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色々な想い

289


「かっちゃん!」


 俺の言葉に反応しない、かっちゃん。

くっ、追撃も来るかもしれない。

遮蔽物の陰に逃げないとまずい。


 俺はかっちゃんを抱きかかえて建物の方へずれる。


タン!


 射撃音らしきものの後で俺達のいた辺りの土が跳ね上がった。

やはり銃の様なもので撃たれたのであろう。

銃か……調べたい所だが、今はそれどころではない。


 孤児院の子供達がシスター達の先導で建物に避難しているのを横目に見ながら、急いでくれと心の中で願う。

俺達も建物内に逃げ込みたいが子供達やヒミコ様達を押しのけていくわけににもいかない。


「ゴンタ!銃を撃ってきた敵の排除を頼む!」


 俺はゴンタに指示を出す。


わう!!


 ゴンタは動かないかっちゃんが心配なのか、一瞬考え込んだ様であったが一吠えして敵がいるであろう方へ掛けて行った。

俺の左腕に仕込んだ砲の事を知っているゴンタなら敵が似たようなものを使って襲って来たのも解っているはずだ。

ゴンタだけに任せて申し訳ないが、こっちもやることがある。


「かっちゃん!かっちゃん!」


 俺は建物の脇で、かっちゃんに声を掛ける。

かっちゃんは意識を失っている様だ。俺に反応を返してこない。

かっちゃんも銃弾を受けたのか?更に調べる。

そして抱きかかえている俺の右手の掌が濡れている事に気がついた。

血だ。

俺の服の胸元や右腕の内側にも血が付いている。

俺の背中と尻は痛いが俺の胸には痛みがない。

俺に関しては命に関わる怪我ではなさそうだ。花ちゃんの作ってくれた魔物蜘蛛の糸製である服と下着のおかげと筋肉である程度防げたみたいだ。

ついた血は、かっちゃんを抱きかかえた時に着いたのか?

かっちゃんの体を更に調べる。

そしてかっちゃんの背中……首と右肩の間、肩甲骨の辺りに銃弾を受けたであろう跡を見つけた。

銃弾は抜けていない。

体内に残ったままだ。

かっちゃんも銃弾を受けた位置から見て内臓をやられてはいない。

かっちゃんの呼吸も問題なさそうだ。

命の危険はないとみていいだろう。

衝撃で意識を失ったのか?首に近いせいかもしれない。


 かっちゃんが意識を失っている間に銃弾を取るべきか?

俺は腰に着けていたマジックバッグから普段使いのナイフを取り出す。

かっちゃんの服をナイフで切り、傷口辺りの体毛(立って歩く猫さんだからね)を短く切り取った。

身内に刃を向けてから動揺している事に気付いた。

かっちゃんの血を見ての動揺でもある……それ以外にも発生した想いがある。

敵を切りつける事には慣れた俺も、まだ地球にいた頃の人間っぽさが残っているんだなって事だ。

こんな時になんだが少し安心している俺がいた。


 そんな複雑な心境の俺を眩暈が襲った。

俺が見ていたかっちゃんがブレて見えた。

何かがおかしい……見えないが背中と尻からの出血が思った以上に多いのか?

いや、さっきいた銃撃された場所には見て確認出来るほどの血は見当たらない。


 毒……まさか毒か?

銃弾に毒まで仕込んでいた!?


 俺はブレる視界のまま、マジックバッグから毒消しポーションを取り出して飲む。

ポーションは飲んでも患部に掛けても効く。

俺の背中とにも掛けたいが上手く出来そうにない。

飲んだという事実が効いたのか体が熱くなる。

プラシーボ効果かもしれないが……。

あ、体の大きい俺でこれだと、体の小さいかっちゃんにはもっと毒が回っているかもしれない。

俺は、もう一本毒消しポーションを取り出す。

半分掛けた所で、かっちゃんの口からも毒消しポーションを飲ませようとする。

しかし上手く飲んでくれないのでハンカチに毒消しポーションを染みこませてかっちゃんの口に含ませた。

かっちゃんの口と喉が動いているので効果はあるだろう。

ホッとした辺りで俺の眩暈も収まって来た。

やはり毒だったようだ。

俺達を撃ってきた銃らしきものは、急所に当たらないと即死させられるほどの威力はないのではないか?

