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冒険者の事情

352



「もうちょいやー!いけるでぇ!」


「狙いは変わらずです!」




 けーちゃん指揮の元、突発的に出来た魔法使い部隊が空にいるワイバーンと戦っていた。

見ていたら土、水、火、風の属性ごとに隊長らしき人も出来ていた。

弓矢部隊も一塊になって攻撃している。

魔法使いや弓士の仲間らしき前衛もいた。

周囲の警戒にあたっているみたいだ。

やるなぁ。



 俺は索敵をしながらけーちゃんの側へ並んだ。

周りの魔法使い達から、なんだこいつという視線を向けられて一瞬ひるんでしまった。

来た道を戻ろうかとも思ってしまったぜ。

魔法使い以外がここにくんな!か、けーちゃん隊長に並ぶなんておこがましい!か、どちらかだと思う。



 情報の共有もしたかったんだけどなぁ……忙しそうだし諦める。

俺もけーちゃんを守る前衛として働こう。

そう思い周りを観察する。



 俺達が居るのは討伐部隊の一番後ろ辺り。

ここの主敵はワイバーン三体。

ゴンタとヤマトが空でワイバーンの注意を引き付けてくれている。

下から魔法や弓矢で一体を集中攻撃している。

一体はそろそろ落とせそう。

なんとかなるもんだ。



 俺達の前方でも戦いになっている。

相手はワイバーンではなく木の上にいる何かっぽい。

みんな上を向いて盾を構えたり矢を撃ったりしているのが見えた。

敵の数が多いのか乱戦になっていると思う。

怪我人が俺達のいる後方近くまで下げられている。

ワイバーンがいるのが判っているからの位置取りなんだろう。



 最前線でも大型の魔物と戦っていると聞こえた。

こちらも何と戦っているか判らない。



 ワイバーン、大型の魔物、木の上にいる集団。

おそらくこの三種族が今、俺達が戦うべき相手らしい。

ダンジョン以外で魔物が共闘するという話は少ないので別々の目的で襲って来たんだと思う。

大型魔物はロセ帝国の都市を襲った奴の一体らしい。

そして木の上にいる魔物は、そんな大型魔物やワイバーンを恐れない集団だと判る。

気功術で探るとそれなりの気を持っているっぽいがとてもワイバーンに太刀打ちできる気ではない。

なんでここにいるか判らない。



 どこもかしこも戦いになっている。

こういう時に危ないのは戦っている相手より、意識外からの攻撃が怖い。

倒れている冒険者に駆け寄りたいが、自分の身を危険に晒す事は出来ない。

そんな状況にモヤモヤする。

空に手が届かないのがそれに拍車をかける。

俺の手は短いなぁ。




「よっしゃ!よーやったでぇ!」


「落ちた!落ちましたよ!!」


「どーだぁ!」


「いけるもんだな……無理かと思ったぜ」


「残り二体!」


「あの子達の頑張りを無駄には出来ません!」




 魔法使い部隊から大きな歓声があがった。

見ていなかったが大きな気配が落ちたのは感じた。

ワイバーンが落ちたっぽい。

あの子達……ゴンタとヤマトの事だろう。

空で速度が出せず攻撃が出来ない、そんなストレスが溜まる状況で敵のヘイトを稼ぎ続けるのは大変だ。

本当に頑張ってくれている。



 落ちた先へ前衛部隊が駆け出したのも見えた。

きっちり倒してくれるはず。

頼もしい奴らだ。

金も名声も掛っているしな。




「分け前の交渉はきっちりしたるから空への集中を切らしたらアカンでー!!」


「「「おう!」」」




 さすがけーちゃん人心掌握にも秀でている。

俺達が落としたのに!って心の動きを見切っているからこその発言だ。

俺が部下だったら嬉しい。

あ、カール博士も拳を突き上げて返事をしている。

キャラじゃないけど周りの空気に乗せられているな。

意外な一面を見た。



 むっ!

俺は剣を振るう。

俺達に向かって飛んでくる光源に向かって。



 マジかよ!森の中で火の魔法を使ってくるか!

