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客人来たる

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 暑い夏が終わり、朝晩には長袖の寝間着と毛布がいる時期になっている。

この辺りでは雪が降るとしたら相当高い山であろう。

因みにサトウキビ島で一番高い双子山の頂上ですら雪は見当たらない。

だから正月も過ぎた今でも晩秋といった気候だ。

エルフのなっちゃんが産んでくれた俺の長男であるリオン、ラミアのアン、シーダが産んでくれた長女のメイプル、次女のチェリーも成長を見せている。

リオンは四つん這いで座敷を動き回るようになった。

だがメイプル、チェリーの二人は蛇の足を使ってスルスルと家の中を歩き回っているのを見るとリオンの成長が早いのか遅いのか解らない。

リオンが言葉らしい言葉をしゃべらないのに対し、メイプル、チェリーはおとうしゃん、おかぁしゃんと舌ったらずながらも俺達を呼んでくれた。

俺が嬉しくなって村のみんなも巻き込んで宴に突入したのは仕方あるまい。

カミーリアさんがおばぁちゃんではなく名前呼びをするように言い含めていたのは笑い話かもしれない。



 湖の側にあるこの村は無事に大きくなっている。

バッキンで農地を任せていた犬獣人達、カミーリアさんの報告でラミアの里からラミア族の一部、いくつかの村、町、都市が崩壊して国として機能しなくなりつつあるロセ帝国からアリーナが選んだスラムの子供や奴隷商館から買った奴隷達がサトウキビ島の住人に加わっている。

