主人公は誰?
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「ゴンタッ!」
わう!
あぁ、本物だ。
「ゴンタさん!!」
「ゴンタちゃーん!」
「物語の主人公みたいやなぁ」
「来てくれたのか!」
「恰好ええなぁ」
わうー!!
アリーナがすかさず反応した。
それに続いてなっちゃんとアンの声も聞こえた。
良かった倒れていたから心配したよ。
かっちゃん、けーちゃんが言う様に、ゴンタの登場は物語の主人公っぽさ満点であった。
マジカッコイイっす。
俺はゴンタの登場でテンションがあがり、それに引きずられたかの様に動かなかった足も動く様になった。
気持ちってのは大事だね。
俺は立ちあがる。
安堵と心強さで俺のヤル気もバッチリだ。
「よく来てくれたね、ゴンタ。相手はヴァンパイアキングだ。強いぞ」
わう!
ヴァンパイアキングは仰向けに転がっていた。
ゴンタが何をしたか解らないが、有効な攻撃をしたのだろう。
うちの後衛もヤル気満々になった様で、倒れているヴァンパイアキングへ攻撃魔法が殺到する。
俺も左腕を前に出して防御兼突進をする。
右手には魔剣だ。
ゴンタも俺の左前方を走っている。
そういえば、さっきは空にいた気がする。
飛べる様になったのか!!
尚更死ぬ訳にはいかなくなった。
空の散歩も待っている。
「グッ……おのれ……」
ゴンタの攻撃と、うちの後衛からの魔法攻撃を喰らいながらも立ち上がってくるヴァンパイアキング。
フルプレートの鎧の胸部分がへこんでいるが、それ以外は土で汚れているだけに見える。
ただの鎧ではなさそうだ。
美しい人形の様な顔も汚れている。
そして呪い殺さんばかりの視線をゴンタへ向けている。
ヴァンパイアキングに向かって低い体勢で高速移動するゴンタ。
黒い剣で迎撃されるが、低い体勢で掻い潜る速さの方が上であった。
そしてゴンタはヴァンパイアキングの背後へ回り込む。
だが敵もタダ者ではない。
鋭い反応を見せて剣を振った勢いのまま反転するヴァンパイアキング。
チャンスッ!
ドンッ!
俺の左腕からヴァンパイアキングの背中目掛けて弾丸が飛ぶ。
しかし後ろの事など解らないはずなのにサイドステップで躱された。
ゴンタから視線を外さずにだ。
俺は眼中ないってか……ムカつく。
キィンッ!
ゴンタが何かを投げつけたらしいが黒い剣で弾かれている。
ゴンタが投げるって事は『念動力』か!
色々出来る様になっているな。
そう言えばゴンタから感じる生命力が凄まじい。
オーガロードくらいあるぞ……強度でいえば六、七百はありそうだ。
ヤマトとミズホと一緒に神使の勉強をしていたのは旅行神の巫女エリカのログから解っていた。
だが強くなり過ぎだろう。
強度千越えのヴァンパイアキングと真っ向から渡り合えるなんてな……強度には魔力も合算されるから実際の所良い勝負なのかも知れない。
「トシ!野営地から強いのが来るで!ヴァンパイアキングはゴンタに任せて、そっちを抑えるんや」
「あいよ」
残りの強いのと言ったらヴァンパイアロードだな。
二人いたはずだからね。
さすがのゴンタでも二人掛りはヤバイだろう。
ヴァンパイアロードだけでも何とか抑えてみよう。
俺は新たな敵に備えて動く。
むっ!?
ギィンッ!
俺が動いた瞬間に黒い剣が襲って来た。
だが魔剣で受ける事に成功した。
こっちの話は筒抜けだもんな。
邪魔もしてくるわな。
ズンッ!
だが、それはゴンタにとっても同じだった様で、ヴァンパイアキングの脇腹へ体当たりをしていた。
気も乗った攻撃ではあったが、ヴァンパイアキングは数歩よろめいただけであった。
相当良い鎧らしい。
肌が剥き出しであれば、今の一撃で脇腹が抉られていただろうに。
いや執事服とかで舐めていたあいつがおかしいだけか。
実際他のヴァンパイア達もお揃いではないものの、皮鎧や鉄の胸当てなどの防具を着けている。
シャッ!
ギギギッ!
「王の邪魔はさせません!」
俺に向かって槍が繰り出されてきた。
俺は、それを左腕で逸らす。
若い女の声だ。
逆光になっていて見え難いが、こっちのヴァンパイアロードは女の様だ。
こいつらに性別の意味があるのかは知らんけどな。
ゴンタの気配が俺やスターインから少し離れた。
俺がヴァンパイアキングに狙われない様にとの配慮らしい……悔しいが、今の俺は文句が言える立場ではない。
ゴンタとは一番の仲良しでありながらライバルのつもりだったんだがなぁ。
差を広げられてしまった。
俺に槍を向けてくる女は、こっちの世界では初めて見るミニスカートとビキニアーマーでした。
いやいやビキニアーマーってのは、おかしいだろ!?
