情報
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いい気分で見つけた茶店に入っている。
室内以外にも、庇付きでオープンテラス風の席もある茶店だ。
ゴンタ達も横にいる。
ゴンタ達には水を注文し、俺達は果汁ジュースを頼んだ。ぶどうジュースは冷えていなかったが酸味が程よく美味しかった。
「けーちゃんはモラテコに何しにきとるん?」
「うちはなー、かっちゃんと同じように大森林に用があるんよ」
「そうやったんか。数日前、サヒラにオーク300ほどの襲撃があったんよ。冒険者ギルドからオーク襲撃元の調査以来も受けたで」
「辺境最前線やなー。そんなんよーあるん?」
「10年ぶりくらいやっていっとったで」
「さよか。調査結果はどーやったん?」
「サヒラの南東へ3日くらい歩いた所に湖があってな、オークが家作っておったで」
「家かいな!作れるんやね」
「そやねん、初めて見たってうち以外にも同行した《赤い旋風》も言っとったで」
「あらー、一緒に行動しとるん?」
「なんだか一緒に動いとるよ。彼らはアレゾルアでダンジョンに潜るんが目的言うてたから、そこで別れるやろけどな」
「ダンジョンなぁ」
カッツォとケイトさんが情報交換をしている間、俺はゴンタの頭を撫でていた。なでなで。
ミナモはつまらなそうに道行く人を眺めていた。
(トシ、けーちゃんに異世界の話してもええ?)
カッツォが俺を手招きして俺の耳をカッツォの口許へ持ってこさせ小声で話掛けてくる。
旅から旅をしているケットシーなら多くの情報を持っているかもしれないな……。
魔力無しの俺は不審がられてるだろうし、いいか。
俺はカッツォに向かって頷く。
「けーちゃん、大きな声ではいえへんがトシは違う世界から来てるねん。魔力無いんは判るやろ?」
「なんやおかしいなぁ思てたけど、異世界かいな」
「そうやねん。魔力も魔法も無いとこやと」
「ほぉ!おもろいなぁ。そんな事もあるんやねぇ」
「異世界って、すんなり出てくるんは何か似たような事でも聞いたん?」
確かにそうだな。
「昔、イグルス帝国が100人のメイジを犠牲にして呼び出したとか、どこぞの国に異世界出身の将軍がいたとか噂なら聞いた事あるで」
「噂かいな。文献とか見たんやないのん?」
「酒場の噂やからねぇ。話半分で聞いとったけど、ある程度本当かもしれんなぁ」
ケイトさんが俺を見ながらそう言う。カッツォも頷いている。
「ケイトさん、俺達も興味があって、召喚魔法などを調べているんです」
「召喚魔法なぁ。昔、エイブいう賢者や言われてた人がドラゴンを呼び出して制御できずに殺されたとかなら聞いたことあるなぁ」
「なんぞあるんかもしれんね。やる気出てきたで!」
「うー、うちも着いて行きたいわぁ」
「来たらええやん」
「それがなぁ、大森林の奥にドラゴンたちが住む山があるらしゅうてな、うちはドラゴンの魔石がぎょーさん欲しいねん。ドラゴンの墓場くらいあるやろ思てな」
「さすがに、そのクラスの魔石なんぞ持ってへん。うちでは力になれんねぇ」
「かっちゃん!異世界と召喚魔法に付いて判ったら絶対教えてーな!」
「けーちゃんにはかなわんなぁ」
「約束やで?」
「はいな」
ケットシーが好奇心旺盛っていうのは本当みたいだね。
あとカッツォとケイトさんはとても仲良しだ。
傍から見ていると、ぬいぐるみが並んでいて微笑ましそう。実際ちらちら視線をよこす女性や子供たちがいたしね。
そう思っている間もゴンタを撫でるのはやめないぜ。
「俺もカッツォの事をかっちゃんって呼んでいい?」
「なんや急に。別にかまわんけど」
「かっちゃん、コンゴトモヨロシク」
「はいな」
「うちの事も、けーちゃんって呼んでーな」
「わかった。けーちゃんもよろしくね」
「うんうん。トシは素直でええ子や」
わうー
「ゴンタもええ子やでー」
和やかに話が続いた。
かっちゃんと、けーちゃんは家族ぐるみで一緒に旅をしていた幼馴染だとか、美味しいお菓子の売っている店だとか、色々話がとんでいたけども。
大森林奥地にあるドラゴン山脈の話も聞いた。またサヒラに来ることがあったらいってみたい。
鉄の話も出た。俺が欲しいなーって言ったからだ。
世界樹の周りはエルフ領になっているが、イチルア王国の反対側でエルフ領に隣接しているのがドワーフの住んでいる地域らしく、山脈もあり鉱山が栄えているそうだ。
戦略物資として扱われているので、一般人では一部商人か職人の手にしか渡らないそうだ。
イバンさん、すまんです。
追加の飲物や軽食を頼み、夕方まで話し込んでしまった。
かっちゃんは幼馴染との久しぶり出会いが相当嬉しかったのか、はしゃぎっぱなしであった。
けーちゃんは旅の準備は整っているらしく、今晩は暇との事で夕飯も一緒に食べに行く事になった。
カビーノ達と合流し料理屋へ向かった。
合流したときにカビーノ達と、けーちゃんも知り合いだと判った。強い人達はどこかで繋がりがあるもんなのか。
ホルフィーナが店を選び店と交渉してくれたおかげで、店の裏口に近い個室で裏口からこっそり個室に入るのならゴンタ達も一緒でいい事になった。ありがたい。
「久しぶりだな『魔風』」
「ちゃんと、けーちゃんって呼ばんかい」
「そうよー、けーちゃん怒らせないでよカビーノ」
「お、おう」
そんな風に始まった食事会も、いつしか宴会となった。
俺は気分がよかったので、痛飲してしまった。
とても楽しかった。気のいい奴らと過ごす時間はいい。
店を出るとき、かっちゃんとけーちゃんはずっとハグしあっていた。
「ほな、またな」
「はいな、けーちゃんまたな」
出会いと別れとの付き合いが上手いもんだなって思ったよ。
宿へ帰る途中の頬を撫でていく風が、酔いで火照った体を通り過ぎていく。
今夜はいい気分のまま眠れそうだ。