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亀の忘れ物

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 亀のペップシさん、大きい体だけど食事はほとんど必要ないと言う事が解った。

まぁ、シィロやペップシさん達の様な大物が世界に大勢いたら食事で生き物がいなくなってたかもね。

魔力さえあればいいんだとか。

俺達が用意した宴会用の食事は一通り食べてくれたが特に反応はなかった。

ちょっと残念。



 ペップシさんはかなり穏やかな人?で、子供達が興味深々で近寄ってもドーンと構えていた。

それどころか湖に沿って作った壁に頭を付けて登っていいぞと言ってくれたらしい。

子供達も子供達で恐れる事なくヨジヨジ登って頭、首、甲羅と探検しに行った。

俺が止める間もなかった。

かっちゃん、けーちゃん、アッツさん、サムが引率で付いて行ってくれたので俺は追いかけなかったよ。

もっともケットシー達は自分の興味で動いたに違いないと俺は見ている。

彼らは面白い物が好きだからねぇ。

始めてみるタイプの亀を放置する訳がない。



「あぁ……」

「ひっ」

「ト、トシさん!」



 子供達のお父さん、お母さんが青い顔をしている。

うん、それが正しい反応だと思うよ。

子供達が恐れ知らずで物知らずなのは間違いない。

大きな気を持っていても威圧してこないし穏やかそうってのは何となく解るけど、信用しすぎじゃありませんかね?お子様方。



「ケットシーのみんなが付いて行ったから大丈夫だよ」



 俺は親御さん達に向かって言う。

慌てた様子は見せていない。

そういう所を見せるとパニックが広がっちゃうからね。

内心穏やかではないが落ち着いている様に見せる。

まぁ、ケットシーのみんなは守りに関してはとても頼りになる。

問題はないとは思う。

しかし頼もしいと思うべきか危なっかしいと思うべきか、村の子供達は凄いな。



「リオンも早く大きくなって、みんなに混じって欲しいな」



 元気な子供達を見て、つい呟いてしまった。

なっちゃんも村の子供達を見ては同じことを言っている。

それを聞いて俺は吹き出しそうになったんだ。

と言うのも、ちょっと前までなっちゃん自身が子供達に混ざって遊んでいたからね。

今でも普通に混ざって遊べそうだし。

村の子供達からもなっちゃんは受けが良い。

リオンもなっちゃんの様になってくれるとは思っている。

想っているが、少し成長が遅めなのが気になる。

リオン以外にエルフの子供を知らないので比べる事も出来ない。

情報だけなら取れるが実際に見て比較できない。

エルフのリオンと違ってラミアのメープルとチェリーは元気に動き回っているので村の子供達に混ざるのは時間の問題だ。

あの子達は心配いらないだろう。

アン、シーダ、カミーリアさんも同意見である。

子育て初心者の俺と違いカミーリアさんが言ってくれているので安心出来る。



「かっちゃーん!」

「誰かいるよー!」

「白い人だ」

「生きてるのかなぁ?」

「血の跡じゃない?」

「痛そう」

「けーちゃん早く来てー」


「みんな離れとき」


「今行くでー」



 村の子供達を見て、うちの子達の事を考えていると声が聞こえた。

姿は見えないが甲羅の上にいるであろう子供達の声だ。

かっちゃん、けーちゃんの声も聞こえた。

放っておけなそうだったので俺も上に行こうかと腰を上げる。

ゴンタも齧っていたコカトリスの骨から口を放した。

視線は骨から外れていないので、名残惜しいのだろう。

葛藤しているゴンタも可愛らしい。

並んで骨を齧っていたヤマトはそのまま齧っている。

ゴンタが大腿骨を齧っていたのに対し背骨である。

解りやすい。

花より団子……違うか。

まぁ似たようなもんだ。



『――――――・――』



 ペップシさんが何か言った。

相変わらず俺には解らない音だ。

ズンッと腹に響く感じである。



「忘れてたんかい!!」


「良く言えば大らか、まぁ大雑把ってのが正解やろなぁ……」


「服に血が付いとるけど外傷はないで」


「ホンマや」


『――』


