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緊迫

334



 シィロは湖の上で止まった。

いつもなら湖へ着水してから花ちゃんの屋敷の方へ来るんだが、今日は違う。

彼女の羽が優雅に上下している。

あんなので滞空出来るのか……絶対魔法とか魔力とかが関係しているんだろうな。

そんなシィロの顔は俺達、いやヤマトの方へ向いている。

見ているとかじゃない、睨んでいると言っていいだろう。

シィロは気を体から漲らせている。

最初に会った時の様な威圧感だ。

周囲の空気がビリビリ振動しているかの様な感じさえする。

俺の後方にいるヤマトからも似たような威圧感がある。

楽しい展開は見えてこない。

俺の顔を汗が流れていく。

因みに暑い時期ではない。



『キュイィィィッ!』



 シィロは湖の上で滞空したまま吠えた。

湖の上を波紋が走る。

俺の体が硬直する。

俺もそれなりに鍛えているし以前より強くなっているはず。

そんな俺ですらコレなのだから村の住人達も同様だろう。

くっ!

俺は視線だけで状況を確認する。

視界の端に村人達を捉える。

気を探る。

なっちゃん、アン、シーダは子供達と一緒にいるな。

ヒッコリー、カミーリアさんも奥さん達の側にいる。



「シィロ!落ち着かんかい」


「ヤマトも抑えるんや!」


わう!!



 かっちゃん、けーちゃんが叫ぶ。

二人は動けるのか!?

だが、かっちゃん、けーちゃんの言葉でも状況は変わっていない。

ゴンタも吠えた。

動けるのか……まぁ、ゴンタだからな。

そのゴンタの声でもヤマトに変化はない。

マジか

あ、俺も硬直が解けた。



 ゴンタ、かっちゃん、けーちゃんの言葉にも耳を貸さない相手に俺の言葉が届くとは思えない。

俺と違ってかっちゃん、けーちゃんはシィロと普通に話が出来ていた。

何度かシィロが子供である毛玉と一緒に湖に遊びに来ていた。

その時に話したり一緒に甘い物を食べたりしていた。

俺は側で置物と化していたが、わりといい雰囲気だったと思っていた。

それがこれか。



 なら俺のやることは……。



「動ける者は花ちゃんの屋敷の陰へ行け!!」



 俺の声が村中に響き渡る。

花ちゃんの屋敷は特別製だからな。

花ちゃんがいる限り屋敷は鉄壁の要塞だ。

村で一番安全な位置なはず。

なっちゃん、アン、シーダが子供達と共に屋敷へ動いた気配を後ろに感じた。

それに続いてアリーナとゲンツが視界の端で動いたのが見えた。

彼らも復帰が早い。

ちゃんと鍛えているな。



 俺の声はシィロにも届いるはず。

シィロは人間の言葉も理解していたから意味が解らないという事はない。

それでも湖の上空に留まっている。

村人に危害を加えるつもりはないのか?

俺の希望的観測にすぎないけども、そうであって欲しい。



「動けない者は俺が何とかする!!」



 ヤマトが遊びに来て目立っていたおかげで村の住人達は全て表に出て来ているだろう。

俺は大地を動かして行動不能に陥っているみんなを足元ごと移動させる。

念のため各家に残された人がいないか気を探る。

誰か残っていないか?……カール博士だけ家にいるな。

花ちゃんの屋敷前の広場であれだけ騒いでいたのに研究熱心だ事。

いや研究バカと呼ぶべきか。

早く空を飛べる魔導具を作って欲しいものだ。



「ゾイサイト!カール博士を連れてってくれ!!」


「おう!」



 既に動けるであろうドワーフのゾイサイトに声を掛ける。

彼らは俺といい勝負をする相手だからな。

そしてドタドタと数人の足音が聞こえた。

セレスとソーダも一緒に動いてくれたのだろう。

そんな間にも村の住民達を動かす。

ヤマトは気力全開で湖へ歩いている。

その横にはゴンタ、かっちゃん、けーちゃんもいた。

激突しそうなヤマトとシィロを止めようとしてくれているんだよね!?

まさか戦ったりしないよね!?