だから毒を合わせる事で補ったのかも知れない。


「トシさん!かっちゃんも建物の中へ!!」


 思考の渦へ取り込まれそうになった俺を引き戻したのはマリアさんの声だった。

俺は声のして来た方を見る。

マリアさんが建物の戸口から顔を出しているのが見えた。

孤児院の庭には、既に誰もいない。

俺達が最後の様だ。

俺はかっちゃんを再び抱きかかえて孤児院の中に入る。


「みんな無事ですか!?」


 建物に入った俺は状況を確認する。


「ヤマ様がテーブルの上にあったコップの破片が顔に当たり怪我をしました」


「大した怪我ではありません。子供達はシスター、護衛の皆には怪我がありません」


「子供達は無事です」


 俺の問いに答えてくれたのはマリア。

追加情報をくれたのは怪我をした本人であるヤマ様。

子供達の無事を告げたのはヒミコ様。

ヤマ様は右の頬をハンカチで抑えている。

銃弾の直撃を受けたのは俺とかっちゃんだけのようだ。

不幸中の幸いであろう。


「か、かっちゃんはどうなのです!?」


 俺に抱きかかえられたかっちゃんを見て、ヒミコ様が俺に詰め寄ってくる。

俺はかっちゃんを床へ降ろす。


「右肩の辺りに攻撃を受けた様です。意識はありませんが命に別状はないと思います」


「そうですか!」とヒミコ様。


「「「良かった!」」」とビアンカ、デイジー、ヤマ様。


 それぞれホッとした顔になった。とくにデイジーは涙を流しつつホッとした顔になっている。

かっちゃんは慕われているなぁ。

俺?俺はほら……平然と動いているから攻撃を受けたなんて思われていないのだろう。

だから心配されていないんだ。決して慕われていない訳ではないはず……だよね?


「どんな攻撃だったのですか?あ、みんなに避難の指示を出していただき、ありがとうございました」とマリア。


「たぶん親指の先ほどの金属の塊を飛ばしてきたんだと思う。飛ばすのに、あのタンッって音が関係あるんだと思う。離れた位置からの攻撃だな」


「矢の先端だけ飛んできたようなものか」


 未知の攻撃に考え込むマリア。

今後の護衛について考えているのかも知れない。


「しかも毒付きだった」


「卑劣な!」


 マリアは毒と聞いて憤慨している。


 今の俺には手が足りない。彼女の力を借りよう。


「ゴンタが襲撃者に向かっていった。ゴンタの補助を頼む。それからココへの襲撃の続きがあるかも知れないから建物の守りも頼む」


「建物の守りは既にしている。ゴンタ様の方は手を打とう」


 マリアはそう言って俺達の元を離れた。


「かっちゃん、血が出てる……」


 ビアンカにしがみついているデイジーがかっちゃんを覗き込んで呟く。

姉妹は顔と、しょんぼりした尻尾で心配だと雄弁に物語っている。


「かっちゃんの体内に金属が入ったままだ。取り出すから綺麗な布とお湯を用意してくれ」


「解りました!」


「任せて!」


 ビアンカとデイジーの姉妹はやれる事があると解ってか気分を切り替えて走っていった。

俺も湿っぽい空気は嫌だったので、ありがたい。


 俺は手術なんて上等な事はもちろん出来ない。

ナイフは火であぶって消毒しておくか……燭台の火にナイフを掲げる。

しないよりはマシだろう。

気功術と毒消しポーションも併用すれば消毒はなんとかなるんじゃないかな。


「ヒミコ様、ヤマ様、子供達がこっちを見ない様に手をうってください。もっと血が出ます」


「はい」


「お任せを」


 俺はうつ伏せに寝かせたかっちゃんを俺の体で隠して手術に入る。

子供達のトラウマにする訳にはいかないからね。

小さい頃の俺だったら耐えられない。せいぜい膝小僧をすりむいて出た血くらいしか見ていなかったもの。


 かっちゃん、起きないでね。俺は心の中で思いながら銃弾を受けた傷口を切り開く……思った以上に嫌な感触だ。

こんな事は二度としたくない。

だが嫌がって時間を掛けられない。

自分の心を叱咤して続ける。

いつの間にか俺の隣には綺麗な布とお湯の入った桶を用意したビアンカが来ていた。

デイジーはいない。

ビアンカが配慮したのであろう。

ビアンカはかっちゃんの傷口を凝視している。

彼女にとってもかっちゃんは身内扱いなのであろう。

見ない、手助けをしないという選択はない様だ。


 ナイフにカツッと固い感触があった。

そして金属を取り出すことに成功した。

俺は毒消しポーションを傷口に掛けた。

傷口を縫うなんて技術はないので、気功術で回復をする。

かっちゃんの気も俺の気に反応しているのか傷の塞がりが良い。

なんとかなりそうだ。


 ビアンカにかっちゃんの傷口を綺麗に拭ってもらう。

かっちゃんに関しては問題ないだろう。

後は俺の方だな。

意識を向けたせいか背中と尻がズキリと痛む。


「ビアンカ。俺がやっていた事を見ていたな?」


「はい」


「俺の背中と尻も同じ状況だ。ナイフで切り開いて金属を取り出してくれ」


「えぇぇぇぇっ!?」


 俺の言葉を聞いたビアンカが驚きの顔とともに声をあげる。

その声の意味は俺が怪我をしていたとは知らなかったせいか、自分が手術をしなくてはならないせいかは解らない。


「トシさんの服にも血が付いていたので、ひょっとしたらと思っていましたが……」


「普通に動いていましたが……」


 言葉を継いだのはビアンカではなくヒミコ様とヤマ様でした。


「俺は毒だけ消して置いた。急ぐべきはかっちゃんだったからね。さぁ、ビアンカ頼むぞ」


「うぅ……頑張ります」


 ビアンカは泣きそうな顔だ。それでも嫌とは言わないね。ありがとう。


「「「キャアァァッ!」」」


 俺が上着を脱ぎ、尻を出した所で悲鳴もどきの声が響いた。

恥ずかしいが、やるべき事が沢山溜まっている。

知らん。

俺はうつ伏せになった。


 やっと敵の事を調べられるし考えられる。

借りは返すからな……ビアンカの手が俺に掛った所で決意した。


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