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事情と相談

今年はありがとうございました。

来年もお付き合いください。


良いお年を。

338



「――なのです」


「無茶をしたものだ……」


「本当……」


「頑張った!」


「がんばったー」



 俺が花ちゃんの屋敷で目を覚ますと奥さん方の話声が耳に入って来た。

上半身を起こし、腕を上げて伸びをする。



「ふわぁぁ」


わう


「トシちゃん、おはよー」


「おはよー」


「トシ起きたか。おはよう」


「おはようございます」


「だー」

「あー」

「うー」


「みんな、おはよう」



 欠伸をする俺にみんなが挨拶してくれる。

俺も挨拶を返す。

メイプルとチェリーはそろそろ言葉をしゃべりそうだとカミーリアさんが言っていたが、まだしゃべってはくれない様だ。

待ち遠しい。

きっとお父様とか言ってくれるに違いない。

早く呼んでおくれ娘達よ!



「お、おはようごじゃいましゅ!」



 また噛んでる。

って白い翼を持った幼女だ。

目を覚ましたか。



「おはよう。落ち着いたみたいだね」


「はい。みなさんとお話してました」


「おっと、俺はトシって言います。君は?」


「わたち、私はロリエルって言います」



 ブフッと俺の口から音が漏れた。

いやだってねぇ?名は体を表すを地でいってるんだもの。

幼女がロリ。



「あー寝起きで喉の調子が良くないなぁ。水、水っと」



 俺は漏れた音を誤魔化す。

枕元の水差しから木のカップへ水を注ぎ、飲み干す。



「大丈夫ですか?」


「ああ、話の途中でごめんね」


「いえいえ」



 俺とロリエルちゃんがペコペコ頭を下げ合っていると、かっちゃん、カミーリアさんも起きて来た。



「おはよう」


「おはよーさん」


「おはよう。あら、目を覚ましたのね」


「はい。おはようございます」


「お腹の怪我の具合はどうや?」


「動くと少し痛みますが、大丈夫みたいです」


「そら良かった」


「ちょっと顔を洗ってくるよ」



 一言断りを入れてから布団を片付けて顔を洗いに行く。



「花ちゃん、雪乃、尾白、おはよう」


「トシさん、おはようございます」


「おはよ」


「うむ」



 台所に立つ花ちゃんに挨拶をする。

板の間から見守っている雪乃と尾白にもついでにだ。

挨拶もそこそこにタオルを首に引っ掛けて顔を洗う。

カール博士と一緒に各家庭に引いた上水道のおかげで洗顔も楽である。



「ロリエルさん、目を覚ましましたね」


「ああ。落ち着いたみたいで良かったよ」


「消化の良いものを食べてもらいました」


「花ちゃん、ありがとうね」


「いいええ、この屋敷での家事はわたくしの仕事ですから。他の方には譲れません」


「そっか。そうだね」



 俺が寝ている間に花ちゃんがロリエルちゃんの世話をしてくれていた様だ。

さすが花ちゃん。

頼もしい。

割烹着とお玉が眩しいぜ。

で、今日のご飯は何でしょう?



