地下待避所
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俺の作った地下待避所には光球がいくつも浮かんでいた。
それからカンテラにも火が入れられて床に置かれていた。
結構な明るさがある空間になっている。
冒険者達の多くが座り込んだり倒れたりしている。
カール博士を探しているのであろうけーちゃん。
辺りを見回しながら冒険者達の間を縫って進む。
仲間の手当てをしている者、美味そうに水袋から水を飲む者、携帯食らしき茶色の物を口に運ぶ者。
安全地帯だと判断しての行動だろう。
冒険者っぽい。
「お、おったな。カール!」
「けーちゃん。無事な様だね」
「もちのろんや。しっかしドラゴンまで出てくるとはなぁ」
「初めて見たよ。遠い空からブレスを撃ってくるだけだったから大きさが良く解らなかったけどねぇ」
「うちも近くで見た事はないで。見かけても逃げてたしなぁ。」
「それはそうだろう。森どころか土まで真っ赤になっていたぞ……ドラゴンのブレスってのは異常だね」
「まったくや。さすが最強と言われる種族やでホンマ」
一番最初に待避所に入ったカール博士は出入り口から一番離れた角にいた。
カール博士とけーちゃんはお互いを見て嬉しそうにしている。
人間とケットシーなのに仲良しだよねぇ。
俺もかっちゃんと仲良しだけども。
カール博士とけーちゃんは無事を確認し合った後で座り込み炎竜について話だした。
けーちゃんは以前ドラゴンの魔石を取りにドラゴンの巣へ行ったらしいが接近遭遇はしていなかったようだ。
あんなのと鉢合わせたら堪らんわな。
そういうのがいる所へ単独で行ったけーちゃんもけーちゃんだけどさ。
結界魔法の凄さが解る。
俺はゴンタとヤマト用の深皿をマジックバッグから取り出し床に置いた。
そして水樽も出して皿に水を注いだ。
「水どうぞー」
わう!
がう!
ゴンタとヤマトは嬉しそうだ。
俺に向かって吠えた後で皿に顔を突っ込んでいる。
ペロペロ、ガフガフと音を立てている。
ワイバーンとの戦いで頑張ってくれていたもんなぁ。
そりゃ喉も乾くだろうて。
猪の肉はあるけど、ここで火を使う訳にもいかないよなぁ。
ヤマトは生肉の方が好きっぽいから問題はない。
ゴンタは俺との生活で人間用の食事が気に入っている。
塩分とか濃い味は不味いかな?と思いつつも俺が食べるのと同じ料理を出していた。
まぁ神使だし大丈夫だろう。(願望)
ここは生肉で我慢してもらおう。
俺はマジックバッグから大きな葉っぱで包んだ猪の肉を取り出す。
ゴンタ、けーちゃん、カール博士がロリエルを空に送っていった間にヤマトと取った肉である。
待っていた間の食事の余りだ。
人間が食べる分には十分な量だが大食漢のヤマトには少し足りないかも知れない。
他に干し肉や干し果物もある。
そっちは結構持ってきている。
状況を見て出して行こう。
「お肉もどうぞ。ゴンタも生肉だけどいい?」
わう
ゴンタの尻尾はブンブンとまではいかないが嬉しげに振られている。
ホッ。
良かった。
葉っぱごと床に置く。
「ワイバーンを抑えてくれていたもんな。お腹空いたろう?お食べー」
わうー
ヤマトは既に肉に齧り付いている。
返事をしてくれたのはゴンタだけでした。
ゴンタも直ぐに肉を食べだした。
俺も水を飲み干し肉を齧る。
しょっぱい。
そして硬い。
顎が頑丈になっちまうぜ。
水を飲んで、やっと周りを見る余裕が出来た。
けーちゃんとカール博士も水を飲み干し肉を齧っている。
そして周りにはけーちゃん指揮の元で戦っていた魔法使い部隊で見た人達もいた。
流れでけーちゃんに付いて来たんだろうな。
それから壁に寄りかかって休んでいる冒険者達が目に入る。
待避所の真ん中に白銀が煌めく装備の者達がいた。
アドルフ、アンドレだ。
主戦力達が集まっているらしい。
冒険者ギルド本部の偉い人達ってのもその辺にいるのであろう。
水袋を片手に話し合っているっぽい。
「しっかしいい所に逃げ場があったよなぁ……」
「うーん。こんなのはなかったと思うんだが……」
「見落としていた?助かったのは事実だが……」
「この辺に人里なんてなかったろう?」
「怪しい……」
ちょっと離れた所の声が聞こえた。
ガヤガヤしているので聞き取れない所もあったが概ねこんな感じの話だった。
心に余裕が出ると色々と考えるよね。
その辺の話はスルーの方向でお願いしたい。
運が良かったって事で。
「これからどうするんだろうね!」
不自然な感じだが大き目の声で俺はけーちゃんに話しかけた。
周りの人達も気になるだろうから待避所の話から逸れてくれると嬉しい。
「なんや大きな声で!聞こえとるがな」
「ご、ごめん。炎竜ってのを見て興奮してるのかなぁ」
「気持ちは解るけど落ち着かんかい」
「うっす」
けーちゃんに怒られました。
「直ぐには出ていけないよな」
「むしろ待ってたら大型と炎竜でやりあってくれるんじゃね?」
「お、そりゃいい」
「逃げてくる前に見たが大型が空に向かって木をブン投げてたぞ」
「美味しい所だけいただこうじゃねーか」
「だな」
「素材の大半は上に置いたままだぜ」
「結構な儲けなんだから取られたくねー!」
「炎竜め!」
周りの話題が炎竜に代わってくれた。
怒られた甲斐があったよ。
炎竜、ワイバーンVS大型恐竜!
