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相手が女だったら良かったのに

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 け、けーちゃんは大丈夫なのか!?カール博士も!

けーちゃんは結界魔法を使っていたと思う。

俺にはそれを確認するすべはなかった。

だがガウエルが何かをしようとしていたのは気付いていたはず。

俺の後ろで人が倒れた音がした。

俺の目に映ったアドルフ達の様にけーちゃん達も倒れたと思われる。

何故かガウエル側であろう白い羽の戦士達も全て倒れたが……。



 俺は未だ目を見開いて驚いているっぽい黒兄弟の兄、ガウエルから目を離せない。

迂闊には動けない。

けーちゃんを抱き起して安否の確認をしたい。

しかしそれをすると倒れている者達が俺の弱点になることがばれてしまう。

けーちゃんとカール博士だけなら何とかしてみせる。

だがアドルフ達までは助けられないだろう。

俺の身内ではないが助けられるならば助けたい。そう思える程度には親密になっている。



 俺の額辺りから汗が流れ落ちる。

けーちゃんの気は安定している。

減少してはいないし減る様子もない。

気絶しているだけっぽい。

少しだけ安心した。

状況は何も良くなってはいないが……。



 ガウエルがけーちゃん達に何かをしたのは間違いない。

そしてそれが俺に効いていないのは想定外だったらしいという事も。

向うの手は、念道力と滑空能力、槍を持っているから使えるのだろう。

あと魔法が使えるともロリエルは言っていた火の魔法だったはず。

そして謎の気絶能力。

これは考えても仕方ない。

今後も効かない事を祈ろう。



 俺の方は魔剣、左腕のミスリル義腕。

地に足は着いているが地形操作などは出来ない。

やはり本体である惑星から切り離されているせいだろう。

切り札が使えないのは痛い。



 俺が仕掛けてこの場からガウエルを引き離す。

それしか思いつかない。

俺が離れた後でココに来るのがゴンタらであることを祈ろう。

祈ってばっかりだな……。



 魔剣を下に突きさし近くにあった石を掴んでガウエルに投げる。

俺だって昔はキャッチボールくらいはしてたんだぜ。

大きくは外さない。



「うぉっ!」


「ッシ!」



 驚きから抜けきっていなかったのかガウエルは顔の側を通った石に大きく反応した。

俺は魔剣を掴みダッシュの勢いのまま剣を振るう。

甲高い金属音が響く。

ガウエルは俺の剣に反応しやがった。

戦士でもあるらしい。

俺の剣とガウエルの体の間に槍を入れていた。



「くっ!」



 槍ごと体をずらしてやった。

たたらを踏むガウエル。

俺は追撃で剣を顔に向けて突きこむ。


 奴の兜に当たり一瞬火花が散った。

躱された。

そう簡単にはいかないか。

俺の体が伸び切った辺りでガウエルがバックステップで距離をとろうとする。



「そうはさせるか!」


「っち」



 俺は中距離から遠距離の攻撃手段がとても少ない。

それに対してガウエルは槍のリーチと攻撃魔法がある。

俺は接近戦を挑むしかないのだ。

左足で地を蹴りガウエルが逃れようとする方向へ詰める。

もう槍の攻撃範囲まで間が開いてしまった。



「お返しだぜ!!」



 ガウエルは言葉と同時に槍を横へ振るってきた。

突きじゃない事で予想は外れたが、そっちの方がありがたい。

俺は義腕で槍を受け止められる様にして更に距離を詰める。


 左腕に衝撃が走る。

だが抑えられない力ではなかった。

いける。



「ッシャア!」



 下がりつつ振るわれた槍を弾き、肉薄して魔剣で切る。

思った以上にガウエルの動きも速かったが狙った足を革っぽいズボンごと切れた。

奴の右足、膝の上辺りが切れ血が滲んだ。

兜、胸当て、籠手、ブーツ……奴の防御が一番低そうな所を狙った。

機動力を削ぐ狙いもある。


 追撃に入ろうとした所で左上から槍が振るわれた。

義腕で受け止める。

要所要所で流れを止めてきやがる。

戦い慣れしてんな。


 それでも俺は止まる訳にはいかない。

多少無理をしてでも密着するしかないのだ。

腕への衝撃を感じつつ魔剣を振るう。

今度は奴の左足だ。

返す刀なので力の乗りは悪いがさっきの手ごたえからしていけるはず!



「調子に……のるんじゃねーぞ!!」



 ガウエルが怒りを溜めて爆発させたかの様に叫ぶ。

それとともに俺の体が後方へずらされる。

そして空を切る魔剣。


 何かされた!

だがまだだ!

体は動く。

二mほど距離は開いたが義腕で頭を守りながら前に出る。



「しつっけーぞ!」



 奴は両手で槍を突きこんで来た。

俺の腹めがけて。

ちぃっ!

右手に持った魔剣で槍の穂先を逸らす。

すかさず引き戻された槍が突きこまれてきた。

連続突きか。

だが槍の動きは追える。

追えるし対応も出来る。

残念ながら合間を縫って反撃にまでは至れないが……。



 いい勝負になっている。

武器のリーチでは槍を持つ奴が上。

反応速度と対応能力は俺が上。

ガウエルが距離をとろうとすれば無理をしても肉薄した。

奴の右足の傷が塞がっていない。

血の滲みが広がっている。

俺の魔剣は傷を塞がせないからな。

治したけりゃ傷ごと肉をそいでから治療しなっ!

