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いせおち 《異世界転落物語 アカシャリーフ》  作者: 大和尚
ヴァンパイア編
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吸血

269


 俺はヴァンパイアキングとゴンタを追いかける様にスターインを動かしている。

スターインもかなりの移動速度なのだが、ゴンタ達とは差が開いている。

ヴァンパイアキングは木々の間を抜けて野営地に飛び込みそうだ。


 痛てて……切られた足に痛みが走った。

ヴァンパイアキングに切られた右足の太腿は綺麗な切り傷だったので、上手く塞がってくれた。

ズキズキと疼く様な痛みが続いている。

気功術による治療を続けるしかないな。

完治するには時間が掛りそうだ。


「トシ、大丈夫なんか?」


 俺が傷口を見ていたせいか、かっちゃんが声を掛けてくれた。


「痛みは残ってるけど、傷口は塞がったよ」


「あの黒い剣は普通の剣には見えなかったぞ?何か影響はないのか?」


 アンも心配そうに聞いてくる。


「ヴァンパイアキングが持っていた黒い剣は魔剣だ。切った対象の魔力を吸うらしい。そして魔剣に魔力を込めると格段に切れ味が上がるんだとさ」


 俺は調べてあった情報を伝える。

ミスリルの義手をスパッと切れるほどの威力があったもんな。

尋常な切れ味ではなかった。


「なるほどなぁ。トシに関しては魔力の方は無駄なんやね」


「おう」


 俺から魔力は吸えない。何たって魔力無しだからな。

言ってて空しいけどさ。


「ゴンタさんが最前線に突入しましたよ!」


「ゴンタちゃん、速いねー」


「うむ」


 前方で一際大きな怒声が上がった。

野営地にいる冒険者達にヴァンパイアキングが突っ込んだんだな。

俺が言うのも何だが、並の冒険者では奴を止められるとは思えない。

アドルフ、アンドレの兄弟なら止められるかって所だろう。


 あぁ……次々に冒険者が切り伏せられていく。

血飛沫と倒れる冒険者が俺の目に入った。

ランク3以上の手練れ冒険者しかいないのに……足を止める事なく切り進むとか、怪物め。

ゴンタがヴァンパイアキングを背後から攻撃しているが、肌が剥き出しの頭部を左腕でカバーしているので致命傷にはなりそうにない。

あのフルプレートの鎧が曲者だ。

どうやらアレは呪いの鎧らしい。精神に影響を及ぼすもので、狂人、廃人になりかねない代物だ。

その代り魔法への抵抗力が高い。そして総ミスリル製で固さも十分だ。

気を乗せた攻撃はアンデッドに有効だが、鎧に防がれて体にまでダメージが届いていない様に見える。

それを理解しているであろうヴァンパイアキングは右腕だけで攻撃しつつ走り回っている。

しかも最初から戦い続けていると思われるヴァンパイア達も五十体以上いそうだ。

それに対して冒険者達は二百名以上いた数を半分近くまで減らしていると思われる。

減った数の率で言えば、どちらも五十%近いと思う。

だが回復力、再生力の高いヴァンパイア達の方が時間と共に有利になるだろう。

朝になって日が出てくれれば逆転は出来るが、まだ深夜になったくらいなので期待は出来ない。


 敵の増援を叩いても、この状況か……正直厳しい戦いだ。


 俺達もスターインに乗ったまま参戦する。

うちの子達からヴァンパイア目掛けて攻撃魔法が飛ぶ。


「とぉー!」


「どうやっ!」


「喰らえっ!」


「えいっ!……貫通してしまいますね」


「後ろの守りは任せんかい!そりゃ」


 ケットシーが二人乗っているから冒険者達からヴァンパイアだと思われないだろう。

希望的観測が混じっているけどな。

ヴァンパイア達を倒しまくって、認知してもらうしかあるまい。

次々と攻撃魔法を飛ばしながら野営地を動く俺達。

アリーナの連弩はヴァンパイアを仕留められそうにないね。

ヴァンパイアの行動を阻害出来ているだけでも十分か。

俺はスターインの操縦に専念だ。


「俺達がやる!」

「おう!」

「そりゃー!!」


「「「『神聖光』!!」」」


 誰かが叫んだ。

そして声がした辺りから光の線が三本、闇を裂く様に流れて行った。

パラディン達だな!!

