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あつい場所

325



「トシさん、あれが遠見の水晶ってヤツですか」


「本当に違う所が見えるぞ……」

「すげー」

「面白いな」

「あ、かっちゃんだ!手を振ってるー」

「かっちゃーん!!」

「ゴンタちゃんが尻尾を振ってくれたー」

「わたしにだよぅ」

「かわいいねー」


「そう、あれが遠見の水晶だ。同じ物がもっとあればな」


「残念です」


「うむ」



 ゴンタ、かっちゃん率いるダンジョン調査隊が出発して三日目だ。

かっちゃん達は鼻息も荒く出発していった。

俺には赤ちゃんの世話が上手く出来る様になっとけと宿題を出された。

休養も兼ねているんだから頑張りすぎるなとも。


 夕方に開拓村の村長マルコ他数名が花ちゃんの屋敷の戸を叩いた。

彼らが訪ねて来たのは俺がなっちゃん達から今日の子供達の様子を聞いて引継ぎをしていた時であった。

何故彼らが来たのかと言うと、彼らと一緒に畑を耕し訓練を共にしていたゲンツがダンジョン調査隊に加わったからである。

昨日の夕方に俺が外で体を解している時に遠見の水晶で調査隊の事を見る事が出来るぞとキーン、ビーチェの姉弟に教えたのがきっかけだ。

だから花ちゃんの屋敷の入口へ遠見の水晶を動かして彼らにも見える様にした。

ゴンタが見えた、かっちゃんが手を振った、ゲンツが青い顔をしていると言っては彼らから声が上がった。

娯楽と言ってはいけないんだろうけど、非日常は刺激を与えてくれる。

遠見の水晶を通してサトウキビ島の北部を探検出来るのだ。

それが面白くない訳がない。



「トシちゃーん!みんながダンジョンに着いたってー」


「おぉ!マジか」



 辺りが橙色に染まり、影が伸び、湖からの風が暑さを和らげてくれている。

村長のマルコと話をしつつ体操をしていると、屋敷の中にいるなっちゃんから声がかかった。

調査隊がダンジョンを見つけたらしい。

俺も見たいので直ぐに人だかりに割って入る。


 花ちゃんの屋敷の土間に特設会場が作られている。

遠見の水晶による冒険会場だ。

なっちゃん、アン、シーダは今日の引継ぎを終えているのでそろそろお休みの準備なんだが、調査隊がダンジョン到着と聞いては落ち着いていられないのであろう。

リオン、メイプル、チェリーをそれぞれの胸に抱いて遠見の水晶にへばりついていた。

カミーリアさんもいる。

花ちゃん、それに付随して雪乃、尾白も遠見の水晶を見ていた。

人口密度が高い……。


 かっちゃんが紙にダンジョン発見の文字を書いて掲げてくれていた。

うん、元気そうで良かった。

冒険装備の羽帽子が似合っている。

けーちゃんも同じ様な帽子を被っていたな。そういえば俺が会ったケットシーは全員被っていたかも。

そのけーちゃんが遠見の水晶を首から下げてくれているんだよね。

ゴンタ、かっちゃんが調査隊を率いているといったがそれは戦闘面での事で全体指揮はけーちゃんが執っている。

進む、退却の判断を戦闘から一歩引いて冷静に判断出来る様な体制にした結果である。

今回のかっちゃんは暴れる気まんまんだから仕方あるまい。

けーちゃんはかっちゃんを見て苦笑しながら全体指揮を執ってくれると言ってくれた。

けーちゃんとかっちゃんは趣味嗜好が似ている。

でもけーちゃんはお姉ちゃんらしい。



「小高い丘に石組みの入口があるね」


「周りには木もないわね」


「ないねー」


「ダンジョンに喰われたんだろう」


「そうだと思うわぁ。ゴンタちゃんとダンジョンの入口を比較すると大きさが解るわねぇ」


「ダンジョンの入口は人が縦に二人並んでも余裕そうな高さですね」



 カミーリアさんが言う様にゴンタの大きさから比較するに四mくらいの高さはありそうだ。

誰かの考えなのかは解らないが、誰が出入りする事を想定して作られたのやら……ダンジョンから出てくるヤツの中にあれだけの出入り口が必要なヤツがいるって事かも知れない。