 起きたとは言え夕方である。

リオン、メイプル、チェリーの世話を昼当番、夜当番で分けているのでしょうがない。

俺の奥さん方以外の協力には、ホント頭が上がらない。

いつか倍返しでお礼をするので勘弁してほしい。



 みんなでご飯を食べ、お茶を啜った所でロリエルと話をする事になった。

俺が寝ている間にある程度の話は聞いていたらしいが、初めから話してもらった。

あ、因みにヤマト、けーちゃん、アッツさん、サムはアリーナ、ゲンツと一緒に水晶ダンジョンへ行ったそうだ。

アリーナはゲンツのリベンジに付き合わされたらしい。

ドワーフ三人組も鉱物を取りに一緒に行ったそうだ。

戦力的には十分だろう。

お土産に期待だね。



 ロリエルの話はこうだ。

空に浮かんでいる島がある。

そこには白い羽を持つ種族が住んでいる。

その島で全てが完結しており、島から出る事はない。

問題は、黒い羽を持つ男の子が生まれた事から始まった。

その次の年には黒い羽を持った弟も生まれた。

黒い羽を持って生まれる子供は昔にもいたらしい。

黒い羽の持ち主は瘴気に侵されていると言われており忌避されていた。

島の住民達は、その黒い羽を持った兄弟を避けていた。

成長した兄弟の両親が亡くなったのは一月前であった。

そして黒い羽を持った兄弟が島で暴れ、族長、族長の息子を隷属の首輪で奴隷にし島を支配した。

島で農作業をする者達は羽をもがれた。

女子供は牢獄のような所に押し込められて不自由な暮らしをさせられている。

ロリエルは隣に住んでいたお姉さんと森に行っていたので助かった。

隔離された女性達と密かに連絡を取りながら森で暮らしていた。

助けを求められそうなのは他の浮遊島、本島と呼ばれている所に住む同朋達だ。

およその方角を聞き、食料を確保して隣に住んでいたお姉さんと共に助けを求めに島を飛び立った。

兄弟に見つからずに島を出る事には成功したが鳥の魔物に襲われお姉さんとはぐれた。

泣きながら飛んでいたが気が付くと、この島にいたとの事。

ロリエルは、それらの事を泣きそうになりながら説明してくれた。



「ふむ。大体の話は解った」


「みんなを助けてください!!」


「ちょっと相談してみる」


「お、お願いします!」



 ロリエルが顔を真っ赤にして頼んで来た。

俺の一存では決められないので時間をもらう。

相談してみるとは言ったものの問題だらけだ。

ロリエルの手前、即断で断れなかったけどさ。



「俺は厳しいかなと思っている」


わう


「そうやな」


「気持ちは解るけどねぇ……」


「うむ」


「そうですね」



 俺の意見に続き、ゴンタ、かっちゃん、カミーリアさん、アン、シーダも似たような感触らしい。

難しい顔をしている。



「?」


「??」



 なっちゃん、ヒッコリーが俺達の顔を順番に見回している。

戸惑っているっぽい。

俺達だって必死で逃れてきたロリエルの手助けはしたい。

でもねぇ……。



「まず空ってのがいけない。行く手段がない」


わう?