火の玉がいくつも飛んできた。

魔法使い達を守っていた前衛が動いて火の玉を潰しに動いた。

俺も更に動く。



 右手の魔剣で切り、左の義腕で叩く。

ボッと音を残して消えていく火の玉。




「フレイムエイプだぜ!」


「って事はもう森がどうなってもいいって状況か」


「どういう事だ?」


「知らねぇのか」


「住処である森に火が回ってもいいって攻撃をする時は死んでも構わねぇって時らしい」


「あいつら逃げ足だって速いのになんで逃げねぇんだ?」


「判らん!」




 なんか俺の代弁をしてくれた奴がいた。

フレイムエイプって魔物の自爆覚悟の攻撃らしい。

エイプって猿だよな。

木の上にいる奴らがそうなんだろうな。

冒険者側が有利に戦っている状況だと思われる。



 フレイムエイプは、さっきの魔法使い部隊からの歓声に反応したのかね?

まぁ、俺はけーちゃん達への攻撃を防ぐだけだ。

未だ続く火の玉攻撃を叩き落とす俺であった。







「けーちゃん隊長やりましたね!」


「やったなぁ」


「さ、さすがに魔力が枯渇しそうだぜ……」


「俺も……」


「首が痛てぇよ」


「上ばっかり見てたからなぁ」


「休んでもいいかのぅ。がはげへごほ」


「おじーちゃん休んでぇ!」


「永眠すんなよ……」


「他の場所はどうなってんだ?」


「敗走してねーんだから何とかなってんだろ」


「きっつい」


「後は頼む……」



 けーちゃん率いる遠距離攻撃部隊がワイバーンを撃退した。

撃退である。

五体で襲って来たワイバーンの内三体を倒したが残りの二体は逃げていった。

逃げる魔物は知能が高い。

ワイバーンは空を飛ぶトカゲってだけではなかった模様。

魔法使い達から歓声と安堵の声があがっている。

そして次々に座りこんでいく。

周囲に危険が少なくなったってのもある。

高ランクの冒険者達であっても厳しい戦いだったのだろう。

上にだけ集中出来る環境を作った前衛も褒めて欲しい。

それぞれの役割を誰に言われるでもなく熟した結果の勝利だと思う。




「大活躍だったね!怪我はなさそうだね。俺は誇らしいよ」


わう!


がう!


「いつもと違って攻撃できなくて辛かったろう?本当に凄いよ」


わうー!




 俺は空から戻ってきたゴンタとヤマトに声を掛けた。

自分達がやるしかないってのをきっちりこなして帰って来た仲間だ。

俺は誇らしい。

ゴンタとヤマトを撫でまわす。

ワッシャワッシャと。

俺の役得だ。

うぉ!君達顔を舐めまわすのは勘弁してくれー。

匂いが残るー。

ヤマトに転がされた。

本当に大きいなぁキミィ。




わう!




 ボク頑張ったんだよ!本当に頑張った!もっと撫でて!!

と言わんばかりに俺の腹に頭をグリグリ押し付けてくるゴンタ。

ゴンタ可愛いよゴンタ。

ヤマトもゴンタに続いて同じことをしてくる。

体の大きさやケンカっぱやい所とか親子でも結構違うもんだなと最近思っていたが、やはり親子だ。

仕草が似ている。

ちょっと頭を押し付ける力が強い気がするけども。

苦しいけど幸せなり。




「み、水のみなっせ」




 ひとしきりゴンタとヤマトを撫でまわしたおかげか彼らも少し落ち着いた。

お疲れの彼らを労うのは当然です。

出すべき物も出さないと。

俺はマジックバッグから水飲み皿を出し、水筒から水を注いだ。

ひゃあ、ヤマト君邪魔しないでー。




わう


がう




 喉が渇いていたのであろう、直ぐに動いてくれた。

皿に顔を突っ込んでガフガフと水を飲んでいる。

に、肉も出すべきか?




「ゴンターヤマトー大活躍やったな!」


「だよねっ!」




 魔法使い達の輪からけーちゃんが抜け出してきた。

彼女もお疲れのはずだが髭はピーンと伸び目はランランとしている。

興奮冷めやらぬといった感じだ。

ワイバーンとの戦いはそれだけのモノだったのであろう。

魔法の使えぬ俺には解らない事なのかも知れない。

ちょっと残念。

けーちゃんに続いてカール博士も来た。

二人して水を飲んでいるゴンタ親子を撫でている。

あ、けーちゃん達の後ろに列が……。

撫でたいんですね?

解ります。

ってまだ戦いは終わってねーぞ!

