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何でこうなるのっ

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「なんでこうなった……」


わう?


「懐に入ったもんには甘いなぁ」


 スターインをいつもより振動少なくゆっくり進めて呟く俺。

それに反応するゴンタとかっちゃん。

かっちゃんはニヤニヤしている。

俺が呟いた理由は……。





「我々も連れて行ってください!お願いします!!」


「「「お願いします!!」」


 異世界から来たゲンツを助けてくれたビーチェとキーン、そしてその家族にイチルア王国から出て生活しないかと提案した翌日の話であった。

翌日の早朝に村人総出で俺に詰め寄って来た。ちゃかせない雰囲気である。

総勢四十名は超えていそうだ。

この村は開拓村で何もない草原を一から開拓して、やっと形になってきたとの事。

村民全員で苦労を共にして来たので、今回のビーチェとキーンの誘拐事件も他人事ではないそうだ。

特に開拓するために若い男が多く、子供達はビーチェとキーンを入れても五人しかおらず、とても可愛がられていたので尚更らしい。

ビーチェとキーンの両親へは、俺が誘拐犯人である貴族から子供達を奪還したと説明した。貴族、館、銃に関する情報、三千の兵については言っていない。

事件に対して頭に来たのと、貴族からの報復を恐れた為の発言として、開拓村まるごと連れて行ってくれという話を切り出してきたようだ。

こっちの世界にも土下座ってあるんだなーと、現実逃避をしつつ話を聞いた。

俺が相談する相手……かっちゃんもゴンタもいない。

現実逃避したくなってもしょうがあるまい。


「せっかく形になってきた開拓村を捨ててもですか?苦労したでしょうに……」


 家族以外の進退まで責任が持てない俺の発言である。


「それは勿体無いですが、国や貴族の一存で全てをひっくり返されても文句も言えないのです。まだ愛着の少ない土地に執着する前に新しい土地で再起したいと皆で相談して決めました」