「ゴンタの力は解ってるんよ。移動中に襲われたらまともに戦えんやろ?一度に全員は無理やろうし」


わぅ……


「浮かぶ島で空を飛べる者との戦闘は無理だろう」


「戦わない方法……説得できるのかしら?」


「なんだか根の深そうな感じよね」



 アンが戦闘の話をし、シーダが和平の道を模索する。

そしてカミーリアさんがロリエルの話から状況を想像している。

俺もカミーリアさんの意見に賛成だ。

聞いただけだが話が出来る所はとっくに過ぎていそうだ。



「ロリエル、黒い羽の兄弟は、みんなに悪い事したんか?」



 かっちゃんがロリエルに問いかける。



「えっと、特には何も……」


「昔の話だけでいじめたんとちゃう?」


「いじめてなんか……」



 ロリエルの言葉は尻すぼみになっていった。

うーん。



「黒い羽の兄弟は島を出ようとか思わなかったのかな?」



 ロリエルを責めている風になっていたので話を変える。

情報も足りないしね。



「あ!」


「どうした?」


「わたち地上にいる!?」


「ん?」



 何を当たり前な事を……。



「あー、どうしよう!?」


「何か問題あるん?」


「島のみんなは地上に降りると羽が黒くなるって言ってたんです……」


「ロリエルの羽は白いまんまやで?」


「白いですか?良かった……」



 かっちゃんに羽は白いままだと聞いて自分の羽を見て安心するロリエル。



「みんなは白い羽が黒くなる理由とか言ってたかい?」


「瘴気を取り込んで黒くなるって言ってました」


「瘴気か……」



 迷信の類かと思っていたが、瘴気と言われると可能性がないでもないと思ってしまう。

魔物も生物が魔力や瘴気に侵された結果とも聞いている。

魔力溜まりで実験した国もある。

そこで魔物になった例もあった。



「だから黒い羽の兄弟も瘴気を取り込んだって扱いをされたのかな?」


「です……」


「兄弟の両親は白い羽だったの?」


「はい」


「ふむ」



 暴力は振るっていなかったってロリエルは言っていたけど、小さい頃から避けられていたら捻くれるのも無理はないかな。

少なくとも恨みは残りそう。

ロリエルは知らないだけで大人達は何かしていた可能性とかもあったかも。

なんとなくだけど自業自得って感じがしないでもない。

兄弟の羽の色だけじゃなく行動を見て判断してなかったかも知れない。



 隔世遺伝って線もあるかも知れない。

白い羽の集団に黒い羽か……何とも言えないなぁ。



「黒い羽の兄弟は特別な力とかを持っていたのかい?」


「えっと、私たちの種族は念道力が使えます。空を飛ぶのに使います」


「ほぉ」



 体の大きさの割に小さい羽だと思っていたが、羽だけで飛んでいた訳じゃなかったか。



わう


「念道力かぁ、ゴンタと一緒やね」


わう


「風の魔法も使えます」


「みんな?」


「ほとんどの人が使えるはずです」



 優秀な種族らしい。

俺も魔法を使いたかったな。

魔法中年。

やっぱ無しで。



「弟のザウエルは念道力がすごいです。飛びながら他の物も動かしてました」


「普通は飛ぶので精一杯って事?」


「はい。同時には使えません」


「ふむ」


「兄のガウエルには近寄れません」


「ん?」


「武器を持って詰め寄った戦士がバタバタと倒れていきました」


「む」


「近寄れないので遠くから魔法で攻撃しようとした人もパタリと倒れて気を失いました」


「死んだ訳ではないんだね?」


「はい。気を失っただけでした」



 何の力だろう?魔法だろうか?



「かっちゃん、魔法だと思う?」


「んー、どうやろなぁ。魔法で出来るか……出来るっちゃ出来そうやね」



 かっちゃんは少し考え込んで答えてくれた。

出来そうなのか。



「おー」


「ただ、遠くのモンにもとなると難しそうや」


「距離が離れたら難しいの?」


「せやな」


「同じ力で倒した訳じゃないのかも……」


「かもなぁ」


「ギフトって線もありそうね」



 俺とかっちゃんが話をしているとカミーリアさんも加わって来た。

ギフト……なんでもありっぽいからな。

可能性はある。

俺とゴンタは魔法を使えないから、そっちの方が解りやすい。



「あ、あの……ダメですか?」



 ロリエルがおずおずと聞いて来た。

話の流れから無理そうだと判断したのかな。



「それなりの人数で島へ行く方法がないってのが一つ。情報の足りない相手と戦うには危険が大きいってのが一つ」


「うぅ……」


「何より俺達に得がなく、危ない橋は渡れない」


「……」



 ロリエルが下を向いてしまった。

だが仕方あるまい。

俺だけならともかく、みんなを危険な目に合わせる訳にはいかない。

あぁ、俺だけっても今じゃ無しだな。

可愛い赤ちゃん達を抱えている身だ。



 なっちゃん、ヒッコリーがジトーッと俺を見ている。

口を尖らせている。

不満そうだ。

彼女らは俺に正義の味方でいて欲しいと思っているのだろう。

だがここは譲れない。

かっちゃん、アン、シーダ、カミーリアさんは当然って顔をしている。

俺と同意見って事だ。

ゴンタは……どっちでもいいよ!って所だろうか?まぁゴンタなら何とか出来る気はする。



「危ない事は出来ないが、協力はしてもいい」



 頑張ってここまで来た幼女だ。

少しくらい手助けしてやりたい。

だから提案してみる。

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