ロセ帝国ではちょっとした騒動も起こしたが無事に戻ってこれた。何の被害もありませんでしたよ?俺達には。

あの国で会った人達は概ね素朴で善良な人達でした。

酒場、八百屋、雑貨屋、みな親切で好感が持てた。

ところが役人、衛兵といった国の顔というか集団になると狡猾で陰険だったのはどういう事であろうか?一般市民とのギャップに首を傾げたくなりましたとも。

都市の外まで難民が溢れていました。

全員を連れて来るのは無理でしたが、また行く事があるかも知れません。

何も言わないけどアリーナが、そう思っているであろうことは推察できました。

サトウキビ島の状況が許すならばアリーナの力になってやりたい。



 結果、花ちゃんの屋敷のみんなも加えて百名を超えた。

サトウキビ島に向いていそうな農作物の苗なども一緒に買って来たので農地も広がっている。

最初に連れて来た村の若い衆はラミア達の到着を喜んだ。

それはもう大歓迎でしたとも。

俺はちょっと引いたけどな。

うちのアン、シーダ、ヒッコリー、カミーリアさんを見ているので噂程度に知っていたラミア族の怖さは問題ではなくなっていたようだ。

追い打ちでメイプル、チェリーの可愛らしさを見てしまったら嫁に迎えたくなるのは当然であろう。

俺もラミア達が受け入れられて嬉しかった。

ラミア族の未来に貢献出来た事が嬉しかった。

驚くべき事に既に妊娠しているラミアがいると言うのだ。

村の若い衆よ……頑張りすぎだ。

それに中てられたのかアリーナとゲンツがくっついた。

彼らは新しく建てられた家で一緒に暮らしている。

花ちゃんの屋敷のみんなも温かく送り出した。

真っ赤になって送り出されたアリーナは未だに酒の席でその事をからかわれている。

幸せそうに見えるので、あのくらいはいいだろう。

そのアリーナはロセ帝国から連れて来た子供達や元奴隷達の面倒を見ている。

家事はもちろん、言葉、文字、数字といった教養面まで見ている。

とはいえほとんどが十歳くらいの子供達なので村の子供達と一緒に遊ぶ時間はたっぷりとってある。

最初はガリガリで暗い目をしていた子供達も数人を除いて外を走り回れるほどになった。

うちのみんなも手伝ったが、アリーナが親身になって世話をしていた。

自分に重ね合わせた所もあるのだろう、相当頑張っていた。

アンとシーダが子供達の世話を代わるから数日休めというほどであった。

今は落ち着いて生活出来ているが、戦争の様な日々だった。

子供達に大人気のゴンタも活躍していた。

小さい子供達の心のケアが出来たのはゴンタのおかげもある。

ゴンタに触れて撫でているだけでも効果はあったろう。

代わりに俺が撫でる時間は減ったが些末な問題であろう。




「トシさーん!新しい家を作りたいので上水道の延長と下水の穴を作ってください」


「任せろ」



 村長のマルコからの要請に答える俺。

マルコは人数の増えた村を年寄りに相談しつつ纏めている。

相変わらず日焼けをしている所を見ると農作業でも先頭に立って働いているのだろう。

元々がっしりした体格だったが、戦闘訓練の他、森や浜辺での戦いを経て更に強靱な肉体になっている。

見た目だけなら俺より強そう……。



「カール博士の作った水車?ってのは便利ですよ!上水道を通って各家で使えるなんて!!」

「便利便利!」

「トイレも水で流せて臭くないし掃除も楽だ」

「楽!楽!!居心地がいいからトイレを部屋にしてもいいぜ」

「それはどうだろう……」

「そろそろ温泉だけでなく各家庭に家族風呂を作るべきかもしれんな」

「そぉかぁ?みんなでワイワイ入るのは楽しいぜ」

「まぁ、それは否定しない」

「ご飯は一括で作らないで自宅でそれぞれ作った方がいいのかしら?」

「この人数なら一括のままがいいんじゃないか?」

「家の味を継がせたいのよねぇ」

「あー、それは大事だな」

