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衝撃は突然に

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 衝撃が走った。

場所は山の麓、ヤマト、ミズホ、ミナモの住処。

時は炎竜の肉で宴会をした後、日が落ち、さぁ寝ようかという頃……。



「マジか……いや気が付かない俺が悪かったな……」


わう



 衝撃はゴンタから(もたら)された。



「うん。まぁ土の上に直接寝ないで済みそうだ……そこで思考は終わってたよ」


わうー


「迂闊だった」


がう


わう


「ゴンタがサトウキビ島に来ている間に寝床に敷く物として見つかっていたとは……」


「なんの話やねん?」


わう!



 ゴンタに指摘された事で茫然としていた俺が立ち直ってポツリと話はじめた。

置いてけぼりだったけーちゃんがなんの話をしているのかと聞いてきた。

自分も話に混ぜろと不満げである。

すかさずゴンタが吠えた。

けーちゃんを仲間はずれにするつもりはない。

ゴンタもけーちゃんが好きだしね。


 ミナモ、ヤマト、ミズホは花ちゃんの屋敷で干し草の上で寝ていた。

住処が変わっても同じ様に眠りたかったのだろう。

ワラを見つけていたらしい。

お米の事を知っているのはゴンタだけだったのは仕方ない。

話をした事はあったかも知れないが実物をみせてやる事は出来なかったしな。

意外な所にあったものだ。

素直に嬉しい。


「寝床?ワラ?」


わう


「なんでそれでトシが深刻な顔するん?」


わうー


「うん……それはね、俺が長年探していた植物だからなんだよ。見てもサラッと流しちゃったけどさ……」


「なんで流しちゃったん?」


「あー、寝床かぁで終わらせちゃった。これはワラって言うんだけどこれに実る穀物が俺のいた場所の主食だったんだ」


わう


「これ自体を食べる訳やないんやね?」


「そう。そうなんだよ」


「なるほど」


「それをゴンタに指摘されるまで気が付かなくてさ。衝撃を受けてた」


「つまりトシが探していた穀物がここら辺にあるっちゅう事やな?」


「そうなんだよ!もっと東にあるのは解っていたんだけど遠いから後回しにしてたんだ」


「世界樹の力でわからんかったん?」


「あれはねー誰かが米を見つけて初めて記憶が残るんだよ。しかもココのはワラの寝床としか使っていないから米に結び付いていないんだ」


「誰かがこれはこう言うものやって認識してっちゅう事かいな?」


「たぶんそう。強い人がドラゴンを倒したら本人又は見ていた人がドラゴンを倒したと思ってそこで世界樹に記憶されるっぽい」


「んー。それやと勘違いとかもあるんやない?思い込みとかー」


「あるだろうね。でも後から気づいて修正された例があったから真実に近くはなっていると思うよ」


「面白いやん!これはこう言うものやって認識出来る知識がないと記憶すらされんのやろか?」


「たぶんそう。そうじゃなければ今頃世界樹の葉っぱはあんな量じゃすまなかったと思う。いや十分巨大な木で葉っぱも生い茂ってたけどさ」


「面白いね!誰が判断しているのだろうか?気になるねぇ……」


「カールも気になるやろ!エルフ達が言ったら調べさせてもらえんやろか?話も聞いてみたいで!」


「うむ」



 エルフ達が守っていた世界樹は巨大だった。

根本から見上げたら空が見えなかったもの。

空はどこ?ってなもんだった。



「って、米の話なんだよ」


わう


「えー!世界樹の力の方が面白そうやん」


「今の俺には米の方が大事なんだよぅ……」


わうー


「米と言うのが君の故郷の味という訳か」


「そうなんですよ!」


わう!


「ゴンタも解ってくれるかぁ。嬉しいぞぉ」


わうー



 ゴンタにはおにぎりを分けてあげてたしな。

米の味を知ってくれている同士だ。

嬉しい。


 ヤマト、ミズホは寝ころびながら優しげな目で俺を見ている。

ミナモは人間だったらジト目といった感じだと思う。

何はしゃいでんだ?ってなもんだろう。

いいんだ。

米が見つかりそうなんだもの!

うひょー!テンション上がるー!

眠れそうにないー!


