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いせおち 《異世界転落物語 アカシャリーフ》  作者: 大和尚
ヴァンパイア編
263/387

方針決定

263


「なるほどなぁ。防壁、廃都内の建物を少しずつ潰してるんやね」


 かっちゃんが防壁に開いている穴から中を除いて言う。

見える限りに建物は石造りだった。

それを破壊している冒険者達の手には大槌や戦槌が握られていた。

建物を潰してヴァンパイアの居場所を城に限定しようというのだろう。

おそらくヴァンパイアがこの都市を落とす際に暴れたせいであろう、かなりの建物が崩れていた。


 ヴァンパイアが来る前のこの都市には数万規模で住人がいたろうに変わり果てた姿になっている。

今では生者は誰もいないだろう。

建物の奥には城が見える。

あそこにヴァンパイアキングがいる。ヴァンパイアロード達や配下のヴァンパイアのほとんども籠っている城だ。

もう一つのヴァンパイアの拠点である砦にはヴァンパイアロード一体とヴァンパイア百強、アンデッド多数が詰めている。

ヴァンパイアの中にはヴァンパイアナイトと呼ばれる指揮官達もいる。

ヴァンパイア、ヴァンパイアナイト、ヴァンパイアロード、ヴァンパイアキングの順に強くなっていく。

昔、俺がダンジョンで戦ったヴァンパイア三体はヴァンパイアナイトであった。

それについては世界樹の力で調べてある。

あれがただのヴァンパイアだったら、戦おうなんて思わなかったかも知れない。

あ、城に生きている人間がいるじゃないか!百人近くの人間が捕まっている。

用途は……ヴァンパイアを増やすための人間か。

ヴァンパイアが吸血する事によって人間をヴァンパイアに変えられるらしい。

ただし普通のヴァンパイアでは成功率が十人の血を吸って一人を変えられるかどうかだな。

ヴァンパイアロードで五十%切るくらいか。

ヴァンパイアキングだと百%成功するが、魔力を使うので一日に十人が限度の様だ。

ヴァンパイアにとって人間は食料という訳ではない。

魔力と少量の水があれば存在出来る奴らだ。

食料を食べる事も出来る様だが、嗜好品の範疇らしい。

これならラミアの様に一つの種族として人間と友好的に付き合えなくもなさそうに思える……種族を増やすのに人間は必要だからダメか。いや志願する人間がいてもおかしくないな。あれだけの力を持つ存在になれるなら志願する奴も出てくるだろう。

