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予想と衛兵さん

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「ビアンカ元気かー?」


 俺、ゴンタ、かっちゃんの三人でバッキンの店に商品の補充に来た。

スターインでの移動だと最短四時間ほどの時間しかかからない。

もっとも今回は途中で空気の入れ替え、飯、塩の作成もあったので花ちゃんの屋敷を出てから六時間くらい経っている。

今はおやつの時間少し前って所かな。

奥から商品補充のためか木の皿を重ねて持って歩いて来たビアンカに挨拶をした。


「ゴンタ様!とトシさん、かっちゃんお帰りなさい!!」


わう


「ただいまやでー」


 ゴンタは軽く挨拶しているっぽい。

かっちゃんはビアンカのゴンタ優先っぷりを再認識してか苦笑しつつ挨拶をした。

俺も思わず苦笑を漏らす。

怒る所でも何でもないので笑うだけだけどもな。


「デイジーは配達か?」


「はい。孤児院の子供達と一緒に配達に出ています」


「そっか」


「変わりはない様やな」


「みんな元気ですよ。あ……少しお話したい事があるので後で時間をください」


 何だろう?緊急ではなさそうだが何かあったっぽいな。


「いいぞ。地下の倉庫に商品補充をして置くから後で話そう」


「はい」


 俺、ゴンタ、かっちゃんは店の奥で荷物を置いた。

ゴンタとかっちゃんには一休みしてもらう。

俺は塩などを地下倉庫へ補充する作業に入った。



 補充を終え居間に上がるとビアンカも居間でお茶を飲んでいた。

俺を見たビアンカが俺にもお茶を入れてくれた。


「ふぅ……それじゃ話を聞こうか」


 俺はお茶を一口飲んで話を切り出す。


「二週間ほど前に店にイチルア王国の貴族と商人がやってきました」


 あぁ……トラブルの予感しかしない。


「続けて?」


 俺はビアンカに話の続きをするように促す。


「はい。トシさんの考えている様に無理難題を吹っかけられました」


「むぅ」


 面倒だなぁってのが俺の表情に出ていたっぽい。ビアンカは申し訳なさそうに話を続ける。


「うちで扱っている塩の仕入先、または塩の作り方を教えろとの事でした。丁重にお断りしたのですが聞き入れてもらえず、最後には護衛の者達が剣に手を掛けて脅してきました」


「みんな元気なんだよな?」


 物騒な話になったがさっきの挨拶の時に、みんな元気であるとの返事を聞いている。


「はい。ヒミコ様の配下である諜報部隊の方からの連絡で街の衛兵さん達が駆けつけてくれました」


「後でお礼に行かないとな」


「せやな」


わう


「その日から毎日店の近辺に監視者がいる様なのです。監視の目的も解りませんし嫌な予感しかしません。デイジー達にはヒミコ様の好意で護衛を付けていただいていますが申し訳なくて……」


「イチルア王国は碌な奴がおらんなぁ」


わうー


 ビアンカの説明にかっちゃんが呆れたように言う。

ゴンタもかっちゃんに同意の様だ。

俺もそう思う。

あの国は横暴ばっかりってイメージだ。

俺が牢獄にぶちこまれたのも忘れてないぞ。


「ここらでやられた事に礼を返しておこうかな……」


 何だかイライラが募って来た。

どんどん過激な礼が頭に浮かんでくる。

とは言え殺すほどではないか。

嫌がらせくらいに抑えないとな。


「トシ、悪い顔してるでぇ……」


わぅ


「本当です……」


「か、顔は関係ないだろー」


「いや、顔が悪いとは言ってへんやん」


ぶふっ


 俺とかっちゃんのやり取りを聞いてビアンカが笑いを殺し損ねて変な声を漏らした。

俺は本気で顔の事なんか心配してないよ?本当だよ。

不安にさせていたビアンカの気持ちを変えようと思ってさ。これも本当なり。


 おっ、ちびっこの気配。


「ゴンタ様!お帰りなさいっ」


 配達から帰って来たデイジーが店に入ってくるなりゴンタに挨拶をした。


わう


「配達ご苦労さん」


「ご苦労さんや」


 ゴンタに続いて俺達もデイジー達を労う。

デイジーの後ろには孤児院の子供達二人もいた。

護衛してくれていたと思われる衛兵さん達の姿も見える。


「トシさん、かっちゃんもお帰りなさいっ」


「ただいまだ」


「ただいまやでー」


 俺は椅子から立って店に向かいながら挨拶をする。

デイジーから始まって子供達の頭を撫でながら衛兵さん達の前へ進む。


「いつも店にはいませんが店長のトシです。店の者達を守ってくださってありがとうございます。ヒミコ様には後ほどお礼に参ります」


 俺は衛兵さん達に頭を下げた後でお礼を言う。


「ビアンカさん達からいつもお礼を言ってもらってますし、良い塩も融通してもらっています。お礼は十分ですよ」


「そうです。良い子達です」


 二十歳をいくつか過ぎたくらいの衛兵さん二人は礼儀正しく返礼をしてくれた。


「甘い物はお好きですか?これ飴玉っていう甘い物なんですけど、いかかですか?」


 お金を渡そうかとも思ったが、何となく失礼な気がして珍しいであろう物をお礼として手に乗せて差し出した。


「甘い果物なんかは好きですけど……」


「飴玉ですか」


 なんだか未知の物に躊躇している衛兵さん達。


「デイジー達にもあげよう」


 未知の物でも躊躇しなそうな子供達を使おう。


「わー」


「何なにー」


「良く解らないけど、くれるのー?」


 デイジーを筆頭に孤児院の子供、男の子と女の子も興味深々で俺に群がって来た。

その後ろにビアンカも並んでいる。

甘い物って単語に惹かれた様だ。

順番に口に飴玉を放り込んでやる。


「あまーい!」


「おいしいねー」


「これ好き……」


 子供達には好評だ。


「コロコロと口で転がして甘さが長持ちですねぇ」


 ビアンカも子供達ほどではないが甘さを楽しんでくれている。


「どうですか?」


 俺は衛兵さん達に再び話しかける。


「「いただきます」」


 子供達の様子を見た衛兵さん達も飴玉を食べる気になった様だ。

一つづつ手渡す。

渡されたそれを恐る恐る口に入れる二人の若者。


「おぉ!」


「果物とは違う甘さだ!」


 男性にも好評らしい。


「……あの、うちの妻と子供にも食べさせてやりたいのですが、これを二ついただけませんか?」


「俺も母と妹に……」


 もごもごと口を動かしていた衛兵さんが申し訳なさそうに俺に言って来た。

もう一人の衛兵さんも続いて要望を出した。

砂糖が貴族に買い占められている現状では貴重品ではあるだろう。

これがお礼になるなら嬉しい。飴玉も沢山持ってきているしな。


「もちろんです」


 俺はそう言って、六個ずつ木の容器に入れて渡した。

入れた個数を見ていた衛兵さん達は嬉しそうにしてくれたね。


 そして衛兵さん達は一礼して去っていった。

それを見送る子供達はぶんぶんと手を振っていた。


「早めに店を閉めてヒミコ様の所へお礼にいこう。肉も魚もあるから夕飯は孤児院でパーッといこうぜ!」


 衛兵さん達を見送った後でBBQ宣言をする。


「やったー!」


「楽しみっ!」


「おにくー」


「嬉しいです」


「魚ー」


わう!


 ヒミコ様にお礼と、イチルアで騒ぎを起こすかもしれないと言っておかないとな。

みんなの嬉しそうな声を聞きながら違う事を考える俺であった。


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