哲学?
360
ガウエルに近接勝負を挑み続けている。
ガウエルは槍の間合いを取ろうと若干下がりつつ槍を横殴り。
俺が左腕である義腕か右手で持つ魔剣で槍を受けながら間合いを詰める。
時にはローキックを放ったり、砂を蹴って目つぶしを狙ったり。
大き目の傷はガウエルが、小さ目の傷は俺の方が多い。
それでも身体能力、武器を扱う技量ともに俺の方が上だと思う。
突き出される槍以外は喰らってもいいくらいの気持ちで間合いを詰めて戦えているのだから。
魔剣で付けたガウエルの右膝上の傷からは血が滲み続けている。
すでにブーツの半分は血で変色している。
膠着状態ではあるが、この傷が俺を有利にしてくれるはず。
流血が止まらないのであるから時間は俺の味方だ。
「ッシ」
「クッ!」
槍のフェイントからの突きを受け流し、逆に魔剣で突く。
ガウエルは腕に迫る剣を必死で躱し腕に付けた小手で魔剣を弾く。
鎧もそうだが小手も防御力が高い。
ただの鉄なら俺の魔剣で傷くらい付くんだが、鈍く光る黒色の金属は傷ついている様子はない。
フルプレートの鎧という訳ではないので、肘や肩の辺りにシャツらしきものが露出している。
俺は魔剣でチクチクとそういう箇所を狙っている。
あれ……そういえばコイツは空を飛べるはずだ?
何で飛ばないんだ?
何か飛べない理由でもあるのか?
ロリエルが離陸するときはどうやってたっけ?
体を空へ持ち上げて……風を掴むとか言ってたな。
風が少なければ魔法で補うとも。
瞬時にとはいかなかったがスーッと空へ上がりフワリと風に乗っていた様だった。
上に上がれば上がるほど自由に飛べていた気がする。
ガウエルが飛ばない理由は判らないが何かがあるのだろう。
この戦い方を続けていれば飛ばれないとだけ思っておこう。
俺にとってはとてもありがたい。
飛ばれたら魔法で一方的にやられてしまうに違いない。
「ハーハッハッハ!判ったぞ!!」
俺の頭をガウエルが何故飛ばないかという事がよぎっていた。
そんな時にガウエルが高笑いをした。
若干息は荒いがしゃべる元気はあるらしい。
「お前も族長や取り巻きと同じなんだな」
「……同じ?」
お互い槍も剣も動かしつつ睨みあいながら言葉を交わす
族長ってのはロリエル達の族長の事かな?
「他のモンを庇うんだろ?バカめ!!」
「!」
「俺が突っ込んだり、下がったりする時と回り込もうと横へ動く時では対応が違うってので判ったぞ!」
「!!」
「その表情だと当たりっぽいなぁ。ひひ」
俺が後ろで倒れているけーちゃん、カール博士、アンドレ達からガウエルを遠ざけようとしていたのがバレた!
あぁもう俺の表情豊か過ぎ!?
ポーカーフェイスではないと思っていたが、そんなに解りやすいのか。
くっ。
「他のモンなんぞ気にするから自分が苦労するんだよっ!」
ガウエルは言葉とともに槍を繰り出してきた。
近接戦自体はガウエルにとって有利になった訳ではないというのに。
自分の推測が当たって気分が上向いたか?
テンションってのは大事だから解らない事もない。
体を横へずらしつつ魔剣で弾く。
気のせいか槍の攻撃が重い。
ガウエルが俺の横へ移動する素振りを見せる。
俺はけーちゃん達との間を塞ぐ様に動く。
「俺は後ろで寝ている奴らを狙えばいいんだな?ひひ」
「やらせねぇよ!」
ガウエルはニヤニヤと嬉しそうに笑っている。
俺は間合いを潰す戦いを止めない。
実際やれている。
俺がけーちゃん達を庇っているのは本当だが、ガウエルにやれる事は変わらないはず。
俺は同じ戦い方を続けるだけだ。
これが出来ている間はけーちゃん達を守れる。
「急いで俺を倒さねーと寝ている奴らは死ぬぜ?」
「!?」
「おら、早く攻めて来いよ。それとも奴らを抱えて逃げるかぁ?ひひひ」
ガウエルは更に嬉しそうな顔をしている。
マジか?