大丈夫かこいつら。

自分の事は棚にあげっぱなし。

人間だもの。




「この子達のおかげで後ろのモン達に被害は少なかった」


「ああ」


「襲われずに攻撃出来たよ」




 マシュー達が俺の横に並んでゴンタとヤマトを見ている。

被害はなかったか。

良かった。

ガストンは魔法の使い過ぎか、お疲れっぽく見えるけども。




「良い仲間を持ったよ」




 俺は胸を張る。




「猿の方も何とかなったみたいだぜ」


「そうみたいだな」


「問題は……ギャプラスか」


「大型魔物はギャプラスって言うのか」


「ああ、二足歩行の大きなトカゲさ。ドラゴンとは言えないだろうがな」


「ほー」


「一体ならまだしも二体いて未だ苦戦しているらしい」


「二体もいるのか。しかし最前列ならアドルフ達や他の最高戦力がいるだろ?」


「そっちにも猿が出て乱戦になってたらしくてな。やっとギャプラスだけを狙えるようになったんだと」


「行かなくていいのか?」


「前で欲しいのは魔法使いだろう。だがこの有り様だ」




 ワイバーンで魔力を相当使ったはず。

大の字になって寝ている奴もいた。

ほとんどの者が動けそうにない。

前方で活躍出来そうな魔法使いは少なそうだ。




「確かに」


「前衛で戦果の足りなそうな奴らは走っていった」


「稼ぎ時ってか」


「本部のモンも見てるし張り切ってんだろ。でかくて硬い化け物の相手なんて無茶だと思うがな」


「良い所を見せられるか」


「本部付きなら安定した収入と安全度があがるからな」


「冒険者も世知辛いねぇ……」


「まったくだ」




 マシューは口の端をあげて苦笑している。

そんなマシューは前に行かないのな。

オルロフ、ガストンとの話は付いてるんだろう。

自由な冒険者で居たいって所か。




「トシ、どうするん?」


「そうだねぇ……」




 けーちゃんが来た。

この場合のどうするとは、前に行くかどうかだろう。

俺はゴンタとヤマトの方を見る。

まだ撫でたい!って奴らの列が続いている。

お前ら……戦いは終わってないんだぞと言いたい。

戦果を稼いで安全そうな場所にいるから、後は知らん。

そんな感じに見える。

そういう自己責任ってのも冒険者っぽくはあるが、どうなんだろう……。

アドルフ達みたいな強い奴らが一杯いるってのが安心感になっているってのは否定できない。

みんなも多かれ少なかれ同じ気持ちがありそう。

これは危険かも知れない。



 それはさておきゴンタとヤマトは戦えるだろうか?

空で思う様に戦えなかっただろうから発散させてやりたいとも思う。

でも少し休みがいりそう。




「ゴンタとヤマトが休憩し終わって前の状況が変わっていなかったら行こうか」


「そう、そうやね。ゴンタ達は飛びっぱなしやったもんなぁ」


「ヤマトは魔法で足場を作って跳ねまわっていたから魔力も体力も結構使ったと思うんだ」


「ヤマトの魔力量も凄いもんやで」


「やっぱそうなのか」


「さすがって感じや」


「おー」




 俺とけーちゃんはゴンタ親子を見て話す。

それから戦っている前方へ視線を移した。

怒声や怒号が漏れ聞こえ、木々の間から光が見える。

一kmくらい先だと思う。

未だギャプラスの姿を拝んではいないが戦いは続いている。

二足歩行のトカゲ……ティラノサウルスみたいな奴だろうか?

想像するに危なそうな奴に違いない。

マシューは硬いって言ってたな。

さっきのワイバーンみたいな皮を持ってるのだろう。

雷撃を使う様な魔女がいても倒せていないとなると魔法も効きづらい?

罠か特殊能力辺りなら何とかなるか?

俺が大穴作って埋めるならいけそうではある。

みんなの目の前でやるつもりはないけどさ。

魔石の抜き取りも同じだ。

冒険者ギルド本部の人が退却の判断を下してくれれば、こっそりやってもいいな。

でもそうはならないんだろうなぁ。

偉い人が精鋭を率いて倒せなかったとは言えまい。

手間が掛った部隊だろうしな。



 誰か早く倒してくれないかな。

他力本願最高!

俺も座り込んで眠りたいよ。

ふわぁっと欠伸が出た。

けーちゃんもつられている。

二人で目を合わせてしまった。

笑いたいけど戦場だ。

倒れている人もいる。

我慢。

こういう所からして俺は冒険者っぽくないんだろうな。

笑いたい時に笑う。

そういうのが冒険者っぽい気がする。



 何だか家が恋しくなった。

俺は冒険者ではなく家のお父さんなのだろう。



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