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いせおち 《異世界転落物語 アカシャリーフ》  作者: 大和尚
ヴァンパイア編
273/387

廃都

273


 廃都の北側の防壁の外で、俺達一行とヨゼフ達、それから救出した人質、百三人で朝を迎えた。

野営地の冒険者達……今はアドルフが代表になって行動している。

彼らにはヨゼフから廃都解放の話を伝えてもらったが、戦場の後始末で精一杯、疲労困憊で移動は無理との返事だった。

連日の戦いで疲れも溜まっていたろうし、仕方ないかとも思う。


 城の中に食料の備蓄もあるのだが、俺達の手持ちの食料を使って朝飯を出してやった。

魔物の焼肉だけですけどね。

魔物の肉だけは大量にある。

かっちゃん、なっちゃん、アンに作ってもらった氷で冷蔵庫もどきもマジックバッグに入っているので肉も傷んでいないはず。


「朝日だ……」

「本当に助かったのね!」

「まさか生き延びられるとは……」

「お肉美味しい!」

「ボクのお肉ー」

「助けていただいて、ありがとうございます」

「良く噛んで食べなさい」

「ほらほら、水を飲みなさい」

「体のあちこちが痛いわ……」

「美味しいねっ!!」


 廃都の城で捕まっていた者達が嬉しそうに騒いでいる。

人質と言っても彼らはヴァンパイアにされるための要員だったんだと思う。

確実にヴァンパイアにするためにヴァンパイアキングが毎日少しずつ吸血鬼化していたんだろう。

百%ヴァンパイアに出来るのは奴だけだからな。

人質を前に出して交渉してきたりもしなかった。

食べる事も血を吸う事も奴らには必要ないから当たっているはずだ。


「なっちゃん、ここに座れよ!」


「そうだ、来いよ!」


「はーい」


 ダンテとフリオがなっちゃんに声を掛けている。

木の皿と焼肉を刺したフォークを持ちながらである。


わう


「はい!ゴンタさん、焼肉をどうぞ!」


わう


「ゴンタ、美味しいか?」


わう!