「気功術が使えたんやね」


「長生きしてそうやもんな」



 誰か怪我人が甲羅にいたらしい。

ペップシさんの気功術により外傷は塞がっている模様。

この強大な気で攻撃されたら堪らんな。

でもシィロのように空を飛んでいる訳ではないし、動く速さも遅い。

戦いになっても勝算はあるな。シィロよりは。

俺はシィロと戦っても勝算は薄い。

シィロはペップシさんに勝てていない。

相性ってのはあるもんだ。

シィロがペップシさんの何にやられていたのかは解らないけどね。

甲羅で守りが堅いってのは解るけども。

対空攻撃もあるんだろうな。

魔法かな?

水魔法とか得意そうだよね。



「トシ!怪我人や。横になる場所と水分の用意してやー!!」


「あいよー!」


わう!



 かっちゃんが大きな声で叫んだ。

あっちはかっちゃん達に任せて、下で受け入れ準備をしよう。

素性の判らない相手だから花ちゃんの家に担ぎ込む訳にもいくまい。

四阿に寝床を作ろう。

俺は布団を取りに花ちゃんの屋敷へ走る。



「花ちゃん、客用の布団は余ってたっけ?」


「余っていないのです。村の人達にも布団が行き渡ったので服の方に力を入れてました……」


「あぁ、いいんだいいんだ。聞いただけだから」


「予備くらい作っておくべきでしたね」


「花が反省するような場面ではないぞ」


「そうじゃ」


「そうだよ。俺は畳でも寝れるから俺の布団を持ってくね」



 花ちゃんを囲んで尾白と雪乃が騒ぎ出したので、俺は逃げる様に布団を担いだ。

おっさん臭が染みこんでいないよな?クンクン。



わう


「おう。持ってきたよ」



 俺はゴンタに声を掛けて四阿のテーブルへ歩み寄る。

あ、テーブルの上に食べ物が乗ったまんまだ。

片付けてから行けばよかった。

俺が立ち止ったのを見て、村の若い衆がテーブルの上を空けようと動いてくれた。

すまんです。

俺の段どりは悪いが、村の若い衆の察しは良い。

食べ物を口に放り込みつつ皿を動かしてくれた。

モグモグしてる。

食べたい物があっただけかもしれない……。



 多少の疑問を抱えて布団を敷いた。

カミーリアさんが枕と毛布を持って付いて来てくれていた。

細かい所まで気が利くお方である。

助けてもらってばかりだ。

ちゃんとお礼とお返しをしないとだな。

むぅ。



「ありがとうございます」


「何だか色々起こるのねぇ」


「たぶんゴンタが主人公体質なんですよ」


わう!?


「ゴンタちゃんじゃ仕方ないわねぇ」


「ですねぇ」


わう!?



 ゴンタがボク?違うよう、と言っていそうだが困ってる顔も可愛かったので、そのままからかってしまった。

ワタワタして俺とカミーリアさんの顔を見てくるゴンタを見るとにやけてしまう。

ごめんなさい。

カミーリアさんがどう思っていたかは定かではない。

心底、ゴンタのせいとか思っていてもおかしくはない。

なんせゴンタだからね!



 わーっと騒ぎ立てる子供達を先頭にアッツさんとサムが怪我人を担ぎ上げてやってきた。

まるでお祭りの神輿の様である。

かっちゃんも横で支えているしね。

確かに怪我人は白い人だ。

俺にも見えた。



「トシ」


「お疲れ様」


わう


「おっちゃん、ゆっくりなぁ」


「はいな」


「いくでー」



 俺がいる四阿までかっちゃんとアッツさん、サムが来た。

アッツさんとサムがゆっくりと怪我人である白い人を降ろしていく。



「ふぅ」


「わしらは力仕事向きやないなぁ」


「せやね」


「お疲れ様でした。後は俺達が見ます」


「頼むわー」


「もうちょい飲ませてもらおか」



 怪我人を布団に寝かせてくれたアッツさんとサム。

テーブルにあった食べ物や飲み物は隣のテーブルにある。

彼らは水分補給やーとか言ってワインに手を伸ばしている。



「この白い人って……」


「何者やろね」


わう


「怪我は……塞がっているね」


「ローブに穴が開いとって血が黒くなっとるけど生きとる」


「ポーションは?」


「もうかけたし、口からも飲ませたで」


「意識がないのによく飲ませられたね」


「こういう人は何度か見とるしなぁ」


わう!


