悪戯
31
モラテコ出発から4日目にアレゼという村で宿泊する。
ここを過ぎればアレゾルアは明日の昼過ぎに入れるとの事。
ここまで来る途中には他の村や町は無かった。
魔物に襲われはしたが、防護を固めた村なら大丈夫そうだと思ったが作らないのだろうか?他になにか理由があるのかもしれないが。
追い越した馬車は3台纏まった集団だけ、すれ違った馬車は7台いた。全て護衛らしき者が乗っていた。
追い越しは相手が休憩で止まるまで待ってからでした。
警戒はされるかもだが、急速に近づくよりは相手を刺激しないとウナイさんが言っていた。
アレゾルア方面から来て俺達とすれ違った相手の場合は、台数の多い相手のほうが止まり、その間に台数の少ない馬車が駆け抜けるのが暗黙の了解らしい。
馬車3台分くらいの道幅なので、ギリギリではないがすれ違う時にお互い緊張していたと思う。
表立っては見せないが武器も持っていたと思われる。
盗賊は少ないと聞いたことがあるが、商人キャラバンが丸ごと襲ってきた例もあるそうだ。恐ろしい。
アレゼ村は木の柵と堀で覆われていた。農地もあるので結構広そうだ。
いずれ宿場町として発展させると宿の主人が言っていた。
ゴンタ達は部屋に入れなかったので、村の厩舎で休んでもらう事になった。
ウナイさんもワイルドホース達と離れるつもりはないと厩舎で寝るのでゴンタ達に護衛も頼んでおいた。
初めて会ったときゴンタとミナモはワイルドホース達と睨みあっていたが、旅の間に仲良くなっていたようです。
さすがリア獣、コミュニケーションもバッチリとか、すごい。
宿の飯は豆料理が多く、スープにも焼肉の付け合わせにも付いていた。
栄養はあるんだろうけど、あまり美味しいものではなかった。
これといった特産品もなく、通り抜けるだけかなぁ。安全が買えるだけいいか。
そういや、カビーノからストームバード討伐の分け前も貰った。
ここの宿代とウナイさんに払う代金を引いても金貨7と銀貨5枚づつ貰えた、ありがたく頂きました。
船長からも金貨2枚を貰ってありました。
かっちゃんに預かってもらっているお金と合わせて白金貨4枚以上だ。日本円換算で400万円強かな。
怪我もしたが、冒険者って儲かる。
カビーノに剣術も学んだ、と言っても持ち方と素振り、木剣で俺がボコボコにされただけです。
位置取り的には上手く避けていても、いつの間にか腕や太腿が叩かれていた。技ってのはすごいね。半泣きでした。
「アレゾルアか、楽しみだね」
「そうやな。船での交易が盛んらしいしダンジョンはあるし退屈しなそうやね」
わう
「ダンジョンならゴンタも一緒にいけるで、人族だけって事はないんよ。ただ魔物と間違われんようにせんとな」
わうー
わふ
そうか、そういう問題も起こりうるな。さすが先輩。翌朝、問題もなくアレゼ村を出発する俺達一行であった。
2時間ほど道を馬車で進んだ所で、先行していたゴンタとミナモが森を見て止まっている。
なんだろう?なにかいるのか?魔物なら戦うはず。
「ウナイさん、ゴンタ達の様子がおかしい。止めてもらえますか?俺が見てきます」
「どうする?」
ウナイさんは雇い主のリーダーであるカビーノに問う。
「そうだな、止めてくれ。俺達は馬車で警戒する。お前らが行ってくれ」
「おう」
「はいな」
直ぐに判断を下すカビーノ。俺とかっちゃんは装備を持ち馬車から飛び降りる。いまだに行動を起こさないゴンタ達に近寄る。
「どうした?ゴンタ」
わうー
「ん?人やて?」
わう
わふ
「ホンマや、気配は薄いけど、魔力は高いな」
俺も気配を探る。若干気配が薄いが人っぽいな。怪我人だろうか?