「良かったなぁ」


 ゴンタにアリーナとアンが焼肉を上げている。

三人とも嬉しそうで何よりだ。

ゴンタを見て気になっている人質だった者達もいる。

チラチラと視線を向けているね。

特に子供達は今にも駆け寄りそうだったが大人達に止められていた。

うちのゴンタは可愛いからな!ご苦労さんです。


「本当に廃都奪還に成功したのね……」


「おう」


 感慨深そうに呟くカミッラに返事をする。

ヨゼフは、まだ寝ている。酷使しすぎたかな。

フリストは人質だった子供達に焼肉と水を配っている。

無表情が売りのフリストなのに、ニヤついている。

お巡りさーん!あいつですー!と言いたい。


「そうだ!アレは何?」


 カミッラが指し示したのはスターインであった。

あー、野営地で動き回っていたもんな。


「魔鉄の箱だな」


「ただの箱じゃないでしょう!?」


「まぁな」


「教えなさいよっ!」


「動く箱だ。それでいいじゃねーか」


「良くないわよ!」


 カミッラはツッコミタイプらしい。

最初会ったときは知的そうだったのに……話すたびに残念さが増したっけ。

俺は遠い目をしていたと思う。


「こういうこっちゃ」


 そう言ってかっちゃんが焼肉の乗った皿を地面に置いてカミッラの方へ動かした。

スススッと皿は進んだ。


「土の魔法って事?」


「見た通りや」


 さすがかっちゃん。言質は取らせない。


「そんな事も出来るのねぇ」


 カミッラは感心している。


「今日は野営地の冒険者も廃都に来るんやろ?廃都内部と城の探索が進むなぁ」


 けーちゃんが話題を変えてくれる。

ケットシーの二人はとても頼りになります。

人生経験も戦闘経験も抜群だ。


「それそれ!楽しみねぇ」


「冒険者なら冒険、探索をせんとなっ!」


「おー!」


 けーちゃんと気炎を上げるカミッラ。


「けーちゃん、カミッラに城の宝物庫にあった物から適当にあげてよ」


「ええんか?」


「手伝ってもらった報酬なんだ」


「さよか」


 けーちゃんは俺の言葉を聞いてマジックバッグをゴソゴソしている。


「金がええんとちゃう?」


 かっちゃんが助言してくれた。


「出先やし、嵩張らんから金でええか?」


「……それがいいわ」


 カミッラは一瞬考えた様だったが即断した。


「これでどうや」


「えっ!?こんなにいいの!?」


 カミッラの手には白金貨五枚が乗っていた。

町の中に普通の家が買える値段だ。

ヨゼフは走り回ったけど、カミッラ達は夜番を交代でしただけになった。

なんせ人質を連れて逃げるはずだったのに、襲ってきそうなヴァンパイアがいなくなったからな。

それでもそういう危険があると解っていて協力してくれた彼らには感謝している。

金額も妥当であろう。

もっとも、それ以上に城の宝物庫からいただいているとは思うけどさ。

これは言わないでおこう。

ヨゼフなら気が付くだろうが、奴はまだ夢の中だ。


「危険手当も込みや」


「ありがとー!!」


「無駄遣いしたらアカンで?」


「はいっ!」


 親戚のおばちゃんからお小遣いをもらっている子供の様だ。

ちょっと笑いそうになったぜ。


「うちらも廃都内部の探索をするんか?」


 かっちゃんが俺に聞いてくる。


「どうしようか?」


「明るい城内を見てみたいで」


「なら城も廃都内部も見て回ろか」


「賛成や」


 かっちゃんに賛成したけーちゃんであった。

やはり好奇心旺盛なケットシーとしては色々見て回りたいのであろう。

俺達だけで決めてしまったが、他の仲間達も賛成してくれるに違いない。


 俺達は焼肉を食べながら今日の計画を話し合った。


(ヴァンパイアキングはどうなったん?)


 かっちゃんが俺に小声で聞いて来た。

カミッラがいるからだね。

俺が世界樹の力で情報を知ることが出来るのはトップシークレットだ。


(それがね……ヴァンパイアキング、ヴァンパイアロードの二体は山中を北へ移動している)

(最後の砦にはヴァンパイアのほとんどが残っとるんやな?)

(そう。昨夜やられた『福音』の三人……今はヴァンパイアナイトだけど、彼らも砦に残っている)

(数を聞いてもええか?)

(ちょっと待ってね……)


 俺は世界樹の力を使って情報を調べる。

けーちゃんとカミッラは廃都探索の話で盛り上がっていて、俺達の話に気付いた様子はない。


(砦に残っているヴァンパイアは総数で五十九体。ヴァンパイアナイトが十体で残りはただのヴァンパイアだ)

(『福音』の三人がやられたんは痛いなぁ……)

(だね。ヴァンパイアキングとヴァンパイアロードは日光で弱体化するみたいだけど消滅したりはしないらしい……)


 そう奴らは今も山中を移動している。

既に日が登っているというのにだ。

怪物め。


(ホンマか!厄介やなぁ)

(砦を囮にして他に拠点を作るつもりかも……)

(昨日の戦いだけで、そこまで考えたんか……カンも良けりゃ頭も悪くないと来たもんや)


