいなモノを発生させているぞ!?

稲が空中に吸い上げられていく……。

大地から稲が消えた。

なっちゃん、かっちゃんそれぞれが作った竜巻が俺の耕した農地の上をフラフラと移動していく。

たぶんだけど農地にお米を撒いているっぽい。

こんな使い方もあるのか、魔法便利!

攻撃魔法くらいしか見てなかったからなぁ。



「かっちゃん、つぎー!」


「はいな!」



 なっちゃんとかっちゃんによる魔法の饗宴は続く。


 おぉぉぉ!

次は水球か!

なっちゃん、かっちゃんの前に大きな水球が出来ていく。

結構身長の高いなっちゃんをまるごと飲み込めるほど大きい。

あ、水球が空へ飛んでった。

回転?



「虹だ!」


わう!



 どうやら水球は回転しつつ辺りに水を撒いているらしい。

だからだろう虹が出来た。

俺もゴンタも大興奮である。

屋敷のみんなや子供達に見せてやりたいな。

今度バーベキューやるときに一芸として披露してもらおう。


 魔法が使える人がいるなら用水路はいらないか?

すぐ農地として使えるかも……。

そんな事も考えたり。

後で聞いたら結構制御が難しい魔法との事。



「ふぅー!ええ仕事したでぇ」


「お疲れ様ー」


わう!



 かっちゃんが一人戻ってきた。

花ちゃんから持たせられた水筒から麦茶を注いで渡す。

ゴンタには愛用の皿に水を入れてやる。



「かぁーっ!美味い!」


わう!



 かっちゃん、おっさんくさい。

ゴンタは水が美味いというよりみんなが嬉しそうにしているのを喜んでいるっぽい。

だってただの水だもの。

ええ子やでホンマ。

思わず撫でてしまう。

ゴンタがなにー?って感じで見上げてくる。

なんでもないよー楽しいねって言っておいた。。

ゴンタもそうだねー!と一吠え。



「なっちゃん、最後の仕事頼むでー!!」



 お、そうだった。



「なっちゃん、がんばれー!!」


わうー!!



 俺もかっちゃんい続いて大声で応援する。

ゴンタも俺に続いた。



「見ててねー!!」



 声援を受けたなっちゃんが俺達を見てブンブン手を振る。

とても嬉しそうだ。

こっちも更に嬉しくなる。



「えーい!!」



 なっちゃんの掛け声と共に蠢く大地。

広範囲で空へ向かって伸びる植物。

何だか凄い。

なっちゃんが指揮者で稲が演奏者。

そんなイメージが湧いた。


 青い稲が薄茶色へ変わる。

そしてお辞儀をしていく。

穂先の実が重そうだ。

嬉しい。



「なっちゃん、凄いね!ありがとう」


「エルフの秘儀見せてもらったわー。凄いでぇ!」


わう!


「えへへー。がんばったよー」



 みんなの賞賛を受けて照れくさそうにするなっちゃん。

右手で頭の後ろをポリポリと掻いている。

顔はニコニコ。

嬉しそうだ。



 それから収穫、乾燥、脱穀と食べられる状態まで魔法でやってもらった。

俺が説明をして、かっちゃんが魔法の使い方を考え、かっちゃんとなっちゃんが魔法を使う。

俺とゴンタは魔法を見ていたが、かっちゃんから寂しそうな顔すんなやと言われてしまった。

だって羨ましかったんですもの……。


 みんなのおかげでお米が食べられる!

待たないで今夜にでもだ!

しかも十俵くらいになるほど取れた。

こんなに簡単でいいのだろうか?

いいんだけども。

嬉しい。







「お米うまー!!」


わう!!


「トシ、泣かんでもええやん……」


「でも美味しいよ!」


「せやな」


「麦に似とったけど全然違うんやね」


「これがトシが夢にまで見たっちゅうお米かぁ……魚を更に美味しくさせるとはやるなぁ」


「かっちゃん、それうちのや!」


「ふふ。仲が良いねぇ」


「トシちゃん、箸だと食べやすいね!おいしい」


「おいしいか!うんうん。なっちゃん、箸の使い方うまいよ」


わう!


ばう!


「ゴンタが威張っとる。ミズホもお米気に入ったんやね」


「お米に味噌汁をかけて食べるんやね……後でやってみるわ」


「単体ではそれほどでもないが、焼き魚と一緒に食べると美味いな」


「アン、お味噌汁にも凄く合いますよ!」


「かーちゃ!」


「も、たべう!」


「二人とも気に入ったのか?」


「小さな子でも食べさせていいそうよ」


「良いモノが来たな」


「そうね。助かるわ」


「おもしろいかんじー」


「ヒッコリー、食感って言うのよ。モチモチしてるわね」


「懐かしいです。モチモチ感と甘みが少し足りませんが十分美味しいです」


「花、私が品種改良してみせるとも!期待していてくれ!!」


「くっ、もっと学んでおくべきだった」


「酢もありますし、これで稲荷寿司も作れます」


「おぉぉぉ!花!頼む、頼むぞー!!」


「わらわにはおにぎりを……」


「美味しい」


「ゲンツ、ほら……」


「す、すまん」


「かぁーっ、口元のお米を取ってやってパクッかい!」


「熱いなぁ、若いなぁ」



 夕食はみんなにお米を食べてもらった。

お米は受け入れてもらえそうだ。

お米単体では驚くような美味さはない。

だがおかずと合わせると化ける。

くっくっ、レシピは沢山ある。

おかずなしでもおいしく食べられる事をおしえてやろう……。

おにぎり、お茶漬け、チャーハン、鍋の締め、リゾット、ピラフ、ビーフン、フォーなんかもいけるか?

これからお米の虜にして見せる!



わう?


「なんか悪い顔しとるよな」


「おいしいね!」



 幸せな一日でした。




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