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いせおち 《異世界転落物語 アカシャリーフ》  作者: 大和尚
ヴァンパイア編
261/387

対ヴァンパイアの砦

261


「そこで止まれ!」

「ヴァンパイア……じゃあなさそうだな」

「うむ。もう日が出ているからな」

「冒険者っぽいぞ」

「ケットシーにラミアかよ……」

「あれが……」

「良い女じゃねーか」


 俺達がヴァンパイア討伐軍の拠点となっている砦に向かって歩いていると、冒険者集団二十名ほどに出会った。

あちらもヴァンパイアやアンデッドではなさそうだ。

気を感じるからね。

最後にしゃべった野郎は、そのうち殴ってやろう。絶対うちの奥さんを見て言いやがったろうからな。


「ヴァンパイア討伐に参戦しに来た。どこで受け付けているか教えてくれ」


 別にクエストとして受けなくても良いが、情報収集のついでだ。


「お、強い奴らは大歓迎だぜ。砦に入って中央広場に臨時の冒険者ギルド支部が出来ている。そこでクエストは受けられるぜ」


「ケットシーが二人もいるなんてなぁ!こりゃありがてぇ」


「おお!大歓迎だ」


「教えてくれて、ありがとう。あんたらも気を付けて行ってくれ」


 俺は情報をくれた冒険者に礼を言った。

彼らは砦の外で戦えるだけの強さはあるのだろう。

強い気を感じる。

気を抑えている者もいるっぽい。

こういう奴らがいても、押され気味なのか……ヴァンパイアは強いのは解っているが、厄介だな。

さっきの強い奴は歓迎ってのは心からの言葉だと思う。

彼らの口調は軽い物だったが、目は真剣だった。

疲れている様にも見えた。

外へ打って出られる彼らでこうなのだから、砦にいる人達は心細い思いで戦っているに違いない。

俺達も参戦して良かったな……といっても結果を出さないとな。

それはこれからの働き次第だ。


 堀、石造りの防壁、跳ね橋の奥にある砦の門の周囲には二つのパーティ、十二人が門番として警戒に当たっていた。

ジロジロ見られたが、何も言われる事もなく通れた。

冒険者カードの提示すら求められなかった……おそらく気の有無で人間かアンデッドかを見分けていたんだろう。後は目視かな。

砦の内部は、ちょっと大きめの村くらいの広さが合った。

防壁の一部と連結して平屋の城の様な拠点があった。

おそらく指揮官が詰めていると思われる。

それ以外の建物は兵士の住居であろう。

人の気配が多くある。

ざっと勘定しても砦内部には千以上の人がいる。

前は三千人近くいたはずなんだがな……逃げたのかやられたのか定かではない。

中央広場と呼んでよい場所は小学校のグラウンドの半分くらいの広さがあった。

そんな広場には馬の荷台や屋台で簡易商店街が形成されているのも見えた。

逞しいね。と言うか物資の補給はこの砦の生命線だ。

儲かるのも当然だが、命がけで来ている民間の商隊だな。

国旗を掲げている馬車もあったので、砦への食料や武器防具の供給のついでに国として稼いでいる人達もいる様だ。

砦の物価は高そうだねぇ……チラッと屋台の焼き鳥屋をみたがバッキンの屋台辺りで売っている値段の倍って所か。


「あれが冒険者ギルドの出張所やないか?」


 かっちゃんが指で指示したのは広場の一角に建てられた小さなログハウスであった。

宝くじ売り場っぽく見えるね。

そんな窓口の上に看板があり、冒険者ギルドと書かれていた。

全ての対応を一人……いや二人でこなしているのかな。気配からするとその建物には二人いそうだった。

今は暇そうだ。

窓口の脇に護衛らしき戦士も立っている。


「あれだね」


「トシはクエストを受けても処理出来んからなぁ」


 俺には魔力がないからクエストの処理を冒険者カードで出来ないままだった。

それを理解してくれている冒険者ギルドでないと処理出来ないのだ。

ランクに拘りがある訳でも、お金に困っている訳でもないので、いつもは俺以外のみんなに受けてもらっている。

俺はただの協力者って所だ。