 かっちゃんは呆れている。

俺もそう思う。

確かに俺の落とし穴とゴンタの登場で状況は変わったが、そこまで警戒されるとは思わなかった。

怪物達の王は、もっと傲慢で力任せで良いのにな……俺達を侮らないとか厄介すぎる。

こうなると俺達の情報が知られているのは痛い。

全てを知られた訳でもないとしてもだ。

落とし穴、スターイン辺りの事も、どの程度の力か解らないにしても知られているだろう。

ゴンタの力もだ。


「休息も兼ねて廃都にしばらくいる事になりそうやな」


「ああ、戦いの傷は俺達や冒険者達にも大きく残っている」


 俺達の場合は俺の右足の怪我くらいだけどな。


「うちらは早速行ってくるでー!!」


「行きましょうっ!!」


「ゴンタさん!私達も行きましょう!!」


わう


「私も行こう」


「俺達も行くぜ!」


「おうともよ」


「いこー!」


 みんな元気だな。

廃都探索へ行く気満々だ。


「そこの防壁の下に廃都内に入る道があるぞ」


「よっしゃ!」


「行くぞー」


 ダンテ、フリオを先頭に、スターインの向こう側……俺が作った通路へ向かっていった。

廃都には東門と西門しかない。

防壁の北側であるここには門がない。

だから簡単に中へ入れる様に作っておいた。

人質達も時間を見て中へ連れて行くつもりだ。

さすがに牢屋へ続く地下道は嫌だろうからな。

監禁されていた時を思い出されても困る。


「残ったんはうちと、トシ、寝ているヨゼフと人質達やね」


「かっちゃんも行って来なよ。後で城の方に人質達も連れて行くからさ」


「そう?なら行かせてもらうわ」


「行ってらっしゃい」


「はいな」


 かっちゃんも嬉しそうにしながら通路へ消えて行った。

探索したいーってウズウズしてたもんな。

俺の補佐として残ろうとしてくれていたんだろう。

かっちゃんは良い子だ。

子供どころか大先輩なんだけどね。



 ヨゼフが起きたのは九時頃だったろう。

俺、ヨゼフで人質全員を連れて廃都内へ入った。

恐る恐るながらも全員着いて来ている。

ヴァンパイアに支配されていたのだから無理もない。

だが今や防壁外の方が危険だ。

アンデッドがいなくなって魔物が来ないとも限らない。

誰も主のいない空白地帯には他所から敗残者の魔物が流れてきやすい。

ダンジョンと違って魔物同士でも争うからな。

同じ種族の魔物同士ですら争う。

リーダー争いで負けた奴は他所へ行く。

だから廃都周辺に来るのも時間の問題であろう。

廃都内の建物はボロボロではあったが石造りが多いため原形を保っていた。

もちろん人の気配はない。


「ヨゼフ、廃都に人が集まって以前の様な都市になるのかね?」


「あー、どうだろう。ここに執着のある奴はいるだろうが、直ぐには復興できまい」


「だよな」


 他国へ逃げている者達も戻ってくるかどうかも怪しい。

ここを復興させようなんて思う奴は元の王族関係者か貴族くらいだろう。

その日の生活で精一杯であろう元国民には無理だろうなぁ。

道に落ちている桶や壺を見て人の生活があったんだと感じた。

自分には関係ないと解っていても、空しい物がある。


 城は三階建てくらいの立派な石造りであった。

年代を感じさせる使用感も良い。

そして防壁もあり堀もあった。


「みなさん、ここで休んでいてください」


 俺は人質達と城に入ってすぐの広間にいる。

体育館くらいのスペースはある。

扉や階段も見えるが一緒に纏まっていてもらうには、ここが良さそうだ。


「ありがとうございます」


 髪の毛に白い物が混じったおじさんが俺に礼を言ってくる。


「いいええ。後で冒険者達も来ます。そしてあなた方は彼らの指示に従ってもらう事になります」


「はい」


「あなたにこの集団の代表をしてもらいましょう」


「私ですか?」


「ええ。毎回全員で相談しても時間が掛りますからね。後二人くらいは代表者を選んでおいてください」


「解りました」


 俺は白髪のおじさんの口調が礼儀正しいので勝手に決めた。

それなりの立場にいたであろうから大丈夫だろう。

人質の様子を見る限り、今は人に命令されている方が楽そうだ。

考える余裕が出来るまではその方は良いだろう。


「ヨゼフも廃都の探索に行ってきていいぞ」


「お、いいのか?」


 ヨゼフは俺と人質達を交互に見て言う。


「いいぞ。ずっと苦労して来たんだろう?それくらいの役得はあるべきだ」


「おう!お言葉に甘えさせてもらうぜ」


 ヨゼフはそう言って城の外へ駆け出して行った。

こいつも冒険大好き野郎だな。

とても嬉しそうな背中であった。


 そして俺は足の治療をしつつ人質達の側に待機した。

不安そうにしている人質達にクッキーと水を振る舞ったりもした。

俺ってこんな奴だったかね?学校の先生で引率しているみたいだ。

仲間が側にいないってもの久しぶりかも。

ちょっと新鮮だ。

寂しさも少しあるね。



「君達が人質だった人達かい?」


 城の入口に立った人物は大声でそう言った。


「そうです」


「ん……君は」


「バッキンの港町であったね」


「お久しぶりですね。トシです」


「おぉ!ゲイルを抑えてくれていたな!」


 ゲイルってのは《闘族》の転移野郎だったな。


「ええ、まぁ……」


 俺が話していた人物はランク0のアドルフ、アンドレの兄弟であった。

アドルフに転移野郎を抑えていたと褒められて、俺は照れくさくなった。


「本当にヴァンパイア達がいない様だな」

「どうなってんだ?」

「長かったな……」

「罠なんじゃ……」

「怪我人を休ませろ!」

「うぅ……」


 アドルフ達の後ろから続々と冒険者達も城内へ入って来た。

怪我人に肩を貸している者や背負っている者の姿も見えた。

城内をキョロキョロと見ている者も多い。


「アドルフが冒険者達の代表なんでしょう?」


「そうだ」


「人質達はここにいる方達で全部です。後はお願い出来ますか?」


「……あぁ。そうだな俺達が引き受けよう」


「気配を探った限りではヴァンパイア達は残っていません。でも罠とかはあるかも知れないので気を付けてください」


「おう」


 アドルフは人質達の面倒を請け負ってくれた。

もしかしたら拒否されて、俺達がどこかの町まで連れて行くことまで考えていただけに、ありがたい。


「怪我人を寝かせろ!動ける斥候は二人一組で城内の探索だ」


「「「おう!」」」


 アンドレの号令で動き出す冒険者達。

我の強い冒険者だが、ずっと一緒に戦って来てアドルフ、アンドレを指揮官と認めているんだな。

強いだけじゃなく、カリスマ性もある様だ。

頼もしい。


 俺は人質という肩の荷が下りたので、治療に専念する。

まだヴァンパイアキングは倒せていない。

何か作戦を考えないとなぁ……敵は怪物だ。

無理をせず倒さないとな。

生まれてくる子供達の為にもだ!


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