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笑い声

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『ゴンタありがとう』



 俺は遠見の水晶に向かって紙を掲げた。

魅力的な俺の笑顔と共に。

威力抜群に違いない。にひひ。



 ゴンタが遠見の水晶に顔を寄せて来た。

ドアップである。

うぅ……ツヤツヤな毛並の頭を撫でで上げたい……。

俺の周りからも黄色い声が上がる。

うちのお嫁さん達はゴンタ大好きだからな。

あーとかうーとか言葉になっていない声も混ざっていたね。

うちの子供達の目にもゴンタが映ったのだろうか?きっとそう。



『ゲンツも何やらお疲れやけど、体に異常はなさそうや』



 ゴンタの後ろには座り込んでいるゲンツと介抱しているアリーナ、そして状況を報告してくれているかっちゃんがいた。

全員無事に合流出来た様で何より。

俺はホッとした。

ゴンタがゲンツの保護に動いてくれていたとは言え出来たばかりで情報のないダンジョンだ、何が起こっても不思議ではない。

さすが俺のゴンタだぜ!



『無理しないでね』


『もうちょっと探索したら一度戻るわ』


『了解』



 かっちゃん達はもう少し探索するらしい。

まぁ、ゲンツ以外は特に苦戦している様子もなかったしな。

ごっつい男が座り込んで泣きそうになっているのが見えたが頑張ってほしい。





『このダンジョンはおそらく上層、中層、下層に分かれとるヤツやね』

『各階層は三階ずつあるみたいや』

『さっきの女王蟻が上層の主やろ』

『たぶんここは中層の始め』

『ダンジョン入口辺りにいた魔物の上位種が出とる。ここから先は同じ様に強い奴らに置き換わっていくんやろ』

『ゾイサイト達は蟻の甲殻に興奮しとる。金属の特性を持っとるらしい。それの上位種に期待できるんやと』



 女王蟻との戦いは総力戦であった。

総力戦とは言ったが誰も予備戦力として待機していなかったと言うだけで苦戦はしていなかった。

女王蟻を取り巻く雑魚蟻が大量にいたため手数が必要だった結果である。

おそらくフロアマスターだったのだろう。

かっちゃんが言う所の上層の主で広い部屋でみんなを待ち構えていた。

小学校のグランドくらいの広さで、やはり水晶に囲まれた部屋でしたね。

雑魚蟻は人間の履く靴くらいの大きさでしたが、女王蟻は軽自動車ほどの大きさでした。

黒い塊が蟻の密集状態だと気付いた時はゾワッとしました……あれはだめだ。

小さい虫とかが密集しているとか想像するだけでも気持ち悪い。

それが大きくなっても気持ち悪かったです。

その場にいたら戦うのを躊躇しないとは思うけど、俺があの場に居なくて良かった。

戦っていたみんなには悪いがそう思ってしまったよ。


 雑魚蟻には通用していたゲンツの鉄剣も女王蟻には弾かれていた所を見ると女王蟻の甲殻はかなりの硬さっぽい。

ゾイサイトとソーダが気功術を使って攻撃したら足を切り飛ばせていたので良い武器と気功術による攻撃力の増加が必須かも知れない。

アリーナはゲンツのフォローをしつつ雑魚蟻相手に無双していました。

アリーナも強くなったものだ。

女王蟻には魔法耐性があるのか魔法攻撃は初撃のみでした。

そのせいか、かっちゃん、けーちゃんは雑魚を潰しに行っていたね。



 雑魚蟻は噛みつきだけだが、いかんせん数が多すぎた。たぶん五百くらいはいたんじゃないかな。

