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いせおち 《異世界転落物語 アカシャリーフ》  作者: 大和尚
ヴァンパイア編
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緊張

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「遂に均衡が崩れたか……」


「ん?なんや」


「ヴァンパイアが使役しているアンデッドの群れが周辺諸国へ溢れだし始めたんだ」


「ブレギルア王国へもか?」


 アンが心配そうに聞いてくる。

ギルスア王国、ラミアの里の隣国だから気になるのだろう。


「ああ。アンデッドだけだから村や都市の支配などせず、生者を襲うだけだがブレギルア王国へも侵攻している」


「トシ……」


 アンが俺の名前を呼ぶ。

彼女が続けて言おうとしている言葉は想像がつく。


「解っている。ラミアの里へ危険が及ぶかも知れない。アンデッドの始末に行くぞ」


「トシ、ありがとう!」


「あーちゃんの守りたいモノは、私達の守りたいモノだよー」


 なっちゃんに俺の言いたい事を先に言われてしまった。

新婚生活を経て、なっちゃん、アンも仲良くなってくれている。

本当に、ありがたい。

だから、なっちゃんとアンが見つめ合っていても、俺の出番がなくなった事も悔しくない。ないったらない。

なっちゃんとアンには、花ちゃんの屋敷で待っていてもらいたいけど、そんな事は言えないよなぁ。

危険なんて承知の上だろうし、俺が守って見せる。

たとえヴァンパイアが出て来てもだ。

俺も昔の俺じゃない。


「うちらも行くで!」


「撃退してやりましょう!」


「やったろうやないの」


 かっちゃん、アリーナ、けーちゃんもヤル気になってくれている。


「おう!ラミアの里を経由してブレギルア王国へ行こう。なっちゃん、ゴンタに送話魔法で連絡を入れてくれ。ゴンタの力が必要だってね」


「はーい。ゴンタちゃん達に会えるねー」


「ゴンタさん!更にヤル気が出てきました!」


 アリーナは今にも走って会いに行きそうだ。

ゴンタ一家大好きだもんな。


「早く会いたいなぁ」


「あの子は強くて頼りになるで」


 かっちゃん、けーちゃんもゴンタ達の事を思い浮かべているのだろう、優しい顔になっている。


「お弁当と、おやつを沢山作りますね!」


「そうじゃ!花、沢山作ろうではないか!!」


 俺が左腕を失った後に、花ちゃんが、もうみんなに戦って欲しくないと呟いていた。

だが花ちゃんもアンの故郷を守るためと解っているので止めたりしてこなかった。

花ちゃんは優しくて寂しがりやだ。

そんな花ちゃんの顔を曇らせる様な事にはさせない。

無事に帰ってくるさ。

そして雪乃は自分ではおやつを作らないんだろうな。沢山作ってもらって自分の取り分を増やしたいだけに違いない。

働けニートよ。

ホワホワの尻尾を振っている場合ではないですぞ。

まぁ、着物二人の童女は可愛いけどな。


「花ちゃーん、バナナクレープとバナナシェイクが良いなー」


「うちはブランデーケーキとバニラアイスがええ」


「どら焼きと水羊羹でっ!」


「チョコレートとコーヒーゼリーだな」


「カステラとバニラアイスが究極ですっ!」


「俺はコーヒーゼリーとバニラアイスで頼むよ」


 なっちゃんから始まって、みんながおやつの要望を出した。

花ちゃんが作るおやつは日々進化している。

同じおやつでも食べる度に美味しくなっている。

俺も地球での知識を思い出しては、花ちゃんに教えて協力している。

料理もね。


「トシちゃん、いちおー二回連絡を入れておいたー」


「ありがとう」


 俺は、なっちゃんの頭を撫でて礼を言う。

俺達に身長差は、ほとんどない。五cm程度だ。

本当に体は大人、精神は少女だねぇ。

なっちゃんはニコニコしながら大人しく撫でられている。

アンがジィッと横で見てくるので、アンの頭も撫でた。

なっちゃんとアンは身長百七十cmぐらいで、ほぼ同じだろう。

まぁ、アンの場合は尻尾次第で変わるけどな。

でも奥さん達に差をつけるべきではないだろう。俺は王様でもなんでもないのだから。

王様だと複数の奥さんを持っている事が多い。

だが正妃を立てないといけない。

例え愛情が他の者にあったとしてもだ。

因果な商売?だよな、王様ってさ。


 ゴンタ達から返信は来ない。

ヤマトとミズホは火と風の魔法が使える。

なっちゃんがヤマトとミズホに送話魔法を教えていたので、子供達も使える。

だが人の言葉でないのと、距離制限があるバージョンなのである。

あ、けーちゃんがいるじゃないか!けーちゃんなら、ケットシーの力でヤマトとミズホと話が出来る。そして送話魔法もだ。


「けーちゃん、ヤマトとミズホに新型送話魔法を教えてあげてよ。そうすれば遠距離でも話が出来るぞ」


「うちなら出来るで、任せとき!」


「羨ましいです……」


 アリーナが悔しそうな顔で、けーちゃんを見ている。


「良いなー」


「風の魔法か……」


 なっちゃんとアンは羨望の眼差しだ。


「属性ばっかりは、何ともならんなぁ」


 かっちゃんが呟く。

俺は属性だけじゃなくて、魔力自体だけどな……羨ましい。


 ゴンタ達に会いたい。

彼らがいる山からだと距離があるけど、ブレギルア王国で会うなら、花ちゃんの屋敷も帰ってくるより近い。

ゴンタは強い。

ヴァンパイアに勝てると思う。

それに低級アンデッドならゴンタの遠吠えで一撃だ。

数の不利を一気にひっくり返せる秘密兵器だろう。

戦場にいる他の冒険者達も威圧されてしまうが、砦にでも籠っててもらえば死ぬことはないはずだ。

俺の落とし穴でアンデッドを倒せるかは怪しい……穴を深くすれば倒せないまでも行動不能には出来るか。

それより気功術でバッタバッタとなぎ倒した方が早そうではある。

アンデッドに気功術は特効だ。

人間の生命力はアンデッドにとっての毒みたいなもんだからね。

剣に気を通す様に、俺の左腕にも気を通せる。

体から離れると気は拡散してしまうので槍なんかの長物は気功術の恩恵が減る。

適度な長さの鈍器に変形させてぶん殴るのが一番効くかも知れない。

戦場次第ではあるだろうが、負ける気がしない。

ヴァンパイアは……やってみないと解らない。


「花ちゃん、けーちゃん、雪乃以外は旅の準備だぞー」


「はーい」


「うむ」


「はいな」


「羨ましい……」


 俺達はラミアの里、ブレギルア王国へ向けての準備に入った。

俺は食料品以外にも鉱物と武器をマジックバッグへ入れて行く。

ラミアの里か……シーダに会える。

アンのお母さん、カミーリアさんに会えるかな。

挨拶もしなくちゃいけないし、お土産もいる。

何をお土産にしようかな。

ここは花ちゃんのおやつにしよう!甘いものなら気に入ってもらえるはずだ。

砂糖を手に入れて、本当に良かった。

かっちゃん、なっちゃん、アンならスターインに氷室を作るのも訳ない。

生菓子でも余裕で持つだろう。


 シーダにも、なっちゃん、アンとの結婚について話さないとな。

仲間なのは間違いないが、彼女も離脱しなければ俺の奥さんになっていたかも知れない。少なくとも俺は彼女に好意を持っていた。


 アンとの結婚は事後報告になってしまうが、義母への挨拶なんて人生で初めてだ。

アンデッドと戦うより緊張するぜ。

ドキドキですとも!


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