俺が嫌いな圧迫感はなさそう。

調査隊で一番でかいゲンツでも不自由はなさそう。

もっともチラッと映ったゲンツは青い顔をしていたっぽい。

さすがに初ダンジョンで緊張しているんだろう。

それともダンジョンまでの道中で戦った蜂や蜘蛛が苦手だったのだろうか?時間が出来たら聞いてみよう。嫌な顔をされそうだけども。ひひひ。

そうそう、あいつが調査隊への参加を希望してきた時は驚いたな。

ダンジョンへの興味があったのは疑っていないけど、アリーナが参加するって聞いた直後だったね。

毎日の鍛錬を欠かさずにいたし、かっちゃんが森へも連れて行っていたので弱くはない。

肉体強度で48、ソードマン、グラップラー、オーラユーザーの職業に就いている。

剣術2、体術2、格闘2、気功術2とスキルも育っている。

俺がこっちに来た頃よりは間違いなく強い。

サハギン辺りなら一人でも十分だろう。

元軍人らしいから地力が違う。

元の世界では実弾の銃と光線銃が歩兵の武器だったと聞いた。中々の腕前だったんだぜ?ってゲンツは言っていたがココでは出番なしっすね。

それから俺やゴンタと同じく魔力がなく魔法が使えないのは変わらない。

ゲンツが気に掛けているアリーナの肉体強度はゲンツの倍近いけどな……体術剣術もアリーナの方が上で、今の彼女ならオーガを一人でやれると思う。俺が使っていたミスリルソードはアリーナの腰にあるしな、戦力差は大きい。