死に至る攻撃だってのか?
俺は少し焦りながら届かない攻撃をしてしまう。
「んー。攻撃が雑になってんぞ?大丈夫かぁ?ひひひ」
コイツ……人の嫌がる事が大好きなのか?
ムカつく。
ガウエルは俺の横に回り込もうとする。
その前に立ち塞がる俺。
そして響く金属音。
ガウエルの槍も頑丈だな。
魔槍の類なのかも知れない。
ガウエルの動きから下がるが減り俺の横を狙う動きが増える。
それに違和感を感じる。
何だ?
「ザウエルもそろそろ戻ってくるかもなぁ。そしたらお前終わりだぞ?ひひひ」
「来るのは俺の仲間達だ!そして終わるのもお前だ!」
「思うのは自由さ。ひひ」
何か鬱屈していたものが取り払われたのかガウエルが妙に元気だ。
動きも槍の攻撃も連動して元気になっている。
もっと動き回って血がドンドン抜けてくれないかな。
「他のモンなんぞ見捨てちまえば楽だろうに。そんなに大事かぁ?」
ガウエルは相変わらずにやけ面で話しかけてくる。
だが言葉に笑いが混じっていない。
本当に聞いてみたい事なのかも知れない。
「そりゃそうだ。人は一人じゃ長く生きられないからな」
ちょっと真面目に答えてみる。
一人でもある程度は生きられると思う。
だがその先に何があるというのだろうか?
誰かに褒めてもらいたい、良く思って欲しい、喜んで欲しい、そういう欲求を満たすためには自分以外の人間が必要だ。
快適に生活するための道具なんて全て自分で作れまい。
自分の命だけ守り、食べ物を喰らい、生きていくのは可能だろうが楽しくなさそうだ。
肉を手にして原始人ごっこなんてのは少ししてみたいが。
ヒサシブリノニク!オレウレシイとかいいながら齧り付いたら楽しそう。
後で空しくなるんだろうけどさ。
そりゃ人はいつか死ぬってのは解っている。
そう、誰でも最後は同じはずだ。
経過は色々あるんだろうけどさ。
ふむ……死ぬために生きる?
哲学か。
まぁ死ぬまで楽しく生きろって事だな。
別にコレを言ったからといって何かが好転するとは思っていない。
「そうなのか?そんなこたぁねーだろ」
「お前……弟がいなくなったらどうなると思う?」
「ザウエルがか?あいつは頑丈だから死なねーよ」
「そういう問題じゃない。想像して見ろって言ってんだ」
「そこまで大事な話じゃねぇなぁ。ひひ」
話になったと思ったらこれか。
またニヤニヤしてやがる。
判らん奴だ。
また俺の横をすり抜けようとするガウエル。
あぁ、そうか。
違和感はコレだ。
俺は後ろで倒れている仲間達を守りたい。
ガウエルは魔力吸収のギフトで倒れている者達を殺せると言う。
時間はガウエルを助けるはずなのに俺の横をすり抜けて倒れている者達の方へ向かおうとする。
直接人質を取るなり殺すなりをしようとしている様に見える。
つまり魔力吸収のギフトで人を殺せる云々はブラフって事だろう。
調子に乗りつつあるガウエルのテンションを下げるために言うべきだろうか?
黙っておいて俺が焦っている風を装う方がいいか?
いや思い込みは危険か?
本当に殺せないと決まった訳ではない。
じゃあ俺に打てる手はなんだ?
ガウエルを倒すのが一番なのは判っているが頑丈な兜と鎧のせいで一撃必殺とはいかない。
けーちゃん達を抱えて天空島から飛び降りる?
傘は勘弁だな。
全員を抱えるのも無理。
けーちゃんとカール博士の二人ならいけるか?
だが俺が逃げたら空の上だ。
どう考えてもガウエルの独壇場になってしまう。
うん。
間合いを潰して動きを封じる今の戦い方しかない。
近い力量の相手には近道はない模様。
けーちゃん達が無事でいる事を願いながら魔剣を振る俺であった。
きっとゴンタが駆けつけて来てくれるはず!と期待しているのは内緒である。
わうー!!
そんな俺の願いが届いたのか、聞きたかった声が空に響き渡った。
俺の心が落ち着き元気が湧いて来た。
誰かにこの嬉しさを伝えたい。
凄くそう思った。