「みんなはクエストを受けてきなよ。俺は屋台を冷やかしているからさ」


「はいな」


「はーい」


「大人しくしていろよ」


「行ってきます」


「情報も聞いてくるで」


 俺以外の仲間達が冒険者ギルドの出張所へ向かった。


 ふむ、屋台で買い物をしている兵士や冒険者は、それなりにいる。

昼飯も近い時間なのでこれから混みそうでもある。

そんな買い物をしている兵士や冒険者達の表情は暗い。

暗い、いや疲れているというべきか。

戦いの終わりが見えなくなったという感じだな。

実際、味方が死んでアンデッドとして敵となって襲ってくるのだから解らないでもない。

食べるだけじゃ気分は上向かないか。

俺はそんな事を考えながら馬車の荷台や屋台を見て回った。

武器防具も売っていたが町と値段が変わっていなかった。

消耗品でもあるし、戦う者の士気にも関わるので値段を抑えているのかな。

アンデッドからも魔石は出たが小さ目の物が多かった。

おそらくダンジョンではないフィールドに出るアンデッドは作られてからの時間で魔石の大きさが変わっているとみられた。

アンデッドを作っているのはヴァンパイアの一部でネクロマンサーの職を持っている奴らであった。

ヴァンパイア全てがアンデッドを作る力を持っていなくて良かった。


 俺は焼き鳥を二本ばかり買い食いした。

塩が薄いが、鶏肉自体が良い物の様で中々美味しかった。

そんな時に一つの建物が目に入った。

体育館の様な建物は入口が広く内部が外からでも見えた。

内部には人が大勢横たわっていた。

救護所か……怪我人は百名以上いそうだ。

砦全体の比率で言うと一割に相当しそうな怪我人……ヤバイんじゃないか?損耗率が高すぎる。

おそらく救護所以外にも怪我人はいるに違いない、偉い奴らならもっと良い環境で養生しているだろうからね。

俺達みたいな新規参戦組がいないと討伐軍なんて維持できまい。

世界樹で得た情報以上に危険な状況だ。


「トシちゃーん。終わったよー」


「手続きしてきたぞ」


「お帰り」


 冒険者ギルドの出張所でヴァンパイア討伐のクエストを受けて来た仲間達が俺の元へ戻って来た。


「屋台の食べ物を買ってお昼にしよう」


「さんせー!」


「肉を食べよう」


「パスタ……はなさそうですね」


「魚もなさそうや……」


「海は遠いし、水に余裕もなさそうや。仕方ないで」


「だね」


 けーちゃんの言う通り、内陸部だし、池や川の水、魚はアンデッドが蔓延している現状で食べたくも飲みたくもない。

砦内部の水は井戸と魔法使いに頼っているらしかった。

パスタを茹でるのにも水を使うからなぁ。

料理にも制限があるとは……戦意に関わりそうだ。


 広場の一角にあった小さなテーブル席で焼き鳥、ステーキ、パン、マッシュポテトをワインと一緒に食べた。

まぁ、こんなもんかといった感想しか出て来なかった。

食べられるだけ良いのかも知れないが、この砦が心配になる。


「勇者アベルは砦に常駐して防衛の要になっとるそうや」


「ランクの高い者ほど遠くで野営をしつつ戦っとる」


「アドルフやアンドレが率いとる《日輪》《月光》、パラディンがいる《福音》、《殲滅の剣》辺りやね」


 かっちゃんとけーちゃんが話してくれる。

俺の情報でもそうなっている。

情報に齟齬はない様だ。


「俺達は勝手に戦っても良いのかな?」


「自己責任やて」


「あいよ。俺達は当然打って出るよ」


「はーい!」


「はいな」


「当然だ」


「ドキドキしますねぇ」


「うちらで終わらせたろうやないの!」


 俺の仲間達はヤル気満々だ。

でもヴァンパイアの強さ、怖さを教えたのに、この強気な態度は凄いな。

頼もしすぎるぜ。

俺はみんなの命を預かっているんだ。

必ず無事に花ちゃんの屋敷に返す責任がある。

戦力は十分、俺は情報収集に力を入れよう。


 さぁ、久しぶりのヴァンパイア戦だ。

昔とは違うって所をみせてやるぜ!

俺にも気合が入った。


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