「交代で大量に作るから暇な日があるってのは助かるんだけどね」

「もっと人数が増えたら考えよう」

「飯といやぁ、ここんとこ毎朝卵が出てるな」

「おう!家畜は増えたし、生まれたコッコも病気にはかかってねぇ!順調だ!!」

「乳から作ったチーズも中々美味かったな……」

「蒸かした芋に乗っけて溶かすだけでも美味かったなぁ」

「肉は魔物肉の方が美味しいから家畜は卵や乳の方で頑張って欲しいわ」

「ようやく安定して来たから今後は任せろ!」

「楽しみねぇ……塩も砂糖もたっぷりあるし、花ちゃんにお菓子作りを習おうかしら」

「冷たい菓子は人気だったな」

「涼しい時期の今は温かい食べ物がいいわね。この間の鍋は美味しかったわ。魚の練り物とか煮卵とか肉団子が入ったアレは最高ね!」

「トシさんはおでんって呼んでたな。アレは体が暖かくなったな」

「酒にも合ったぜ!」

「酒っていやぁ、酒造りは上手くいってんのか?買って来てもらった酒はもう半分のんじまったぞ」

「昨日、芋から作った酒の試飲をしたぜ。はぁぁ、美味かった」

「「なにぃ!呼べよ!!」」

「「ずるい!!」」

「トシさん、カール博士が大量生産のために機材を用意してくれるってさ」

「マジか」

「ひゃっはー!!」

「うれしいねぇ」

「ゾイサイトさん達が作ってくれているそうだ」

「ドワーフ達は俺達以上に酒好きだからな。こりゃ直ぐに出来そうだ」」

「おう!期待出来るぜ」



 周りにいた村のみんなも口々にしゃべりだした。

話が飛びまくっていたが、色々便利になって喜んでもらえている様で何より。

村の建物、農作物、畜産、酒、程度の差はあるけれどもどれも上手く進んでいる。

経験の少ない分野でも俺が世界樹の記録から情報を引き出して何とかやっている。

やはり環境の違いもあって、いまいちな所もあった。

暑いこの島で育たない農作物があったりね。

米、唐辛子は手に入っていない。

畜産が一番上手くいっているのは意外ではあった。

生き物だから上手くいかない所は多かろうと思っていたが、こっちの生き物は強かった。

戦闘面の強さではなく生きるって意味でね。

おかげで拙い世話でも順調にいっている。

鶏を一回り大きくして足をぶっとくしたヤツからは卵を。

ドリルの様な角を前方に向け黒一色な牛っぽいヤツと毛がモコモコした山羊っぽいヤツからは乳、チーズを。

肉は大森林までいって取って来た魔物肉の方が美味いんだよねぇ……。

湖、川、海までいけば魚も大漁だ。

魚肉の練り物は結構人気がある。

色々な料理に使われ出した。

魚独特の臭みも減って使いやすく、美味い。

豆も花ちゃんから豆富が村のみんなに伝わった。

どんな味付けにも対応出来る素晴らしい食材だ。

スープに入れるのが鉄板になりつつある。

俺も好きなので嬉しい。



「トシ」


「お、けーちゃんどした?」


わう?


「おっちゃんとサムが、あっちに着いたんやと。迎えに行ったってー」


「おぉ!アッツさん達、もう来たのか。さすがケットシー!大森林も何のそのだね」


「せやろ。特にあの親子なら大森林も散歩気分やろ」


「俺が迎えに行こうか?って言っても大森林を見て回るからええわーってね」


「おっちゃんは何度か大森林に入っとるはずやからね。結構好きな場所なんやろね」


「好奇心、そして楽しむ事を忘れないか……」


「それがケットシーや!!」


わう!!



 俺とけーちゃんは笑いあった。

ゴンタは笑っているかは解らないけど嬉しそうだ。

けーちゃんはアッツさんとサムに会えるのが嬉しいのだろう、とても良い笑顔です。

彼らにサトウキビ島の話をしたら来たがったのです。

新しく出来たダンジョン、ドラゴン亜種のシィロ達、温泉、興味を引く物は沢山あったであろうが、本命は魚と蟹らしい。



「二人を迎えに行ってくるよ。ゴンタは村の守りをお願いね」


わう!


