調査
275
現在、俺はスターインの床にいる。
なんていうか足が痛い。
怪我?いえ違います痺れて痛いのです。
なぜなら……。
『トシ、反省』
「そうですっ!反省してください!」
「こればっかりは止める訳にはいかん」
「トシちゃん、ゴンタちゃんの言う通りだよー」
「ゴンタ、もっと言ったれ!」
「仕方ないわなぁ」
俺は正座させられて反省させられていた。
怒っているのはゴンタがメインだが、ここぞとばかりにみんなも参加している。
「ゴンタ君……あ、足が痺れて……」
『左腕を失ったなんて聞いてなかった』
「あぅ……」
『トシは怪我をせずに戦う術を持っている』
「はい……」
『みんなに心配を掛けちゃダメ』
正座している俺の左足をゴンタが右の前足でテシテシと叩きながら怒っていた。
痺れている足にジワジワくるからテシテシはやめてぇー。
「わ、解りました。反省しております。今後は冷静に対処していきますので、ご勘弁を……」
俺はゴンタに頭を下げてから、みんなの方へ向き直り頭を下げて反省の言葉を告げた。
『うん。落ち着いて戦えばトシは強い』
「お、おう!」
ゴンタから褒められると自信が湧くな。
悔しいけど嬉しい。
『次の戦いはトシの力が発揮しにくいけど、力を合わせて対処しよう』
「おう!」
『正座終わり』
「ありがとう。ゴンタ」
「ゴンタさんは、お優しいです!」
アリーナは太鼓持ちかよ……いいけどさ。
俺は痺れる足を無理やり動かして椅子に座る。
あー、痛かった。
俺は足の先を動かさない様に、そして痺れを起こさない様な体勢を保つ。
肉体が強くなっても、こういうのは変わらないんだよね。
現在スターインは元ハーギリー王国の王都ブチポセト近郊にあるダンジョンの近くの森にいる。
もちろんヴァンパイアキングが籠っているダンジョンである。
今回のヴァンパイアとの戦いで周辺国の被害が甚大で王都以外の村や町を放棄している。
ヴァンパイアの国の周辺三国は騎士団を失い、兵士も最低限しかいなくなっていた。
そんな周辺三国はトオ連合国として結びついた。
連合国といってもそれぞれの王都三つだけの国だ。
共同で復興作業をしていくらしい。
今はゴタゴタしている様だ。
だから元ハーギリー王国なのである。
ちなみにヴァンパイアが籠っていた砦は放棄されていた。
ヴァンパイア討伐軍が着く前に逃げ出されていた。
ヴァンパイアキングは配下に念話を送れるので、その指示に従ってダンジョンに逃げ込んだのだ。
せっかくの戦力を捨てるはずはないよな。
俺達もスターインで追撃して日中で動けなくなっていたヴァンパイアを倒していったが、全滅はさせられなかった。
日傘じゃないが、木の板や荷物で影を作りながらの移動であったからだ。
俺達が見た時には体の一部を燃やしながら走っている奴らもいた。
無茶しやがると思ったが、ダンジョンに逃げ込めさえすれば回復、再生出来るのだろう。
ヴァンパイアナイトは肉体強度と日光への抵抗が高いのか全員逃げられた。
アドルフ、アンドレが率いるヴァンパイア討伐軍は斥候を使いヴァンパイアの追跡をしている。
まだダンジョンには来ていないが、直ぐに辿り着くだろう。
「うちらがアドルフ達を説得する前に状況が変わったんやけど、どうするん?」
「砦のヴァンパイア達もダンジョンに入ってもうたしなぁ」
「アドルフ達がヴァンパイアの行先を突き止めてくれれば封鎖も可能なんだろうけどね」
俺達が国に言うより信憑性が高いだろう。
今はダンジョンに潜る余裕は少ないはず……とはいえ国の財産だどうなるかは解らない。
冒険者は別だろうけどさ。
「アドルフ達と相談してダンジョンに入る者達の制限を国に提案してもらいたいな」
「これ以上ヴァンパイアの戦力を強くしたらアカン」
「吸血鬼化……おっかない力やで」
「アンデッドとして使役されるってのもあるぞ」
かっちゃん、けーちゃんに続いてアンも意見する。
ヴァンパイアキングにはネクロマンサーの力もあるんだったな。
野営地では吸血しかしてなかった所を見るとネクロマンサーの力は儀式が必要だったり時間が掛るのかも知れない。
「味方の亡骸を利用されたらやり難いですね……」
