決意
28
サヒラを出て3日目に無事モラテコの港に着きました。
ストームバードの襲撃により壊された船の修理も応急処置ながら終わり、昼前にモラテコ入りです。
「無事モラテコに着いたね」
「陸地はええで!」
わうー
わふ
「そうやろ、海はいかんよ」
なにやらカッツォとゴンタは意気投合している。
おれもゴンタ達もストームバード戦で出番なかったもんな。悔しかったのかゴンタ。
「ちなみにミナモは俺の言葉を理解しているのかな?」
「してへんよ。今まではゴンタに合わせて相槌打ってただけやで」
わう
「そうでしたか、ついゴンタと同じ感覚でいたよ」
ただ吠えてただけなのか。
「おう、いくぞ」
「はいな」
カビーノが先導して歩き出す。
歩きながら、カッツォにモラテコについて解説してもらった。
モラテコは港も城壁で防護されていて、サヒラが将来的に目指している形だ。
都市の作りはサヒラと同じだ、規模が数倍違うだけで。
港から町までも近い、歩いて30分ほどの距離らしい。
人口もサヒラの5倍で10万人を超えるそうだ。
そしてモラテコの周辺にも村がいくつかあるとか。サヒラは都市と港しかなかったもんな。
モラテコはアヘルカ連合国で一番安全な都市で、魔物被害はほとんどないとの事。
門も冒険者カードで通り、都市部へ入る。
「すごい人だらけだ」
「おう、アヘルカ連合国内で一番大きく安全な都市だからな」
「商店も多いね」
「交易でも栄えてるからな。冒険者にとっては護衛や門番といった仕事くらいしかないから、金にはならんな」
「ほほー、サヒラやアレゾルアへ流れていくんだね」
「そうだな。辺境最前線かダンジョンだな」
「お金があったらいい都市なんだろうね、ここは」
「おう、引退した冒険者なんかも多かったはずだ」
「へー」
「俺らの泊まる宿が、あれだ」
大通りを歩きながらカビーノから冒険者情報を聞いていたら宿へ着いたようだ。
小麦亭よりも大きいな、石造りの立派な宿だ。
「ゴンタ達も泊まれる?」
「たぶんな」
「そっか」
みんなで宿へ入る。
カビーノが顔見知りの支配人に話をつけにいってくれた。
お高そうな宿だなーなんて思ったり。
試しにソファーに座ったら体が沈みこんであせった。柔らかい、横になったらよく眠れそう。
「ゴンタ達も泊まれるぞ。3部屋取ったから荷物おいてこようぜ」
「あいよ」
そういってカビーノが鍵を投げ渡してくる。
「俺達はアレゾルア行きの護衛がないか調べてくるから、お前らは町でも見てろよ」
「任せちゃっていいの?」
「ああ、護衛がなけりゃ馬車の切符買うだけだしな」
「ありがとう」
「夕飯前に、ここに集合な」
「わかった」
カビーノは乱暴な口調の割に優しいよな。
カッツォ達と部屋へ行き、荷物を置いて町へ出た。
大通りを、なにするわけでもなくぶらぶらしていた。
「かっちゃんやないの!」
「けーちゃん!久しぶりやん」
後ろからケットシーが声を掛けて来た。カッツォと似たような恰好をしている。
カッツォの知り合いっぽい。かっちゃんて呼ばれてるのか。
「かっちゃん、こんなとこでなにしとん?」
「うちは大森林に潜っとったんよ。でな、この子らと一緒に行動することになってん」
「あらー、初めましてやな。うちはケイト・ダーマーいいます。よろしゅうな」
「初めまして。俺はトシオです。この子がゴンタで、この子がミナモって言います」
「ゴンタちゃんにミナモちゃんかー、よろしゅうな」
わう
わふ
今回は堪えたが、また猫さん大好きシリーズなのか!毛糸玉……だれかの作為を感じますな。神様なのかっ!?
「こんなとこで立ち話もなんやし、茶ーでも飲もうや」
「ええな、そうしよか」
茶店を探して歩いた。
周りを見ていたら、1人の女の子と目があった。なにやら男3人にナンパされていたようだ。
いやな予感がしたら、女の子が男どもから俺の陰に隠れやがった!
「なんだぁ、兄ちゃん邪魔すんのかよ」
「いいとこみせようってか」
「邪魔なんだよっ」
うは、男どもの矛先がこっちに来たよ……。
「いやいや、邪魔なんてしませんとも」
「助けてください!」
えぇー、なんなのこの子。
「ねーちゃんこっちこいよ」
男が手を伸ばすが、女の子が俺を盾にする。
「この野郎!」
「いや、俺じゃあ……」
言い訳をしようとしたら、殴りかかって来た。
なんなのこいつら……男も女も関係ない俺を巻き込むなよ。
男の手を払いのける。
「手前ぇ、やんのか」
3人とも掛ってくる。話も聞きやしねえ。
どう見てもこいつら弱い。気配的にも弱い。
あーなんだかムカムカしてきたな。
3人が一列に並ぶような位置に移動し、1人ずつぶん殴っていく。
殺すつもりはないので、気功など使わない。
こいつら弱すぎだ、よくこんなんでケンカ売ろうって思うよな逆に関心するわ。
ってやっちまったー!
女の子は礼をいって消えるし、周りの野次馬からは賞賛の声を掛けられるわ、目立っちまってる。さっさと離れるか。
男どもを脇道に捨ててから、みんなで現場を離れる。
「なんや、浮かない顔やな」
カッツォが俺に言う。
「やっちまったーって思ってさ」
「うちにしてみれば、トシは感情を抑えすぎなんよ」
「え?」
「今まで無理してたように見えてたで」
「……」
「あんなー、自分の命一つで済むんなら好きなことしたらええねん。同じ一生やで」
「せやせや」
カッツォとケイトさんが俺を諭すように言う。
俺はこっちに来て、みんなと楽しく過ごしていなかったわけじゃない。
しかし自分のしたい事をしていたかと言われると分からない。
頭の中で多くの事が交錯する。
カッツォの言葉を反芻してみた。
カッツォがハンカチを差し出してきた。
ああ、俺は泣いていたようだ……。
そうだな俺は異世界に来て、いつまで日本の事を引きずっていたんだろう。
やりたいことは全てやればいいんだ。
助けたい人がいれば助けてもいいし、お金が欲しければ知識も利用して稼げばいい、殴られたら殴り返せばいい。
俺の一生だものな、カッツォの言う通りかもしれない。
「ありがとう、カッツォ。俺これからはやりたいことは全てやる」
「それでええんや」
「うんうん」
わうー
わふ
俺は心からの言葉をカッツォ達にぶつける。
なんだか胸につかえていたものが消えたようだ。すっきりした気分。
世界が違って見える気すらする。
キノーガルドで生きるよ。