女王蟻は硬い甲殻、それも魔法耐性付きに覆われ防御力が高かった。

雑魚蟻はしてこなかった攻撃、酸を飛ばして来たりもした。

雑魚蟻が防壁となって女王蟻を守っていたが、我らが主力のゴンタは雑魚蟻など敵ではないといった感じで高速で移動しつつ蟻の足を切り飛ばし女王蟻を狙っていた。

そのおかげで他の調査隊の面々は楽が出来ていたと思う。

女王蟻への止めはゴンタでした。

足を無くし動けなくなった女王蟻の首を刎ねた場面は映画を見ている様でした。

花ちゃんが見惚れているので尾白が嫉妬してました。

花ちゃんだけでなく俺達も見惚れていましたとも。

かっこよすぎ……あの主役感は圧倒的でしたね。



 かっちゃんが紙に書いて報告してくれた事によると、水晶ダンジョンは九階構成らしい。

上層の主、女王蟻に辿り着くまでにダンジョンへ入ってから三日。

一階探索するのに一日掛った計算だ。

ゲンツの力を持ってしての時間だから、普通ならどれだけの時間が掛る事やら……。

蛇、蜥蜴、鰐、蜘蛛、蜂、蟻、鴉、ダンジョン周辺にいた魔物が襲ってきていた。

鰐……マッドアリゲーターって名前の鰐が一番強そうだった。俺は戦った事がない相手だが噛みつかれたらただでは済まなそうな歯並びが恐ろしい。そして土、泥を飛ばして来ていた。魔法らしい。

蜥蜴……アーマーリザードは硬い皮膚と噛みつき、尻尾の攻撃と近接攻撃だけながらも遊んでいられる相手ではなかった。

それ以外の魔物は正面切っての戦いでは敵ではなさそう。

しかし奇襲と数の暴力は恐ろしい。

ダンジョンで休む暇を与えてもらえないってのは神経を消耗する。

もっともうちの調査隊は余裕で休んでいたけどね。

いずれ村の住民からもダンジョンへ行ってみたいと要望が出るかもしれない。

その時は苦戦しそう。



 お宝の話になるが、剣だの鎧だの金貨だのは見つかっていない。

金属の塊や宝石、魔物の素材がお宝って事になる。

特に金属は鉄が大量に出ているそうだ。

銅、銀、金とメジャーな金属も出ている。

その中で一番値が張りそうなのがミスリルらしい。

ミスリル……俺のマジックバッグに大量に保管されているけどな。

ありがたみが薄い。

しかしゾイサイトが嬉しそうにしていた。

ダンジョンから戻って来たら魔導炉が大活躍しそう。

村のみんなにも農機具、生活用品、武器と喜んでもらえるに違いない。

魔物素材から軽い防具も作れるそうだ。

カール博士に渡したら魔導具に化けてくれそう。

生活が楽になる魔導具希望です。



 中層の魔物を確認したら調査隊も一度戻ってくる。

山中の温泉にでも浸かって疲れを癒して来てほしい。

無事に帰還出来そうで良かった。

ゲンツは講習、訓練と忙しくなるんだろうね……。





「お帰り」


「「「「「お帰りー」」」」」


 俺達は花ちゃんの屋敷入口に揃って挨拶をした。



わう!!


「帰ったでー」


「戻ったでー」


「ただいまです」


「がはは!帰ったぞ。魔導炉に火をいれるか!」


「若!もうちょっと我慢してくださいよ」


「……」


「ただいま……」



 ゴンタを筆頭に帰還の挨拶を返してくれる調査隊の面々。

ゴンタはとても元気。

尻尾が唸っている。

かっちゃん、けーちゃんも元気。

その表情はスッキリしている。

ストレス発散と好奇心を満たす行動が出来て満足なのかも知れない。

アリーナも元気そう。

スカウトとして罠発見や解除といった活躍が出来たので彼女も満足したのかな。

それだけじゃなく剣による戦闘もこなしていたもんな。

ドワーフ達は……自由か!