俺の方は槍で殴られても突きはくらっていない。

怪我の有無もあるし俺の方が優勢であろう。



「はぁっ、はぁっ……」


「ッシ」


 一進一退の攻防が続く。

俺も奴も吐く息が荒くなってきた。

しかし狙った状況まで持ってこれている。

けーちゃん達のいる場所は見えるが少し距離がとれた。

ガウエルには攻撃魔法もあるはずなので使わせない様に接近戦を挑み続けている。

俺に当たらないまでも後ろに逸らしてしまうのもマズイ。

ガウエルが俺達を気絶させるのに白い羽の戦士達を巻き込んだ事から見て仲間とは思っていない可能性が高い。

だからチャンスがあれば攻撃魔法を使うに違いない。

戦い自体は俺の方が有利でも状況はガウエルの方が有利だと思う。



「「!」」



 俺の振るった魔剣が槍で弾かれる。

その時、俺の後方に大きい気が湧き上がった。

俺だけでなくガウエルもそれに気が付いたのは表情で判った。


 誰だ?どっちの味方が来た!?

俺はガウエルから目を逸らさず後方の気を探った。



「っち……何してやがる」



 槍をユラユラ動かしながら俺の後方をチラリと伺うガウエル。

ガウエルが舌打ちして悪態をついた。

どうやら俺の味方が来てくれたらしい。

悪態は黒兄弟の弟向けの模様。

気からしてアンドレ達っぽい。

俺の口から安堵の息が吐き出されてしまうのも仕方あるまい。


 おっと、距離は取らせないぜ?

バックステップで俺から距離をとろうとするガウエルに詰め寄る。

交差する互いの武器。



「ほんっとしつけーな。どうなってんだオマエ」


「仕方ねーよ。俺はオマエの敵なんだから」


「下の奴はオマエみたいな奴ばっかりなんだろうな」


「まーそうだな」


「最悪だ」


「お互いにな」



 俺との距離がとれない事にもイラついたのか俺に文句を言ってくるガウエル。

文句とともに繰り出された槍を外へ逸らす俺。

ガウエルは言葉と同じく嫌そうな顔をしている。

柄が悪くチンピラみたいな奴だが強い。

奴の得意な間合いではないだろうが俺の攻撃を凌いでいる。

怪我は右膝上の切り傷以外は大したことはないはず。

怪我ではないが、俺の足跡が付いた鎧くらいが戦いの痕跡であろう。

前蹴り得意なんよ。

それで距離が開いて焦ったのは内緒だ。

そして前蹴り封印。



「なんだこの状況は!?」


「兄さん!?」


「アドルフさん!!」


「おいおいおい……何とか上がって来てみりゃ何だコレ」


「トシだ!トシが黒い羽の奴を抑えているぞ!!」



 アンドレ達が上がってきてくれた。

騒がしいが無理もなかろう。

俺だってガウエルを抑えなくちゃいけないって事以外解っていないもの。

だがこれでけーちゃん達の身は守れる。

懸案事項の一つが消えた。



「けーちゃん達を頼む!!」


「「「おう」」」


「ここは頼む。トシの加勢に行ってくる」


「任せた」


「こっちは任せてください」



 俺は仏頂面のガウエルを睨みつけながら大声を張り上げる。

後方から頼もしい声が帰って来た。

どうやらアンドレが俺の加勢に来てくれるみたいだ。

頼もしい。

やっと決着が付けられそうだ。



「ばぁか。調子にのってんじゃねーぞ……」


「!」



 ガウエルがボソリと呟いた。

叫んでいる訳でも普通の声色でもない所に奴の怒りを感じた。

そして俺の後方で何かが倒れる音がする……。



「やっぱりオマエにはきかねーんだな……」


「なに、なーにオマエの事は調べが付いてるからな。それなりに対策は練って来たぜ!」


「なにぃ!知られてんのかよ。下には魔力吸収を阻害出来るモンがあるってのか……」


「……」



 俺は何をした!?って叫びそうになったが誤魔化しつつ適当な事を言った。

言ったんだけど、思わぬ返事。

ガウエルは驚愕して黙り込んだ。

俺も違う意味で黙り込んじゃったよ……マジっすか。

この人ポンコツなの!?残念な人なの!?

必死の想いで戦っていた俺をへこませる様な発言……精神的ダメージが狙い!?

俺も動揺しているらしい。

ひっひっふー。

落ち着け。


 対策を練ってたら俺の仲間達も倒れたりはしてませんよ?

いやいやそこじゃない。

けーちゃん達は魔力を吸い取られたっていう事か。

増援のアンドレと《月光》のメンバーも魔力を吸い取られて気絶したと。

そして俺は吸い取られる魔力がなかったから無事で済んだ。

けーちゃん達が死ぬような事がないと判って安心した。

魔力を使い過ぎると怠くなり、最後には気絶するってかっちゃんも言っていた。


 ガウエルの魔力吸収能力の範囲は判らない。

コイツを倒せるのは遠距離攻撃か俺、ゴンタだけかも知れない。

そのゴンタではなくアンドレ達が来たって事は……きっと黒兄弟の弟をゴンタが抑えてくれているに違いない。

ゴンタがいない今、俺がやるしかない……。


 ガウエルのギフトが判明してホッとしたのもつかの間、また接近戦を挑まなければいけないのかと溜息が漏れる俺であった。


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