 開拓村の村長という青年が皆を代表して返事をして来た。

日に焼けて精悍そうな面構えだ。キリリと効果音がしそうなほどである。

すごく真面目そうな青年で責任感も強そうだ。


「国に所属する以上どこに行ってもついてくる問題だと思いますが、その点はどうですか?」


 都合の良い話ばかりじゃないからな。

話が違うなんて後で文句をつけられても俺が困る。


「バッキンの話もこちらへ聞こえています。少なくとも領民を誘拐してくる国よりは良いかと思います」


「ふむ」


 目の前の事だけを考えている訳ではなさそうだ。

村人達も村長の言葉に頷いている。


「全てを持っていけませんよ?」


「はい!もちろんです。初めての収穫も少ないながら終わりましたし、元々持ち物なんてほとんどありません」


 財産も食料の蓄えもあまり無い様だ。

身軽に動ける訳か。老人や子供が少ないってのもありそうだ。

俺は開拓村の人達を見回して思った。

体付きは細めで着ている服もボロボロとまでは言わないが綺麗ではない。

若い男が多いためやっていけてるという感じだ。

今いる村長の家以外はテントの様なものばかりだった。

確かに畑以外は執着する理由はないかも知れない。


「お願いします」

「今ならやり直しても大差ありません!」

「連れて行ってください」

「頑張りますから……」


 俺の言葉に連れて行ってもらえる可能性を感じたのか、村長以外の人達も言って来た。どの顔の程度の差はあれ真剣そうだ。


「良いでしょう」


 村長の発言を聞いて俺の心は決まっていたが、村民の言葉が更に後押しになった。ビーチェとキーンの家族だけだとしこりが残りそうだしな。

俺は彼らの手助けをしようと思う。


「「「わぁっ!!」」」

「「「ありがとうございます!!」」」


 村人達の歓声で村長の家が揺れた。

大人達の後ろにいた子供達は良く解っていなそうだが、つられたのか嬉しそうだ。


「ゲンツ!」


「何をすれば良いんだ?」


 ゲンツは空気を読める男だ。


「開拓村を出る人達を村長と一緒に纏めてバッキンへ移動しろ」


 ゲンツからこき使ってくれと言われている。

働いている間は余計な事……今回の件とかを考えないで済むからとね。

俺的には人に命令とか性分じゃないんだけどなぁ。


「おう」


「俺はバッキンへ先行してヒミコ様に話を通して置く。これだけの人数を受け入れられる場所も手配しないといけないからな」


「解った。任せろ」


「村長も、それで良いですか?」


「はい!直ぐに準備をして移動します」


 ゲンツは予備役であったというし、情報という武器もある。

開拓村の人達も若い男が多いので多少の荒事はこなせる。

馬も三頭いるので、ある程度の運搬も出来るだろう。

何とか移動してくれるに違いない。





 そしてゲンツと馬を残して俺は一人スターインでバッキンへ戻った。

ヒミコ様にイチルア王国の開拓民を連れてくると言う話をした。

ヒミコ様には難色を示されても無理はないと思っていたが、すんなり了承を得た。

その理由は、前にバッキンの門ですれ違ったイチルア王国の貴族が持ってきた話にあった様だ。


「『バッキンへ向かっていた盗賊らしき集団がいなくなりましたねぇ……』とイチルア王国の動きは解っていますし対応もしましたと使者に匂わせましたら、使者の貴族は土下座をせんばかりに下手になりイチルア王と宰相からの手紙を出して来ましたよ」


 にこやかな顔でそう教えてくれたヒミコ様はちょっと怖かったです。

使者の貴族はガイウス・カトーネと奴の屋敷が消えた事も知っていたのかも。

自分の身にも同じ事が起きたら……なんて思っていてもおかしくない。

決してヒミコ様が怖いだけではないと思いたい。


「トシさんがどうやって三千もの兵を倒したかは解りませんけどね」


 そう言ったヤマ様は悪戯っ子の様な顔をしていた。

結構お茶目さんなのね。

どう倒したのか色々想像していそうだが、怖がっていない所が逆に怖いかも。


「ガイウス・カトーネの独断で、イチルア王国でも今回の兵の動きは予想もしていなかったと書いてあったな」


 護衛のマリアさんは信用ならないとでも言わんばかりの口調で教えてくれた。


「ですから関係者であるゲンツさんや子供達、村の人達がこちらへ来ても問題には出来ないでしょう」


「それを問題にしたら真相を話さなくてはいけないですもんねぇ」


「そうなっても面白いとは思います」


 ヒミコ様、ヤマ様、マリアさんは孤児院の子供達には見せそうにない一面を俺に見せてくれた。

マリアに至っては三千の派兵に思う所が多々ありそうだ。一戦も辞さないという感じであった。

総兵力ではイチルアの半分以下であろうに戦っても勝てる算段があるのかも知れない。


 そんな話の後でバッキン郊外に開拓村の人達の住まいを作りに行った。

作った場所はビアンカにお願いされて面倒を見ている犬人族のみんなが頑張っている畑の側だ。

もちろん彼らにも人が来るって話はしておいた。

住まいを作ったと言っても土を盛り上げて壁を作っただけだ。

その中央に壁より高い土の柱を作り屋根の代わりに油が染みた厚手の布を張った。

屋根に出来る木の板は用意が間に合いそうになかったので、そうしてみた。

ある意味大きなテントって所だな。

井戸はないが畑の側に川もあるので水も何とかなるだろう。

食料が足りなかったらビアンカに言えと言っておいた。

店の地下には塩などの商材以外にも大量の肉が冷凍されている。

魔石は売らずに取ってあるし、各地での魔物討伐による収入、バッキンの店の収入はあるがお金を使う機会は減っている。

冷凍に使う魔導具で久しぶりにお金を使ったんだっけと思い出した。

ビアンカに面白そうな魔導具があったらバンバン買っておいてくれとは言ってある。

エアコンの魔導具でも手に入らないかな……。


 ヒミコ様、ビアンカ姉妹に話をしてバッキンを出た。

そして現状はスターインの中である。

銃による襲撃から始まった今回の件の説明と今後の展開について花ちゃんに屋敷にいるみんなに話をしなくてはならない。

かっちゃんの怪我と面倒を見なくてはならなくなった人達の話をどう切り出そう……何でこうなったかなぁ……。


 花ちゃんの屋敷にいるみんなと会えるので嬉しそうなゴンタとかっちゃんは悩みもなさそうで嬉しそうだ。

かっちゃんは大人しく横になったままの移動だ。気功術による治療は進んでいるものの完治はしていない、もうちょっとらしい。

ゴンタはかっちゃんの側で尻尾を振っている。

俺は嬉しさと怒られるのは嫌だなぁって気持ちがせめぎ合っているのにな。


 自業自得な部分はあるが波乱万丈である。



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