目に嬉しいけどさ。
白い肌が闇に浮いて見える。
長い髪をポニーテールにしている。
こいつも整った容貌をしてやがる。
冒険者もやり難いだろうなっていえるほどの美女だ。
左右の腕にはガントレットを装備し、足元は革のブーツを履いている。
この女も動きが速い。
俺から仕掛けても俺に隙が出来るだけだ。
迎撃するしかない。
シャッ!
シュッ!
ミニスカ女が槍を繰り出すのを躱しつつ、俺も魔剣でカウンターを狙う。
だが剣の間合いギリギリできっちり避けられた。
む……このパターンはアレが効きそうだ。
シャッ!
ギギッ!
槍を左腕で受ける。
そのまま左腕で殴り掛かる俺。
「なっ!?」
俺の左腕が空を切った、その時にミニスカ女の表情が驚きに変わった。
《闘族》の転移野郎に使ったアレだ。
俺は左腕をふりつつ『錬成』で左腕の形状を変えたのだ。
雑ながら刃の形にな。
それがミニスカ女の右肩と右の頬を切り裂いた。
ちっ浅かったか。
「おのれぇっ!!」
ヴァンパイアキングの声が聞こえたのは、そんな時であった。
ミニスカ女の視線がそっちへ向いた。
タイミングを計っていたかのように俺の後ろから石礫と火球がミニスカ女に飛んだ。
「きゃあっ」
可愛らしい悲鳴が上がる。
そして俺は体勢を崩しているミニスカ女に向かって踏み込む。
「おりゃっ!」
魔法を喰らったせいか槍を手放し、露出している肩などが火傷をしているのが見えた。
俺の左腕がミニスカ女に伸び、更に変形する。
執事野郎にやったのと同じくマジックハンドで掴みにいったのだ。
「くっ!」
「戦いの最中に敵から目を離しちゃいかんだろ」
俺の左腕がミニスカ女の両腕ごと胴体を捕えた。
わう!!
ゴンタの声が聞こえた。
俺は反射的に右手の魔剣を跳ねあげた!
ギギッ!ザンッ!
ザシュッ!
「グッ!?」
「痛てぇなっ!」
ヴァンパイアキングが俺に向かって来ていた様で、お互いの剣がそれぞれ敵を切っていた。
わう!
ゴンタがヴァンパイアキングへ追撃を掛けてくれた様で嫌な気配は離れた。
痛みは右足の太腿からであった。
太腿の半ばまで切られていた。
血が噴き出ている……傷が深すぎる。
だが今やるべきは治療ではない。
ヴァンパイアロードの始末だ。
足が綺麗だろうか、ビキニアーマーだろうが始末しない訳にはいかない。
俺は痛みを堪えて、ミニスカ女の足元を地形操作で沈下させる。
このまま近づいたら蹴られるのは目に見えているからね。
ミニスカ女を腰まで地中に埋めた所で、執事野郎の時と同じ様に『錬成』でマジックハンドを変形させつつ背後へ回る。
「あばよ」
もがいているミニスカ女の頭に触り『錬成』する。
もちろん赤色魔石の抽出だ。
なまじ王への忠誠が高かったのが裏目に出たな。
王の声で視線を逸らさなければ、こうはいかなかっただろう。
俺の首から足元に転がった赤色魔石を視認した。
傍から見たらマヌケそうな絵面だろうね。
「なにっ!?」
ヴァンパイアキングの声が聞こえた。
ヴァンパイアロードから魔力が消えたのを察知したんだろう。
ざまぁ見ろ。
俺は奴に視線を移す。
奴は俺の方を見て驚いている。
そして奴の鎧の胸に縦線が入っている。その延長線上である奴の顎から左頬にも縦線が入っており血が流れている。
俺の魔剣での傷だろう。
俺と奴の間にはゴンタがいてくれているので奴は動けないでいる。
俺はヴァンパイアキングから視線をそらさずに右足の太腿の治療に入る。
念のためにミニスカ女を拘束したままである。
マジックバッグから回復ポーションを取り出し半分ほど患部に振りかける。
そして半分は口から飲んだ。
更に気功術での治療に入った。
そしてうちの後衛達もヴァンパイアを倒し切った様で、ヴァンパイアキングへ向けて攻撃魔法を撃ち出した。
「くっ!」
ヴァンパイアキングは俺を睨みつけた後で、野営地へ向けて走り出した。
逃げた!?
まさか王が逃げたってのか。
わう
ゴンタがそれを追う。
「トシ!」
「あいよ。スターインを動かすぞ」
かっちゃんの声を聞いて答える。
追えって事だろうからね。
俺は足が痛くて歩くのも上るのも無理そうだった。
スターインの上部が地面と同じ高さになるように沈下させ、俺の側へ移動させた。
もうヴァンパイアロードを気にしなくてもよいだろう。
拘束を解いて通常の左腕に戻す。
そして俺はスターインの上部へ移る。
もちろん赤色魔石はマジックバッグへ入れた。
「行くよ」
「はいな」
「はーい」
「ああ」
「ゴンタさん、カッコイイ……」
「ホンマやで」
俺達もスターインでゴンタの後を追う。
ゴンタのおかげで命拾いをしたぜ。
後でたっぷり撫でまわしてやろう。
どっちかって言うと俺のご褒美になってしまうのは内緒だ。
野営地に戦場が移るのか……俺はスターインの操縦と地形操作なら出来るかな。