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神様は俺の為に働いてくれない

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 糸の切れた操り人形の様に倒れこむガウエル。

ぐふっ。前のめりで倒れてきたので俺に覆い被さる形に……しかも肘が尻の辺りを直撃だ。

俺の体は未だ満足に動かないが痛みや重みは感じる。

男の体温や重みはいらなかった。

本当に勘弁。

そんな余計な事を考えられるくらいにはなった。



「に、にーちゃん!?どうした!?」



 見えないが黒兄弟の弟ザウエルの焦ったような声が聞こえた。

駆け寄ってくる足音も。


 俺の上に乗っかっているガウエルが揺すられている。

だから俺も一緒に地面に擦られている。

病人だったらどうすんだ。

病人は揺すったりしちゃいかんのだぞ。



「おぉい!にーちゃん!」



 ザウエルの必至な呼びかけ。

しかし兄のガウエルからは返事がない。

それはそうだろう。

俺の側にガウエルの心臓(・・)が転がっているからな。


 あの時、かろうじて動いた右手でガウエルに触った。

俺の()で心臓を引っこ抜いた。

魔物相手に魔石を抜く事はあったが人に向けてこの()を使う事があるとは思っていなかった。

同じ動く者とはいえ人に対して使うのには気が引けていた。

使う場面もなかったってのもある。

しかし今はこれしか対抗する手段を思いつかなかった。

人としての考えと自分の命では自分の命の方がずっと重い。

誰に何と言われようがここを譲る気はない。

例え後ろ指を指される事になろうとしてもだ。

もっとも地球ならいざしらず人命が軽いこの世界の話だ。

人から見たら何てことない一幕であろう。

まだ地球の論理感が残っている事に苦笑してしまう。



 魔力吸収というギフト持ちであるガウエルにも問題なく効いた。



 その結果、ガウエルは倒れている。

ザウエルには訳が判らないだろう。

俺に槍を突き刺し、蹴り飛ばし、顔を踏みにじっていた兄が何の前触れもなく倒れたのだから。

自分達が人に向けて使ってきたギフトを種類は違うが他の人も持っていて、それが自分達に向かうなど考えた事もなかったのかも知れない。

俺なんかは自分だけが持っている特別な力だなんて思ってはいない。

実際他の人が使っているのも見ている。

だからその力が自分達に向く可能性も考えていた。

もしかしたら、この天空島にはギフト持ちが少ないのかも知れない。

本島と合わせても人口が多いとは思えない

そう考えるとギフトが自分達に向かって使われるという危機感が薄いというのも無理はないだろう。

もっともガウエルにもザウエルにも問う事はないだろう。

なにせ……。



「にー……」



 ザウエルも兄ガウエルの後を追うのだから。



 俺、ガウエルの側にしゃがみ込んでいたザウエルがゴロンと地に転がった。

俺の手はザウエルにも届いた。

そして俺の側に増える心臓。

未だ体温を残しているモノを俺は見る気になれない。

ガウエルに直接的な恨みはない。

殴り合った訳でも仲間をやられた訳でもない。

それどころか大男のくせに妙な愛嬌があって面白そうな奴だとも思っていた。

だが事ここに至っては仕方ない。

仲の良さそうな兄弟に見えた。

せめて一緒に逝ってくれ。

上から目線で言ってみる。

もっとも俺の上に乗っかっているガウエルすらどかせられない俺ではあるが。



「何とかなったな……」



 俺は体の上に重みを感じながら息を吐き出した。

相変わらず地面と仲良くしているけども。


 冒険者達の流儀に付き合ったのがそもそもの間違いだった。

後ろを着いて行くだけ。

そんな風に思っていた結果がこれだ。

顔が熱い。

おそらく腫れ上がっているに違いない。

口の中の感触もよくわからない。

歯が無事だといいんだが……食べる事が大好きな俺としてはそう願わずにはいられない。

背骨を強打されてから体に力が入らない。

体の中心だしヤバイのかも知れない。

時間で回復すると信じたい。

後は魔槍で突き刺された右足だ。

脹脛と太腿。

肉も焼かれた。

患部を見れてはいないが出来れば見たくない。

きっと酷い状態だろうから。



 状況を判断しているそんな時、天空島が揺れた。

最初は軽く。

続いて大きく揺れた。



「な、何だ?」



 ガウエル達が死んだ事によって何かを引き起こしてしまったか!?

俺の脳裏をそんな考えがよぎった。


 空に浮かぶこの島の事は謎だらけだ。

何があってもおかしくはない。


 少しだけ腕や足に力が戻ってきていた。

ズリズリと這いずって上に乗っていたガウエルから脱出する。


 荒く息をしながらけーちゃん達の方を見た。

仲間達の元へ一緒に帰らねばなるまい。


 だが、けーちゃん達は気絶から復活していなかった。

どれだけ掛るのだろう……。

もしやずっとこのままなのではという不安が押し寄せてくる。

自分の体がボロボロなせいかネガティブ気味だ。

最悪の状態からは脱せられたが、こんな状態だ仕方あるまい。



 またしても揺れる天空島。

青い空は流れてはいない。

天空島が落ちているって事はないと思う。


 俺はけーちゃん達の元へ向かう。

這いずっているので無様なのは勘弁してほしい。

やはり右足がまともに動いていない。

涙が出そうだ。

痛みには耐えられたのに今後を想うと辛い。


 俺はズリズリと動いている時にソレを見た。

空に一筋の赤い線が走るのを……。

そして今までで一番大きな揺れ。

変わる感覚。


 何で俺は落下の感覚を味わっているのか……。


 這いずる地面はあるというのに……。


 視界はすぐに悪くなった。

真っ白である。

天空島の下部を覆っていた雲だと一瞬の間を置いて気が付いた。

そして更に気が付く。

本当に落ちているのだと。

天空島の一部とともに……。



「なんでだよ!俺、頑張ったじゃねーか!!」



 どこにぶつけたらいいのか解らない怒りが口をついて出た。




「ふざけんな!」



 白かった世界が青くなった。

そして俺は叫ぶ。



「俺は帰らなきゃいけないんだよ!」



 花ちゃんの家で待つみんなの顔が浮かんできた。

リオンを抱いてニコニコしているなっちゃん。

なっちゃんの隣にいるかっちゃん。

メイプル、チェリーとニョロニョロ散歩してるアンとシーダ。

その後ろを歩くカミーリアさん。

アリーナがゲンツと嬉しそうにしゃべっている。

尾白と雪乃が言い合いをしているのを割って止めようとしている花ちゃん。

村のみんなが畑を耕している姿。



 これって走馬灯みたいだな……。



「みんなが待つ家に帰るんだ!!」



 俺は浮遊感の中で必死に体を動かす。

まったく動かない訳じゃない。

少しずつ動ける様にはなってきている。

もうちょっと時間があれば……。



 そんな中でも青い空に赤い線が引かれていった。

線の多くは天空島の下部を覆う雲に吸い込まれていった。

あれが揺れの原因だったか……。



 そして俺は気づく。

あの赤い線は見た事がある。



 ここに来る間に見たものだ。



 犯人は炎竜だ……。



 神様がいる世界なのに神はいないと思わざるを得なかった。

少なくとも俺のために神は働いてはくれないという事だけは解った。

確実である。





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