挨拶もそこそこにゾイサイトは走っていった。

お付きのセレスが俺達に向かってペコペコ頭を下げてから追いかけていった。

ソーダは寡黙ながらも手を振ってから歩いていった。

最後にゲンツがしょんぼりしていた。

まぁ、気持ちは解らないでもない。

俺も通った道だ。

今後に期待です。



 キーンとビーチェがゲンツに走り寄っている。

他の子供達もだ。

子供達も遠見の水晶を見ていた。

彼らにとってゲンツも十分に光り輝く英雄なのだろう。

子供達がキラキラした目でゲンツを囲んでいる。

ゲンツのヤル気を出させるには効果的に違いない。

子供達よ、頑張ってくれたまえ。

村長らは一歩出遅れた感じになっているがウズウズした気配を感じる。

きっとダンジョンに付いて話を聞きたいのだろう。

湖や村周辺に出る蛇なんかを撃退出来る様になった来ている村人達もダンジョンへ行ってみたいと言っていたからな。

農作業後には日課の訓練も続けている様だし強くなってきている。



「宴の準備も直ぐにできますからね」



 花ちゃんが調査隊の帰還を祝うためにご馳走を用意していた。

ニコニコしながら声を掛けている。

もちろん花ちゃんの背後には雪乃、隣には尾白が付いている。

尾白は油揚げの増量をこっそり頼んでいる声が聞こえた。

負けじと雪乃が果物のシャーベットを頼んでいる。

ダンジョン調査隊はどうでもよさげ……いいけどさ。



「そうよぉ。まずはお風呂に入っていらっしゃい」


「ああ、それがいい。宴の準備をしておくからな」


「はい。ほらみんなが戻ってきたわよ」


「ニコニコしてるー」


「リオン、おかえりーって」


「だー」

「あー」

「うー」



 カミーリアさんがお風呂を勧め、アンも続く。

シーダが抱いているチェリーに向かって優しく語り掛けヒッコリーが様子を見て嬉しそうにする。

なっちゃんも抱いているリオンの小さな腕をとって振っている。

リオン、メイプル、チェリーはそれぞれの母の胸に抱かれて笑っている。

可愛いなぁ。



わう!



「だー」

「あー」

「うー」



 ゴンタが子供達を見上げると、子供達が手を伸ばそうとする。

母親達が嬉しそうにしてしゃがみ込んだ。



わう



 尻尾をブンブン振りながら愛嬌をふりまくゴンタ。

あー、俺も混ざりたいな。混ざっていいよね?

俺は辛抱堪らずゴンタを後ろから抱いた。

良い毛並だー。

撫でり撫でり。



「ゴンタ、ゲンツを助けてくれてありがとう」


わう


「かっこよかったー」


「うん。シュパーッて」


「そうね。あそこで動けるなんてすごいわ」


「ああ、穴の先がどうなっているか判らないのに飛び込んでいけるのはゴンタくらいだろう」


わう



 うちの奥さん方からの賞賛に照れくさそうにしているゴンタ。

赤ちゃん達の視線も独り占めです。

ちょっとだけ悔しいです。

それ以上に誇らしいけども。

なんせうちのゴンタだからね!



「うちのゴンタはさすがやで」


「だれがアンタのや!」


「にひひ」


「かっちゃん、けーちゃん、お疲れ様です。何かスッキリした顔してる」


「あいよー」


「まいったなぁ。美人度があがってもうた」


「せやな」


「飛ばしますねぇ、お二人とも」


「なんや、アリーナも混ざったらんかい」


「こっちきぃ」


「はぁい」


「ゲンツは子供らに取られてもうたな」


「あぁ、それで手持無沙汰やったんか」


「葡萄酒の煮込みはあるのかなぁ……」



 賑やかなメンツが加わって来た。

本当にお疲れ様です。

そしてケットシー組にからかわれるアリーナ。

かっちゃん、けーちゃんはどこぞのおばちゃんっぽい。

言動はともかく見た目は可愛らしいが。

アリーナは花ちゃんの屋敷に目を逸らしている。

きっと宴にはアリーナの好物も並びますとも。

しかし……これはアリアリだな。

冗談半分でアリーナとゲンツを茶化していたが、本当にくっつきそう。

この村に夫婦が増えるやもしれん。

リオン、メイプル、チェリーに続いて子供が増えたり……楽しそうな光景が目に浮かぶ。

これはゲンツに頑張ってもらわないといけない。

アイツは本当に色々頑張らないとだな。

他人事なので楽しい。



 サトウキビ島の村に笑顔が溢れていた。

守りたい。

この笑顔。

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