俺は動揺しつつ住民の避難を続ける。

戦闘訓練をしていた若い衆達は行動不能から立ち直りつつある。

自分達の足で動き出した。

武器を取っている者もいた。

それでも自分の力量とシィロの差が気の量や咆哮で解ったのか避難してくれている。

みんなで武器を取ってシィロに対するなんて勘弁してほしいから助かる。

倒れていく若い衆を見たくない。

俺だって立っていられるとは思えない。



 俺は大地を動かしながら武装を確認する。

もちろん好んであんな大物と戦おうとは思っていない。

だがこちらの思惑通りになるとも限らない。

防具は着けていない。

多くの村人と同じ様に長袖のシャツと革のズボン。それから熊の毛皮を加工したベストだけだ。

足元は鉄板入りの編み上げブーツだ。

安全靴を参考にして作った。

森歩きには便利だが山では少し重く感じる時がある。

魔剣は花ちゃんの屋敷に置きっぱなしだ。

村周辺の安全は確保したと思っていたからな……。

腰にあるのは採取、解体用のナイフだけ。

もっとも左腕のミスリル義腕があるので砲を撃つことは可能だ。

一発だけだけどな。

後、『錬成』で義腕を武器に変える事も出来るだろう。

なまくらで形だけの武器にしかならないけども。



 なっちゃん、アン、シーダが花ちゃんの屋敷から出ようとするのをカミーリアさんが止めてくれている。

助かる。

奥さん達にはリオン、メイプル、チェリーの側に居て欲しい。



 ゾイサイト達もカール博士を避難させてくれたっぽい。

よし!村の住人の避難が終わった。

俺も湖の方へ歩き出す。

気が重い。

足も重い。



 シィロは相変わらず気を漲らせている。

すげー威圧感だ。

ドラゴン亜種ってのは伊達じゃないな。

怖いぞ。

でも、この地に人を集めた責任ってのがある。

歩みを止める訳にはいかない。



「ヤマト!ここには遊びに来たんやろ?人様にケンカ売ってどうすんねん!」


「ここはシィロの縄張りなんよ」


わう


がぅ……



 俺の進む先でゴンタ、かっちゃん、けーちゃんがヤマトを説得している。

そのヤマトは湖まであと少しという位置で仁王立ちしている。

いやまぁ、四足なんだけどね。

カッコイイけど今は止めて欲しい。

ヤマトの声は窘められているせいか勢いはない。ないが視線はシィロから外れていない。

ヤマト、落ち着いてー!



 それに対してシィロは湖の上空で留まっている。

威圧はしているが襲ってきていない。

ゆっくり白い羽を上下させている。

一定の信用はしてくれているって事か?警戒を怠っていないだけかも知れない。

ヤマトは強そうだもんな。

この大物同士が激突したら勝負と呼べる戦いになりそう。

少なくとも瞬殺で一方的に終わるような戦いではあるまい。



 俺は歩きながら計算する。

もしもヤマトとシィロの戦いになって、俺達が加勢したらシィロを倒せるのか?

気の力だけならヤマトが少し下って感じだ。

体格、大きさでは圧倒的にシィロが上だ。数倍では効かない違いがある。

ヤマトも大きいのにな。

そして空を自由に飛べるシィロは圧倒的に有利だろう。

魔法や、ブレスなんかも有りそう。

空に居たまま攻撃が出来るに違いない。

何より知能が高そうだ。

少なくとも馬鹿ではない。

それに対する俺達はどうだろうか?

最高戦力であるゴンタ。

ヤマトに負けているのは体格くらいか?

シィロの咆哮も効いていなそうだったし念道力で空を駈ければ十分戦えそうだ。

シィロの足や腹、首といった辺りが鱗に覆われているが体の上部や羽は防御力が低そうに見える。

見えるだけだけで、そこは判らない。

かっちゃん、けーちゃんのケットシー組は結界魔法があるから守るだけならいける。

攻撃魔法だって効くかも知れない。

俺は……義腕の砲でなら対空攻撃が出来るかな。

得意の落とし穴は出番がないだろう。

シィロに触る事が出来れは魔石の抜出して倒せるかも知れないが難しいだろう。

ゴンタの念道力で俺を飛ばしてもらっても撃ち落とされる姿しか想像できない。

俺に打てる手は少ない……人の軍勢なら相手に出来るがシィロの相手は無理そう。

俺強くね?なんて思っていてすみません。

無双には程遠いようです。

それに花ちゃんの屋敷があるとはいえ多くの守らなくてはいけない者達がいる。

どうしよう……考えが纏まらないまま歩く。



 そして俺もヤマトの横に並んだ。



「ヤマト……俺達には守らなくてはならない者達がいるんだ。抑えてくれないか?」


がう



 翻訳を聞いていないがヤマトは俺の言う事を聞いてくれそうにない。

前は俺の後をテテテッと付いて回って構って構ってーと懐いてくれていたのにな。

少し寂しい。

神使としての修行を経て変わっちゃったのかなぁ。

自覚と力を得たって事かも知れない。

俺は神使ではないから解らない。



わう


がう


「ここはお前の守るべき山じゃないだろう?とゴンタが言うとる」


「場所は関係ないし神使として引く訳にはいかない。とヤマトが言うとる」



 ゴンタがヤマトに声を掛け、ヤマトが返事をした。

それを通訳してくれるかっちゃんとけーちゃん。

ケットシー二人の表情は意外な事に普通だ。

戦うなら戦ってもいい、

そんな覚悟が出来ている気がする。

俺には解らないがヤマトにも引けない事情がありそうだ。

その事情を聞いてシィロに説明してみよう。



わう!



 もしかしたらシィロが解ってくれるかも知れない。

俺がそう思って口を開こうとした瞬間にゴンタが湖から流れ出る川の方へ顔を向け吠えた。



『キュイッ!』



 湖上空にいるシィロも吠えた。

また湖に波紋が広がる。

体は硬直していない。

俺は口を開けたままで状況の変化を読み取ろうとする。

俺の動揺はかっちゃん、けーちゃんの動揺でもあったろう。

何だってんだ!?




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