安全な所から見てぇ!!
実際には無理っぽいけどさ。
ここから気功術の索敵で大型恐竜二体の気配は判る。
空にいるであろう炎竜とワイバーンは良く判らない。
地面の下にいるせいなのか距離が離れすぎているのかは判らない。
大型恐竜の気配が無くなれば地上は安全と判断出来るだろうけども。
「炎竜一体にワイバーンは四体以上。上で四体までは確認出来てたで」
「ワイバーン増えてたね……」
「ドラゴンとワイバーンに関係があったとはなぁ」
「主従?共生?判らないけど敵対はしてなかったよね」
「せやな。ワイバーンだけでも十分厄介やのに」
「俺なんか対空攻撃手段が乏しいから困る」
「うちも一人でやれる相手やないわ」
「大型恐竜もいるしね……」
「討伐隊の主力が向かっても倒し切れん奴らやしな」
「上手くつぶし合ってくれるといいんだけど」
「大型恐竜達に遠距離攻撃手段はなさそうやから早々に逃げるんやないかな」
「木を投げていたらしいしね。空にいる優位を捨てる事はないだろうなぁ……」
「逃げる大型恐竜を炎竜達が追いかける。そんでここらは安全になるっちゅうのがありそうやね」
「願望、希望」
パンパンッ!
俺とけーちゃんが今後の展開について話していると誰かが大きな拍手をした。
俺達は音のする方を見る。
待避所の中央付近に良さそうな装備を付けたでっかい人が手を叩いていた。
空に浮かぶ光球に照らされて雰囲気がある。
強そうな雰囲気。
そして貫禄がある。
灰色っぽい髪をオールバックにしている。
大きな目を鋭くして辺りを見ている。
熟練の戦士って感じだ。
笑う時はガハハッとか言いそう。
察するに冒険者ギルド本部の偉い人だろう。
なんせ主力のアドルフ達ではないのだから。
いや俺は冒険者達の事に疎いからアドルフ達以外のランク0かも知れんけど。
「ちゅーもーく!わしは冒険者ギルド本部の実務部門長であるマックスだ!これからの行動に付いて話すぞ!!」
(実務部門長か大物だな)
(マックスっていやぁ『血戦』じゃねぇの?)
(元ランク0じゃねーか)
(いつも斧を振るっては血塗れになるってアレか)
(目を合わせんじゃねぇぞ)
(お、おう)
マックスというおっさんは大物らしい。
物騒な二つ名を持っているのも周りの声で判った。
アドルフ達並の強さを持っていたって事か。
おっかねぇな。
「斥候三名を上に行かせた!状況次第だが炎竜、ワイバーン、ギャプラスと戦う事はないだろう」
(斥候を送ったのかよ)
(鬼だな)
(勇気あんな)
(戦わないですむのか)
(やれって言われなくて良かったぜ)
(それな)
周囲の冒険者達が小声で話している。
大声でしゃべって睨まれたくないってのは判るらしい。
好き放題言っているっぽいけども。
「ここに来ている冒険者は二百名を割っていない。上をやり過ごして討伐隊は進む!」
「「「おう!」」」
「「「「「おう」」」」」
「……」
マックスが拳を突き上げて宣言した。
部屋の中央にいる主力達が呼応する。
その後でヤル気に溢れている冒険者達が拳を突き上げた。
壁際にいる多くの冒険者はマックスをジィッと見つめている。
炎竜が出てくる様な場所は勘弁してくれ。
もう帰りたい。
進むのかよ。
そんな心の声が聞こえてきそうだ。
表情からしてもそんなにはずれた想像ではないだろう。
半分くらいはそういった冒険者達だと思う。
実際怪我人も多い。
ここに来る事が出来なかった者達も……。
「これだけ大掛かりなんや、引くに引けんやろ」
「そもそも空に行ってすらいないもんね」
「そういうこっちゃ」
「まぁ炎竜なんて大物が出張ってくるなんて想像もしてなかったよ」
「誰かの陰謀なんやないの?」
「マジで!?」
「じょーだんや」
けーちゃんの冗談は心臓に悪い。
そういう事もあるかと納得しかけたよ!
けーちゃんはカラカラ笑っている。
大物だ……。
「炎竜だけやったらここにいる面子でやれそうやけどな」
「すげーな……」
「こんな機会は早々ないやろから惜しいなぁ」
「……そうかも」
確かにこれだけ強い奴らが集まる事なんてめったにあるまい。
けーちゃんが惜しいって言うのも解る。
炎竜が同じ土俵……地面に降りてきてくれたら俺にもやれる事はある。
試してみたいって気持ちがないわけではない。
なんたって最強種の一角らしいからな。
わう
がう!
「ゴンタとヤマトも戦いたいんやな。あんたらは大物やでぇ」
ゴンタとヤマトもヤル気か。
あ、気を抑えてー!?
周りの冒険者達が何事かと目を向けてきている。
さすが高ランクの冒険者達だ気功術に精通している。
反応が早い。
「ガッハッハ!ヤル気に溢れている奴らもいる様だな。状況次第だがわしもやりあいたいぞ!!」
ゴンタとヤマトの気に中てられたのかマックスが大声で言う。
うん、やっぱりガハハ系の笑いだった。
引退してるんだろうけど血の気の多さは隠せないらしい。
やっぱり戦う事になるんだろうか?
冒険者ってやつぁ……。
俺は壁に背を預けて土の天井を見上げるのであった。