「せやろ?うちはやる女なんよ」


「やるね!」


「さすがかっちゃん」


「可愛いだけではないな」


「ね!」


「かっちゃんやるー」


「やるー」



 ゴンタと俺に褒められて嬉しそうなかっちゃん。

短い腕を組んで誇らしげにしているかっちゃんは可愛い。

鼻も膨らんでいるし、髭もピーンと伸びている。

そしていつの間にか来ている俺の奥さん方とヒッコリー。

俺が花ちゃんの屋敷で騒いていたので起きて来てしまったらしい。



「話を聞いて来たでー」


「けーちゃん、ありがと」


「ええんよ……とろいしゃべりにイラっと来たけどな」


「あぁ……」



 けーちゃんがペップシから怪我人に付いて聞いてきてくれた模様。

せっかちなケットシーにはしゃべりが遅いペップシと話すのはきついらしい。

怪我人を挟んで椅子に座る俺達。



「ペップシが言うには海にいる友人に会った帰りに拾ったそうや」


「拾った……」


「怪我をして海に浮いとったらしいで」


「ふむ」


「だんだん気が小さくなっとったんで気功術で外傷だけは塞いでおいたんやと」


「いい亀だ」


わう


「拾ったのは二日前らしいんよ」


「亀の速度は判らないけど二日の範囲か……人がいるはずはないんだけどな」


「まぁ、この外見の通りやない?」



 けーちゃんが解説してくれた。

そしてけーちゃんが言う外見と言うと……。



「白いはねー」


「はねー」


「鳥人ではなさそうね」


「足は人間と同じに見えるわ」


「女の子よね」


「うむ。女の子だな」


「若いわね」



 白い羽を持った若い女の子であった。

おそらく飛べるのであろう。

長距離飛行が可能なのかも知れない。

それならこの辺りにいたと言っても頷ける。

俺が落ちてくる現場にいたら親方ーとか叫んでいたに違いない。

惜しい。

まだ子供っぽい顔をしているが可愛らしい感じだ。

いや、若いと言うより幼女の方が近いかも知れない。

ちょっと男の子っぽくもある。

うちでいえば凛々しいアンみたいに将来なるのかもね。

褐色の肌と色素の薄い茶髪、髪の毛は後ろで束ねて紐で結んである。

白っぽいローブしか着ていない様に見える。

ヘソの辺りが裂けて黒っぽくなった血が付いている。

靴は何かの革製品らしい。単純な造りだ。

他には何も持っていない。



 みんなの視線が怪我人の女の子に集中している。

胸がわずかながら上下しているので生きているのは間違いない。

ポーションを飲ませたとは言え水分は足りていないだろう。

食事もいつから取れていないのか。

カミーリアさんが布に水を染みこませて怪我人の口許へ持って行っている。

やはり喉が渇いているのであろう、意識は無い様だがちゅぱちゅぱ吸っている。

体は生きようとしているのだな。



「あー」

「うー」



 アンに抱かれたメイプルとシーダに抱かれたチェリーがカミーリアさんに手を伸ばしている。

自分も布を持ちたいのか、何か飲みたいのか。

身近な人がやっている事に興味があるのだろう。

二人ともカミーリアさんにはよく懐いているからね。

それに対してリオンはなっちゃんの胸で大人しくしている。

半分寝ているのかな。

目は薄目ながら開いているもんね。



「うっ……」



 呻き声と共に身じろぐ怪我人。

眠り姫が起きそうだ。

何か物語が始まるのか騒動の幕開けなのか。

まだ判らない。



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