「頼むで。あ、魚のお土産もよろしゅう」


「あいよ」


「花ちゃんに頼んでご馳走用意して待っとるわ」



 ゴンタは任せろ!と言わんばかりにキラキラした目である。頼もしい。

けーちゃんは赤ちゃんの世話があるのか小走りに花ちゃんの屋敷へ向かっていった。

海へ行くのが解っているのでお土産の要求も忘れない。ちゃっかり者だ。



 そして俺は西の海を渡って大森林のある大陸へ向かう。





「お久しぶりです!お元気そうで何よりです」


「おー、トシ!久しぶりやなぁ。って硬い、硬いでぇ!もっと砕けていこうや」


「そうやで。かっちゃん、けーちゃんの仲間ならうちらの仲間や」


「はい!」



 アッツさんとサムは気配全開で浜辺にいた。

おかげで探し回らなくてもすんなりこれた。

二人とも元気そうに見える。

元気すぎるのか、彼らの後ろには大きな鳥らしき魔物が二体横たわっていた。

二体とも四tトラックほどの大きさだ。

鶏冠があって羽が小さい。鶏っぽいな。

たぶん、コカトリスとかじゃないかなぁ……。



「ってそれで海を渡れるなんてなぁ」


「話には聞いとったけど実際に見るとけったいやな」


「ここらの海は浅めですからね」


「それなら後ろの獲物も持って行けそうやな」



 アッツさんとサムがスターインを興味深そうに見ている。

そしてアッツさんが後ろの大きな鳥を見て俺に言う。

持って行けそうになかったらどうするつもりだったのだろう。

まぁ、いいか。



「食べ甲斐のある獲物ですね」


「気配全開で待っとったら首を差し出して来よったんよ」


「他にもゾロゾロと出て来よったけど、こいつら二体が来たら逃げて行きよった」


「もしかしてコカトリスってヤツですか?」


「お、トシも知っとったか。その通りや」


「こいつは美味いでー」


「美味いんですか!やったー」


「ええ土産が出来たで」


「かっちゃん、けーちゃんらに手ぶらで会わんですんだわ」


「土産なら海で魚を取って帰ろうかと思ってました」


「魚!」


「海の魚!」


「それもお土産にしましょうね」


「土産やー」


「久しぶりの海の魚ー」



 やはり大きな鳥はコカトリスだったらしい。

そしてコカトリスは美味いのか。

鶏っぽいし唐揚げは決まりだな。

なんせ俺が好きだからだ!醤油もあるから竜田揚げっぽくも出来るな。

焼き鳥も単純ながら好きだ。

塩だけでなくタレも花ちゃんが作ってくれる。

塩!タレ!で争う必要はない。美味ければ良いのだ。

俺は塩だけの方が好みだけどな!つくねはタレで!!

そしてうちの家畜の鳥はコカトリスの仲間説が俺の中に湧いて来た。

たぶん違うだろうけど。




 そしてかっちゃん、けーちゃんと同じく彼らも海の魚が好きらしい。

大森林とサトウキビ島の間の海は浅いから取れる魚の種類は決まってしまうが喜んでもらえるだろう。

あっちで蟹も少し取っていこうかな。

沈黙が場を支配して話が盛り上がらないかな?ケットシーはよくしゃべるから大丈夫か。



「みんなとご馳走が待ってます。行きましょうか」


「いこかー」


「いくでー」



 嬉しそうな二人であった。





「「ようこそやでー!」」


「かっちゃん、けーちゃん、久しぶりやな。相変わらず可愛ええのぅ」


「元気そうやね。嬉しいわ」


「嬉しいわぁ」


「やね!」



 かっちゃんとけーちゃんがアッツさん親子を出迎えた。

そしてアッツさんに可愛いと褒められてクネクネと不思議な踊りを踊っている。

そのテンションを見たせいかサムが大人し目だ。

でも会えて嬉しいってのは表情から解る。

俺に会った時と比較にならないほどニコニコだもの。

まぁ、仕方ないか。



「「「ようこそサトウキビ島へ!!」」」



 うちの奥さん方が子供を抱きながら迎えた。



「結婚、出産おめでとう!しばらく世話になりますわ」


「おめでとうございます。可愛い子供達やね!」



 あれ?ここでも俺との再会とは違うぞ?おっかしいなぁ。

ゴンタが俺の足をポムポム叩いてくる。

何だか優しげな目だ。



「おぉ!ゴンタは相変わらず強そうやん」


「元気いっぱいって感じや」


わう!!


「そんなに褒められたら照れるがなー」


「ええ子や」


わう



 ゴンタが褒められると自分の事の様に嬉しい。



「皆さんで食べてやー!」


「大森林の鳥と海の魚やでー!!」


「「「ごちになります!」」」


「「「わー!」」」



 アッツさんがコカトリスと鯵、鯖っぽい魚と蟹を示す。

魚を取っている時のアッツさんとサムは大興奮でした。

とくにアッツさんは大人な感じで冷静さを失わない人だと思っていたから驚いた。

子供っぽい所が何故だか俺を安心させた。

良く解らなかった。

解らなかったが嬉しそうなので良しとした。



 村人が声を揃えて礼を言い、子供達が両手を上げて嬉しそうにしている。

アッツさんとサムはうちのみんなと村人達に囲まれて宴会場へ向かった。

アリーナの所の子供達もチョロチョロと後ろに付いて行っている。

新たなケットシーに興味満々って所か。

アッツさん達も良い毛並をしてるからな。

気持ちは解る。撫でたいよねぇ。

ロセ帝国から来た当初は暗い目をして差し出された食べ物だけに反応していたものだ。

子供達が自分の気持ちを出してくるのを見ると俺も嬉しくなる。

もっと自分を出して欲しい。我儘だって言って欲しい。

そんな事を思う俺の顔は笑顔だろう。

他の人が見てどう思うかは知らない笑顔だろうけども。

きもくはないと思いたい。

俺もゴンタとみんなの後を追った。



 今日の宴会はいつもより賑やかで長くなりそうだ。


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