「冒険者は武器も防具も持っているからな」
「困るねー」
『ボクも重装備の奴は苦手』
ヴァンパイアキングの鎧には苦戦してたもんな。
いくらアンデッドに気功術や銀の剣が有効といっても防具には有効じゃない。
「精鋭でのダンジョン攻略が理想だ」
「そうやね」
「他の冒険者達にはダンジョン前を封鎖してヴァンパイア達を逃がさない様にしてもらえたら、ありがたい」
「それが理想やな」
けーちゃんが頷きながら同意してくれる。
他の仲間達も頷いている。
「ヨゼフ達を通じて情報を与えといたらどうや?」
「ふむ……そうしようか。なっちゃん、ヨゼフに送話魔法で連絡を頼むよ」
「はーい」
「俺達は先行している。ヴァンパイアキングがダンジョンに逃げ込んだのを確認した。ダンジョンの封鎖と精鋭部隊によるヴァンパイアキングの討伐をアドルフに提案してくれって伝えて欲しい」
「わかったー」
これで事前準備が出来れば無駄な話し合いの時間は減るだろう。
もっともアドルフ達が、どう判断するかは解らないけどな。
ヴァンパイアキングの脅威を知った彼らなら理解してくれるとは思っている。
俺達より前から戦い続けている彼らには釈迦に説法って感じかも知れない。
「伝えたよー」
「ありがとう」
つい、なっちゃんの頭を撫でてしまった。
「えへへー」
子供扱いで怒られるかと思ったが、嬉しそうにしてくれているからいいか。
なでりなでり。
「……」
アンが黙って見てくるので、ほどほどにしておいた。
「確認したい事があるからダンジョンに行こう!」
俺は誤魔化す様に言う。
「襲撃があるかも知れんから装備はしっかりな!」
「油断したらアカンで!」
「はーい」
『ボクも魔力で索敵出来たらな』
「私もです……一緒ですねっ!」
「索敵は我らに任せておけ」
俺達は戦闘装備を身に纏いスターインを出て森を歩く。
森を出て直ぐに小屋がいくつも目に入った。
山の一部、切り立った崖に洞窟が見えた。
「あれがダンジョンの入口だ。地下階層型のダンジョンで現在は地下二十三階まで確認されているらしい」
「壊れた小屋もあるなぁ」
「瓦礫の山やん」
「ヴァンパイア達が暴れたっぽいですね」
「そうだな」
『足跡や戦闘の跡もある』
「本当だー」
アリーナやゴンタが言う通り、だれかが暴れた跡がある。
まだ新しい感じなのでヴァンパイアのせいだろう。
「これなら国に報告も言ってそうだな」
「直ぐ話が纏まりそうやん」
『早く動けるね』
「はいっ!」
「がんばろー!」
俺達はダンジョン入口へ近づく。
「おい!今はダンジョンに入ってはいかん!」
「そうだぞ。危ないんだ」
俺達に声を掛けて来たのは二人の男であった。
装備が同じ胸当てなのでダンジョンを監視している国の兵士だろう。
「どうしました?」
俺は一応聞いてみた。
「ヴァンパイアが何体も入っていったんだ!」
「冒険者のダンジョンへの立ち入りに制限が掛っている」
「ヴァンパイアですか!?」
「ああ。これはただ事ではない」
「国による討伐は……」
「残念ながら、今は戦力が足りない。我らの監視のみだ」
悔しそうに教えてくれる兵士。
良く見たら歳のいった兵士しかいない。
小屋の中にも気配があるが……七人だけらしい。
ダンジョン入り口から続く街道の先には都市の防壁が見える。
二kmくらい先であろうか、きっとあちらからも監視しているんだろうな。
ここにいる兵士は捨て駒みたいなもんじゃないか……いや誰かが立ち入りの制限と情報収集をしなくてはいけないって事だろう。
「壁を作って封鎖をしたりはしないんですか?」
「それは国の判断次第だ」
悔しそうな表情が続いているおじさん兵士。
「ダンジョンには入りませんが中の様子を見ても良いですか?」
「構わんが自己責任だぞ」
「本当に危ないから入るなよ」
「解りました」
俺はそう言ってダンジョンの入口へ向かう。
そして俺の後ろを着いてくる仲間達。
俺はダンジョン入口に立っていくつかのテストをする。
俺の力で出来る事の確認は必須だ。
うちの子達も警戒しながらダンジョンの中を見ている。
ダンジョンの内部の壁にも触ってみる。
こっそり足も踏み入れたり。
なるほどなぁ。