「怪我人かもしれないね?」
「そうやな。いってみよか」
わう
わふ
周囲を警戒しながら森へ入る。数十m進んだ所で人を見つけた。後ろ姿だが長い金髪の女のようだ、倒れている人もいるな。かっちゃんも気づいて頷く、近づいて声を掛けてみるか。たぶん魔物とかではない。
「どうしたんですか?怪我人でしょうか?」
俺は少し距離を置いて人らしきモノに声を掛ける。
女が振り向いた。木々によって少し影があるが、とても美しい女性だった。美しい人の多いこの世界でも、皆が賞賛するのではないかと思われるほどだ。
続いての言葉が出ない。着ているものは粗末な服だが、どこか気品を感じさせており存在感がある。
「あんたエルフやね?」
え!?エルフ?あの女性がエルフなのか。かっちゃんは魔力で判断したのかな。
女性は首を傾げている。なんか反応が変だ。
「あなた達はだぁれ?」
「うちらはモラテコからアレゾルアへ向かっている冒険者や」
彼女は大人の声なのに口調が子供っぽかった。
(俺はカビーノ達に報告してくるよ)
(はいな、たぶんこの子見た目とちごうて幼い中身やで)
(……そのまま伝えてくる)
かっちゃんと小声で話した後、その場を離れる。
成長の仕方が人間とは違うってのか、と思いながら馬車へ戻る。
「どうだった?」
「うん、森の少し先に倒れている人と、傍らに座り込んでいたエルフの女性がいたよ」
「エルフだと!?」
「かっちゃんが言うには、大人の外見だが中身が子供なんじゃないかとさ」
「エルフは長寿だものね、そういう事もあるのかもしれないわ」
「エルフが世界樹の側から離れるなんて……変」
カビーノ達に報告した。さすがに想定外だったのか驚いている、俺も人の事は言えないけど。
「今、かっちゃんが相手にしてくれているんだけど、女性だからホルとオルに行って欲しい」
「いいかしら?」
俺の要請にホルがカビーノに確認する。
「……頼む」
「はい。行きましょオル」
「うん」
カビーノの了承を得て、ホルとオルが森へ向かっていった。俺は馬車で待機する。
「珍しいな外でエルフを見るなんて、よっぽどの変わり者かね」
「そうだろうな」
「そうっすね」
「変わってるんだろうけど、美人だったよ」
「マジっすか!」
「マジマジ。男がすれ違ったら全員振り向いてもおかしくない」
「おぉ」
男だけなので、くだらない話もしたりして、かっちゃん達の帰りを待った。
しばらくして森に煙が上がった。
「あれは倒れていた人が死んでいたんだろうな……火葬かな」
「そうか」
俺は心の中で手を合わせる。死因は判らないが死が近くにある世界だ、俺も無縁ではない。
エルフの女性がホルに肩を抱かれて戻って来た。他のメンバーも周りにいる。キニートもオクタも女性を見て驚いているようだ、俺も驚いたんだから驚きやがれ。カビーノは趣味趣向が違うのか反応が薄い。俺とホルの身長差はほとんどない、あの子も結構高いな。
「この子ナターシャって言うんやけど、どうもチェンジリングみたいでな、人族のとこに生まれたみたいやねん」
「取り換え子ってやつか……」
かっちゃんがカビーノに報告している。チェンジリングって妖精の悪戯とかいうやつか。寿命も成長も違う種族じゃ苦労したろうな、親もこの子も。
果汁を絞ったジュースをホルがナターシャに渡している。両手でカップを持ってチビチビと嬉しそうに飲んでいる。なんだか微笑ましい。
「この子から聞いて判った事を話すから、馬車も進めましょう」
「おう、みんな乗れ。ウナイ頼むぜ」
「わかった」
ナターシャも乗せた馬車はアレゾルアへ向かう。