今更対話が出来るとも思えないけどさ。

俺が遡って調べてもヴァンパイアの成り立ちは、はっきりしない。

おそらくだがウイルスによる病気の一種だったのかと推測はしているがね。

日の光が皮膚といった体表のウイルスに反応して炎上するというのが日の光が弱点と言われる理由だ。

だからアンデッドとしても異端である。

生命力を持たないって意味ではアンデッドで間違いないと思うけどさ。


「トシさん、あの城を都市テーレーゼの領主の館みたいに落とせませんか?」


 奥の城を見たアリーナが提案してくる。


「人間が城に百人近く掴まっているんだよね」


 俺もアリーナの言った攻撃は考えていた。

あの再生能力や怪力があるヴァンパイア達を仕留めきれるかどうかは解らない。

だが身動きを封じる事は出来ると思っていた。

城の下敷き、そして土を被せられたら、怪力をもってしても行動不能になるはずだ。


「纏めてって訳にはいかんよなぁ」


 けーちゃんが怖い事を言う。

俺もチラッと考えたけどね。

本当に一瞬だよ。


「トシの力で人間だけ隔離出来ないんか?」


 かっちゃんも俺に聞いてくる。


「石造りの地下牢に閉じ込められているんで、地形操作で動かすと石の下敷きなんだよね……」


「別に纏めて移動させんでもええやん」


「ん?」


「そこへ繋がる地下道でも掘ればええんや」


「……おぉ。その手があったか」


 百人近くもいるんで個別に動いてもらおうなんて考えにはならなかった。

彼らに自分の足で動いてもらえば良いのか。

俺の力でって言われてスターインの様に丸ごと動かす事しか考えていなかったよ。

さすがかっちゃん。というか俺がマヌケなのかな。


「かっちゃんの案でやれそうなん?」


「それならいけるね」


 けーちゃんの問いに答える。


「他の冒険者達に協力してもらった方が良いのではありませんか?」


 考え込んでいたアリーナが提案してくる。


「俺の力を見せたくないって言ってる場合じゃないので、協力してもらいたいけど……」


「何で内部の情報を知っているかってのと、本当に出来るのかってので信じてもらえなそうやね」


 かっちゃんは眉間に皺を寄せている。

ちょっと皺を突っつきたい。


「俺としては情報の方は知られたくない。これが知られると色々と面倒な事になりそうだからね」


「地形操作に関しては、うちが協力すれば土の魔法で通せるかもしれんけど情報は……気配察知出来んの?」


 たしかにかっちゃんが穴を掘っている様に魔法を使ってくれれば隠蔽できそうだ。

実際、かっちゃんでも時間をかければ地下道を掘れるだろうしね。

気配察知は……。


「地下牢じゃなければ気功術の気配察知で解ったって言えるんだけどね」


「遮蔽物、特に土は邪魔するからなぁ」


 地下牢の上に行けばある程度察知出来るんだろうけどねぇ。

城の近くに行っただけじゃ解らないだろう。


「だんちゃん、ふっちゃん達だけにお願いする?」


「それなら良いな。あいつらならある程度信じてくれるだろうしね」


「うん!」


 なっちゃんが嬉しそうに返事をしてくれる。

俺に提案を受け入れてもらえたのが嬉しいのか、ダンテ、フリオが俺達を信じてくれるってのが嬉しいのかは定かではない。

両方かな。


「城が防壁の北の防壁に近いから、穴を掘るのも救出も難しくはなさそうだ」


「それなら今日の夕暮れまでに北の防壁の方でトシに頑張ってもらうってのはどうや?日が落ちる前に野営地でヨゼフ達と合流しようや」


「あいよ」


「はーい」


「良いだろう」


「解りました」


「うちも助けられたトシの力やね」


 誰も異論はなかったので、俺達は北の防壁へ向かった。

北の防壁の辺りは開けており、少し歩くと森があった。

防壁沿いにあるかないと目視される恐れがあるな。


「ここから城にいる奴らの魔力は感知出来る?」


 俺は防壁に寄りかかって、みんなに聞く。


「うちの魔力感知に数体引っかかっとるなぁ」


「うちもや」


「わたしも三体くらい引っかかってるー」


「私には解らないな」


 アリーナを除く仲間達が答えてくれる。

アリーナは足元の石ころを蹴っ飛ばして拗ねている。

解る。解るけど拗ねないでほしい。

俺達には魔法の素養がないからな。


「向うも気づいていると思う?」


「うちらほどの魔力感知は出来んやろ」


「そうやな」


 かっちゃんとけーちゃんが言うなら大丈夫か。

俺が調べるには城にいるヴァンパイアを総当たりで調べなくてはいけないので時間がかかる。

今、そこまでの時間をかける余裕はない。


「このまま作業に入る」


「はいな」


 俺は防壁の側から城の地下牢へ向けて地下道を掘っていく。

地下五mほどの位置に二mの高さ、幅を持った通路を作る。

かっちゃんに硬化の魔法で補強してもらわないと危険そうだな……。

後で梯子も作って設置しないとね。


 防壁から城の地下牢までは百mちょっとある。

やはり気功術では察知出来ない。距離的には問題ないはずなんだけどな。

やはり地下ってのがネックだね。

魔力感知だと百mでも大変なのか……野営での襲撃に対する警戒は大変そうだ。

夜になったらヴァンパイアが襲撃してくるからな。

野営地は岩場を中心に簡易砦になっているので、守りやすくはなっている。

今も夜に備えて休んでいる冒険者が五十名はいる。

周囲の雑魚アンデッドは掃討されているので、そこは問題ないね。



「地下牢に直ぐ繋げられる地下道が掘れたよ」


「捕まっとる奴らを誘導するのと護衛にヨゼフ達だけで足りるかなぁ」


「広くない通路なんで、奥まで行くのは俺、かっちゃん、けーちゃんがいれば十分じゃないかな」


「ここで脱出して来た人を護衛しつつ野営地まで運ぶのがヨゼフ達やな」


「日中で終わるから大丈夫だろう」


「それもそうやな」


 かっちゃんも同意してくれた。


「もう日が沈みそうだ。俺達も急いで野営地に行こう」


「攻撃部隊の隊長に、うちらの自由を奪われたりしたら不味いんちゃう?」


 けーちゃんが心配そうに聞いて来た。

そうか、そういう事もありそうだ。

クエストでは自己責任で自由に動いて良いと言われているが、最前線ではそうも言っていられなそうだ。

実際、単独パーティや、ソロで動いている奴はいないと思う。


「隊長をしているのはアドルフだ。一応顔見知りだし話は通せると思うよ」


「アドルフか。なら大丈夫そうやね」


 けーちゃんもアドルフ、アンドレのランク0兄弟の事を知っているらしい。


「最悪、俺達だけでも良いさ」


「アドルフに人質の話はしないんやろ?」


「うん。俺達は勝手に動くとだけ言うつもり」


「……なら野営地に合流せんで、このまま救出と城落としをした方がええんやない?」


「ふむ……」


 かっちゃんの提案について考えてみる。

合流する必要か……夜の安全、戦力の集中、みんなでヨゼフ達を話せるって所か。

スターインで寝泊まりをすれば、ヴァンパイアに襲われても直ぐに地下へ逃げられるな。

野営地の外に俺達がいればヴァンパイアの後ろを襲える。

ヨゼフ達には、かっちゃん、けーちゃんの二人組に行ってもらえば説得には十分かな。

二人なら夜も安全に移動出来る。

俺はスターインで、いつでも動けるようにしておいた方が良いだろう。

うん。合流する必要はないな。


「かっちゃんの提案でいこう。野営地には、かっちゃん、けーちゃんに行ってもらう。事前になっちゃんからダンテ、フリオに送話魔法で連絡を入れてもらう」


「はいな」


「ええやろ」


「連絡するー」


「我らは夜に備えて休んでおくか」


「食事が先ですよ」


 そして俺達の方針が決まった。

俺は廃都北の森にスターインを動かした。

行動開始である。

俺も早めの夕飯を食べて、夜に備えよう。


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