守ってやる!なんて思ってたら悲しい思いをするに違いない。

そこでもっと強くなると思ってくれれば先は明るいんだけどな。


 俺はゲンツの健闘を祈る。いろんな意味で……。



「ゴンタちゃんが先頭ですね」


「ああ、ゴンタの索敵能力はずば抜けているからな」


「アリーナが二番手なのね」


「罠を警戒しての配置だろうね」


「そしてかっちゃんね。魔法での先制攻撃とアリーナの補助かしら」


「前衛の要ですね。かっちゃんは頼もしいですよ」


「あんなに小さくて可愛らしいのにねぇ……」


「ふふふ」



 俺の事じゃないのに何だか誇らしい。

つい笑みがこぼれてしまう。



「階段が長そうです。階段脇がぼんやり光ってますね」


「ここも同じか判らないけど、前に行ったダンジョンは光る石が組み込まれていたよ」


「「へー」」



 カミーリアさんが興奮気味に遠見の水晶を見ている。

遺跡には潜った事があるそうだがダンジョンは行った事がないそうだ。

調査隊が戻って来たらチャンスはありますからねー。

ダンジョンの明かりについて話すと開拓民から驚きとも感心とも判らぬ声が上がった。



「かっちゃんの後ろにドワーフ三人組か。彼らは力持ちだしソーダは盾を持っているから相手によっては最前列に出るんでしょう」


「オーガみたいな体格の相手が問題ね」


「確かにそこは難ありですね。そういうヤツラは速度のゴンタ、遠距離魔法のかっちゃん、けーちゃんが仕留めるんでしょうけども」


「何だか魔物が可哀想になってくるわね」


「そうなんですけど、このダンジョンは初めてです。過剰なくらいで丁度いいです」


「それもそうね。ゲンツ君が続いたわ」


「最後尾にけーちゃんですね。ゲンツはけーちゃんと共に後方警戒の方が多そうだ」


「けーちゃんが居るからゲンツ君も安心出来そうね」


「あいつはギフト持ちです。しかもダンジョン向きです。守られているだけではないでしょう」


「あら、そうなのね」


「はい。いずれ一緒にダンジョンに潜る時があるでしょう。その時に解りますよ」


「その時が待ち遠しいわね」



 カミーリアさんはそう言って遠見の水晶を見つめる。

冒険心を持っている様だ。

アンを産み、育て、里を守る立場になって抑えていた気持ちが蘇っているのかも知れない。

このサトウキビ島では好きにさせてあげたい。

フォローはしますよう。

今は赤ちゃんの事でお世話になりっぱなしですけどね……。


 ゲンツのギフトについてここで声を大にして言う訳にはいかない。

別に開拓民のみんなに知られてもゲンツは困らないだろうけどさ。

他所の諜報員が紛れ込んでいる事もないし問題はない。

あいつのギフトを知っているのは俺だけだった。

今回の調査隊参加で調査隊のみんなには教えているはずだ。

調査隊の中で最弱のゲンツに参加の許可を与えたのは、そのギフトの力が大きい。

ゲンツのギフトの正式名称は『電脳画面』と言ってゲームのメニュー画面みたいなものらしい。

メイン能力は地図で詳細な地図の他、認識した人物を地図上に出せたりするそうだ。

視界の端っこにONOFF出来る地図が出るとか。

今のギフトレベルでは歩いた場所が地図に記憶されていくそうだ。

自分を中心に半径10kmほどらしい。

建物の配置も記憶され家の中に入れば間取りも解るとか。

ダンジョンではどうなるか判らないが歩いた部分の地図が埋まっていくなら十分役に立つ。

俺の力と似ている部分があるけど地図に特化した部分ではゲンツの方が使い勝手がよさそうである。


 戦闘力って話に関連すると、魔導炉産の武器防具で最初の作品がゲンツに渡った。

鋼の剣は分厚く長めだった。

重さの調整をゾイサイトがしてくれたので問題なく使えているはず。

そのゾイサイトは魔導炉を使えるのが嬉しいらしくゲンツの防具一式も喜んで作ってくれた。

ミスリルと鉄の合金で作った胸当て、脛当て、籠手は装飾も凝っていて売ったらさぞかし高かろうと思われる品々であった。

調子に乗ったゾイサイトが色々作ってくれたので村のみんなに農機具や剣、槍が使われ出した。

もっとも鍋やら包丁、やかんといった料理器具が先に配られていたので奥様方の立場が上だと知らしめていた。

料理器具なんてと難色を示していたゾイサイトが圧力に負けていた事からも解る。

女、強い。


 ゴンタ、かっちゃん、けーちゃん、セレスがそれぞれマジックバッグを持っているので水、食料もたっぷりある。

花ちゃんに魚の干物や日持ちする羊羹なんかを大目に入れてもらっていたね。

かっちゃんとけーちゃんがニッコニコでした。

水分と栄養分として酸味の強い果実も多く持たせた。

氷もね。

いざとなればかっちゃんの魔法で水も出せる。

そして遠見の水晶を通して外部との連絡も出来ている。

もしかしたら遠見の水晶が使えなくなる場面もあるかも知れないが、今の所は問題ない。

俺達は比較的安心して様子を見ていられる。



「なっちゃん、アン、シーダ、そろそろ寝ないと明日に影響が出ますよ」


「うー、花ちゃん、もう少しだけー」


「うむ。もうちょっとだけ見させてくれ」


「お願いします」


「おねがいー」


「ぬ、花の言う事を聞けぬだと!?」


「後少しだけですよ?」


「「はーい」」

「うむ」

「はい」


「花は優しいな。さすが私の花だ」


「尾白のではない」



 遠見の水晶に齧りついているなっちゃん、アン、シーダに花ちゃんが明日に備えて寝なさいと言った。

調査隊のダンジョン突入の場面とあって眠りたくなさそうな三人とヒッコリー。

リオン、メイプル、チェリーはそれぞれの母の腕の中でお休み中だ。

どの子も既に美形になりそうな片鱗を見せてくれている。

俺の血は少ない模様……美形っていいよねっ!(血涙)


 尾白が暴走しそうな所だったが素晴らしい手のひら返しを見た。

そして始まる尾白、雪乃の漫才。

放っておこう。

通常運転なり。



「俺が言わないといけなかった。ごめんね花ちゃん」


「いいええ。気持ちは解りますから」



 俺が謝ると花ちゃんは照れくさそうに笑った。



「花ちゃんは可愛いだけじゃなくて良い子ねぇ……」



 そんな花ちゃんを見てカミーリアさんが花ちゃんの頭を撫でた。

思わずといった所だろう。

そんな気持ちも解る。

俺も花ちゃんの頭に手が伸びそうになったからね。

撫でられている花ちゃんも嬉しそうにしている。

上手く馴染めていそうだ。



「花の頭を撫でるのは私の仕事だぁぁあぁっ!」


「違うのじゃ。わらわの仕事じゃ」


「そんなのは仕事じゃないですよ」



 カミーリアさんが花ちゃんの頭を撫でたのを目撃した尾白と雪乃が突貫してきた。

花ちゃんがすかさず二人を抑えた。

さすがです。


 花ちゃんから引きはがされたカミーリアさんは三人の様子を見て苦笑している。

ええ、これが彼ら三人の日常なんです。

真面目に応対してはなりませぬ。

早く慣れる事をお勧めいたします。


 あぁ!リオンが起きちゃった!!尾白が騒ぐからだぞ。

尾白をジロリと睨みつつ、なっちゃんの側へ行く。

もちろん尾白はどこ吹く風である。



「リオン。起きちゃった?よしよし」


「代わろうか?」


「大丈夫だよー。もうちょっとかっちゃん達を見ながら抱いてるー」


「解った。もうちょっとだけだぞ」


「はーい」



 早くダンジョンの安全を確認したいものだ。

この子達が大きくなるまで危ない目に合わせる訳にはいかない。

サトウキビ島で楽しく暮らせる様に頑張ろう。

ゴンタ、かっちゃん頼むぞ!!(他力本願)

うそうそ俺も頑張りますとも。


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