表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
306/387

島の北側

306


「ほんまやって!妙な島やで!」


「うちもそう思うで」


「んー、そうなのかなぁ……特におかしいとは思わないけど……」


「二種類の果実が実る木なんて初めて見たで!」


「十本の木の根を調べたら全部繋がっとったりな!」


「ふむ」


「樹液が辛い木もあったで!」


「毒消しを持っとったゆうても、いきなり舐めたらアカンやろ!」


「匂いからして普通とちゃうんやもん」


「危ないゆうたら葉っぱが刃物みたいな草もあったしなぁ!」


「革の脛当てが少し切れよった」


「暗くなったら注意やね」


「やね」


「ほうほう」


「トカゲや蛇の魔物も双頭なんて珍しい奴らが普通にいたしな!」


「そうそう!うちの狼達以外はトカゲや蛇みたいなのしか見かけんかったで!」


わう!


「せやろ!鱗持ちの魔物以外は空を飛ぶような奴らくらいやろ?」


わう!


「双子山の上や向う側にはまだ行っとらんけど、おもろい島やでー!!」


「泊りがけで行ってみんとな!」


わう!


 一週間の()封印で様子を見た結果、俺の意識がなくなる事はなかった。

やはり開拓民を連続で長距離移動させたのが良くなかったらしい。

それが解り、これからは様子を見ながら()を使うと俺が宣言した後での夕食の場での会話である。

湖で取れたヤマメっぽい魚を串に刺し塩焼きにした物を両手に持ったかっちゃんとけーちゃんが興奮してサトウキビ島の様子を話してくれている。

二足歩行する猫さん達なので顔色は解らないが人間であれば頬を真っ赤にしていたと推測できるほどの興奮っぷりである。

ゴンタ、かっちゃん、けーちゃんはゲンツを鍛えがてら湖の北から山へかけての森を探索している。

その森で色々見て来たらしい。

ゴンタもかっちゃん、けーちゃんに釣られてか興奮している。尻尾の振り具合で解りますとも。

竜巻でも起こしそうな尻尾である。


「確かに遠見の水晶で見た感じでは見慣れない木も多かったな」


「そうだねー。わたしも早く森を歩きたいなぁ……」


「我らはしばらく無理だ。我慢だぞなっちゃん」


「わかってるよー」


 アンとなっちゃんがお腹に手を当てて言い合っている。

我慢だぞと言っているアンこそ外へ飛び出して行きそうな気配を出している。

湖で水と戯れているだけじゃダメなのか。

なっちゃん、アンは花ちゃんの屋敷の側にある湖までしか行動許可を出していないからな。

俺とかっちゃんが船を出し魔法、気功術で湖を調べた結果、俺達に害がありそうな魔物はいなかった。

大きい町がまるごと入りそうな湖だが大物が住みついたりはしていなかったのは意外であった。

かっちゃん曰く、大物がいたような痕跡はあったとの事。

お出かけ中なのかも知れない。

会いたいような会いたくないような気になる存在である。

世界樹の力でも調べたのだが、検索が上手くいかなかった。

強さ……俺より強い……該当なし。

大きさ……体長十m以上……該当なし。

種族……ドラゴン、大蛇、大亀、大魚……該当なし。

いくつかの条件で試したが引っかからなかった。

相手が人間であれば人名、相手の能力を解っていればそれで検索が出来るんだがなぁ……見た事もなく強さもさほどではない相手は調べにくい。

この島に人はいた事がないから目撃情報などから追跡も出来ない。


 世界樹の力も万能ではないとつくづく思った。

空からの奇襲、スターインの操作中なんかも対応出来ない事がある。

崖崩れや地震といった災害も兆候があって注視していれば対応できるが実際難しい。

俺は神様でも仏様でもないのだ。


「わたくしは楽しかったです。屋敷の周辺がどうなっているのか気になっていましたし」


「花、遠見の水晶があって良かったのぅ」


「はい。一緒に見れて良かったですね」


「うむ!一緒はええのぅ」


 花ちゃん、雪乃も楽しそうに話している。

もっとも花ちゃんは遠見の水晶の映像、雪乃は花ちゃんと一緒に楽しめた事と理由は違っていそうである。

一緒かぁ……あっ!


「は、花ちゃん、尾白に引っ越しの連絡してないかも……」


「トシ!尾白は仕事で忙しいじゃろうからそのうちでいいのじゃ!」


「雪乃……前回もそう言った後でおやつの催促で話を逸らしましたよね。逸らされたわたくしも悪いのですが……」


 花ちゃんがジィ……っと雪乃を見ながら言う。

尾白に連絡しそびれた事を済まないと思っているのであろう、花ちゃんの表情が少し暗くなった。

いかん、普段無表情が多い花ちゃんの顔を笑顔どころか曇らせるのは俺の心が痛む。


「ここは直ぐに来られる場所じゃないから連絡しても俺が迎えに行かないといけないしね!」


「そうだぞ。あの道のりを思えばトシの協力がいるぞ」


「うん。連絡しても向うで焦るだけだよー」


「そう……そうかも知れませんね」


「そうやでー!」


「そうや!」


「こちらが落ち着いてからの方が良いと思います!」


わう!