 そんな俺もゴンタと並んでワラの上で横になったら、あっさりと意識を手放した。

初めての場所、初めて会う狼達。

それなりに緊張していたのだと思う。

酒はなかったが眠くなる要素は十分だった模様。







「まだかな!?」


がう


ばう


「もうちょっとやと」


わう


「もうすぐ川があるんやって」


がうー


ばうー


「川の周りが湿地帯になっとるんやと。そこにワラ、米があるそうや」


「おぉぉぉ!もうちょっとかー!走ろう!」


わう!


「いくら縄張りの中でも、うちらは初めての場所やで?また来るかもしれんのやし良く見て行こうや」


「うー」



 ワラに気付き米の存在に気付いた俺は、朝も早くからゴンタ親子を案内役にして米の在処へ急いでいた。

うん、日は上ったばかりだ。

カール博士は置いて来た。

まだまだ眠いそうだ。

ミナモは一番後ろから付いてきている。

さっき欠伸をしていたのは見た。

配下の狼達は来ていない。

ミナモが何か指示を出していたっぽい。

朝ごはんの話とかだろうか?


 気による警戒は怠っていない。

米の元へ急いではいるが安全を無視してはいない。

浮足立っているのは間違いないけども……。



 早足で森を進む。

獣道なので俺には歩き難い。

気持ちだけが先走る。


 空気が湿っぽい。

朝モヤに煙っている所もある。

水場が近いな。

音はまだ聞こえない。



わう!


がう!


ばう!



 ゴンタ親子が俺を見て吠えた。

着いたぞと言わんばかりに。



「着いたで」


「おぉぉぉ!」



 俺は辺りを見回す。

確かに川原っぽい。

葦みたいな草がある。

川自体は見えないが水音も聞こえてきた。

何だかワクワクする。



がうー



 ヤマトが来いって言ってる気がするので付いていく。

米……米はどこですか!?


 ヤマト、ミズホは巨体なのに音も立てずに歩く。

森なんかでヤマト達に出会ったら魔物もただでは済むまい。



がう!


「おぉ!稲だ!こめー!!」


わうー


「ほー、青々しとるなぁ!中々の光景や」



 ヤマトの向かう先に稲があった。

けーちゃんが言う様に青々しているのが見えた。

他の植物と一緒に乱雑に生えている。

時期的に早かったらしい。

米の収穫に合わせて来た訳じゃないから仕方ない。

だが存在そのものを確認出来た俺は感動に打ち震えている。

もっと東まで行かないとないと思っていただけに嬉しい。


 神は居た……いやまぁいるんだけどね。



「おぉぉぉ……」


「トシさっきからオォ、オォ言っとるなぁ。大丈夫か?」


「おぉー」


わう


「大丈夫そうやな」



 感動継続中。

この青々した光景が金色の波に変わるんだよなぁ。

人の手が入っていないので収穫は大変そうだが、かなりの範囲に存在している。

はらいっぱい食べられそうだ。

嬉しい。

まだ米の味すら試していないけども。



わうー


「ん?とるんやないの?」


わう


「まだ早いんか?一応実はありそうやで?」


わう


「そうなんか。後二月くらいかかるんか」


「うぅ……目の前にあるのに食べられないなんて!」


「今頃かい!」


「米の存在で収穫の時期とかすっとんでた……」


「そこまでなんか……」


「どうしよう……」


「遠見の水晶であっちにも見えとるんやからあんましみっともないとこ見せんなや」


「うぅ……」



 お預け……なんて仕打ち。



わうー


「収穫までここにいる訳にはいかんのやから土ごと移動したらええってゴンタが言うとる」


「おぉ!そうか!そうだなずっと待つ必要もないか!全部って訳にはいかないけど向うで増やせるくらいは……」


「これがテンション高いってヤツか」


「青田刈りって訳にはいかないが稲ごと……」


「おーい。聞いとらんな……どんだけ嬉しいんや」


わう




 土ごと稲を運搬だ。

スターインの改造もいるな!

自生している米だからそんなに美味しくないだろう。

品種改良した味になれている身としては、がっかりしそうだ。

花ちゃん、尾白辺りと相談して品種改良に挑戦したい。

サトウキビ島には湖もあるし川もある。

村で米を作りたい!

絶対だ!


 お米大好きだったんです!

パンよりごはん派だったんです!

三食いけます。

丼、菓子と食の幅が広がるね!

昔食べた味が思い出される。

自然、口に涎が溢れた。




 夢は果てしない。


 安い夢でごめんなさい。


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