派手だぜ。


「なにぃっ!?」

「アレをよけるのかよ!?」

「マジか……」


「グハッ!」

「ギャアッ!!」


「くそっ!」


 俺には声しか聞こえなかったが、光の魔法を放った《福音》らしき人物三人がヴァンパイアキングに切られたらしい。

光を避けるのかよ……だが異常なのはヴァンパイアキングだけの様で、光の線の通った後にはヴァンパイアが五体倒れてもがいていた。


「ギャアアアアアアッッ!!!」


 一際大きな叫び声が聞こえた。


「おい……エルネストを放せ!」

「噛みつきやがったぞ!?」


 被害者の仲間であろう者達の声が聞こえた。

おいおい……ヴァンパイアキングが噛みつくってのは不味くないか!?

篝火の明かりで鈍く光る鎧の者が見えた。

右腕には黒い剣をぶら下げている。

そして左腕一本で誰かを掴み上げ、首筋に顔を寄せていた。

ちっ!ヴァンパイアキングめ。


わうー!


 ゴンタが足を止めたヴァンパイアキングの背中に突進したのが見えた。

気の乗った突進であろう、ゴンタの体全体がぼんやり光って見える。

気功術の達人でないと出せない光だ。

そんな域にまで達しているのか……気功術に関しては俺の方が先行していると思っていたのにな。

数少ない取り柄も、ゴンタに並ばれてしまった。


 大きく跳ね飛ばされるヴァンパイアキング。

倒れて地面を滑る様になっているヴァンパイアキングの顔目掛けて、更に突進するゴンタ。

そのゴンタ目掛けて何かが投げつけられた。

さっき掴まれていた男だな。

片手一本で成人男性を投げるなんて平然としているとか……どんだけだよ。

ゴンタは苦もなく、それを躱す。

しかし回避している間にヴァンパイアキングは立ち上がっている。

ゴンタの足も止まった。


「エルネスト!」

「大丈夫か!?」


「近寄るなっ!!」


 投げられた男に駆け寄った、男達に向かって俺は叫ぶ!


ドゴッ!

ガスッ!


 仲間に近寄った男達が空を飛んだ……ただの蹴りなのに、体を水平に飛ばされているぞ。


「ヴァンパイアキングは吸血に寄ってヴァンパイアを増やせる。そいつはもう敵だ!!」


「エ、エルネルト!?」

「おい!返事をしろよっ!」

「何だと……」

「そんな……」

「バカな!?」

「うそだっ!」


 俺のヴァンパイアが増やせる発言を聞いた冒険者達に動揺が走る。

俺が調べた結果、エルネストと言う元パラディンはヴァンパイアナイトになっていた。

強度も跳ね上がって五百近くになっている。

光の魔法もそのまま保有している……アンデッドになった今、光の魔法を使うとどうなるのだろう。

エルネストと呼ばれた男も立ち上がり口角を上げて嫌な笑顔になっている。

不気味だ。


「戦え!!死にたくなかったら戦うんだ!!」


 俺はスターインを動かしながら叫ぶ。

こんな状況だ。

集中力を失った奴から消えていく。


「ここは戦場だぞ!」


 俺は祈る様に叫ぶ。


わうー!!


 俺に続いてゴンタの声が辺りに響き渡った。

怒声や剣戟の音の中でも解る気合の入った声であった。


「「ウォォォッ!!」」

「「オォォ!!」」


「てめぇら、行くぞ!」

「「オウッ!!」」


「止まってんじゃねぇぞ!」

「ここが正念場だ」

「おう!」


 棒立ちになっていた冒険者達の目に光が戻った。

気合の入った叫び声と共に……。


 俺の発破が効いたと思いたい。

でも何となくゴンタの遠吠えのおかげの様な気がしないでもない。

ま、まぁ結果オーライだ。


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