 俺に続いてアン、なっちゃん、かっちゃん、けーちゃん、アリーナ、ゴンタが花ちゃんのフォローに入った。

素晴らしい連携である。

みんな花ちゃんが大好きなんだね!少なくとも俺にだったらフォローだけでなく茶々が入るであろうことは容易に想像できる。

雪乃はバツが悪いのかそっぽ向いて焼き魚に喰いついている。

フォローが上手くいったのか花ちゃんの表情がいつもの様に戻った様だ。

なっちゃんの言う様に尾白が行くに行けず焦ってしまうのも説得力はあったしね。


「なっちゃん、送話魔法で尾白に連絡お願い」


「はーい」


「花ちゃんの屋敷に冒険者が来た。狙われるかもしれないので引っ越した。通常の移動方法だと半年はかかる。こっちが落ち着いたら連絡する。俺がそっちに迎えに行くから大人しく準備して待っていてくれってね」


「わかったー」


「なっちゃん、よろしくお願いしますね」


「うん!任せてー」


 俺が尾白に伝える言葉をなっちゃんに言うと花ちゃんがペコリと頭を下げた。

俺や花ちゃんに頼られたのが嬉しいのであろう、なっちゃんは満面の笑みである。

あぁ、なっちゃんの笑顔は良いな。なんていうか無垢な感じだ。

精神年齢が高くないってのもあって子供っぽさがあるが、俺の心を暖かくしてくれる笑顔だ。





「うちが包まれるほどの葉っぱやな」


「大きいなぁ」


わう


「確かに初めて見る葉っぱだ」


「さっきの蜘蛛も大きかったな」


「紫色の毛が足から生え取った……毒を持ってたんちゃう?」


「そんな感じやったね」


「魔法がない俺としては相手にしたくないな」


「木の上やったから落とし穴も効かんしな」


「うちらがおるんやから問題なしや!」


わう!


「けーちゃん、森で火の魔法は控えてね……」


わぅ……


「さ、さっきのはアレや!いきなりやったからつい……」


「うちの水で消すけど、ほどほどになぁ?」


「はいな……」


 尾白の件で花ちゃんのフォローをした翌日、かっちゃん、けーちゃん主導の双子山(花ちゃんの屋敷からも見える連山、この島で一番高い山でもある)遠征に来ている。

メンツは俺、ゴンタ、かっちゃん、けーちゃんである。

妊娠中であるなっちゃんとアンは留守番。

花ちゃんと雪乃は妊婦の世話と遠見の水晶での見学。

アリーナ、ゲンツは開拓村の屋根作りの手伝いだ。

俺の()で家の土台、壁を作り、かっちゃんが魔法でそれを強化してくれた。

屋根だけは人の手で作らねばならないのです。

木材は売るほどあるので材料には事欠かない。

もっとも買ってくれる人はいないがなっ!俺達しか住んでいない島だもの。

ゲンツは俺達の遠征に参加したがっていたが、今回は実力不足なので居残りになった。

山の周辺を飛び回る鳥系の魔物がいるのが解っているせいだ。

地に触れていない間の情報は世界樹の力では調べられない。

空からの奇襲に対しては気功術が必須だからね。


「こういうのって久しぶりかも」


「トシはそうかもな」


「うちらは毎日楽しんどったけどな!」


わう!


「ゴンタまで……ぬぅ」


「トシ、()に頼りすぎとったんとちゃう?」


「気功術の訓練と体操くらいしかしてなかったから鈍ってるよ……」


わう


「ダメだぞーって言っとる」


「ゴンタの言う通りや。ダメやでー」


「なっちゃんとアンの側に居たかったんだよぅ」


「そら仕方ないなぁ」


わう!


「気持ちは解るで。楽しみやもんな」


 もうすぐ山の斜面にかかろうという辺りを和やかに進む。

花ちゃんの屋敷からここまで半日って所だ。

緊張感が少し欠けているかも知れないが俺が動く間もなく魔物が始末されていくのだから仕方あるまい。

同行しているメンツが強すぎる。

ゴンタの索敵、念道力による空への対応、地力。

かっちゃん、けーちゃんのケットシー組は結界を使うまでもなく、遠距離からの魔法連打。

うん。やはり俺の出番は余りない。

壁役ですら要らなそうで少し悲しい。


「大型の鳥っぽいのは花ちゃんの屋敷からでも見えたね」


「トカゲ、蛇、蜘蛛、トレント……偏っとるなぁ」


「トシのいう所の哺乳類はどこにおるんやろ?」


「島という隔離された環境で特殊な進化を遂げたのかも」


「かもなぁ」


「やっぱり乳のでる奴や卵を産む家畜はモラテコ辺りで手に入れるしかないな」


「美味いメシ、お菓子のために必須やね!」


「必須や!」


「後、ゴブリンやオークなんてどこにでもおると思ってたで」


「そうやな。うちもそう思っとった」


「これは面白いでっ!」


「面白いなっ!」


わう!


「まずはサトウキビ島の探索で何があるのか確認だ!」


「はいな」

 

 久しぶりの森の探索は楽しい。

特に見知らぬ植生や魔物達に会う事は楽しい。

好奇心旺盛なケットシーでなくともワクワクするってもんだ!

ゴンタも自由に駆けまわるのが楽しいのか上機嫌である。

空を駆けたかと思えば俺の足元にスリスリしたり忙しない。

興奮しているんだね?とても伝わってくる。


 山の反対側まで行くのに片道で……三日って所かな。

急いでいないのでそんなもんだろう。

山中で野宿する。寝ずの番ってのも久しぶりだ。ちゃんとやれるかな?ゴンタにも休んでもらいたい。

帰りは海岸沿いの岩場を通るのも良いかも知れない。

また違った物が見られるに違いない。


 木の間から見える双子山の山頂を見ながらピクニック気分の俺達であった。

なっちゃんから送話魔法で緊急連絡が来たら()で帰るけどね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